「本当にすみませんでした」
俺は今病室のベットの上で土下座をしている。左手はないので形は不恰好だがそこは見逃してほしい。
視線の先では……
「も、もう気にしていませんから頭を上げて良いですわよ」
「……そうね。貴方のそれは今更だし」
「…………八幡のバカ」
顔を赤くしているフェアクロフ先輩とフロックハート、ジト目で俺を見てくるオーフェリアがいた。
そして隣では……
「はっはっはっ!いやー、笑った笑った。やっぱお前面白いなー」
「あはは……」
「随分と楽しそうですね」
「それにしても笑い過ぎ、だと思う」
お袋が大笑いしていて、若宮と蓮城寺、アッヘンヴァルが苦笑しながら俺達を見ていた。
何でこうなったかというと、手洗いに行こうとして病室のドアを開けたら躓いてこけたのだが、その先にフェアクロフ先輩とフロックハートがいて巻き込んでしまった。
その結果俺は、フェアクロフ先輩の胸を揉みフロックハートのスカートーーーより正確に言うと彼女のショーツに顔を埋めてしまったのだ。
その件に関して謝罪するべく土下座をしているのだ。そしてフェアクロフ先輩は苦笑しながら、フロックハートは呆れ顔をしながら許してくれた。(簡単に許したのは2人が慣れてしまったいるからである)
しかし……
「……………」
オーフェリアだけは未だに頬を膨らませてジト目で俺を見ている。わざとじゃないとわかっていても許せないのだろうか?
「悪かったってオーフェリア。何でもするから許してくれ」
そう言ってからヤバいとおもってしまった。何せ昨日シルヴィに何でもするからと言った結果女装する事になったのだから。
しかし後悔先に立たず。言っちまったものは仕方ない。諦めてオーフェリアの言う事を聞こう。
そう思っていると……
「……ふう。もういいわ。今回は事故だったし」
オーフェリアがため息を吐いてからそう言ってくる。これについては完全に予想外だ。
「え?マジで”塵と化せ”を撃たないのか?」
俺がラッキースケベをすると必ず撃ってくるから今回も撃ってくると思っていたんだが。
「あら?撃って欲しいの?」
「いや全然全く」
俺はマゾじゃないからな。てかマゾでもアレは食らいたくないだろう。アレかなり痛いし痺れるし暫く身体が思うように動かなくなるし。
「なら良いじゃない。病人相手に撃つつもりはないわ。それに……」
「それに?」
「……この前ネットを見たら暴力系キャラは嫌われやすいって出てたから」
オーフェリアが恥ずかしそうにそんな事を口にする。あー、確かに暴力系ヒロインは好き嫌い別れるよなー。俺自身は中立だけど。てかそれ以前に……
「別に俺自身は気にしないぞ?元はと言えば俺が悪いんだし。オーフェリアやシルヴィが怒るのは間違ってないし」
まあ気絶するまで攻撃するのは勘弁して欲しいけどな。
「……八幡」
「だからお前も気にすんな。俺は何があってもお前ら2人を嫌いになる事はないんだから」
そう言ってオーフェリアを優しく抱き寄せて頭を撫でる。これは死んでも揺らがないだろう。俺にとって2人を愛するのは絶対であるからな。
「……そう?ふふっ……」
抱き寄せられたオーフェリアは一瞬驚きの表情を浮かべるも直ぐに幸せそうな表情を浮かべる。オーフェリアのこの表情を見るとこっちも幸せな気分になる。
「……貴方達は相変わらずね」
そんな声が聞こえたのでオーフェリアから離れるとフロックハートが呆れている表情を向けているのがわかった。しまった、オーフェリアが可愛過ぎて失念していた。
「っと、悪い悪い。オーフェリアが可愛くてついな」
「さりげなく惚気ないで頂戴。それとこれ見舞い品ね」
言うなりフロックハートは果物が入った籠を差し出してくる。プリシラが持ってきた物に対して勝るとも劣らない程豪華な物だった。
「わざわざ悪いな」
「別にいいわ。それより何でここに『狼王』八代涼子がいるのかしら?」
フロックハートは意外そうな表情をしながらお袋と俺を見比べる。まあ普通気になるよな。
「あー、今は結婚して比企谷涼子だからね。つまりこいつは私の息子って訳」
俺がフロックハートの質問に答えようとするとお袋が俺の頭をポンポン叩きながらそう口にする。
すると若宮を除いた4人が大小差はあれど驚きの表情を見せてくる。
「え?クロエ、有名人なの?」
そして若宮がそう口にすると赫夜の他のメンバーは差はあれどずっこける仕草を見せてくる。
おいマジか?若宮が世間知らずなのは知っていたがそこまでとは思わなかったわ。
驚く中フロックハートが呆れ顔を若宮に向ける。
「美奈兎、貴女ねぇ……世界で2番目に王竜星武祭を二連覇した人よ」
「ふぇぇっ?!凄い!」
「だろ?私は凄いんだぜー」
若宮がお袋に尊敬の眼差しで見るとお袋は高笑いしながら調子に乗りだす。
「まあ普段の生活はガサツだけ「何か言ったか八幡、あぁん?」……何でもありません」
コッソリそうツッコミを入れようとしたらお袋は俺の耳に顔を寄せてそう言ってくる。
いや怖ぇよ!最後のあぁん?なんてメチャクチャ低い声でちびりかけたわ!葉山達じゃないんだから失禁してたまるか!
そう思ってビクビクしている中、お袋は何事もなかったように赫夜のメンバーと自己紹介をし合っていた。神経図太過ぎだろ……
「それで?何でクインヴェールのお嬢さん達がうちの不良息子と知り合いなんだい?シルヴィアちゃんが関係してんの?」
お袋がそんな疑問を口にすると若宮が答える。てか不良息子って止めろ。不良息子なのは事実だがお袋に比べたら可愛いもんだからな?
「あ、はい。実は私達獅鷲星武祭に出るんですけど……」
「へぇ。私、獅鷲星武祭は大好物だから頑張りなよ」
「そうなんですか?」
「獅鷲星武祭はジャイアントキリングが起こりやすいからね。中堅クラスのチームが格上チームを喰うのを見ると興奮しちゃうよ」
獅鷲星武祭で期待されるのは『チーム・ランスロットのような圧倒的なチームが相手チームを蹂躙する』点や『中堅チームが格上のチームを喰う』点あたりだからな。俺もどちらかと言ったら後者を期待しているし。
「なるほど……でしたら今回の獅鷲星武祭楽しみにしてください!私達がジャイアントキリングを沢山起こして優勝します!」
「ははっ!優勝とは大きく出たねぇ。おっと、また脱線しちまったよ。それで八幡とはどんな関係なんだい。まさかと思うけど5人も八幡の彼女さん?」
「ええっ?!」
「違ぇよ!人をハーレム野郎みたいに言ってんじゃねぇよ!」
若宮が驚く中、俺はついお袋に突っ込んでしまう。何だよハーレム野郎って?!俺はそんな器じゃねぇよ!
「そうか?オーフェリアちゃんとシルヴィアちゃんの2人と付き合ってあんたは充分ハーレム野郎だろ?」
ぐっ……まあそこを突かれたら返せない。実際2人と付き合ってるのは事実だし。
言葉に詰まっているとフロックハートが助け船を出してくる。
「違います。以前シルヴィアからチーム強化の為に彼を紹介して貰ったのです」
そう言って俺を冷たい目で見てくる。こいつらと関わってから半年近く経っているがフロックハートだけは未だに冷たいんだよな。
俺何かしたか……いや、したな。スカートの中に顔を3回突っ込んで、4回胸を揉んで、2回胸に顔を埋めたからな。
そんな事を考えているとお袋が目を見開いて俺を見てくる。
「へ?なに八幡、あんた他所の学園の生徒鍛えてんの?」
「まあな。初めはシルヴィに頼まれてやっていたんだが、これがまた結構楽しくてな」
初めはシルヴィに頼まれたから義理のつもりでやっていたが、いつの間にか真剣にやっていたからな。人生ってのはよくわからん物だ。
それを聞いたお袋は……
「ぷっ……あっはっはっは!」
楽しそうに笑いだす。普段の怖さはなくて子供っぽい笑顔だった。
「あはは……良いねぇ!オーフェリアちゃんとシルヴィアちゃんの2人と付き合ったり、他所の学園の生徒鍛えたり……やっぱりあんたはアスタリスクに来て正解だよ。昔のあんたは本当に詰まんなかったし」
それに関しては否定しない。アスタリスクに来る前はただ楽に生きれば良いと思ってダラダラ過ごしていた。
しかしアスタリスクに行ったら毎日色々と忙しくなった。アスタリスクに来る前と比べたら雲泥の差ぐらいに。
しかし転入した当初ならともかく、今はその忙しさを割と気に入っている。何というか……楽しい。
「まあそうかもな。アスタリスクに来なかったらオーフェリアやシルヴィと知り合う事もなかったんだし」
「いやいや、本当に面白いわ。そんで?今彼女達はどんくらい強いの?」
どんくらいか……訓練に付き合ってから半年、そして俺の他にも星露の訓練を受けて3ヶ月経っているが……
「うーん。本戦出場は普通に出来るな。そんで本戦以降は……そうだな、運が良けりゃベスト8になれるかどうかって所だろうな」
クジ運もあるが本戦1回戦ーーー4回戦には行けると思う。しかし本戦2回戦ーーー5回戦つまりは準々決勝を突破出来るかと言えば微妙な所だろう。ベスト4以上は無理だろうしな。
「ふーん。あと半年で優勝出来るようにならなきゃいけないのか、結構厳しいね」
「まあやるだけやるさ……っても俺は義手を作って慣れるまでは参加出来ないが良いか?」
そう言って赫夜のメンバーを見ると全員が頷く。
「もちろんだよ!というか比企谷君、腕は大丈夫なの?」
「まあな。斬り落とされた腕を元通りにするのは難しいらしいから義手を作ることになった」
「そうなんですの……それにしても比企谷さんは誰にやられたのですの?比企谷さんの腕を斬り落とせる人間なんてそうはいないと思いますが……」
フェアクロフ先輩はそう聞いてくるが答える事は出来ない。俺の腕を斬り落とした犯人は蝕武祭の専任闘技者だ。迂闊に話すと赫夜のメンバーにも被害が出るかもしれない。
そう判断した俺は……
「……悪いがわからん。奴は仮面を被っていて顔が見えなかったんだ」
馬鹿正直に話す事はしなかった。まあ嘘は吐いていないので問題ないだろう。
「そうですか。それで退院はいつ頃なのでしょう?」
蓮城寺がそう聞いてくる。退院か。義手を作るのに2日で、日常生活でも問題なく使えるようにする訓練もあるから……
「まだ決まった訳じゃないが1週間から2週間だな」
義手なんて使った事ないからわからないが大体そんなもんだろう。
「結構長いですね。大変だとは思いますが頑張ってくださいね」
「ああ。そんな訳で暫くは出れないからよろしく頼む」
俺が改めてそう口にして赫夜のメンバー全員が頷いた時だった。
「じゃあその間は私が面倒見てあげよっか?」
お袋が手を挙げながらそう言ってきた。
瞬間、赫夜のメンバーは驚きの表情を浮かべてお袋を見る。そしてその意見は俺やオーフェリアにとっても驚きの発言だった。ついお袋を見てしまう。
「……ちょっと待てお袋。お袋はアスタリスクの外に住んでるから無理だろ?」
「ん?ああ、八幡には言ってなかったな。私、例の襲撃者を見つけ出して潰すために今日からアスタリスクに住む事にしたわ」
「は?!」
マジかよ?!これは予想外だわ!
「ちょっと待てお袋!それは危険過ぎる!」
天霧と同じ封印を解除した時の奴はヤバかった。お袋が強いのは知っているが危険過ぎる。
そう思って口にするもお袋は首を横に振る。
「いや、言っちゃ悪いが今の八幡じゃあいつに勝つのは無理だ。今後まだあんたが狙われる可能性がある以上、私もアスタリスクいた方が良いと判断した結果この考えになったんだよ」
それを聞いた俺は思わず唇を噛み締める。確かに今の俺が奴に勝つのは厳しい。それは認める。
しかし自分がやった事によって生まれた敵に対してお袋を巻き込んでしまうのは申し訳が立たない。
そんな俺を見てお袋は俺の肩を叩いてくる。
「あんたは一々気にすんな。単に息子がやられて母親がキれただけの話なんだから」
そうは言われてもそう簡単に割り切るのは無理だ。万が一お袋が処刑刀に殺されでもしたら俺は自分のことを一生赦さないだろう。
とはいえ……長年息子としてお袋を見てきたが、お袋は一度決めたら考えを曲げないので説得は無理だろう。
「……はぁ、わかったよ。でも無理はしないでくれよ?」
「あんたに気遣われる程柔じゃないよ」
「そいつは悪かったな。でも仕事はどうすんだ?歓楽街で喧嘩屋でもやんのか?」
だとしたらさぞ儲かるだろうな。
「あんた後でしばくからね?それについては昨日シルヴィアちゃんに話したら、もしアスタリスクに来るならクインヴェールで事務でもやらないかって誘われたの。まだ引き受けてないけど、美奈兎ちゃん達を鍛えるならって考えなら悪くないと思ってるね」
なるほどな……まあ確かにそれなら悪くない話だが……
「その辺りは俺の管轄じゃないからな。若宮達と話して決めてくれ。てか親父はどうすんだ?」
お袋がアスタリスクに来るなら実家は親父1人になってしまうが……
「ん?ああ、あいつも1人は寂しいから嫌だからって来たがってるよ。だからうちの会社のアスタリスク支部に異動届を出したみたい」
1人は嫌だからって……まあ気持ちはわからなくないが子供かよ。赫夜のメンバーも苦笑しているし。
そう思いながら俺は近くのテーブルにあった果物をオーフェリアにアーンされながらお袋と赫夜のメンバーが話し合うのをノンビリと眺めていた。
その結果、お袋もチーム・赫夜の指導に協力する事になったのだが、星露の指導もあるので恵まれてるだろ?これマジで優勝出来んじゃね?
それから4時間後……
「はい八幡、あーん」
俺はオーフェリアにあーんされながら夕食を食べている。今はお袋も見舞客もおらず2人っきりだ。
あれから割と沢山の人がお見舞いに来た。
小町が雪ノ下と由比ヶ浜と戸塚を引き連れてやって来て、その際にオーフェリアと雪ノ下が一瞬衝突しかけたり……
天霧が自身のハーレムメンバーを連れてやって来て、その際に俺とエンフィールドが天霧をからかったり、後日処刑刀について話をする為天霧をうちに呼ぶ約束をしたり……
フェアクロフさんがチーム・ランスロットのメンバーを引き連れてやって来て、その際に俺がケヴィンさんと一緒にブランシャールをオカンネタで弄ったり……
星露が暁彗や梅小路や虎峰を引き連れてやって来て治ってから戦うのを楽しみにしていると言われたり……
などと色々と濃い面子がやってきて中々カオスな見舞いとなった。
まあ中々インパクトがあって退屈しなかったけど。
「はいよ、あーん」
そう思いながらオーフェリアが差し出してくるお粥を口にする。うん、やっぱりオーフェリアのあーんは最高だぜ!
「やっぱり美味いな。オーフェリア、次はサラダを頼む」
「……わかったわ」
オーフェリアがそう言って箸でサラダを掴もうとした時だった。
いきなりドアからノックの音が聞こえてきた。飯を食い始めてからまだ20分も経っていないので食器を回収しに来たナースではないと思うが……
「はーい、どうぞ。入って大丈夫ですよ」
そう口にすると……
「八幡君!」
ドアが開いて1人の女子が入ってくる。
それを見た瞬間、俺の内からとめどない喜びが溢れ出してくる。さっきまでオーフェリアにあーんをされていて凄く幸せだったが、更に幸せになった。
俺をここまで幸せに出来るのは左横にいるオーフェリアと……
「久しぶりだな、シルヴィ」
右横から可愛らしい笑顔を見せながら駆け寄ってくるシルヴィだけだろう。
「うん。昨日も会ったのに久しぶりな気がするよ」
言うなりシルヴィは右横にある椅子に座って猛烈に甘えてくるので俺は手を伸ばしてシルヴィの頭を優しく撫でる。するとシルヴィはくすぐったそうに目を細めてくる。やっぱり可愛いなぁ……
2人と一緒にいる、それだけで俺は満たされた気分になる。ウルスラさんも取り戻せたし、今後は平和が続いて欲しいものだ。
そう思いながら俺はシルヴィの頭を優しく撫で続けた。
「そういえばシルヴィア。さっき八幡、クロエ・フロックハートのスカートの中に頭を潜らせて、ソフィア・フェアクロフの胸を揉んでいたわ」
「……へぇ〜。そうなんだ〜。良かったね〜は・ち・ま・ん・く・ん?」
「えっ、あっ、いや……」
平和は呆気なく崩れ去った。
結局俺は面会時間終了まで2時間半シルヴィとキスをする事で何とか許して貰った。