学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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退院してからも色々ある(中編)

「それで八幡、結局何回襲われたの?」

 

昼休み、いつも飯を食うベストプレイスにて俺の膝の上に乗って甘えてくるオーフェリアが質問をしながらパンを差し出してくる。

 

対して俺は口を開けてオーフェリアが差し出してきたパンを食べる。購買の安いパンだがオーフェリアのあーんによっていつもより美味く感じるるのは気の所為ではないだろう。

 

「お前と別れてからは28回だな。お前と別れた直後に1回、教室に入るまでに7回、教室に入ってから3回、各休み時間に8回、昼休みにお前と合流するまでに9回襲われたな」

 

おかげで制服は返り血で汚れ過ぎて捨てる羽目になっちまったし。まあ最後に襲撃した奴らの財布から制服代は抜いたけどな。

 

そんな中、オーフェリアは殺気を漏らしまくる。

 

「……そう。八幡、午後はずっと私といましょう?狙ってきた相手には地獄を見せるわ」

 

「待てコラ。お前の地獄は洒落にならない……って『覇潰の血鎌』は出すな!冗談抜きでヤバいからな?!」

 

雑魚相手に純星煌式武装ってオーバーキル過ぎだからな?てかオーフェリアの場合、学校そのものを重力で潰しそうで怖い。

 

「……でも」

 

そう言ってもオーフェリアは不満そうな表情を浮かべているので俺は膝の上にいるオーフェリアを優しく抱きしめる。

 

「……いいんだよ。お前の手を煩わせる訳にはいかない。これは俺が馬鹿したからこうなったんだよ。それに最後に襲撃してきたのは高位序列者3人だったんだが、全員中庭に磔にしたからこれ以上狙う馬鹿はいないと思う」

 

アレを見てから俺に襲撃をしてくる奴なんて冒頭の十二人か桁違いの馬鹿くらいだろう。

 

そう言うとオーフェリアは小さく頷いて抱き返してくる。

 

「……わかったわ。八幡を信じるわ」

 

「ああ、頼む」

 

お互いに一言だけ言葉を交わして

 

 

 

 

「「んっ……」」

 

俺達はそっと唇を重ねた。言葉を交わす事なくオーフェリアがキスを求めているのは理解したので要望に応えたのだ。

 

「八幡……」

 

「何だ?」

 

「好き……大好き……」

 

オーフェリアはキスをしながら好き好き言ってくる。それに対して俺が返す言葉はただ一つだ。

 

「知っている。俺もお前が好きだぞ、オーフェリア」

 

そう言って華奢なオーフェリアの身体を優しく抱きしめる。

 

「……んっ。ずっとずっと私やシルヴィア一緒に居てくれる?」

 

「……ああ」

 

「……私をお嫁さんにしてくれる?」

 

「もちろんだ」

 

「……結婚したら子供を作ってくれる?」

 

「お前が望むなら」

 

「……もうラッキースケベはしない?」

 

「あー……うん、善処する」

 

瞬間、オーフェリアはジト目になって頬を引っ張ってくる。

 

「……そこは断言しなさいよ。八幡のバカ」

 

いや、だってやりたくてやってる訳じゃないし。気をつけていてもふとした拍子にやっちまうからなぁ……

 

「いや、一応しないように気をつけてるからな?」

 

「でもしてしまうのよね?」

 

「……はい」

 

ラッキースケベを回避するように最善は尽くしているんだが……何でだ?もしかして何処かのハーレム王の素質を持つ男の能力でも手に入れたのか?

 

「もう……八幡のバカ」

 

「……すまん」

 

マジですみません。これについてはオーフェリアとシルヴィに対して申し訳が立たないんだよなぁ……

 

「……じゃあ、昼休み終わるまでキスして」

 

オーフェリアが拗ねた口調でおねだりをしてくるが……

 

「別に構わないが、それはいつもの事じゃね?」

 

昼休みは飯を食ったら予鈴が鳴るまでオーフェリアとキスをするのが通例だ。寧ろしない日はないくらいだし。

 

「そうじゃなくて……その……激しい方のキスを……」

 

つまりディープをしろと?まあ確かに軽いキスなら毎日しているが、ディープは基本的に夜2人を抱く時以外余りしない。だってやったら止まらなくなるから(主にシルヴィが)

 

一瞬悩んだが

 

「……わかったよ」

 

する事にした。流石に野外、それも自分の学校で理性を失うとは考えにくいし、そして何よりも彼女の要望には答えてやりたいからな。

 

「んっ……」

 

それを聞いたオーフェリアは小さく頷いて俺に顔を近づけて……

 

「んっ……ちゅっ……」

 

即座に俺の口の中に舌を入れてきたので、俺も応戦するかのように舌を出して絡める。

 

その後、予鈴のチャイムが鳴るまで校舎の端では2人の喘ぎ声と水音がずっと響き渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから3時間後……

 

「悪いオーフェリア、遅くなった」

 

授業が終わった俺は校門で可愛らしく佇んでいるオーフェリアに話しかける。するとオーフェリアはこちらを向いて優しい笑みを見せてくる。

 

「……気にしないで。私が早かっただけだから。八幡は……午後は襲われていないみたいね」

 

「まあな」

 

まあ新調した制服には返り血が付いてないからな。おそらく高位序列者3人を磔にしたのが大きいだろう。さっきレヴォルフの裏サイトを見たら『比企谷八幡は腕を失って強さは衰えていない、闇討ちは無理』って書かれていたし、もう襲われる事はないだろう。

 

「なら良かったわ。もしも八幡が怪我したら襲撃者を全員潰さないといけなかったし」

 

お前の場合潰すじゃ済まなそうなのがマジで怖いんですけど?まあ襲われなくなった以上オーフェリアが動くことはないから良いんだけどさ。

 

「その必要はないから安心しろ。それよりクインヴェールに行こうぜ?」

 

今日からまた赫夜の訓練に付き合う予定だ。お袋は事務以外にクインヴェールの戦闘のコーチもやる事になったので赫夜に対して取れる時間も減ったらしいからとフロックハートから要請が来たし。

 

「……そうね、行きましょう八幡」

 

そう言いながらオーフェリアはコクンと頷いて俺の指に自身の指を絡めてくる。さりげなく恋人繋ぎをしてくるオーフェリア……八幡的にポイント高いな。

 

内心で小町のセリフをパクった俺は苦笑しながら、オーフェリアと一緒にもう1人の恋人が所属する学園に向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても……女子校に入るのに慣れちまうとは……」

 

クインヴェール女学園の地下の廊下にて、影に潜りながら赫夜のメンバーがいつも使っているトレーニングルームに向かっている。

 

既にクインヴェールの入校証やトレーニングルームの入室パスもシルヴィや赫夜のメンバーから貰っているから堂々と入っても捕まる事はないが、面倒なのは目に見えているのでいつも影に潜りながらトレーニングルームに入っている。

 

「……そうね。私も自由になる前は自身の学園以外に入るとは思わなかったわ」

 

隣にいるオーフェリアも同じような事を言いながら頷く。

 

だろうな。あのディルクがオーフェリアに遊びの時間を与えるとは考えにくいし。

 

「まあそうだろうな……っと、着いたな」

 

オーフェリアと話している内に赫夜が毎回使っているトレーニングルームの前に到着した。それと同時に周りを見渡すが……

 

「人の気配は無し……っと」

 

人の気配は無いので影から上がる。そして赫夜から貰った入室パスをポケットから取り出してセンサーにかざす。

 

するとピーっという音がして扉が開くので中に入ると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……え?』

 

チーム・赫夜の5人が下着姿でジャージに着替えようとしている場面が目に入った。

 

それと同時に俺の肩に何かが置かれた感触が走り……俺は本能的に恐怖を感じた。恐る恐る振り向くと……

 

 

 

 

 

 

 

 

「……八幡」

 

オーフェリアがドス黒いオーラを出しながらジト目で俺を見ていた。

 

……うん、これは死んだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほどな。お袋との訓練で汗をかき過ぎたから着替えをしていたのか」

 

「う、うん。それより比企谷君は大丈夫なの?」

 

頭の上から若宮の心配そうな声が聞こえるので俺は力を振り絞り床から起き上がる。全身からは痛みが襲ってくるかそれを無視して若宮達と向き合う。

 

俺は現在満身創痍だ。ちなみにこれは着替えを見られたチーム・赫夜がやった訳ではない。向こうは『比企谷君が来るのを知っていたにもかかわらず、入室許可をロックしないで着替えた自分達が悪い』と言ってそこまで怒られなかった。

 

ただしオーフェリアは別でラッキースケベをするなと言われて半日以内にラッキースケベをした事で激怒、”塵と化せ”をぶっ放してきて俺はモロに食らったのだ。

 

「問題ないな。ちょっと痺れるくらいだ。そんで戦闘に多少支障が出るくらいだ」

 

そう言いながら紫色になった右腕を軽く振るう。”塵と化せ”を食らった影響で色が変わっているが直ぐに元に戻るだろう。

 

「ちょっと痺れるくらいって……比企谷さん人間をやめていますの?」

 

「いえ辞めてないですからね?」

 

顔を引き攣らせたフェアクロフ先輩がさり気なく失礼な事を言ってくるが人間は辞めていない。ラッキースケベをする度に”塵と化せ”を食らっていて、既に50回近く食らったから慣れているだけだろう。

 

(まあ、慣れるのはどうかと思うけどな。てか……)

 

「………」

 

オーフェリアは機嫌を直してくれ。さっきからジト目で俺を見ているし。こりゃ今日の夜はオーフェリアのご機嫌とりで眠れなさそうだ。

 

「なあオーフェリア、マジで悪かったって。てか今回は完全に事故だからな?”塵と化せ”をぶっ放したんだからその程度で勘弁してくれよ」

 

そう謝りながら変色していない左手でオーフェリアを撫でる。

 

「アレを食らったのにその程度って……」

 

後ろでは赫夜のメンバーが引いている気配を感じるが気にしない。気にしたら負けだからな。

 

暫くの間、オーフェリアの頭を撫でていると、オーフェリアはため息を吐いて小さく頷く。

 

「……そうね。今回は八幡がドジをして転んだ訳じゃないし……わかったわよ」

 

「サンキューな」

 

「……んっ、ただし今日の夜は一杯甘えるから」

 

「はいはい。お前らも悪かったな」

 

そう言いながら頭を下げる。事故とはいえ毎度毎度申し訳ない。

 

「……頭は下げなくて良いわよ。今回はこっちの過失だし、貴方のそれは今更だから」

 

フロックハートがオーフェリアと同じようにため息を吐きながらそう言ってくる。後ろの4人は苦笑しながら頷く。今更呼ばわりされるのはアレだが事実なので返す言葉がない。

 

「そうかい。ところでお袋は何処に行ったんだ?」

 

話を聞く限りさっきまでこいつらに稽古をつけていたらしいが、トレーニングルームにはお袋の影も形もない。

 

「さっきメールで呼び出されていたわ」

 

フロックハートがそう口にする。

 

「は?お袋の奴何かやらかしたのか?」

 

「内容は聞いていないから知らないわ。とりあえず今日はもう来れないって言っていたわ」

 

「あっそ。んじゃ俺と模擬戦するか?」

 

「ええ。こちらから頼む所だったの。だけど貴方、オーフェリアの攻撃を食らったけど大丈夫なの?」

 

「ああ。食らい慣れてるからな。もう大丈夫だ」

 

てかオーフェリアが自由になってからの方が”塵と化せ”を食らっている気がする。てか赫夜のメンバーはそんな同情的な眼差しで俺を見るな。

 

内心そう突っ込んでいると俺のポケットの端末が鳴り出した。

 

「悪いフロックハート、電話に出ていいか?」

 

「良いわよ」

 

一言断ってからフロックハートから了承を得たので俺は少し離れた場所に行き端末を取り出す。

 

電話をしてきたのは……エンフィールドか。となると……

 

電話の内容を何となく察した俺は空間ウィンドウを開きながら電話に出る。すると空間ウィンドウには金髪の美少女が映る。

 

『こんにちは比企谷君、今大丈夫ですか?』

 

「ああ、大丈夫だ。話の内容は獅鷲星武祭関係か?」

 

『そうです。例のユリスとソフィア・フェアクロフのトレーニングの件についてですね』

 

「その話をするって事はそっちのチームは最低限の連携はマスターしたって事か?」

 

『ええ、個別の連携は問題ないレベルまで仕上がったので、後は実戦練習と個々の能力の向上に努めるつもりです』

 

なるほどな……たった3ヶ月ちょいで個々の連携は問題ないレベルになったのか。エンフィールドのチームは我が強いメンバーだからもうちょい時間がかかると思っていた。

 

「わかった。じゃあ今から会えるか?こういうのは直接会った方が良いだろうし」

 

普通に顔合わせもしないといけないだろうし。それに天霧には処刑刀の話をしておきたいからな。

 

『そうですね……何処か良い集合場所はありませんか?』

 

良い集合場所ね……うーん。

 

「あ、じゃあ鳳凰星武祭の時に天霧とリースフェルトとフローラが行ったカフェ……『マコンド』でどうだ?」

 

あそこは若宮の友人がバイトをしているカフェで、俺がフロックハートと練習メニューを作る時やオーフェリアやシルヴィとデートする時に足を運んで、最近常連になってきた店でもある。

 

「ああ……あそこですね。わかりました。では1時間後に綾斗とユリスを連れて行きます」

 

「はいよ。じゃあまた後で」

 

そう言って空間ウィンドウを閉じて赫夜のメンバーがいる所に向かう。

 

「フロックハート、今エンフィールドから例のトレーニングについて連絡が来た」

 

俺がそう言うとフロックハートは真剣な表情になり、他の4人はキョトンとした表情を浮かべる。どうやら4人にはまだ話していないようだ。

 

「……そう。それで?」

 

「事後承諾で悪いが今から顔合わせをするからフェアクロフ先輩を借りるぞ」

 

「それなら仕方ないわね……わかったわ。じゃあ今日はソフィア先輩抜きで基礎練だけしておくわ」

 

「え?ちょ、ちょっと比企谷さんにクロエさん?一体何の話をしているのですの?」

 

「あ、はい。以前から高度な練習……赫夜のメンバーの得意分野を更に伸ばす為の指導者を探していましたよね?」

 

「あれ?星露ちゃんじゃ駄目なの?」

 

若宮が律儀に手を挙げて質問をしてくる。

 

「いや、星露の教えは一流だ。だけどお前らがチーム・ランスロットやチーム・エンフィールドを超えるには星露だけじゃ足りないな。だから個々の得意分野を更に伸ばす為の指導者は多いに越したことはない」

 

言っちゃ悪いが赫夜のメンバーの中にアーネスト・フェアクロフや天霧綾斗、武暁彗の様に際立った強さを持つ人間はいない。

 

それらの強者に勝つには星露の教えだけでは届かないだろう。向こうも努力をしているだろうし。

 

「話はわかりました。美奈兎さんには涼子さんがいてニーナさんには比企谷さんがいますけど、私と柚陽さんとクロエさんにはいないですからね。それで?私の練習相手はどちらですの?」

 

「天霧綾斗」

 

「ええっ?!む、叢雲ですのっ?!」

 

それを聞いたフェアクロフ先輩は驚きの声を上げる。まあいきなり星導館の序列1位の名前が出るとは思わなかったのだろう。

 

「綾斗さんですか?綾斗さんも獅鷲星武祭に出るのによく引き受けてくれましたね」

 

天霧と同じ流派の蓮城寺が若干驚きを混じった声をしながら聞いてくる。まあ普通に考えたらそうだろう。

 

「無論タダじゃねぇぞ。天霧をフェアクロフ先輩の訓練に付き合わせる代わりに俺はリースフェルトの訓練に付き合う取引をしたんだよ」

 

それを聞いたフロックハート以外の4人は呆気に取られた表情を浮かべる。特に若宮、頭から煙が出てるし明らかに考える事を止めたな。

 

そう思う中、フェアクロフ先輩が口を開ける。

 

「……それで私抜きで訓練をすると言っていましたのね?」

 

「はい。それでフェアクロフ先輩はどうしますか?天霧で不満があるならこの取引を無しにしますが」

 

「いえ。天霧綾斗の実力なら良い鍛錬になるでしょうから受けますわ」

 

「そうですか。そんじゃ今から向こうと会いに行くんで付いてきて貰って良いですか?」

 

「わかりましたわ。案内よろしくお願いいたしますわ」

 

「了解しました。オーフェリアはどうする?来るか?」

 

「……私は完全な部外者だから遠慮するわ。美奈兎達の訓練の手伝いでもしておくわ」

 

おお……オーフェリアが他人の手伝いをするって自分から言うなんて……自由になってから思いやりの心が出来ていて嬉しいな……

 

「そっか。わかった。じゃあフェアクロフ先輩、俺は影に潜ってクインヴェールを出るんでクインヴェールの校門に集合しましょう」

 

そう言って自身の影に星辰力を込めて影の中に潜った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから40分後……

 

カフェ『マコンド』に到着した俺とフェアクロフ先輩がパフェを食っていると……

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました。直で会うのは久しぶりですね」

 

そんな可愛らしい声がしたので振り向くとエンフィールドが天霧とリースフェルトを連れて笑顔を向けていた。

 

こうして三校の生徒による話し合いが始まった。


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