波の音が聞こえる。しかしそれは一瞬の事で直ぐに騒ぎ声で聞こえなくなる。辺りを見渡すと人が溢れかえっていて頭が痛くなってくる。
「あー、4月なのに人が多過ぎだろ?」
俺はそんな光景を見ながらため息を吐く。周囲に沢山の人が水着を着て遊んでいた。
ここはアスタリスク中央区にある巨大アミューズメントプールであり、アスタリスクでも屈指の人気スポットである。
静かな場所を好む俺が何でこんな騒がしい場所にいるかというと、恋人のオーフェリアとシルヴィの2人を怒らせてしまった際に謝罪をしたら、このプールでデートをしろと言っていたからだ。
まあその点については構わない。恋人がいるのに違う女子の着替えを見たりデレデレしたからな。それに元々プールデートをする予定だったのだ。腕を斬り落とされて有耶無耶になっていたのが元に戻っただけだ。
しかし混み過ぎだろ?夏ならともかく4月にこんなに混んでいるとは思わなかった。こんなに混んでるならエンフィールドに頼んで星導館にあるレスティングルームのプールを借りた方が良かった気がする。そうすりゃ静かだし変装しないで済むし。
そう思いながら銀髪の髪を軽く弄る。悪名高いレヴォルフのNo.2がいたら周りの客も引いて楽しめないだろうと判断した結果だ。
そんな事を考えながら色々なプールをぼんやり見ていると……
「「お待たせ、八幡(君)」」
後ろから声をかけられたので振り向く。
するとそこには俺の恋人2人、オーフェリアとシルヴィが変装しながら水着姿で俺に笑顔を向けて軽く手を振っていた。
それを認識すると同時に俺は顔に熱が溜まるのを理解した。理由は簡単、2人の水着姿が余りにも魅力的だからだ。
オーフェリアは上に首の後ろで結ぶホルダーネックの青いビキニを付けて腰には薄ピンク色のパレオを巻いていた。オーフェリアの色白い肌とパレオからチラッと見える健康的な美脚に目が引かれてしまう。
一方のシルヴィはシンプルなビキニだが、色が黒とかなりセクシーである。上は面積が狭いのにシルヴィの谷間を大きく見せていて、下もかなり面積が狭くシルヴィが一回転すると小振りで可愛らしいヒップのラインがしっかりと見えた。
2人ともそれぞれ違う魅力があってとても可愛らしい。
そう思いながら2人に声をかけようとするとし横から「あの2人可愛くね?」とか「声かけてみようぜ」と聞こえてきたので星導館の校章を付けたジャージを羽織った2人がオーフェリアとシルヴィを見ていた。
しかも星導館の2人以外にも周囲からナンパしようとしている男が見えた。
瞬間、俺の中にドス黒い感情ーーー苛立ちが生じた。
百歩譲って2人を可愛いと言って見るのは公共の場だから許す。しかし他の男が2人に声を掛けてナンパしようとするのは嫌だ。想像するだけで虫唾が走る。
そう思うと同時に俺の身体は勝手に動き耳に付けている変装効果を持つヘッドフォンを外し髪の色を元の黒にして……
「ああ、2人とも凄く似合ってるぞ。……それこそ誰にも見せたくないくらいに」
2人を抱き寄せて、2人の唇にキスを落とす。
同時に周囲から騒めきが生じるが、俺はそれを無視して2人に対して交互にキスをする。
「んっ……いきなり、どうしたの?」
「は、八幡君?!……んっ、ちゅっ……」
2人は驚きの表情をしながらも俺のキスを受け入れる。いきなりキスをして済まん。
内心謝りながら俺はキスを止めてオーフェリアとシルヴィの間に入り2人と腕を絡めてからナンパしようとした連中に対して軽く殺気を込めて睨む。2人は俺の恋人だから手を出すなと思いながら。
すると俺の正体を理解した男共は顔を青ざめながら去って行った。
普段の俺なら恥ずかしくて絶対にこんな事はしないが、虫除けの為なら恥じらいなんて捨ててやる。
そう思いながら2人を連れて歩き出すと2人が俺の腕に強く抱きついて見上げてくる。オーフェリアは恥じらいの表情を、シルヴィはニヤニヤ笑いを浮かべていた。
「……意外ね。八幡がそんな嫉妬を剥き出しにするなんて」
「だよねー。八幡君って嫉妬深いんだね」
「……煩えな。悪かったよいきなりキスをして」
いくら2人が変装していて虫除けの為とはいえ流石に数十人の人がいる中で堂々とキスをしたのはやり過ぎだと今更ながらに思ってしまう。
「ううん。別に怒ってないよ。それだけ八幡君が私達の事を想っているって考えたら嬉しいよ」
「……それ以前に八幡にキスをされて嫌だという感情は湧かないわ」
俺が謝ると2人は笑顔を見せて更に強く腕に抱きつき、2人の美しいバストが俺の腕によって形を変えて物凄くエロティックになっている。
「……そうか。なら良かった」
いきなり沢山の人が見られている中でキスをしたから嫌われるかと思っていたが2人は特に怒っていないようなので安心した。
「それで?色々な種類のプールがあるが、先ずは何処に行くんだ?いっそ決闘でもするか?」
見ると普通のプールに流れるプール、波のプールにウォータースライダーなど様々なプールがある。そして流れるプールの中央の小島は決闘ステージでもあり、このアミューズメントプールの中でも人気スポットである。
そう思っていると右に抱きつくオーフェリアが……
「……2人が良ければ流れるプールに行きたいわ」
珍しく自分の要望を口にしてきた。それを聞いた俺とシルヴィは顔を見合わせて……
「いいぞ(いいよ)」
了承する。俺自身全部回るつもりだし、珍しくオーフェリアが自分の要望を口にしたんだ。可能な限り叶えてやりたいからな。
「……ありがとう」
「いやいや、オーフェリアが夜のベッド以外でおねだりするなんて珍しいからな」
「……っ!八幡のバカ」
軽い冗談を言うとオーフェリアは真っ赤になってポカポカ叩いてくる。可愛過ぎる……
「悪い悪い。でもそれでいいんだよ。お前はもっと自分の要望を口にしろ」
「そうそう。自由になったんだし、思う存分やらないとね」
「……頑張ってみるわ」
「うん。そんじゃ入ろっか。浮き輪は人気があるからもう借りれないみたいだしね」
見ると流れるプールの近くに浮き輪を貸し出すスペースがあるが、既に浮き輪は1つもなかった。まあこの混み具合からして当然だろう。
「問題ねぇよ。俺の能力なら浮き輪なんて簡単に用意出来るし」
俺の能力なら影の浮き輪を作れる事なんて朝飯前だ。他の人からしたら狡いかもしれないが知ったことじゃないな。
するとオーフェリアは首を小さくを横に振って
「……別に良いわ。八幡を浮き輪代わりに抱きつくから」
そう言いながら俺の腕から離れて、後ろに回りキュッと抱きついてくる。それによって背中に柔らかい膨らみを感じる。
「あ、それいいかも。私も八幡君を浮き輪代わりにして抱きつきたいな」
シルヴィもオーフェリアの意見に対して嬉しそうに頷いてから、俺の腕から離れて正面から抱きついてくる。
俺を浮き輪代わりにして抱きついてくるだと?役得じゃねぇか。
「はいよ。じゃあ浮き輪代わりにしてくれ。俺個人としてもお前らに抱きつかれるのは嬉しいからな」
そう言いながら3人で流れるプールに入ると、足を動かすことをしなくてもゆっくりと流れ出す。
それと同時に前後から抱きついているオーフェリアとシルヴィは足を俺の腰に絡めて、コアラのような体勢を取る。
「えへへ……八幡君の身体、凄く逞しくて温かいね」
「……最高の浮き輪ね」
やれやれ……俺の恋人2人は本当に甘えん坊だな。
(だが……それがいい)
俺自身、2人に甘えられると凄く嬉しくなるし、2人に甘えたい気持ちが強い。そして2人は俺を存分に甘やかしてくれるから最高だ。
お互いに甘え合う関係、俺は2人とこの関係を築くことが出来て心から嬉しい。可能ならずっとずっとこんな風に甘え合いものだ。
そんな幸せな未来と抱きついてくる2人から感じる温もりと重みを感じながら、俺はゆっくりと流れに身を任せて泳ぎ始めた。
「じゃあ次はウォータースライダーに行こうか……って八幡君、大丈夫」
流れるプールを5周した俺達は流れるプールから上がって一息ついているが……
「大丈夫だ。少し疲れただけだ」
俺は若干の疲れが籠った息を吐く。流れるプールで泳いだ際にオーフェリアとシルヴィはずっと俺に抱きついて甘えてきたが後半あたりから少し疲れが出たのだ。
「……ごめんなさい。私が八幡を浮き輪代わりにするなんて言わなかったら」
オーフェリアはそう言いながらショボクレるので頭を撫でる。オーフェリアの悲しそうな顔は見たくないからな。
「気にすんな。お前らはただ甘えただけで悪い事はしてないんだから」
「んっ……」
オーフェリアは頬を染めながら小さく頷く。そうだ、お前はもっと我儘になるべきなんだよ。
「良し、そんじゃ次に行くぞ。次はシルヴィの行きたい所に行こうぜ。何処が良い?」
「私?じゃああそこが良いな」
そう言ってシルヴィが指差すのはこのプール屈指の人気スポットであるウォータースライダーだ。長さ600メートルで幾つもの急カーブが乗る人を魅了する施設であり、今もウォータースライダーから沢山の叫び声が聞こえてくる。
「了解、そんじゃ行こうぜ」
「うん。あ、後あのウォータースライダー、ペア滑りってものがあるんだけどさ……」
そう言ってシルヴィはチラッと俺を見てくる。シルヴィの表情からは機体の色が見えた。そんなシルヴィの表情を見た俺はシルヴィの言いたい事を理解した。
「一緒に乗れってか?」
「……うん。ダメかな?」
「ダメな訳ないだろ。断る理由なんてないしな」
「そっか。なら良かった。ありがとね」
「……八幡。私も八幡と一緒に滑りたいわ」
「もちろんオーフェリアも大歓迎だ。ただペア滑りだからどっちから滑るかはお前らで決めろ」
「……それはシルヴィアからで構わないわ。元々ウォータースライダーはシルヴィアが提案したのだから」
「え?いいのオーフェリア?」
「……ええ。その次に私とお願いね八幡」
「はいよ。んじゃ行こうか」
言うなり俺達はウォータースライダーの並び口に向けて歩き出した。ウォータースライダーを見ると1人の女子が彼氏らしき男の上に乗って楽しそうに滑っていた。
……あの様子を見る限りオーフェリアとシルヴィが俺の膝の上に乗るのか。今から楽しみで仕方ないな。
それから並ぶこと20分後……
「お次の方、どうぞー」
漸く俺とシルヴィの番だ。係員の人が呼ぶので俺は後ろにいるオーフェリアの方を向く。
「じゃあオーフェリア、先に行ってるからな?」
「……ええ。次は私と一緒にお願いね」
「はいよ」
「じゃあまた下で会おうね」
3人で挨拶を交わし、俺は入り口に座る。すると女の係員さんがシルヴィの肩を押す。
「はーい。じゃあ彼女さんは彼氏さんの足の間に座ってください。座ったら彼氏さんは後ろから離れないように抱きしめてくださいね」
「はーい」
シルヴィはそう言って俺の足の間に座る。同時に俺はシルヴィの腹に手を回してギュッと抱きしめる。手にはシルヴィのモチモチした柔らかい腹の感触が、胸にはシルヴィの背中の温もりが伝わる。
「……八幡君、温かいよ。凄く気持ち良い」
シルヴィの顔は見えないかウットリとした声が聞こえて俺をドキドキさせてくる。顔が見えない分タチが悪い。
「あ、八幡君の心臓の鼓動がトクントクン激しくなったね」
もう止めろ!俺のライフは0だからな!
内心シルヴィにドキドキしていると……
「はーい、いってらっしゃーい」
係員さんが俺の背中を押して出発した。瞬間、尻に水の感触を感じ俺の身体はコースに沿って進み始める。
暫くすると目の前に急カーブが現れて俺とシルヴィは傾きながら曲がり出す。
「あははっ、凄い凄ーい。楽しいね!」
俺に抱きしめられているシルヴィは手の間で楽しそうにはしゃいでいる。顔は見えないが心底楽しんでいるのが声で理解できる。
シルヴィは基本的に大人びているが偶に見せる子供っぽい仕草が凄く可愛らしい。俺自身もそんなシルヴィの声を聞くと楽しくなってきた。
「ああ、俺もお前と滑れて楽しいよ」
そう言いながら更に強くシルヴィを抱きしめようとした時だった。
「うおっ!」
いきなり予想外のカーブの二連続によって俺はシルヴィの腹から両手を離してしまい……
「ひゃあんっ!は、八幡君?!」
シルヴィの豊満な胸を揉んでしまう。手には感じる感触が腹のモチモチした感触から胸のムニムニした感触に変わる。
「わ、悪い!」
慌ててシルヴィの胸から手を離して腹に戻す。同時に水が飛び散り俺とシルヴィの顔に顔にかかる。
「けほっけほっ……八幡君のエッチ。遂に私にまでラッキースケベをしたね?」
シルヴィは咳き込みながらそんなことを言ってくる。顔は見えないが絶対にジト目をしているだろう。まあ今回は俺が悪いな。
「わ、悪かったよシルヴィ、ごめんな」
「あっ、う、ううん。からかっただけで別に怒ってないから良いよ。なんだかんだ八幡君に揉まれるのは気持ち良いし」
「は?」
待てコラ。お前今とんでもない事を口にしなかったか?
「え……あ、いや何でもないからね!!」
「いやそんな風に焦った声を出すと余計に怪しい「あ、八幡君!出口が見えてきたよ!」そ、そうか……」
明らかに誤魔化しているのは丸分かりだが突っ込んだら負けな気がするので口にはしない。
俺がそう思っている間にもドンドン速度を上げて……
「きゃあっ!」
「おっと!」
そのまま出口にある巨大プールに落ちた。派手な水飛沫が飛ぶのを理解すると同時に顔に水が当たる。勢い余って顔もプールの中に入った。
その勢いによってシルヴィは水中で俺から離れそのままプールから顔を出すので、俺も同様に顔を上げて空気を吸う。
息を吸いながらシルヴィを見ると顔を赤くしながら俺を見ていた。怒りの色はないが恥じらいの色が見える。
それによって俺はウォータースライダーを滑っている最中に感じたムニムニした感触を思い出す。
「わ、悪い」
「ううん。さっきも言ったけど別に怒ってないから。いきなりで驚きはしたけど」
「なら良いが……っと、オーフェリアも来たな」
見ると変装して栗色の髪となったオーフェリアが驚きの表情を浮かべながら出口にあるプールにダイブした。それによって水飛沫が生じ、直ぐにオーフェリアが顔を出して首をプルプル振って水をはじいていた。
すると直ぐ俺達に気が付いて近寄ってくる。
「……八幡。凄く楽しかったわ。早くもう一回乗りましょう」
珍しく楽しそうな表情を浮かべて俺の手を握ってくる。オーフェリアはいつも笑う時に余り感情を出さないが今回はかなり感情を露わにしていた。
それを見た俺は……
「ああ。行こうぜ」
笑いながらそう言ってオーフェリアとシルヴィの手を掴んで歩き出した。
「ええ(うん)」
対して2人も笑顔を浮かべて俺の手を握り返して横に並んで歩き出した。
初めは混んでいるから怠いと思っていたが今はそんな気持ちは全くない。もっともっと2人を喜ばせたい気持ちで一杯だった。
俺達は幸せな気持ちのまま2度目のウォータースライダーに向かった。
同時刻……
「あー、もう!本当に苛々しますね!あの動画の所為で副会長には散々怒られるし、クラスでは腫れ物扱いされるし、葉山先輩には距離を置かれるし……これも全部『影の魔術師』が悪いのに……!」
プールサイドにて亜麻色の髪の少女が苛々しながら歩いていた。その表情には怒りの色が混じっていた。
その時だった。
「ストレス解消でプールに来たけど、何かスカッと……ん?」
少女の目にある光景、1人の男子と2人の女子が仲良く歩いているのが目に入った。
男子は知っている。少女の評判を下げた(少女が逆恨みしているだけだが)男だ。少女にとっては不倶戴天の怨敵である。
そしてもう2人の女子は特におかしな所がない女子であるが……
「あれ……シルヴィア・リューネハイムとオーフェリア・ランドルーフェンだよね?」
少女は知っていた。かつてあの2人が変装を解いて本来の姿になった所を見た事があるのだから。
少女が呆気に取られている時だった。
2人の女子が間にいる男子の腕に抱きつき頬にキスを落とした。2人の女子の顔を見る限り愛する者を見る顔だった。
すると……
「へぇ……」
少女ーーー一色いろはは邪悪な表情を露わにした。
今回も読んでいただいてありがとうございます。
突然ですが報告です。大学の時間割が予想以上にハードなのである程度落ち着く、11月くらいまでは更新が不定期になりますがご了解ください