学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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比企谷八幡に愛校心はなく、平気で他校の生徒を鍛える

日曜日、俺は今アスタリスク中央区にあるトレーニングジムに向かっている。理由としては秋に行われる獅鷲星武祭に参加する知り合いに稽古をつけるからだ。

 

しかし昨日も恋人2人に搾り取られたからか腰が痛え。まあ戦闘に支障がないから良いんだけどさ……

 

そんな事を考えているとトレーニングジムに着いたので中に入ると丁度待ち合わせをしていた相手がいた。

 

「よっすリースフェルトよ。待たせて悪かったな」

 

そこにいたのは薔薇色の髪を持つ少女ーーーユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトだった。

 

「いや、待ち合わせ時間には間に合っているから問題ない」

 

「なら良かった。ちなみに天霧とフェアクロフ先輩は先に行ったのか?」

 

「5分位前にな。さて、お前も来た事だしこちらも始めようか」

 

言いながらリースフェルトは受付のお姉さんに話しかける。するとお姉さんは直ぐに立ち上がり案内を始めるので俺もそれに続く。

 

暫く歩くとお姉さんは足を止めてドアを指差してから入口の方に戻って行った。

 

同時にドアが開いて体育館程の部屋が露わになる。中を見ると誰も居ないので天霧達は違う場所で鍛錬をしているのだろう。

 

「んじゃ始めるか。今回から俺はお前に遊撃手としての立ち回り方と能力者としての戦い方を教える」

 

「よろしく頼む」

 

「ああ。じゃあ最初にどれだけやれるか見せて貰うぞ」

 

言いながら腰からハンドガン型煌式武装レッドバレットを取り出して構えを見せる。

 

「わかった。勝てるとは思ってないが一矢報いさせて貰うぞ」

 

対するリースフェルトは手に細剣型煌式武装を持ち、同時に自身の周囲に6本の光の刃を浮かばせる。

 

アレは材木座、というか星導館とアルルカントが共同開発した煌式遠隔誘導武装だろう。俺もモニターをしたから良く知っている。

 

互いに武器を構えると模擬戦開始のブザーが鳴る。

 

「咲き誇れーーー赤円の灼斬花!」

 

同時にリースフェルトはそう叫び手に持つ細剣型煌式武装を俺に向けると周囲から大量の炎の戦輪が20近く現れて俺に向かって襲いかかる。

 

高速で距離を詰めてくる戦輪に対して俺は……

 

「影の鞭軍」

 

そう呟くと同時に、背中に魔方陣が現れてそこから12の影の鞭が現れて背中に固定される。

 

そして俺が鞭らに指示を出すと影の鞭らは一斉に戦輪に向かって飛び、12の戦輪を打ち砕いた。

 

しかしまだ6つ戦輪は残っているので、手に右腕に星辰力を込めてから、両腕を使って全て殴り飛ばす。義手が仕込まれている左手も材木座の魔改造のおかげで並の煌式武装クラスの耐久性を持っているから問題ない。

 

全ての戦輪を破壊した俺は再度背中に影の鞭軍12本の内、8本にリースフェルトを攻撃するように命じる。すると8本の鞭は一度身をしならせてから一斉にリースフェルトに襲いかかる。

 

「咲き誇れーーー六弁の爆焔花!」

 

対するリースフェルトは手にある細剣を振るい燃え盛る火球を鞭目掛けて放つ。

 

すると8本の鞭の内、4本はモロに食らって跳ね上がる。破壊されてはいないが爆風による衝撃で操作し難くなっている。そして残りの4本の鞭による攻撃は6本の煌式遠隔誘導武装で受け流す事でリースフェルト本人には1発も攻撃が当たらなかった。

 

能力の使用の速さ、空間把握能力を重視する煌式遠隔誘導武装で攻撃を受け流す操作能力、身体能力も含めてリースフェルトのポテンシャルはかなり高い事が容易に推測出来る。

 

(だが、ダメだな。能力は高いがお利口過ぎる……そんなんじゃ獅鷲星武祭はともかく王竜星武祭で勝つのは無理だ)

 

確かにリースフェルトはバランスが取れている能力者だが、バランスタイプでありながらリースフェルト以上のステータスを持つシルヴィや桁違いの星辰力を持つオーフェリアに勝つのは無理だろう。格上に勝つには1つで良いから上回っている要素が必要だ。

 

(まあ今回は獅鷲星武祭で必要なものを教えるのが仕事だし、良いか)

 

そう思いながら俺は背中に星辰力を込めながら走り出す。距離を詰めながらの鞭によって攻める算段だ。

 

すると……

 

「綻べーーー栄烈の炎爪華!」

 

足元に魔方陣が展開される。設置型のトラップか。なら……

 

俺は背中にある鞭を使って地面がぶっ叩く。インパクトの瞬間、その勢いによって俺の身体は真横に跳び、魔方陣の外に出る。同時に魔方陣からは巨大な炎の柱が現れる。その数は5本と、悪魔の爪の如く地面から立ち上がった。

 

危ねぇな……当たったら負けとは言わないが火傷をしていたぞ……

 

そんな事を呑気に考えていると、リースフェルトが再度細剣を突きつけてくる。周囲に噴き出す星辰力から察するにかなりの大技と判断出来る。

 

(大技と相対する時の鉄則……放つ前に潰す)

 

そう判断しながら俺は背中にある12本の鞭全てをリースフェルトに向けて放つ。

 

しかし……

 

「咲き誇れーーー呑竜の咬炎花!」

 

向こうの方が一手早い。リースフェルトが細剣を振るうと先端から魔方陣が展開されて巨大な炎の竜が生まれて、リースフェルトを襲おうとした影の鞭12本とぶつかり合う。

 

星辰力が周囲に飛び散る中炎の竜は鞭を食い千切ろうとして、影の鞭は炎の竜に巻き付き絞め殺そうとしている。

 

今の所は拮抗しているが……

 

「燃え盛れ!」

 

リースフェルトがそう叫けぶと6本の煌式遠隔誘導武装が炎の竜に取り囲むように配置される。

 

そして次の瞬間、炎の竜の大きさは3倍近くに跳ね上がり影の鞭の拘束を破り始める。

 

(なるほどな……煌式遠隔誘導武装を媒体に万応素と星辰力の固有結合パターンを同調させて威力を上げたのか……)

 

中々面白いやり方だ。事実炎の竜は鞭の拘束をどんどん破り、12本あった影の鞭は今や6本、いや……今5本になったな。

 

が、甘い。高威力の能力に加えて煌式遠隔誘導武装6本の制御をしているなら強い集中力を必要とする筈だ。

 

つまり……

 

「湧き上がれーーー影蝿軍」

 

こっちが集中力を削ぎに来た場合、脆くなる。

 

そう呟くと影から大量の蝿が現れて、蝿が飛ぶ時に出る不快な音を出しながら炎の竜を避けて、リースフェルトの元へ飛ばす。

 

そして炎の竜が更に影の鞭を焼き尽くし残り2本になった時……

 

「な、何だこれは?!」

 

リースフェルトの焦るような声が炎の竜の向こう側から聞こえてくる。同時に炎の竜は残り全ての影の鞭を焼き尽くし、こちらに向かってくるが……

 

「外れだな」

 

炎の竜は俺から大きく離れた場所に向かってそのまま通り過ぎて行った。

 

当然の帰結だ。制御の難しい大技に加えて、使用するのに集中力を要する煌式遠隔誘導武装を使っている状態で集中力を乱されたのだ。マトモに狙いを定められる筈はない。

 

ケリをつけるべくリースフェルトの方に走り出す。対するリースフェルトは……

 

「ぐうっ……咲き誇れーーー鋭槍の白炎花!」

 

細剣を振るい炎の槍を作り出そうとする。しかし周囲に大量の蝿が集っているからか作る速さは遅く、槍の大きさも小さい。そんな槍で俺を倒すのは無理だ。

 

そう思いながら俺は槍の製作に苦心しているリースフェルトとの距離を3メートルまで詰めた瞬間……

 

「解除」

 

影の蝿を全て俺の影の中に戻す。すると……

 

「うあっ……!」

 

炎の槍は暴発して、それによってリースフェルトはよろめく。さっきまで鬱陶しかった蝿が急な消えたから、その反動で能力の発動が失敗したのだろう。

 

そしてそんな隙だらけのリースフェルトを見逃すつもりは毛頭なく……

 

「くっ……」

 

リースフェルトに足払いをして仰向けになった所で、義手から光輝く刃を出してリースフェルトの首に突きつける。

 

「詰みだ。リザインしてくれるとありがたい」

 

これが星武祭本番なら容赦なく叩き潰しているが、今は訓練だ。怪我をする前にリザインした方が良いだろう。

 

俺がそう口にするとリースフェルトは不満タラタラな表情をしながらも頷く。

 

「……わかってる。私の負けだ」

 

負けを認めたので俺はリースフェルトの上から退いて引き起こす。

 

「さて……とりあえずお前の戦い方はわかったから総評に入るが……お前やっぱり火力馬鹿だな」

 

炎の竜は当然ながら、設置型のトラップも割と攻撃的だったし。チーム・エンフィールドはかなり攻撃型チームだな。

 

「う、うるさい!自分でも自覚はある!」

 

「なら良いが……んじゃ今後の方針を説明するが、お前は獅鷲星武祭までに相手にストレスを与える技を身に付けろ」

 

「さっきお前が使った蝿みたいな技か?」

 

「そうだ。お前は戦闘スタイル的に遊撃手だ。遊撃手の仕事は基本的に前衛の援護と後衛を守る事だ。今回俺が使った技のようにストレスを与える技は獅鷲星武祭で能力者と戦う時は重宝するからな」

 

獅鷲星武祭における能力者は基本的に遊撃手か後衛と援護の役割が多い。それを妨げれば敵の戦術の幅を狭めることは可能である。

 

「それはわかるが、私の能力はお前程多彩ではないぞ?」

 

「それはお前のイメージ不足なだけだ。やりようは幾らでもある。初めに使ってきた大量の火球で例えれば……威力を低めにして代わり広範囲に爆風を広げたり臭い煙を出したり……って、ところだな」

 

見たところあの火球は威力と速度を重視した技であるが、威力を低めにして攻撃範囲や相手の予想を超えた攻撃も可能だろう。

 

「……なるほどな。確かに私は相手に当てて主導権を握ることばかり考えていたな」

 

「だろうな。だからそれを煙や爆風を出るように優先したら直撃しなくても充分に効果を出せるぞ。だからお前はとにかく相手の嫌がることを考え続けろ」

 

リースフェルトの場合ポテンシャルは高いバランスタイプだが、性格からか割とゴリ押しで攻める時もあるからな。ここで相手を倒す事だけではなく、集中力を削がす方法も身に付ければチーム・エンフィールドの戦術の幅も広がるからな。

 

「嫌がること……」

 

リースフェルトは難しい顔をして考える素振りを見せるが、やはり国民を大切にする王女様には相手の嫌がることを考えるのは難しいのか?

 

「まあ獅鷲星武祭まで時間はあるし。それは後回しだ。今はお前個人の実力を高めるぞ。いくら戦術の幅を広げる事が重要でも、個々の実力を伸ばさなきゃ話にならないからな」

 

言いながら俺が構えを取るとリースフェルトもそれに続いて構えを取る。同時に煌式遠隔誘導武装が浮かびこちらに切っ先を突きつけてくる。

 

「わかった。ではよろしく頼むぞ」

 

「はいよ」

 

互いに言葉を交わして……

 

「影の刃群」

 

「咲き誇れーーー六弁の爆焔花!」

 

互いの周囲に星辰力を噴き出しながら、影の刃がと巨大な火球がぶつけ合った。

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

それから1時間後……

 

『トレーニングステージの利用時間終了まで15分を切りました』

 

「今日はこの位にしとくか」

 

「むぅ……結局1本も取れなかったか」

 

部屋にアナウンスが流れたので俺達は部屋の隅にあるスポーツドリンクを取って飲み始める。今回は模擬戦をやったら反省会をしてまた模擬戦……って感じで訓練をした。結果は10本勝負をして10ー0で俺の勝ちだが……

 

「いや、最後の2本は割りかし危なかったぞ」

 

2連続で設置型のトラップを仕掛けてきたり、道連れ覚悟で爆破してきたし、油断出来るものではなかった。

 

しかしリースフェルトは不満タラタラの表情だ。

 

「良く言うな。覇軍星君と戦った時に使った2種類の鎧を使っていない癖に」

 

「アレは白兵戦に特化した技だからな。俺はお前に技術を教えてるんだから影狼修羅鎧も影狼夜叉衣も必要ない……っと、そろそろ天霧達の部屋に行くか」

 

「そうだな。あいつらもちゃんとやっていると良いんだが……」

 

互いに言葉を交わしてから俺達の使っているトレーニングステージを後にして、隣の部屋ーーー天霧とフェアクロフ先輩が借りているトレーニングステージに入ると……

 

 

 

 

「「「「あ」」」」

 

そこでは天霧がフェアクロフ先輩を押し倒している光景があった。天霧の両手は間にフェアクロフ先輩の首を挟んで、いわゆる床ドンの状態となっていた。マジでどんな状況だ?

 

「ほほう……綾斗は中々大胆な事をしているな」

 

疑問符を浮かべていると、リースフェルトがドス黒いオーラを噴き出しながら天霧に詰め寄る。あのオーラには見覚えがある。俺がラッキースケベをした時にシルヴィやオーフェリアが出すオーラと同じ類のオーラだ。

 

「いや待ってよユリス!誤解だからね!」

 

対する天霧は慌ててフェアクロフ先輩から離れて弁明をする。

 

「そ、そうですわ!戦っていたら足を絡めてしまい互いに転んでしまっただけですわ!」

 

なんだ、俺と同じパターンか。俺も良く赫夜のメンバーと戦う時に相手の足と絡みあって転びラッキースケベをしてしまうし。

 

2人の弁明を聞いたリースフェルトは少しだけオーラを薄くしてジト目で天霧を見続ける。経験者の意見を言わせて貰うとこうなったら厄介なんだよなぁ……仕方ない、援護するか。

 

こういう時の対策は簡単。それは……

 

「まあ落ち着けリースフェルト。実際わざとじゃないんだし許してやれよ。天霧だって実際はリースフェルトにラッキースケベをしたいんだから」

 

「ええっ?!ひ、比企谷?!」

 

「なっ?!何だと?!そ、それは本当か?!」

 

予想外の一撃をぶち込むこと。案の定リースフェルトは黒いオーラを消して真っ赤になって慌て出す。

 

「ええっ?!そ、そうでしたの?!」

 

ついでにフェアクロフ先輩も真っ赤になって慌て出す。フェアクロフ先輩は知っていたが、リースフェルトもからかい甲斐があって可愛いなぁ……

 

そんな事を考えていると……

 

pipipi

 

携帯が鳴り出す。見るとメールが同時に2通来ていた。同時に嫌な予感に襲われる。同時に2通メールが来る、このパターンは……

 

『fromオーフェリア 八幡、今ユリスとソフィア・フェアクロフにデレデレしたでしょ?今夜搾り取るから』

 

『fromシルヴィ 八幡君さ、今リースフェルトさんとフェアクロフ先輩にデレデレしてたよね?今夜搾り取るから』

 

ねぇ、前から思ってたけどさ……何で俺の行動が読めるの?!周りを見渡しても2人の気配は感じない。その事から直感で判断していると判断出来る。

 

ラッキースケベはしてないが結局搾り取られる運命なのか……

 

「とりあえず今日はスッポンでも食べるか……」

 

「いや変な事を言わないで助けてよ!比企谷がこの状況を生み出したんだからね!」

 

俺の現実逃避の混じった呟きと天霧の悲痛の悲鳴がトレーニングステージに響き渡る。チラッと横を見るとリースフェルトが真っ赤になりながら天霧に詰め寄っていて、天霧がヘルプの視線を向けていたが気にしない事にした。

 

結局このカオスな空気は係員の人が来るまで続き、その日は解散となった。

 

尚、その日の夜にベッドに入ったらオーフェリアとシルヴィに干涸びるまで搾り取られたのは言うまでもないだろう。


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