学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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こうして修行は順調に進んでいる

ガッ ドッ ゴッ

 

 

板張りの広間の中に轟音が響く。しかしその空間にいる2人は音を気にすることなく衝突している。

 

「楽しいのう楽しいのう!ほれ、もっと殴ってくるのじゃ!」

 

「くそっ……!マジで倒れろよ……!」

 

俺は現在、影狼修羅鎧を纏いながら万有天羅こと范星露と殴り合いをしている。例のトレーニングとして星露の作った異空間での戦いだ。既に床には幾つものクレーターが生まれていて戦闘の激しさを物語っている。

 

ちなみに一緒に星露に稽古をつけて貰っているチーム・赫夜のメンバーは違う異空間でもう1人の星露と戦っている。今更だが星露って本当に何でもありなんだよなぁ……見た目は完全に幼女なのに。

 

そう思いながらも俺は一切の容赦なく星露の顔面に拳を放つ。星露相手に女がどうとか言ってられないな。

 

影狼修羅鎧を纏った俺の拳は純星煌式武装に匹敵する破壊力だが……

 

「くはははっ!今のは聞いたぞい。お返しじゃ」

 

「がはっ……!」

 

星露はモロに顔面に拳を食らっても鼻血を少し出す程度で、更にテンションが上がて俺の鳩尾に蹴りを放ってくる。影狼修羅鎧は耐久性が高いから何とか壊れずに済んだが衝撃は吸収出来ず、腹から全身に痛みが走り吐き気を催してくる。

(クソッ……!マジで痛ぇ……!でも倒れる訳にはいかねぇな)

 

一瞬意識が飛びかけたが舌を噛んで気付け代わりにする。俺は強くならないといけない。処刑刀やヴァルダを倒して、オーフェリアとシルヴィの3人で平和に過ごす為にも。

 

だから例え稽古とはいえ限界ギリギリになるまで投げ出す訳にはいかない。

 

改めてそう強く決心した俺は

 

「まだだ……!」

 

「なんじゃと?!」

 

鳩尾にめり込んである星露の足を左手で捕まえる。同時に星露は手を引き離そうと掴まれた足を振る。同時に鳩尾にグリグリを通り越してゴリゴリした痛みが走るが、俺はそれを無視して……

 

「決まれ……!」

 

そのまま空いている右手を強く握り締めて、お返しとばかりに星露の鳩尾に拳を叩き込む。

 

「おおっ……!」

 

ドゴンッ、と一際激しい音が異空間に響く中、星露は口から微かに血が出しながら後ろに跳ぶ。しかし吹き飛ぶ中、世界政府直属暗躍諜報機関の人間が得意とする体術を使って空中を蹴って距離を詰めてくる。

 

俺も能力を使って空を飛ぶことは可能だが、体術で空を飛ぶのは無理だ。その事から目の前にいる幼女は規格外である事は容易にわかる。

 

しかしそうは言ってられない。向こうがこちらとの距離を詰めてくる以上迎撃をしないといけない。

 

俺は一度息を吸ってから右手にありったけの星辰力を込めて……

 

「はぁっ!」

 

「むんっ!」

 

拳を放ち星露の拳を真っ向から迎え撃つ。互いの拳がぶつかった瞬間、辺りに衝撃が走り周囲にあるクレーターより一際大きなクレーターが生まれる。

 

互いに譲らないかの如く拳に力を込める。他の事を考えていたら負けるのがオチだから。俺は更に力を込めて星露の拳とぶつかり合う。それによって腕から全身に痛みが走るが引く訳にはいかない。

 

しかし……

 

「実に見事じゃが……ここまでじゃの」

 

「があっ……!」

 

それも長くは続かず、星露の拳は俺の拳を上回り、そのまま俺を吹き飛ばす。暫く吹き飛んで受け身を取ろうとするも、柱に当たったのかいきなり背中に衝撃が走り影狼修羅鎧が解除される。

 

(どうやら星露の言う通りここまでのようだな)

 

生身で星露に勝つのは無理だ。影狼修羅鎧を使っても手加減している星露相手に勝てないんだし。

 

息を吐いて負けを認めると星露が楽しそうな表情でこちらにやって来る。

 

「うむ。お主も儂の下で鍛錬を始めた頃に比べて身体の使い方が上手くなったのう。今のお主なら例の奥義を前よりも使えると思うぞい?」

 

例の奥義とは影神の終焉神装だろう。実戦で使ったのは星露に使った1回だけだが、本気の星露相手にある程度戦える俺の最強技。

 

しかし肉体に掛かる負荷は桁違いで、半年前ーーー星露に鍛えて貰った当初は肉体に負荷が掛かるから、ある程度身体が出来上がるまでは鍛錬では使うなと星露に言われていた技でもある。

 

「ある程度使えるって事はお前との鍛錬で使えってことか?」

 

俺がそう尋ねると星露は首を横に振る。

 

「いや、前よりも使えるとは言ったが、それでもまだ足りないのう。儂との鍛錬で使えるとすれば1ヶ月半ーーー獅鷲星武祭が終わってからじゃのう」

 

「……わかった。ならそれまでは身体作りに集中する」

 

言いながらスポーツドリンクを飲む。戦闘の後のこれはメチャクチャ美味いな……

 

「うむ。しかしお主、手首を斬り落とされてから一段とやる気を出しておるが、やはり復讐を考えておるのか?」

 

「もちろん復讐したい気持ちはある。が……」

 

「が?」

 

「復讐以上に奴を排除しなくちゃいけないという気持ちーーー義務に近い考えが強いな。あの男は俺ーーー俺達が平和に過ごす為には間違いなく邪魔になると思っている」

 

オーフェリアの所有権を持っている以上、連中は再度攻めてくる可能性は充分にある。

 

「もしかして復讐するのは反対なのか?」

 

俺が星露にそう尋ねると星露は首を横に振る。

 

「いんや。儂はお主に技を教えはしたが、道は教えておらん。復讐をしたいのなら好きにすると良い。儂は強い人間と戦えればそれで良い」

 

こいつはこいつでブレないな……まあそうでなきゃ万有天羅とは言えないだろうけどさ。

 

「そうかい……そういや獅鷲星武祭といえば星露の所の調子はどうなんだ?」

 

「うむ。暁彗がお主との敗北以降一層やる気をだしてのう。虎峰達もそれに引かれる形でやる気をだしており、儂も楽しくなってきておる」

 

ちっ……データ収集の目的で暁彗と戦ったのに、やる気を引き出してしまったか。こりゃ悪い事をしたな。

 

「それとお主に言っておくが、陽乃もお主に王竜星武祭で恨みを晴らすべく一層鍛錬に励んでおるぞ」

 

恨みねぇ……自分のした事を棚に上げてかよ?大方王竜星武祭で優勝して自由を得る算段なのだろうが、来るなら来いってのが俺の意見だ。

 

「了解了解。んじゃ続きとやろうぜ」

 

星露に弟子入りした当初ならともかく、半年近く星露にボコボコにされ続けたからか今は少し休んだだけでコンディションを落とすことなく2連戦を出来るようになった。流石に3連戦は無理だけど。

 

対する星露は笑顔で頷く。

 

「うむ。儂も楽しませて貰うぞ?」

 

……本当に楽しそうだな。このバトルジャンキー。

 

俺は半ば呆れながらも再度影狼修羅鎧を纏い星露に突撃を仕掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから1時間半後……

 

普段の俺なら鍛錬を終えた後にチーム・赫夜の5人をクインヴェールに送ってから自宅に帰るのが日課だが……

 

「はーい。晩ご飯出来たよー」

 

「……お待たせ」

 

「おー!」

 

「美味しそうですね」

 

「あ、私も手伝いますわよ」

 

「私も……やる」

 

「というかそんなにキッチンに人が居ても邪魔だから家主3人に任せましょう?」

 

現在自宅にてチーム・赫夜の5人がいて、家主の俺とオーフェリアとシルヴィは料理を運んでいる。

 

流れとしてはこうだ。

 

星露との鍛錬が終了

星露の作り出した異空間から出て赫夜の5人と合流。

再開発エリアを出てクインヴェールに向かう

途中にあるスーパーの前で俺の恋人のオーフェリアとシルヴィと鉢合わせ

シルヴィが赫夜の5人に自宅で飯を食わないかと提案

赫夜の5人、提案を受ける

 

……って、感じだ。家主の俺とオーフェリアとシルヴィはテーブルに料理を運び、席に座る。何でも良いが女子7人に対して男が俺1人って……まあ今更だからどうこう言うつもりはないけど。

 

そんな事を考えながらも食事が始まる。

 

「んー!凄く美味しいです!」

 

「ありがとう美奈兎ちゃん」

 

「……花嫁修業の一環よ」

 

若宮がそう言うとシルヴィとオーフェリアが満更でもない表情をしながらそう返す。てかオーフェリアェ……恥ずかしいからそんな事を言うな。いや、まあ嬉しいけどさ。

 

「相変わらずね貴方達は。理事長が疲れるのも納得だわ」

 

一方、クインヴェールの情報工作機関で働いているフロックハートはため息を吐いていかにも疲れていますと言った表情を浮かべながら味噌汁を飲む。

 

「あー、ごめんね。ペトラさんは今でも私達の交際に反対だし、ね」

 

「仕方ないですわよ。クインヴェールの序列1位にして世界の歌姫であるシルヴィアが殿方、それもオーフェリアさんと付き合っている殿方と付き合うなんて世間に知られたら大変ですわよ」

 

シルヴィが苦笑しながらフロックハートに謝ると、フェアクロフ先輩が呆れながらそう言ってくる。まあ確かに……俺とオーフェリアとシルヴィの関係がバレたら世界は荒れるだろう。

 

「まあ一応注意は払っているな」

 

「もしも世間に知られたら、別れるの?」

 

「「「まさか」」」

 

アッヘンヴァルの問いに俺とオーフェリアとシルヴィは即座に首を横に振る。ペトラさんから絶対にバレるなと言われた。言われた以上バレないように細心の注意を払うが、バレたとしても別れるつもりはない。何故なら……

 

「「「俺(……私)(私)にとってオーフェリアとシルヴィ(八幡とシルヴィア)(八幡君とオーフェリア)はかけがえの無い存在だから別れるつもりはないな(ないわ)(ないかな)」」」

 

「3人同時に同じ内容を口にするなんて仲が良いですね」

 

蓮城寺はそう言って苦笑を浮かべるが当たり前だ。もう俺にとって2人は半身のように大切な存在だ。もしも2人と関係を引き裂かれたらどうにかなってしまいそうだ。

 

もしも関係が公になった場合、俺とオーフェリアはレヴォルフを卒業後クインヴェールの運営母体の統合企業財体のW=Wに就職して俺達の関係によって生まれた損失を補うつもりだ。

 

俺が影に潜って他の統合企業財体の最高幹部が行う会議を何十回も録音すれば補える自信はある。バレたらヤバそうだが、影の中にいる間の俺は無敵だから大丈夫だろう。

 

「そんな訳で俺達は何があっても別れるつもりはないな……てか、飯を食おうぜ」

 

2人の飯を前にして話しているだけでは勿体無い。

 

「あ、そうですわね」

 

俺の言葉に他の面々も納得したように頷き食べるのを再開する。

 

「うーん。やっぱり疲れた後に美味しいご飯を食べるのは最高だよ!」

 

「まあ美奈兎ちゃん達は星露と戦ったからね。ちなみに調子はどうなの?」

 

シルヴィが尋ねる。俺も星露と戦っていたが、若宮達とは違う空間で戦っていたからよくわからん。わかるのは勝てなかった事くらいだろう。

 

「うーん。今日は結構惜しかったなー」

 

「そうそう。今日は星露ちゃんに10発攻撃を当てれたしね」

 

「おっ、やるじゃん。ルサールカとチーム戦に比べて強くなったね」

 

シルヴィは軽く驚きながら赫夜のメンバーを褒める。そこには嘘偽りは一切無かった。

 

界龍で星露に弟子入りする為の条件は星露に触れる事というシンプルな条件だ。しかし数千人以上いる界龍の生徒の内、星露の弟子になれたのはたった50人程度だ。その50人は全員序列入りしている事から星露に触れる難しさは言うまでもないだろう。

 

つまり5人がかり、その上星露が手を抜いているとはいえ攻撃を10発近く当てれたのは凄いと言える。弟子入りした当初に比べたら格段に成長しているだろう。

 

「はい!これもシルヴィアさんや比企谷君、オーフェリアちゃんのおかげです!良い環境を作ってくれてありがとうございます!」

 

言いながら若宮は俺達に頭を下げてくるが……

 

「礼を言われる程の事はしてねぇよ。お前ら5人が頑張っただけだ」

 

「いやいや、八幡君は頑張ったけど私は大したことをしてないよ」

 

「そうね……八幡はともかく私はお礼を言われることはしてないわ」

 

「そんな事ないです!比企谷君は殆ど毎日戦ってくれたし、シルヴィアさんはクロエを正式にチームに入れる手伝いをしてくれましたし、オーフェリアちゃんは毎日戦闘記録の整理やドリンクの用意をしてくれて凄く助かってます!」

 

俺達が否定するも若宮は即座に否定する。前から思っていたが若宮って今時あり得ない位純粋だな。思わず頬が緩んでしまう。見るとオーフェリアやシルヴィ、赫夜の4人も差はあれど全員が微笑ましい表情で見ていた。

 

「ふふっ。ありがとう。そこまでお礼を言うなら優勝してね?チーム・赫夜?」

 

シルヴィは優しい表情を浮かべながらそう口にすると……

 

『はい!』

 

5人が一斉に了承の返事をする。普通に考えたら優勝は夢のまた夢だが、こいつらを見ていると本気で優勝出来るかもしれないと思うようになってきた。それが面倒を見た人間の贔屓目かどうかはわからないが頑張って欲しいものだな……

 

 

 

 

 

 

 

それから1時間半後……

 

「じゃあ今日はご飯ありがとうございました」

 

夕食を済ませてから適当に駄弁った所でお開きにする事が決まって俺はオーフェリアとシルヴィと一緒に赫夜のメンバーの見送りをしている。自宅がレヴォルフとクインヴェールの間にあるとはいえ夜も遅いからな。

 

「またな。明日明後日はウチの学校で公式序列戦があるから3日後な」

 

「……私も指名されているから行けないわね」

 

オーフェリアもそう呟く。しかし何故にオーフェリアに挑む奴がいるんだ?いくら力が衰えているとはいえそれでも俺より強いんだぞ。しかも何故に序列50位とか60位の雑魚が俺やオーフェリアに挑むのか理解出来ん。一応挑む権利はあるが普通は40位あたりの少し格上の相手に挑めって話だ。

 

閑話休題……

 

「レヴォルフの試合は明日なのね。まあ貴方達が負けるとは思えないけど」

 

フロックハートはそう言ってくるが、オーフェリアはともかく俺は絶対は保証出来ん。俺の前に2位だったロドルフォのイカレ野郎や、オーフェリアの前に1位だった荒屋敷の馬鹿が俺に挑んできたら厳しいだろう。まああの2人公式序列戦に興味ないから可能性は低いけど。

 

「かもな。んじゃまたな」

 

「またねー」

 

「……気を付けて」

 

俺と恋人2人が会釈をしたり手を振って挨拶をする。

 

「また今度!」

 

「今日はご馳走様でした」

 

「美味しかったですわ」

 

「どうも、ありがとう……」

 

「3日後によろしく」

 

対する赫夜のメンバー5人もそれぞれ挨拶をして去って行った。5人が見えなくなるまて見送った俺達は自宅に向けて歩き出す。

 

「いよいよ来月、か……」

 

シルヴィが呆然と呟く。本番の獅鷲星武祭まで後1ヶ月。チーム・赫夜の面倒を見るようになってから1年近く。振り返ってみると時間が経つのは早いものだ。

 

「まだ1ヶ月あるとも思える。1ヶ月あれば人は伸びるからな」

 

「……そうね。ここまで来たら私も本番が楽しみだわ」

 

「まあ頑張り過ぎてオーバーワークにならないと良いけどね」

 

互いにそんな言葉を呟きながら街を歩く。夜の静かな街に俺達の声が辺りに響く。

 

「そういえば八幡君も星露に鍛えて貰ってるだろうけど、オーバーワークにならないでね?」

 

シルヴィがそんな事を言ってくる。それに対して俺は……

 

「わかってる。無茶はしない」

 

真顔で嘘を吐いた。2人には悪いが処刑刀とまた相対する可能性がある以上、温い訓練をするつもりはない。

 

何というか獅鷲星武祭の最中に相対する気がする。鳳凰星武祭や学園祭でも相対したから、2度あることは3度ある可能性は否定出来ないし。

 

(相対するかはわからんが、した場合は俺の全てを賭けて叩き潰してやるよ……)

 

オーフェリアとシルヴィの3人で幸せに暮らす為にも。

 

俺は改めて強く決心しながら恋人2人の手をギュッと握りながら帰路についた。

 

 

 

 

 

しかしこの時の俺はまだ知らなかった。

 

 

 

 

遠くない未来に処刑刀と冗談抜きの殺し合いをする事を。

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