学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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獅鷲星武祭直前、比企谷八幡は2人の恋人に甘えられる

 

「綻べーーー栄烈の炎爪華!」

 

目の前にいる薔薇色の髪をした少女ーーーリースフェルトがそう叫ぶと俺の足元に魔方陣が現れるので横に跳ぶと、間髪入れずに炎の柱が5本、悪魔の爪のように地面から噴き上がる。

 

同時に俺の服に火が掠る。制服は耐熱、耐衝撃を考慮されているので燃えはしないが……

 

(ダメージは殆どないがリースフェルトの奴、徐々に魔方陣から能力を発動する速さが上がってきてるな。俺が教え始めた頃に比べて見違えたな……)

 

内心感心しているとリースフェルトは細剣を向けてーーー

 

「咲き誇れーーー硝煙の炎爆花!」

 

周囲に魔方陣を展開して小さい火球を大量に生み出してくる。その数は50を超えている。

 

(見たことない技だな……ここは確実に潰すか)

 

そう判断した俺は自分の影に星辰力を込めて……

 

「影の刃軍」

 

影から100を超える大量の刃を生み出してリースフェルトの放った火球を串刺しにする。すると……

 

 

パパパパパパパパッ

 

「ぐおっ……!」

 

串刺しになった火球はその場で爆発して爆竹に近い音が生まれ、鼻をつくような臭いが俺の鼻に襲ってくる。これは……キツいな……!俺はリースフェルトに相手の嫌がる技を身に付けろと教えたが、今の攻撃はかなりの嫌がらせになった。

 

余りの臭さに思わず手で鼻を押さえてしまう。しかしそんな俺に対してリースフェルトは容赦なく……

 

「咲き誇れーーー呑竜の咬炎花!」

 

細剣を振るい、剣の先端から魔方陣が展開されたかと思いきや巨大な炎の竜が生まれて、俺に襲いかかってくる。

 

(マズイな……影狼修羅鎧なら防げると思うが、今からじゃ鎧の展開は間に合わない)

 

逃げようと考えたが、竜の速度も日々上がっている。臭いに意識を割いてしまった以上間に合わない可能性も十分にある。

 

となると残りの選択肢は真っ向から受けるしかない。

 

(仕方ない。手を離したくないが……うおぇっ……)

 

俺は鼻から手をどけて、臭いによって吐き気が生じる中両手に星辰力を集中して……

 

「はあっ……!」

 

両手を竜に受けて突き出し、真っ向から受けて立つ。竜の口が俺の手に触れると手には熱が生まれだす。同時に耐熱仕様の制服も燃え上り手は焼け始める。

 

(熱い……が、ここで引くわけにはいかないな……)

 

そう思いながら更に両手に星辰力を集中して……

 

「はあっ!」

 

そのまま炎の竜を顔面から地面に叩きつける。地面に当たった竜は溶けるように消え去った。

 

同時に視界が晴れたので正面を見るとリースフェルトが引き攣った笑みを浮かべていた。

 

「お前が能力に頼ってばかりではない事は知っていたが、まさか真っ向から防がれるとは思わなかったぞ…….」

 

「生憎だが、オーフェリア程ではないが俺も星辰力には自信があるんでな」

 

星辰力を使った防御はオーフェリアを除けば基本的にダメージを軽減する程度のものなので多少はダメージを受けるのは当然だ。これでも結構星辰力を使ったので中々の威力だと判断出来る。

 

しかし制服の袖と腕が焼けたのはアレだな……ダメージは軽いが見た目が痛々し過ぎる。トレーニングが終わってから治療院に行くか。

 

「さて……とりあえず第二ラウンドに行こうか」

 

言いながら自身の影に意識を向けながらもリースフェルトを睨む。

 

「来い」

 

同時にリースフェルトも同じように煌式遠隔誘導武装を周囲に浮かばせながら手に持つ細剣の切っ先を向けてくる。

 

トレーニングステージに緊張感が漂う中俺達は星辰力を込めて……

 

『間もなく、トレーニングステージの利用時間が終了します』

 

「影の刃ぐ……ん」

 

「咲き誇れーーー灼炎のコロナリ……あ?」

 

互いに能力を使おうとした瞬間、空気の読まないアナウンスが流れて能力の使用を止めてしまう。

 

こうして獅鷲星武祭前の最後の訓練は後味の悪いまま幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「そんな訳で最後の試合は決着がつかなかったんだ」

 

「あはは……まあ仕方ないんじゃない?」

 

「それはそうだが……」

 

「まあユリスはグランドスラムを目指しているのですし、比企谷さんとの決着は王竜星武祭でつければいいのではなくて?」

 

トレーニングステージを後にした俺とリースフェルトは隣のトレーニングステージで訓練していた天霧とフェアクロフ先輩と合流してレストランで飯を食べている。

 

「まあそうだな……そして綾斗よ。お前の方は今日までフェアクロフ先輩と訓練をしてどうだった?」

 

「うーん。ガラードワースの剣術についてはある程度理解出来たけど、『黒炉の魔剣』に関する課題は無理だったよ」

 

「それはつまり鳳凰星武祭決勝で見せたサイズの最適化か?」

 

「それもあるけど、イレーネの時に使った『覇潰の血鎌』の能力そのものを焼き切る力もだよ」

 

アレか。確かにあの時は俺も驚いた。具現化した能力でなく、重力制御という能力そのものをぶった切ったのだから。アレを完璧に使いこなせたら冗談抜きでオーフェリアに対しても勝ち目が出ると思う。

 

「ふむ……一度使えたって事は実力的には問題無し……となると使い方に間違いがあるんじゃね?」

 

「使い方?」

 

「ああ。純星煌式武装には意思のようなものがあるのは知ってるだろ?その事から察するに『黒炉の魔剣』はお前の使い方を気に入っていない可能性もある」

 

「使い方……」

 

「うーん。一応『黒炉の魔剣』とは真摯に向き合ってると思うし、ちゃんと敬意を払ってるよ」

 

だろうな。天霧の性格は度を超えたお人好し。武器に対しても人間と同じように接しているのだろう。

 

だが……

 

「それだけじゃ足りないかもしれない。『黒炉の魔剣』はお前に対して敬意だけではなく、他の物を求めているのかもしれないな」

 

「他の物?比企谷さんは何だと思いますの?」

 

「知らん」

 

フェアクロフ先輩に尋ねられた俺が即答すると3人がズッこける素振りを見せる。

 

「知らないのですの?!」

 

「そりゃ俺は純星煌式武装を持ったことがないんで。今のは俺の考えを言っただけです」

 

しかし実力が足りないってのは以前に使えた事から無いだろう。となると他の理由になるが、俺は天霧の『黒炉の魔剣』の使い方に間違いがあると考えている。

 

「まあ今のは俺の考えだし、戯言と思って聞き流してくれや」

 

「いや……どうにも引っかかるから少し考えてみるよ。どうもありがとう」

 

戯言を言った俺に対して礼を言っても困るんだが……まあ、本人が気にしてないから良いか。

 

「どういたしまして。そんでフェアクロフ先輩の方は今日まで天霧と対戦してどうでしたか?」

 

「はい。とても有意義な時間でしたわ。天霧辰明流から剣術以外にも実戦的な経験を色々と学べましたから」

 

ならこちらーーーチーム・赫夜にとってはプラスになったし、星導館との合同練習は成功だったと思える。

 

「やら良かったです。とりあえず本番は来週なんで残りは最低限の訓練にしましょうね」

 

「そうですわね。そんな訳でユリスに天霧さん。本番で当たったらよろしくお願いしますわ」

 

「ああ。まあ勝つのは私達だがな」

 

「私達もそう簡単に負けるつもりはありませんわよ?」

 

リースフェルトとフェアクロフ先輩は不敵な笑みを浮かべながらオーラを放つ。微妙に怖いがオーフェリアやシルヴィが偶に出すドス黒いオーラに比べたらマシなので気にしない事にする。

 

「あはは……まあお手柔らかに」

 

天霧の苦笑の混じった呟きは声が小さく2人には聞こえてなかったようだが、俺の耳には不思議と1番響いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから1時間……

 

「ただいまー」

 

夕食を済ませて自宅に帰った俺はドアを開けて挨拶をする。すると部屋の奥からドタバタ走る音が聞こえてきたかと思えば、最愛の恋人であるオーフェリアとシルヴィの2人がこちらにやって来て……

 

「「おかえり、八幡(君)」」

 

 

 

ちゅっ……

 

同時に俺の唇にキスを落としてくる。するとさっきまで存在した疲労は一瞬で吹き飛び幸せな気分になる。

 

「ああ。ただいま……オーフェリア、シルヴィ」

 

ちゅっ……ちゅっ……

 

言いながら俺は2人の唇にキスを返す。リップ音が玄関に響く中、オーフェリアとシルヴィはトロンとした表情を浮かべる。本当に可愛いなぁ……

 

そこまで考えていると2人が俺に抱きついてくるので俺も抱き返し、暫くの間抱き合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「それで八幡君。最後の訓練はどうだったの?」

 

それから1時間。湯船の中にて、湯船に浸かっている俺の膝の上に乗って抱きついて甘えてくるシルヴィがそんな質問をしてくる。湯船の外ではオーフェリアが身体を洗っている。

 

シルヴィとは抱き合っている体勢なので俺の胸にはシルヴィの胸が当たっていて、俺の腰にはシルヴィの足が絡まっていて、俺の顔にはシルヴィの顔が寄せられている。

 

付き合った頃の俺なら焦っていたが、オーフェリアとシルヴィの2人と付き合って1年以上経過した今なら特に緊張しないで済んでいる。

 

「まあリースフェルトは満足したし、フェアクロフ先輩も得るものはあったようだ。天霧は『黒炉の魔剣』については余り進捗が無かったようだがな」

 

「そっか……とりあえず八幡君はお疲れ様……んっ」

 

言いながらシルヴィは俺にキスをしてくる。触れるだけの軽いキスだが、シルヴィの唇からは愛情や労いがしっかりと伝わってくる。

 

「ありがとなシルヴィ。ところで今日はいつもより甘えん坊になっているが何かあったのか?」

 

「まあね。実は明日から生徒会長としての挨拶回りとかがあって獅鷲星武祭初日まで家に帰ってこれないから、明日から1人でも耐えられるように八幡君成分を補給しているんだ」

 

いや八幡君成分って何だよ?俺にそんな成分があるのか?まあシルヴィが欲しいってならあげるけどさ。

 

「……好きにしろ甘えん坊め」

 

「ありがとう。じゃあもっと甘えて良いかな?」

 

言いながらシルヴィは俺が返答する前に腕を俺の首に絡めて更に強く抱きついてくる。やれやれ……

 

「……シルヴィアばかり狡いわ」

 

内心苦笑している中、そんな声が聞こえたかと思いきや、身体を洗い終わったオーフェリアが俺の後ろから抱きついてきてシルヴィと同じように腕を俺の首に絡めてくる。

 

(全くこいつらは本当に甘えん坊だな……)

 

まあ俺も2人に甘えられると幸せになるけど。そう思いながら俺は特に抵抗しないで2人の抱擁を受け続けた。

 

「ねぇ八幡君」

 

暫く抱きつかれているとシルヴィが話しかけてくる。

 

「何だよ?」

 

「星武祭の間には無茶をしないでね?」

 

「いや、俺は選手じゃないから無茶をする事はないだろ?」

 

選手なら間違いなく無茶をすると思うけど。

 

「そうじゃなくて……例の連中と相対した場合だよ。場合によっては私達が駆け付けるのは無理だけど、基本的には無茶をしないで欲しい」

 

「……いきなりだな」

 

「うん。何となくだけど、星武祭の間に八幡君が連中と相対するかも、って思ったから」

 

「……私もそう思う。さっき昼寝をしたら八幡が傷付く夢を見たわ」

 

オーフェリアとシルヴィは勘でモノを言っているが馬鹿馬鹿しいと一蹴するつもりはない。俺自身、連中と相対する予感を感じているから。

 

「……わかった。状況にもよるが、無茶はしない」

 

「絶対だよ?また学園祭の時みたいな事にならないでね?」

 

「あの時……私とシルヴィアは涙が止まらない位悲しかったのよ。私はシルヴィアと違って忙しくないからずっと八幡の隣で守るからね……」

 

2人は悲しげな声を出しながら俺に抱きつく力を強める。あたかも俺と離れ離れにならないように。

 

そんな2人を見ていると、学園祭で左手首を斬り落とされて病院に運ばれた時の事ーーーオーフェリアとシルヴィがガチ泣きしている事を思い出してしまう。

 

アレは何度思い出しても気分が悪くなるな。もうあんな2人は見たくないし、気をつけないと。

 

「わかってる。俺もお前らと死別するのは嫌だからな。無茶はしない」

 

「ええ(うん)……!」

 

俺は再度2人の温もりを感じながら、何としても生き延びてやると誓った。

 

 

 

 

 

 

30分後……

 

「じゃあ寝るぞ」

 

「ええ(うん)、おやすみ八幡(君)」

 

風呂から上がった俺はネグリジェ姿の恋人2人に話しかけると2人が頷くので寝室の電気を消してベッドに入る。同時に2人が俺に抱きついてくる。

 

「シルヴィは明日から頑張れよ」

 

「もちろん。だから今日は朝まで八幡君成分を補給するよ」

 

言いながら更にギュッと抱きついてくる。本当に甘えん坊だな。

 

「別に構わないが、今日は抱かないからな?」

 

2人を抱くと翌朝は必ず全員寝不足になる。俺とオーフェリアはともかく、仕事のあるシルヴィに寝不足はキツイだろう。

 

「もちろん。それはある程度仕事が落ち着いたらにするよ……んっ……」

 

シルヴィは頷いてから俺に抱きついたまま手を握ってくる。この甘えん坊め。だがそれが良い。

 

「……もしも私や八幡に出来る仕事があるなら手伝うわよ」

 

「ありがとう。でも大丈夫。仕事って生徒会長の仕事が殆どだから私以外は無理なんだ」

 

クインヴェールの生徒会はお飾りに近いがそれでも仕事はあるようだな。まあシルヴィの場合は挨拶回りが殆どだろうし俺やオーフェリアの出る幕はなさそうだ。

 

「……そう。でも困ったら直ぐに言ってね」

 

オーフェリアはシルヴィを気遣うようにそう言ってくる。少し前のオーフェリアは他人に一切興味が無かった。その事を考えたら凄い成長だろうな。

 

「わかった。ありがとうねオーフェリア。大好き……」

 

「……別に気にしなくて良いわ。私も貴女がす、好きだから言っただけだから」

 

ヤバい、やっぱりオーフェリアのデレは可愛過ぎる。普段とのギャップ差が凄過ぎる。見ればシルヴィも暗闇でわかるくらいに顔を赤くしてオーフェリアを見ていた。

 

「まあ俺もシルヴィが困ったら直ぐに手伝うからな……さあ、寝ようぜ」

 

俺が改めて寝ることを告げると2人はベッドから身体を起こして……

 

「「おやすみ、八幡(君)」」

 

ちゅっ……

 

同時に俺の唇にキスをしてからベッドに横たわり抱きついてくる。俺は幸せな気分になりながら2人の抱擁を受け止めてゆっくりと意識を手放したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから色々な事がありながらも平和な日々は続き、遂に獅鷲星武祭当日を迎えた。




オマケ

オーフェリアの日記

◯月×日 晴れ
今日はユリスに誘われてチーム・エンフィールドの女子4人と買い物に行った。無愛想な私が居ても彼女らは詰まらないだろうと思っていたが、4人は私に対して優しく接してくれて後半になるにつれて徐々に楽しくなり、別れ際には若干名残惜しいと思った。

こんな気持ちになるのは孤児院にいた時以来だが、やはり自由になって正解だった。八幡には感謝してもし切れない。

ただ私とクローディア・エンフィールドと刀藤綺凛が胸が大きくなって新しい下着を買いたいと言ったら、ユリスと沙々宮紗夜が物凄い目で睨んできたのは解せなかった。



□月◯日

今日はチーム・赫夜の特訓を手伝った。私は能力以外取り柄はないので模擬戦の記録をしたり、タオルやスポーツドリンクの用意をした。それだけの事でもチーム・赫夜のメンバーは笑顔で礼を言ってくれた。初めは八幡に付き添って手伝っているだけだったが、日が経つにつれて私自身チーム・赫夜に協力したい気持ちが強くなった。優勝は厳しいと思うが頑張って欲しいと思った。

また模擬戦の最中に八幡が転んでクロエ・フロックハートを押し倒して彼女の胸に顔を埋めたので、”塵と化せ”を放ち、夜はシルヴィアと一緒に八幡から搾り取った。翌日、八幡は腰を痛めていたが後悔はしていない。


△月□日

偶には違う髪型にしようと思ってツインテールにしてみたら、それを見たシルヴィアは私をいきなりベッドに押し倒してから抱きついて頬擦りをしてきた。対応に困っていると八幡も同じように抱きついて可愛がってきた。2人にそんな風に可愛がられるのは恥ずかしいが、それ以上に嬉しい気持ちで満たされた。

尚、夜にプリキュアの格好をして八幡に迫ったら私が泣くまで容赦なく攻め立ててきた。普段の八幡は優しいが夜の八幡は容赦がない事を改めて理解した

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