『さあ次は第3試合!先ずは東ゲート!聖ガラードワース学園のチーム・ヴィクトリー!』
司会の声が会場に響き渡り、東ゲートからはガラードワースの制服を着た5人が現れる。
『全員が序列入りでバランスタイプの陣形……ガラードワースからの参加チームの中ではそれなりに強い方ですね。本戦に出場出来る可能性は十分にありますね』
実況の声が聞こえる中、ガラードワースの5人は着々と歩を進める。すると……
『HA・YA・TO!フゥ!HA・YA・TO!フゥ!』
ガラードワースの応援席からは100人を超える生徒がHAYATOコールを行って、東ゲートから現れたチーム・ヴィクトリーのリーダーの葉山隼人は爽やかな笑みを浮かべて手を振る。同時に歓声が沸き上がる。
『ご覧の通り、チーム・ヴィクトリーのリーダー、葉山選手にはファンが多いですからね。ファンの期待に応えられるのか?!』
実況がそう叫ぶ中、対する西ゲートでは……
「ど、どうしよう……緊張してきたよ……!」
「わ、私も……」
待機しているチーム・赫夜のメンバーがいた。内2人、若宮美奈兎とニーナ・アッヘンヴァルは緊張して微かに震えていた。
「美奈兎さんにニーナさんも落ち着いてくださいまし。緊張していては勝てるものも勝てませんわ」
2人に優しくアドバイスをするのはソフィア・フェアクロフ。既に2度、星武祭に参加した経験のある彼女は気負うことなく構えている。
「同感ね。今更緊張しても意味ないでしょう。大体美奈兎、殆ど毎日八幡相手に一対一の勝負を挑んでボコボコにされたのに何で緊張してるのよ?向こうの5人と八幡、戦ったらどっちが怖い?」
クロエ・フロックハートは呆れながら美奈兎を見る。すると目をパチクリしてからハッとした表情になり……
「比企谷君!」
「でしょう?だったら緊張する必要はないじゃない」
「そうだよね……それに優勝を目指すんだし緊張なんてしてられないよ!ニーナちゃん!一緒に頑張ろう!」
「ふぇ?!……そ、そうだね。頑張る……!」
「その意気ですわ!」
美奈兎に肩を叩かれたニーナは一瞬驚くも、直ぐに美奈兎の言葉を理解して握り拳を作って頑張るポーズを見せてくる。するとソフィアも笑いながらニーナと同じように頑張るポーズをする。
「ふぅ……これで気負うことなく試合が出来そうね」
「はい。やっぱり美奈兎さんは明るく堂々としているのが1番ですよ」
「そうね」
苦笑を浮かべてクロエに返すのは蓮城寺柚陽。チーム随一のしっかり者は柔らかい笑みを浮かべて、呆れた表情を浮かべるクロエと一緒に元気にはしゃぐ美奈兎達3人を見つめる。
そんな風に和やかな時間が流れる中、遂に……
『対する西ゲートからクインヴェール女学院のチーム・赫夜ー!』
実況が赫夜の名前を呼ぶのでクロエは4人を見渡して……
「時間だから行くわよ」
『おー!』
4人が手を上げて頷き、ステージに出ると観客席からは歓声が上がる。しかしこれは当然だろう。クインヴェールは六学園で唯一の女子校であり、入試の内容に見た目も含まれているのだ。華やかな女子が出たら観客(特に男)が盛り上がるのは必然だ。
『チーム・赫夜といえば1年ほど前に同学園の有力チームのチーム・メルヴェイユを打ち破って一躍有名になったチームです!この1年、どれほど腕を上げたか楽しみです!』
『それに噂じゃチーム・赫夜はレヴォルフ黒学院の2トップ、『孤毒の魔女』と『影の魔術師』に鍛えられたって噂もありますし、それが本当なら優勝候補の一角になってもおかしくないでしょうね』
『あ!それは私も聞いた事がありますね!実際今年の春にクインヴェールの教師に就任した『狼王』八代涼子さんは『影の魔術師』の母親らしいですし噂が真実である可能性は高いと思いますよ!』
実況と解説の声に観客席からは驚きの混じった声が聞こえる。しかし観客席の反応は普通だ。他校の生徒を鍛えるだけでも異常な事なのに、教える相手が他校の2トップなのだから。
「えっ?!何でバレたの?!」
「それはそうでしょう?私達は偶に八幡やオーフェリアとご飯を食べに街に出ていたじゃない。ソフィア先輩に至ってはチーム・エンフィールドとの合同稽古の時に八幡と中央区を歩いていたのだから、そう思われても当然よ」
驚く美奈兎にクロエはため息を吐きながらそう返す。
「言われてみればそうですわね。しかしバレた以上比企谷さん達はレヴォルフから怒られませんの?」
「それは大丈夫でしょう。八幡とオーフェリアは『悪辣の王』とは敵対関係ですので無視をするでしょうし、ソルネージュが止めようとするならとっくの昔に止めている筈ですから」
「そうですね……なら良かったです」
柚陽が安堵の息を吐いている時だった。
「少し良いかな?」
いきなり爽やかな声が聞こえたので美奈兎達が前を向くと、チーム・ヴィクトリーのリーダーである葉山隼人がこちらにやって来て爽やかな笑顔を見せてくる。
「俺はチーム・ヴィクトリーの葉山隼人。今回の試合でリーダーをやるんだけど、そっちのリーダーは誰かな?」
「クロエ・ブロックハートよ」
葉山が尋ねるとクロエが前に出る。対する葉山は笑顔のまま手を差し出してくる。
「よろしくクロエちゃん。良い試合をしよう」
「(馴れ馴れしいわね)……よろしく」
対するクロエは無表情のまま葉山の手を握り返す。クロエは葉山の後ろにいる三浦優美子が睨んでいる事を気づいているが気にしないでいる。
暫く握手をしてから手を離すと葉山が口を開ける。
「ところでさっき実況が言っていたヒキタニ君が君達を鍛えたというのは本当かい?」
葉山がそう言った瞬間、クロエは目を細め試合前にオーフェリアが言った意味を理解した。
(なるほど……この男、わざと八幡の名前を間違えているからオーフェリアはあんな要求をしたのね)
内心でオーフェリアの要求の意味を理解していると美奈兎が葉山に話しかける。
「葉山君だっけ?ヒキタニ君じゃなくて比企谷君だよ」
すると葉山は一瞬だけ目を細めるも、直ぐに笑顔を浮かべる。
「あ、ごめんごめん間違えちゃったよ。とりあえず宜しくね」
言いながら葉山はチームメイトの元に戻っていった。それを見たクロエはため息を吐く。見れば純粋無垢で天然が入った美奈兎以外の赫夜のメンバーは何とも言えない表情で葉山を見ていた。
「彼のこと、どう思う?」
「明らかにわざと比企谷さんの名字を間違えていましたわね」
ソフィアの言葉に基本的に人を疑わない美奈兎以外の3人は頷く。八幡はレヴォルフの序列2位で前回の王竜星武祭ベスト4の有名人だ。しかも同じ中学であるにもかかわらず、ヒキタニ呼び……クロエは葉山がわざと間違えている事を理解した。
「(オーフェリアが怒る気持ちはわかったけど、やっぱり完膚なきまで叩き潰すのは必要以上に手の内を晒す可能性もあるし反対ね)……とりあえず今は試合に集中しましょう。ニーナ、開幕直後に先制攻撃をお願いね」
「う、うん……!」
「頑張ろうね!」
「ニーナさん、援護を頼りにしてますわよ」
「私とクロエさんはニーナさんのサポートをしますので」
ニーナが頷いたのを確認したクロエは同じ後衛の柚陽と一緒にニーナの後ろに回る。同時に前衛の美奈兎とソフィアはニーナの前に立つ。
そして美奈兎がナックル型煌式武装を、ソフィアがサーベル型煌式武装を、クロエがハンドガン型煌式武装を、柚陽が弓型煌式武装し出して準備をする。
対して美奈兎達と向かい合っているチーム・ヴィクトリーも同じように各々のポジションに合った配置について煌式武装を展開する。先頭にいる葉山は爽やかな笑顔(クロエからしたら胡散臭い笑顔)を浮かべてサーベル型煌式武装を構えて、同じ前衛の三浦はハンマー型煌式武装を構えてクロエを睨む。
『さあ、両チームが準備をしている間にも時間になりました!果たして2回戦に上がるのはチーム・ヴィクトリーか?!それともチーム・赫夜か?!』
実況の声が響き、観客がそれに応じてボルテージが上がる中……
『獅鷲星武祭Gブロック1回戦3組、試合開始!』
遂に試合開始の合図か告げられた。
試合開始直前、クインヴェールの観戦室では……
『さあ次は第3試合!先ずは東ゲート!聖ガラードワース学園のチーム・ヴィクトリー!』
「んっ……ちゅっ……シルヴィ、続きは後でな」
聞き覚えのあるチームの名前が耳に入ったので俺は恋人の1人であるシルヴィの唇から唇を離す。するとシルヴィは……
「うん……久しぶりの八幡君とのキス、凄く良かった。家に帰ったら一杯愛してね?」
トロンとした表情を浮かべて俺の腕に抱きついて頬ずりをしてくる。マジでこの子可愛過ぎだろ?久々に会って箍が外れてやがる……!
「……私もお願い」
するとシルヴィとは反対側に座っていたもう1人の彼女のオーフェリアもシルヴィと同じように腕に抱きついて頬ずりをしてくる。この甘えん坊コンビめ。最高だな……!
「はいはい。帰ったら2人纏めて愛してやるよ」
普通に考えたら2人纏めて愛する事は二股をかけているという意味だが気にしない。俺達は3人一緒に幸せに生きていくと決めたのだから。
そう思いながらステージを見ると、東ゲートからガラードワースの制服を着た見覚えのある5人が現れる。
『全員が序列入りでバランスタイプの陣形……ガラードワースからの参加チームの中ではそれなりに強い方ですね。本戦に出場出来る可能性は十分にありますね』
実況の言う通りチーム・ヴィクトリーは全員が序列入りをしている。ガラードワースからは沢山のチームが出ているが全員序列入りしているチームは少ないし、そこそこ有望なのかもしれん。
『HA・YA・TO!フゥ!HA・YA・TO!フゥ!』
観客席からは中学の時にテニス勝負の時にも聞いた葉山コールが生まれてくる。久々に聞いたが、まさかアスタリスクでも聞くとはな……
「やれやれ……相変わらず人気だな、おい」
「……理解出来ないわ。あんな人の名前をわざと間違えるような男が人気だなんて」
オーフェリアは不満タラタラの表情をしながらそう呟く。気持ちはわからんでもないが……
「まあ葉山はイケメンだからな。世間一般からしたら顔が良い奴が人気なのは必然だ」
今の葉山は学校が違うから知らないが、中学の時はファンクラブもあったしな。
すると……
「……八幡の方が格好良いわ」
オーフェリアは不満そうな表情をしながら抱きつく力を強める。そう言ってくれるのは嬉しいが張り合わなくて良いからな?
「シルヴィ、オーフェリアを止めてくれ」
「うーん。オーフェリアは頑固だから無理だと思うよ。それに私もオーフェリアと同意見だし」
言いながらシルヴィも俺に抱きつく力を強めてくる。はぁ……全くこいつらは……最高の彼女だな。
(やっぱりオーフェリアもシルヴィも最高の彼女だ。絶対に幸せにしてやらないとな)
そう思いながら2人の背中に手を回してこちらからも抱きしめる。2人の温もりを更に感じている中、実況の声が再度響く。
『対する西ゲートからクインヴェール女学院のチーム・赫夜ー!』
ステージを見ると若宮達5人がステージに現れる。様子を見る限り特に緊張している様子はない。若宮やアッヘンヴァルは緊張していると思ったが大丈夫みたいだな。頑張れよ……
『チーム・赫夜といえば1年ほど前に同学園の有力チームのチーム・メルヴェイユを打ち破って一躍有名になったチームです!この1年、どれほど腕を上げたか楽しみです!』
『それに噂じゃチーム・赫夜はレヴォルフ黒学院の2トップ、『孤毒の魔女』と『影の魔術師』に鍛えられたって噂もありますし、それが本当なら優勝候補の一角になってもおかしくないでしょうね』
『あ!それは私も聞いた事がありますね!実際今年の春にクインヴェールの教師に就任した『狼王』八代涼子さんは『影の魔術師』の母親らしいですし噂が真実である可能性は高いと思いますよ!』
「完全にバレてるな」
「バレてるね」
「……バレてるわね」
クインヴェール専用の観戦室にて実況と解説の声を聞いて俺と恋人2人は頷く。予想の範疇だ。トレーニングは基本的にクインヴェールのトレーニングステージでやっていたが、偶に街に出て赫夜のメンバーと飯を食ったり買い物をした事はあるから繋がりがあると思われても仕方ない。
「まあソルネージュからはどうこう言われてないから大丈夫だろ」
元々レヴォルフは個人戦の王竜星武祭に特化していて、チーム戦の獅鷲星武祭には力を入れてないので、他所の学園に干渉してもそこまで煩くは言われないだろう。
そんな事を考えているとチーム・ヴィクトリーと葉山が赫夜の5人に近付いてフロックハートと握手をする。そして何かを話していたら、若宮が口を挟み何かを言った。すると葉山は一瞬だけ笑みを消すも、直ぐに笑顔を浮かべて自分のチームに戻って行った。
すると若宮を除いた4人が話し合っているようにも見えるが、何かあったのか?大方葉山関係だとは思うが面倒なことになるなよ……
「八幡君はどっちが勝つと思う?」
内心ヒヤヒヤしている中、シルヴィはそんな質問をしてくるが……
「普通に若宮達に決まってんだろ」
即答する。チーム・ヴィクトリーもそれなりの実力者がいるだろうが、環境が違い過ぎる。
言っちゃ悪いがチーム・ヴィクトリーの実力は1年前のチーム・赫夜ーーーチーム・メルヴェイユと戦った時と同じかそれ以下の実力だ。
対するチーム・赫夜はあれ以降俺やお袋、挙句に星露相手に何度も挑んでいたのだ。
チームとしての練度、個々の実力、努力の量。その全てにおいてチーム・赫夜には負ける要素はないと断言出来る。
「……当然よ」
オーフェリアが賛成の意見を口にする中、両チームは煌式武装を構えて準備をする。若宮の手にはナックル型煌式武装が装備されている事からダークリパルサーを隠しておく算段のようだ。
『さあ、両チームが準備をしている間にも時間になりました!果たして2回戦に上がるのはチーム・ヴィクトリーか?!それともチーム・赫夜か?!』
実況の声が響き、観客がそれに応じてボルテージが上がる中……
『獅鷲星武祭Gブロック1回戦3組、試合開始!』
遂に試合開始の合図が告げられた。