『獅鷲星武祭Gブロック1回戦3組、試合開始!』
試合開始のアナウンスを流れると同時に両チームが動き出す。チーム・ヴィクトリー側は前衛の葉山と三浦が先手必勝とばかりに走り出して中衛の戸部と後衛の大和と大岡は銃型煌式武装を構えて発砲する。
対するチーム・赫夜は……
「そこです……!」
「させないわ」
後衛の柚陽とクロエが射撃をする。柚陽の放った複数の矢は正確にチーム・ヴィクトリーの遠距離担当3人の放つ弾丸を撃ち抜いて、クロエは3人の顔面に放って相手をビビらせる事で狙いを定めるのを妨げる。
「だ、だべっ?!全然援護出来ないわー!」
「だな」
「それな」
そんな声が響く中、チーム・ヴィクトリーの遠距離担当の援護射撃のレベルが低下するも前衛の葉山と三浦は気にしないで突き進み……
「はぁっ!」
「おらっ!」
チーム・赫夜の前衛2人とぶつかり合う。葉山の相手は美奈兎、三浦の相手はソフィアとなった。美奈兎とソフィアは自分の煌式武装を使って2人の攻撃を凌ぐ。
「このっ!やられろし!」
三浦はハンマー型煌式武装を振るうのに対してソフィアは冷静にハンマーの一撃を撫でるように受け流す。真っ向から打ちあったら負けるのがオチなので受け流す行為は必然だが三浦は気に入らずにいた。躍起になってハンマーを振りまくる。
しかしソフィアは冷静に三浦の攻撃を受け流す。人を傷付けられない弱点がある以上、確実に勝てる時以外ソフィアは無理な攻めをしないからだ。
一方の美奈兎の方は……
「やあっ!」
「くっ!」
葉山相手に優勢に攻めている。葉山の放つ突きをナックル型煌式武装で受け流してからジャブを繰り出して葉山のサーベル型煌式武装を殴りつける。
それによって葉山はバランスを崩すので美奈兎は校章を破壊されない事を最優先に堅実な追撃を仕掛ける。
しかし葉山は美奈兎の堅実な攻撃に徐々に対処出来なくなっていた。それも当然だろう。美奈兎はチームとしてのトレーニングや星露を相手にする鍛錬以外にも、自主練として『影の魔術師』比企谷八幡や『狼王』比企谷涼子に殆ど毎日挑んでいるのだ。経験値は葉山と比べて桁違いに高い。
柚陽とクロエが戸部と大和と大岡と撃ち合い、美奈兎とソフィアが葉山と三浦とぶつかり合う中……
「完成、した……!」
唯一戦闘に参加していないニーナが動き出す。ニーナの周囲に大量の星辰力が噴き上がり、それと同時にニーナの真上に3つの光の大砲が現れる。そして大砲の先端から光り輝くハートの弾丸が現れてーー
『ニーナ!』
「女王の覇砲豪雨!」
クロエが能力を使ってニーナの頭に指示を出すニーナは上げた腕を振り下ろしながら叫ぶ。
同時に3つの大砲からハートの砲弾が射出されて、間髪入れて分割して小さなハートの弾丸が生まれ、そのまま雨のように降り注ぎ、チーム・ヴィクトリーの遠距離担当3人に襲いかかる。
ニーナの能力はトランプを模した能力でスペードが近距離攻撃、ハートは遠距離攻撃、ダイヤが防御、クラブを補助で数字が大きければ大きい程威力も上がる。また複数の記号や数字を合成すれば桁違いの威力の攻撃を放つ事も可能である。
現にクイーンを4つ使用して放った攻撃は……
「だべぇぇぇぇぇぇっ!?」
そのままチーム・ヴィクトリーの遠距離担当3人を蹂躙する。大量の弾丸相手に3人はなす術もなく爆風が晴れた時には地面に倒れ伏す3人がいた。
『ーーー意識消失』
そんな機会音声が響くと観客席から歓声が生まれる。一気に3人を倒した大技が炸裂したのだから当然のことだ。
しかし観客からは喜びの感情が沸き上がるが、当事者からしたら溜まったものではないだろう。
「戸部?!大和?!大岡?!」
「はあっ?!何速攻でやられてるし?!」
生き残っている葉山と三浦は驚愕な表情を浮かべる。それによって一瞬だけ目の前にいる敵を忘れてしまう。
そしてそんな隙を美奈兎とソフィアが見逃す筈もなく、足に星辰力を込めて2人の懐に入る。
葉山と三浦は驚愕の表情を浮かべて迎撃するも……
「玄空流ーーー”転槌”!」
美奈兎は身体を回転して葉山のサーベル型煌式武装を避けて左肘を葉山の校章に叩き込み……
「(天霧辰明流剣術初伝ーーー”貳蛟龍”、ですわ!)」
ソフィアは天霧綾斗との鍛錬で覚えた技を使って三浦の校章を十字に斬り裂き……
『葉山隼人、校章破損』
『三浦優美子、校章破損』
『試合終了!勝者、チーム・赫夜!』
試合終了が告げられ、バラバラになった葉山の校章と4つに割れた三浦の校章が地面に落ちて乾いた音を立てると同時に……
『ワァァァァァァァァァッ!』
会場を大歓声が包み込んだ。
所変わってクインヴェール専用の控え室では……
『ここで試合終了!チーム・赫夜、開始3分でチーム・ヴィクトリーを全滅させた!』
『試合の運び方はシンプルで良いですね。チーム・赫夜の後衛2人がチーム・ヴィクトリーの遠距離担当3人を足止め、チーム・赫夜の前衛2人がチーム・ヴィクトリーの前衛2人を足止めしてからの、チーム・赫夜の遊撃手のアッヘンヴァル選手の大技でチーム・ヴィクトリーの中距離戦力を根こそぎ奪いましたね』
『その後に若宮選手とフェアクロフ選手が一瞬の隙を突いて葉山選手と三浦選手の校章を破壊……私もチーム・赫夜の記録は見ていましたが1年前と比べて格段に強くなっていますね!』
『そうですね。チームの練度も高いし、格上相手に金星を取れる可能性もあるので今後に期待ですね』
「当然だな」
「……当然ね」
「うん。皆落ち着いて自分の役割を果たしていたね」
俺は頷き、オーフェリアはガッツポーズをして、シルヴィは満足そうに頷く。やはり目にかけているチームが勝つのは嬉しく思う。
ステージを見ると若宮がフロックハートに抱きついて、フロックハートが若宮を引き離そうとしていたが逆らえず抱擁を受けていた。何か既視感があると思ったが、シルヴィとオーフェリアみたいだ。
しかし思った以上にチームの練度が上がってるな。蓮城寺が放った矢は1発も外れなかったし、アッヘンヴァルの合成技の速度も上がっていた。
(しかも最後のフェアクロフ先輩の技……アレ絶対に天霧辰明流の技だろ?)
フェアクロフ先輩に更に実戦経験を積ませる為に天霧を練習相手にしたが、その判断は成功だろう。
そんな事を考えていると……
「ん?何か揉めてるのか?」
見ればステージでは三浦が喚いている。大方あり得ないとか言っているのだろう。星武祭でよく見る光景だ。俺も王竜星武祭で倒した相手から「あり得ない」だの「マグレだ」とか言われた経験があるし。
しかしフロックハートが何かしら言うと三浦は気圧されたように後ろに下がる。それを見たフロックハートは踵を返してゲートに向かい、他の4人も様々な反応をしながらフロックハートに続いてゲートに向かった。
何を話したか気になった俺は5人がステージを後にした事を確認してから、空間ウィンドウを開いてフロックハートに電話する。
『もしもし。どうしたの?』
「ああ。先ずは1回戦突破おめでとさん」
『ありがとう。それと私も八幡に話があったんだけど、この後に私達はインタビューを受けるじゃない?』
「俺とオーフェリアに関することか?」
『ええ。記者達は間違いなく貴方やオーフェリアの噂について聞いてくるわ』
だろうな。他所の学園の2トップが関わっている噂が流れているならマスゴミは聞いてくるだろう。
『とりあえず聞かれたら『比企谷先生に紹介して貰った』って答えるけど良いかしら?』
「構わない。シルヴィの名前を出さなきゃ何でも良い」
馬鹿正直に『シルヴィアが比企谷八幡を紹介した』なんて言ったりしたら、記者は間違いなく俺とシルヴィの関係を洗い出そうとしてくるだろう。それだけは避けたいのでフロックハートの意見に従うつもりだ。
『わかったわ。それで八幡は何か用?』
「ん?いや大したことじゃないが、さっき三浦に何て言われたか気になっただけだ」
『別に。マグレだとか、一生懸命努力した自分達が負けるわけがないとか負け惜しみを言ってきただけよ。だから私は「だったら貴方達は殆ど毎日八幡に殴られる位の努力をしたのか?」って言っただけよ』
「そ、そうか……」
いや、まあ確かに、若宮達を相手にした時に手加減しないで殴ったけどよ、その言い方はどうかと思うが……
まあ向こうが納得したのなら良いか。
『話がそれだけなら切るわ。取材陣が見えてきたし』
「わ、わかった。取材陣は試合以外の事も執拗に聞いてくるが、好きな人や食べ物とか関係ない質問が来たら即座に切り上げた方が良いぞ」
俺も前回の王竜星武祭で1回戦を突破した時はかなり苦労した記憶がある。アレは結構ウザくて試合より疲れたくらいだ。
『肝に銘じておくわ』
その言葉を最後に空間ウィンドウがブラックアウトしたので、新しく空間ウィンドウを開いてチーム・赫夜のインタビューを見る。次の試合まで時間があるのでインタビューを見る方が有意義な時間の使い方だな。
「とりあえず1回戦は突破したし、美奈兎ちゃん達が予選落ちする事はなさそうだね」
シルヴィの言う通りだ。俺の見立てじゃ若宮達のいるGブロックの1番有力なチームはチーム・赫夜でその次にチーム・ヴィクトリーだ。チーム・ヴィクトリーを倒した以上若宮達の予選突破は殆ど確実と言える。
「まあ手の内を見せてないチームもあるかもしれないがな……っと、もう始まってるな」
見れば既に勝者に対するインタビューが行われていて、若宮とガチガチになりながら、蓮城寺は落ち着いて、フェアクロフ先輩は普段のポンコツを全く見せず上品に、アッヘンヴァルがしょっちゅう噛みまくり真っ赤になりながら、フロックハートは原稿を読むかのように無表情で各々の質問に答える。個性が出ているインタビューだな。俺なんて初っ端から噛んでメチャクチャ笑われたし。
そんな事を考えながら見ていると俺とオーフェリアに関する質問をしてくる記者が出てくるもフロックハートは焦ることなく、お袋が紹介したと真顔で嘘を吐いた。
本当はお袋がアスタリスクに来る半年近く前から訓練を手伝っていたが、フロックハートは特に表情を変えずに嘘を述べたので記者達からは猜疑の色は見えてこない。これなら俺とオーフェリアとシルヴィの関係がバレる事はないと思う。
「とりあえず手の内はそこまで見せずに済んだな……そんで2回戦は4日後だったよな?」
「そうそう。八幡君は明日チーム・ランスロットとチーム・黄龍の試合を見るの?」
「そのつもりだ。優勝を目指す以上その2チームとチーム・エンフィールドは避けれないからな」
言いながら新しく空間ウィンドウを開いてシリウスドームの試合を見てみると……
「ちっ。もう終わってるか」
見ればエンフィールドがレヴォルフの学生の首にパン=ドラの切っ先を突きつけて、モヒカンの男がギブアップ宣言をしていた。
「そう……今日はもう有力なチームは出ないし帰る?」
オーフェリアがそんな事を言ってくる。確かにこの後に俺達のいるカペラドームで行われる試合は1試合、それもアルルカントとレヴォルフの雑魚同士の試合だ。それを見てから混雑した会場を出るより早く帰るのも1つの手段だろう。
「俺は別に構わないぞ。シルヴィは?」
「私も良いよ」
なら決まりだな。俺が息を吐いてから立ち上がると、2人は俺の腕に抱きついてくる。本当に甘えん坊だな。まあ役得だから良いけど。
俺は最愛の恋人2人を愛おしく思いながらクインヴェール専用観戦室を後にした。
「んー!久しぶりの我が家は気持ち良いなー」
それから1時間後、自宅に帰るとシルヴィは満足そうに伸びをして靴を脱ぐ。
「まあ自宅が1番落ち着くのは当然だろ」
「ううん。そうじゃなくて……八幡君とオーフェリアがいるからだよ」
言いながらシルヴィは俺とオーフェリアにハグをしてくるので俺達は特に抵抗しないでシルヴィの抱擁を受けた。シルヴィの温もりが俺達に幸せを与えてくる。
「ああ。俺もお前とオーフェリアがして幸せだ」
「……私も。2人が居てくれて嬉しいわ」
「……ありがとう。ねぇ、偶には3人一緒にご飯を作らない?」
随分唐突な提案だな。ウチの食事を作るのは7割オーフェリア、2割俺、1割シルヴィって感じだが、3人一緒に作った事は数える位しかない。
「……そうだな。偶には一緒に作るか」
「……ええ」
俺達は互いに頷いてからエプロンをつけてキッチンに向かった。
「それでね。八幡君との子供の名前についてペトラさんに相談したら、私に聞くなって一蹴されたの」
言いながらシルヴィは味噌汁を作る。ワカメと豆腐の味噌汁だが、味が染み込んでいて美味そうだ。
「そりゃあの人独身だから仕方ないだろ。既婚者に聞けよ」
生姜焼きを焼きながらそう返す。そもそもあの人、俺達の交際に反対しているんだし。
「……私は前にお義母さんに相談したら、日本名にしたらどうだって言われたわ」
サラダの盛り付けをしているオーフェリアはそう返す。てかお前もお袋相手に何を相談してんだゆ
「うーん……確かに比企谷の後に外国人の名前を入れたら微妙な感じがするよね」
「そうね……とりあえず読み難い名前は無しで良いかしら?」
「それは賛成だね。読み易くて良い名前にしないとね」
シルヴィとオーフェリアは調理をしながらも真剣な表情で子供の名前について語り合っている。今更だが2人が気が早いのか俺の気が遅いのか、どっちが正しいのかわからないな……
まあ俺も将来に備えてある程度は考えておくか。
そう思いながら俺は顔に熱が溜まるのを実感しながらも調理を進めた。
おまけ
八幡の日記②
×月△日
今日は星露との稽古をした。星露は何度も何度も殴っても楽しそうな表情を浮かべて殴り返してきた。あいつはドMでありドSだろう。しかし今更だが1週間に一度とはいえ他校のNo.2を鍛えるっておかしいだろう。
その晩、ボロボロになりながらも自宅に入ると凄い光景を見た。何とオーフェリアが転んでシルヴィのスカートの中に顔を埋めるというラッキースケベをぶちかましたのだ。良いぞ、もっとやれ。内心興奮しながら見ていた俺は悪くないと思った。
×月×日
今日中央区を散歩していたらフェアクロフ先輩と会ってお願いごとをされた。それは中央区で人気のカフェでカップル限定のパフェが販売されたのでカップルの振りをしてくれとの事だった。
フェアクロフ先輩の頼みを聞きたいのは山々だったが、彼女がいるのにそれはマズいと断ろうとしたが、フェアクロフ先輩が……
「ダメ……ですの?」
上目遣いで再度おねだりしてきた。気が付けば俺はオーフェリアとシルヴィにフェアクロフ先輩とカップルの振りをして良いかと聞いていた。
その際に後日自分達も連れて行くことでOKを貰ったので、フェアクロフ先輩とパフェを食べた。カップル限定のパフェはとても甘くて俺の好みの味だった。これはまた行きたいなと思いながら目の前で幸せそうにパフェを食べるフェアクロフ先輩に癒されていた。
尚、パフェを食べた後にフェアクロフ先輩がお礼を言って立ち上がろうとしたら、バランスを崩したらしく俺の方によろめいてきたので慌てて支えようとしたが一足遅く、フェアクロフ先輩は俺に倒れ込み、唇を限りなく俺の唇に近い頬にぶつけてきた。
アレはマジでヤバかったです。メチャクチャ気まずくなって別れたが顔が熱くて仕方なかった
×月◯日
フェアクロフ先輩にキスをされた事がバレてオーフェリアとシルヴィに物凄く怒られた。フェアクロフ先輩と一緒に土下座をしたら許して貰ったが、端から見たらヤバい光景だと思った。
×日◇日
今日は1人で中央区に出ていた。理由としては義手のメンテナンスだ。その際に治療院に行ったら院長に義手を改造しているのがバレて物凄い怒られた。特にオーフェリアの毒とアルルカント製の荷電粒子砲を仕込んだのを知った際は院長の雷が落ちた。やはりこの2つは特にヤバいようだ。
説教を食らって疲れた俺はヘトヘトになりながら治療院を出ると材木座から新作小説を送られてきた。メチャクチャ苛々しながら読むと血の気が引いた。
何故なら今回材木座が書いた小説のヒロインなんだが、世界の歌姫と世界最強の魔女のダブルヒロインだったのだ。材木座は俺がオーフェリアと付き合っている事は知っているがシルヴィとも付き合っている事は知らないので偶々だと思っていても寒気がした。
そして最終的に主人公は優柔不断な態度を取り続けた結果2人のヒロインに刺されるという不遇な最期を遂げたのだった。
それを見た俺は内心ガチガチになりながらも帰宅して、オーフェリアとシルヴィに事情を説明した。すると2人は笑いながら私達はそんな事をしない、3人一緒に幸せになろうと言って優しく抱きしめてきた。
俺は2人の態度に嬉しくなって2人を優しく抱き返した。2人を絶対に幸せにすると改めて決意をしながら。
×月⚫️日
あんなふざけた設定の小説を書いた材木座を半殺しにした。