3人で一緒に夕食を作り、テーブルの上に料理を置く。テーブルの上にある料理は味噌汁に豚の生姜焼きにシーザーサラダと、どれも一般家庭の料理であったが、どの料理からも良い匂いがして部屋に充満する。
「じゃあ食べよっか……いただきます」
料理が全て置かれると俺の彼女の1人であるシルヴィがそう言って両手を合わせるので……
「「いただきます」」
俺ともう1人の彼女のオーフェリアもシルヴィと同じ様に両手を合わせいただきますの挨拶をする。
そして料理を口にすると旨味が口の中で広がりだす。うん……美味いな。
「……美味しいわ」
「うん、久しぶりに3人で一緒に料理をしたけど美味しいね」
どうやら2人も同じ意見のようだ。良かった……俺の作った料理が口に合わなかったとか言われたら泣いている自信がある。
「俺も美味いと思う。やっぱり2人の料理は最高だな」
「それはもう、タップリと愛情を注いだからね」
「……私達の八幡に対する愛情、伝わった?」
「ああ、凄く」
当然の事だ。2人が料理を作ってくれた時点で幸せなのに、愛情のこもった料理を食べれるんだ。マジで幸せ過ぎてバチが当たりそうで怖いくらいだ。
言いながら俺達は幸せな気分のまま食事を続ける。
「そういえば八幡君。明日はチーム・ランスロットとチーム・黄龍のどっちを見に行くの?」
シルヴィが唐突にそんな事を聞いてくる。明日は優勝候補のチーム・ランスロットとチーム・黄龍の試合があるが前者はシリウスドームにて、後者はカノープスドームと会場が違う。試合時間もそこまで差がないので両方見るのは厳しいだろう。
となるとこの両チーム以外の試合にもよる。シリウスドームでチーム・ランスロット以外の有力チームが出るならシリウスドームに行けば良いし、カノープスドームでチーム・黄龍以外の有力チームが出るならそっちにすれば良い。
そう思いながら明日の予定を調べようと空間ウィンドウを開いてみた時だった。
(ん?これは……)
ニュース速報を見ると気になる速報があった。見出しには『エンフィールド選手、アスタリスクの闇に迫る!?』と書いてあったので、思わずそのニュースを見てみると……
(マジで何をやってんだあいつは?)
記事によるとエンフィールドは1回戦を突破した時のインタビューで優勝した時の望みとして、『翡翠の黄昏』に関する裁判の関係者であるラディスラフ・バルトシークに会って、彼しか知らない秘密をする事……と言ったらしい。
ラディスラフ・バルトシークは元々星導館で教鞭をとっていた男。こんな風に馬鹿正直に言ったら間違いなく星導館のバックにいる銀河はキれるだろう。
元々エンフィールドが銀河と敵対することになるとは知っていたが、ここまで早く動くとは予想外だ。趣味に自殺か追加されたのか?
「……どうしたの八幡?」
エンフィールドの行動に首を捻っているとオーフェリアが心配そうな表情で肩を叩いてきた。見ればシルヴィも似たような表情を浮かべていたので、俺は空間ウィンドウを2人の前に見せる。
するとシルヴィは軽く目を見開いてから眉を寄せる。
「なるほどね……ラディスラフ教授は星導館の元教師。それでありながら翡翠の黄昏の関係者って事を暴露したら銀河以外統合企業財体は煩く言いそうだね」
「……シルヴィアのマネージャーも動くのかしら?」
「ペトラさんは最高幹部じゃないから大きくは動かないと思うよ。詳しい事情は知らないけど精々文句を言うくらいじゃない?」
現存する6つの統合企業財体の力は拮抗している。場合によっては銀河を貶める事も可能な今、他所の統合企業財体は何かしら銀河に文句を言ってくるだろう。しかし文句と言っても、言う連中は銀河と拮抗している5つの統合企業財体だ。それだけでも充分な打撃になるだろう。
「とはいえ少し不安だな。飯食ったら連絡を入れておくか……」
一応エンフィールドとは個人的に同盟を結んでいるのだ。統合企業財体に睨まれない程度で力になるつもりだ。
「まあ八幡君なら大丈夫でしょ?私が連絡を入れたら面倒な事になりそうだけど」
まあそうだな。シルヴィは歌姫としてクインヴェールの運営母体の統合企業財体W=Wと契約を結んでいるのだ。そんなシルヴィが統合企業財体に喧嘩を売ったエンフィールドと連絡を取るのは危険だ。
「だろうな。お前が連絡するのは止めておけ……まあとりあえず飯を食うか」
最優先は飯だ。腹が減っている上に恋人2人の愛情が篭った飯を前にして我慢するのは酷というものであろう。
そう返しながら俺達は食べるのを再開した。その際に2人がイタズラ半分で生姜焼きを口移しで渡してきたので喜んで受け取ったのは言うまでもないだろう。
「ほう……とりあえずあの記者はお前の仕込みでそれを利用して願いを暴露したのは理解した。それで今のところ生きてるようだし襲われてないようだな」
所変わって自室。俺は今、エンフィールドの端末に連絡を入れている。当のエンフィールドは統合企業財体に喧嘩を売ったばかりにもかかわらず、いつもと変わらぬ微笑みを浮かべている。
『ええ。ですが比企谷君も暫く連絡を取るのは止めておいた方が良いでしょうね』
「それは巻き添えを食らうからだとは思うが、銀河が怒らない程度なら手伝うぞ?」
『いえ、比企谷君は動かない方が良いでしょう。妹さんが狙われる可能性もありますので』
確かに統合企業財体は目的の為なら手段を選ばない連中だ。俺を敵と認識したら小町を狙ってくる可能性も充分あり得る。
「……なるほどな。じゃあ俺の協力出来ることは殆ど無さそうだな」
『ええ。ここまで来た以上比企谷君だけでなく綾斗達にもないですよ』
「ふーん……それで本当の目的は?」
俺がそう口にするとエンフィールドは一瞬だけ無表情になるも直ぐに笑顔になる。
俺としてはエンフィールドがラディスラフ教授に話を聞く以外の目的があると思っている。理由は無く勘だけど。
『何の事でしょうか?』
対するエンフィールドは意味不明といった表情を浮かべている。どうやら話す気はないのだろう。
「そうか……話すつもりがないなら良い。ただ、死ぬなよ?」
『……ええ。今はまだ死ぬつもりはないですよ』
エンフィールドはそう言ってから通話を切ったので俺は空間ウィンドウを閉じて端末をポケットにしまう。
「今はまだ、ねぇ……」
それはつまり遠くない未来に死ぬ事を視野に入れているのだろうか?何となくだが嫌な予感がするな……
そこまで考えていると……
「八幡君……お風呂、湧いたから一緒に入らない?」
自室のドアからシルヴィが顔だけ出して俺にそんな事を聞いてくる。時計を見ると時刻は9時を回っていた。確かに風呂の時間にはピッタリだろう。
「はいよ。今行く」
言いながら自室のクローゼットから下着を取り出して部屋の外に出る。そしてシルヴィと一緒に廊下を歩き……
「オーフェリア、風呂に行かない?」
シルヴィがリビングで本を読んでいるオーフェリアにそう話しかける。対するオーフェリアは……
「……私は後から入るから気にしないで。シルヴィアは久しぶりに八幡と一緒に入るんだし、2人きりで楽しんで」
そう返す。オーフェリアは基本的にシルヴィが仕事から帰ってきた時はいつもこう言ってくるんだよなぁ……
「わかった。ありがとうオーフェリア」
「別に良いわ。シルヴィアが仕事で居ない時は私が八幡と2人きりで過ごしているのだから」
「そっか、じゃあお言葉に甘えて……行こ?」
「はいよ。じゃあオーフェリア、また後でな」
「……ええ。行ってらっしゃい」
オーフェリアは微かに笑みを浮かべて小さく手を振ってくる。本当に可愛いなぁ……
オーフェリアの可愛さに俺とシルヴィがポワポワする中、脱衣所に到着するので服を脱ぐ。この家を買った当初、シルヴィと一緒に風呂に入る時はメチャクチャ緊張したのだが、慣れというのは恐ろしい。一切の躊躇いなく脱いでいる。
見ればシルヴィも制服を抜き出す。するとピンク色の可愛らしい下着に包まれたシルヴィの美しい身体が露わになる。既に何度も見たり、重ねた事のあるシルヴィの身体だが見惚れてしまう。今は大分マシになったが、シルヴィの裸を見た当初は何度も襲いたくなる衝動に駆られてしまっていたくらいだ。
「八幡君、見過ぎだよ。本当にエッチなんだから……」
対するシルヴィは苦笑しながらそんな事を言ってくるが、俺は慣れているので目を逸らさない。
「俺がエロいのは否定しないが、雌犬になった時のお前の方がエロいからな?」
以前シルヴィは媚薬を飲んだが、あの時はマジでヤバかった。火照った身体を寄せてきて思い切り甘えてきて、メチャクチャエロかったし。
「うぅ……それは言わないでよ。八幡君のバカ……」
シルヴィは真っ赤になって下着姿のまま俺の胸板を叩いてくる。しかし痛みは全くなく、愛おしい気持ちで一杯になる。
同時に嗜虐心が湧き上がってくる。久しぶりにあんなシルヴィを見たくなってしまった。だから俺は両手を使ってシルヴィの両手のポカポカを防いで……
「悪かったよ。ゴメンな」
言いながら軽く頭を下げるとシルヴィは膨れっ面を見せてくる
「……本当に八幡君ってズルいよね。そんな風に謝られたらこれ以上怒れないよ……入ろっか」
シルヴィは軽く愚痴りながらもこれ以上責めるのを止めて下着を脱いで一糸纏わぬ姿となる。女神のように美しいシルヴィの裸だが、この裸を見た男は俺とシルヴィの父親くらいだろう。そう考えると僅かだけ他の男に対して優越感が浮かんでしまう。
「そうだな……入ろうぜ」
言いながら俺もシルヴィに続いて服を全て脱ぎ、手を繋いで風呂場に入った。
「ふふっ……ちゅっ……久しぶりに八幡君との、んっ……お風呂、気持ち良いな」
それから15分、シルヴィは久しぶりに再会したからか普段より甘えてきている。湯船に浸かった俺の身体に抱きついて、両足を腰に回して、形の整った胸を俺の胸板に押し付け、両手を俺の背中に回して、俺の唇にキスの雨を降らしてくる。
「んっ……なら良かった。俺もシルヴィと風呂に入るのは久しぶりだからな」
俺とオーフェリアとシルヴィの3人や、俺とオーフェリアの2人で風呂に入るのはよくあるが、シルヴィと2人で入った事はオーフェリアが瘴気を制御して以降はそこまで多くない。
「うん……そういえば八幡君。あと1ヶ月半くらいでクリスマスだけどさ、今年は仕事がないみたいだし一緒に過ごそうね?」
クリスマスか……去年はシルヴィがいなかったからオーフェリアと2人でクリスマスパーティーを開いたんだよな。アレはアレで楽しかったがシルヴィが居なくて物足りない気持ちがあったのは否定しない。
「そうだな……仕事がないなら大歓迎だ」
「うん。私、3人でプレゼント交換をしたりチキンを食べるのを楽しみにしているから」
シルヴィは子供っぽい笑顔を浮かべて甘えてくる。俺の恋人マジで可愛いな。
「そうだな。その為にも平和に獅鷲星武祭が終わればいいんだが……」
「無理だろうね……」
シルヴィはため息を吐きながらそう言うが同感だ。まだ初日だが、開会式前にはチーム・ヘリオンの馬鹿が純星煌式武装を客がいる中で使うわ、エンフィールドが統合企業財体に喧嘩を売るわで荒れまくりだ。
「とりあえず八幡君も面倒事に巻き込まれないでね」
「言われるまでもねぇよ。好き好んで巻き込まれてる訳じゃないからな?」
少なくとも学園祭の時は偶然巻き込まれて腕を斬り落とされたんだ。結果的にウルスラさんを助けることは出来たが、自分から巻き込まれに行った訳ではない。
「じゃあ指切りしてよ」
シルヴィは俺に抱きつきながら右手の小指を出してくる。子供っぽい仕草だが、拒否するつもりはない。
「はいはい……よっと」
「じゃあ行くよ?……ゆ〜び〜き〜り〜げ〜ん〜ま〜ん〜嘘ついたら八幡君からキスを50万回す〜る。指切った」
「おい待て。そこは普通に針千本飲ますじゃないのか?」
「いや針千本飲んだら死んじゃうじゃう。だから八幡君からキスを50万回してよ。あ、もちろん1日以内じゃないからね」
当たり前だ。1日で50万回シルヴィにキスをするとか無理ゲーだろ?てか……
「50万回は多過ぎじゃね?しかも俺から?」
「うん。だって私は今まで八幡君と138万4863回キスをしたけど、八幡君からしたのは19万4751回と少ないんだもん」
こいつ……前から俺とのキスを数えているのは知っていたが、100万回を超えても数えていたのかよ。てか20万回以上してんだし良くね?
とはいえ指切りをした以上……
「わかったよ。面倒事に巻き込まれたら50万回キスをしてやるよ」
約束は守らないといけない。こうなったら無茶をしないようにしないとな。
いや、まあシルヴィにキスをするのは嫌じゃないが、50万回もやったら恥ずか死んでしまうからな。
「うん。でも面倒事に巻き込まれないように注意してね?」
「わかってるよ」
ったく、今シーズンの星武祭は面倒な事が起こり過ぎだろ?マジで平穏をください。
そう思いながら俺はシルヴィに抱きつかれたまま、思い切り甘えられた。
それから2時間後……
「じゃあ電気を消すぞ」
「良いよ」
「……お願い」
寝室にて俺が電気のスイッチに触れながらそう口にすると、シルヴィとオーフェリアから了承を得たので電気を消す。
すると真っ暗になったので、窓からさしてくる月明かりを頼りにベッドに入ると……
「えへへ……久しぶりの八幡君と睡眠だ……」
「温かいわ……」
シルヴィとオーフェリアはいつものように抱きついて思い切り甘えてくる。2人に抱きつかれるのは久しぶりだが、気持ちが良い。
「八幡君のパジャマの匂い……落ち着くなぁ……」
「この甘えん坊め……まあ俺も久しぶりに抱きつかれて嬉しいけどな」
「ふふっ……ありがとう。そういえば八幡君は私が居ない間に何か面白い事はあった?」
面白い事だと?そう言われてもな……特には「そういえば2日前に、チーム・赫夜最後の鍛錬の時に事故でソフィア・フェアクロフの頬にキスをして尚且つソフィア・フェアクロフに頬にキスをされていたわね」………オーフェリア。
「……ヘェ〜。そうなんだ。それは良かったねぇ〜」
言いながらシルヴィは目を腐らせながら俺を見てくる。何でも良いがアイドルがそんな顔をするな。
「ま、待てシルヴィ。アレは事故だからな?」
しかもあの時はフェアクロフ先輩が転んで巻き込まれたんだよ。フェアクロフ先輩が俺の足技を食らった際に俺の方に倒れこんできたのだ。
そう言い訳するも……
「うんうん。言い訳は搾り取ってから聞くからね?」
シルヴィは俺の言い訳を切り捨てる。アカン、こうなったらどうにもならないな……
俺に諦念の感情が浮かぶ中、シルヴィは服を脱いで……
「八幡君の……バカ」
膨れっ面を浮かばせながら、俺のズボンをずり下ろした。
……明日は寝坊で遅刻かもな。
俺はシルヴィに覆い被さられながらも、他人事のようにそんな事は考えていたのだった。