学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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比企谷八幡は2日連続でトラブルに遭遇する

「んっ……んんっ」

 

瞼に朝の日差しを受けたので薄っすらと目を開けると薄い白のカーテンの向こう側から朝日が部屋を明るくしていた。太陽を見ると普段起きる時に見る太陽より高く上がっているので寝坊したと思った。

 

今の時刻を確認しようと机の上にある時計を見ると……

 

「10時半……完全に寝坊したな……」

 

思わずため息を吐くと隣から寝息が聞こえたので横を見ると……

 

「んんっ……はち、まん、くん……キス、して……」

 

俺の右隣にて紫色の髪を持つ少女ーーー俺の恋人の1人であるシルヴィが一糸纏わぬ姿で寝息を立てて寝ていた。見る限り起きる気配はない。

 

(まあ昨日は2時過ぎまで起きていたからな……)

 

シルヴィの奴、俺が干涸びるまで搾り取ってきたからな。こりゃ暫く起きなそうだ。

 

「やれやれ……はいよ」

 

ちゅっ……

 

俺は苦笑しながらシルヴィの要求通りに唇にキスを落とす。するとシルヴィは口元をふにゃりと緩める。マジで可愛過ぎだろ?

 

俺は幸せな気分になりながらも反対側を見ると……

 

「オーフェリアは……やっぱり居ないな」

 

誰も居なかった。オーフェリアの奴、俺がシルヴィに搾り取られている時に「邪魔しちゃ悪いから違う部屋で寝るわ」とか言って逃げたが、「騒がしくて眠れないから違う部屋で寝るわ」の間違いだろ?

 

内心呆れながらも俺はベッドから降りて下着をはいて、クローゼットにある制服を取り出したのだった。

 

 

 

 

 

 

「……おはよう、八幡」

 

そして俺がリビングに行くと、当のオーフェリアはコーヒーを飲みながら雑誌を読んでいた。

 

それを見た俺は昨日見捨てた事に対して一瞬イラっとしたが……

 

(ここで責めるのは止めよう。元はと言えばラッキースケベを起こした俺が悪いんだし、責めたら間違いなくオーフェリアは自分を責めまくるのが目に見えるし)

 

そう判断した俺は怒りを消してオーフェリアに話しかける。

「おはようオーフェリア。お前はいつ頃起きたんだ?」

 

「……私は1時間半位前よ。朝食は作ってあるからレンジで温めて食べて」

 

オーフェリアが指差した方向を見ると鮭の切り身や味噌汁があった。わざわざ手間のかかる物を作ってくれるとはな……

 

「本当にお前は良い嫁になりそうだな」

 

そうなったら最高だろう。俺が仕事から帰った際、エプロン姿のオーフェリアとシルヴィが迎えてキスをしてきたら疲れは一瞬で吹き飛ぶだろうな。

 

「……バカ」

 

オーフェリアは頬を染めてそっぽを向く。本当に可愛い。今直ぐハグして甘やかしたい位だ。まあそれをやったら数時間経過してしまうので止めておこう。

 

そう思いながら俺はオーフェリアの作った料理をレンジで温め、チンと鳴ったらレンジから取り出してテーブルの上に置いて食べ始める。

 

「……そういえば八幡。さっき美奈兎達から連絡があって暇ならチーム・ランスロットの試合を観に行かないかと誘いが来ているわよ」

 

未だに若干頬を染めているオーフェリアがそんな事を言ってくる。まあ元々今日はチーム・ランスロットの試合を観に行くつもりだった。そう考えると若宮達と行くのは合理的だろう。あいつらにとっても超えるべき存在なのだから。

 

(今は11時前でチーム・ランスロットの試合は1時半ぐらい……シルヴィが起きるかどうかだな)

 

返事に悩んでいると、後ろからドアの開く音がしたので振り向くと、シルヴィが目を擦りながらこちらにやって来る。

 

「ふぁぁぁ〜……おはよう、八幡君、オーフェリア」

 

「おはよう」

 

「……おはよう。随分と眠そうね」

 

「あはは……久しぶりだったからつい、ね……」

 

シルヴィは苦笑しながらそう言ってくる。確かに久しぶりだったからか、いつもより激しかったのは否定しない。おかげで俺もメチャクチャ腰が痛いし。

 

「……そう。まあ良いんじゃないかしら。それよりシルヴィア、八幡にも言ったのだけど、さっき美奈兎達から連絡があって暇ならチーム・ランスロットの試合を観に行かないかと言われたけどどうする?」

 

「私は行こうかな。アーネストに会うのも久しぶりだし、時間があったら挨拶くらいはしとかないと、ね」

 

「ん?開会式で一緒に並んでいた時に挨拶しなかったのか?」

 

星武祭の開会式と閉会式では必ず各学園の生徒会長が揃う。その際に挨拶の1つや2つしてもおかしくないと思う。

 

「あー、アレって一応一緒に居たけど、殆ど話してないんだよ。特にアーネストがいるガラードワースの生徒会はクインヴェールと違ってお飾りじゃないから開会式が終わったら直ぐに仕事で居なくなっちゃったしね」

 

「なるほどな……そういう事なら俺も構わないし、若宮達に了承の返事をしておくか」

 

「……私がしておくわ。八幡とシルヴィアは朝食を食べていて良いわ」

 

「ありがとうオーフェリア。遠慮なくご馳走になるね」

 

「……どういたしまして」

 

シルヴィは見る者全てを魅了する笑みを浮かべてからキッチンに向かう。対するオーフェリアは僅かに頬を染めながら返事を返す。

 

(うん、やっぱり昔に比べてオーフェリアも感情を出すようになって良かったな)

 

俺はそんな事を考えて幸せな気分になりながらオーフェリアの愛情の篭った朝食を食べるのを再開した。

 

 

 

 

 

「んー、今日は良い天気だなー」

 

「ああ。本当に良い天気だな。眠くなかったらもっと良い気分になるのにな」

 

「そ、そこは言わないでよ。私もやり過ぎだって反省しているんだから」

 

朝食を食べた俺は2人と一緒にシリウスドームに向かって歩き出す。辺りを見渡すと中央区には殆ど人が居ない。それはそうだろう。俺達ら寝坊したが殆どの人は今頃各ステージにて試合を見ている筈だ。

 

「悪かったよ……っと、着いたな。オーフェリア、集合場所は何処だ?」

 

言いながらシリウスドームの第3ゲート前に着いたので若宮と連絡を取り合ったオーフェリアに話しかける。

 

「第3ゲート近い売店の横よ」

 

「サンキュー」

 

礼を言いながら第3ゲートをくぐり暫く歩くと………

 

「……レヴォ……傷が……ますよ?」

 

「……せんわ!……さんは……ルフですが……ですわ!」

 

離れた所から揉めているような声が聞こえてきたので早足になると……

 

 

「……おい。これはどういう状況だ」

 

チーム・赫夜のメンバーとチーム・トリスタン及びガラードワースの生徒が向かい合っていて、フェアクロフ先輩とチーム・トリスタンのリーダーのエリオット・フォースターが睨み合っていた。

 

呆れるようにため息を吐くと両サイドの人間がこちらに目を向けてくる。しかし向ける視線は対称的だった。赫夜のメンバーは安堵の表情を浮かべ、ガラードワースの人間は睨んでくる。まあレヴォルフの俺とオーフェリアが居るなら当然の反応だ。

 

(てか、何で葉山も居るんだよ……?チーム・ランスロットの応援だろうが面倒だな……)

 

内心ため息を吐きながらも俺はガラードワースの面々をシカトして1番話が通りそうなフロックハートに話しかける。

 

「フロックハート、これはどういう状況だ?」

 

まさかとは思うが昨日に続いて他所のチームと揉めてるのか?だとしたらマズい。昨日は見逃して貰えたが2日続けて他所のチームと揉めてるのがバレたら失格になる可能性もあるだろう。

 

「それがね……」

 

フロックハートがため息を吐いて説明を始める。曰く売店の横で待っていたらチーム・ランスロットを除いたガラードワースの面々と鉢合わせ。そん時に貴族同士で知り合いらしいフェアクロフ先輩とフォースターが挨拶をしたのだが……

 

「エリオット・フォースターがフェアクロフ家の人間がレヴォルフの人間と連んだら家の品が落ちると言ったら、ソフィア先輩が八幡達はレヴォルフの生徒でも優しいから撤回しろと揉め出したのよ」

 

「なるほどな……とりあえずフェアクロフ先輩。俺は別に怒ってないのでお気になさらず」

 

レヴォルフが屑の巣窟なのは厳然たる事実だからな。

 

「私が気にしていますの!私達がここまで強くなれたのは紛れもなく八幡さん達のおかげですのに……!」

 

言いながらフェアクロフ先輩はフォースターを睨むが、当のフォースターは何処と吹く風だ。

 

「僕は事実を言っただけです。それの何処が悪いんですか?いくら強くなれても品のない人間と連んで家の名を汚しては本末転倒でしょう?」

 

そう言って俺を睨む。歳下の癖に失礼な奴だな。ここまで言われたら多少言い返してもバチは当たらないだろう。

 

(てかこれ以上言わせたらオーフェリアがキレそうだし)

 

チラッとオーフェリアを見れば……

 

「…………」

 

既にブチ切れる寸前だ。ここで俺が言い返さないとマズい事になる。

 

「八幡さんの事を何も知らずに敵意を「落ち着いてください」八幡さん?」

 

再度フォースターに文句を言おうとしたフェアクロフ先輩を手で制する。そして俺は口を開き……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼が俺に敵意を向けるのは当然ですよ。何せ彼は去年の鳳凰星武祭で俺の妹に無様に負けたんですから」

 

オーフェリアの怒りが雲散霧消する位容赦ない挑発をぶちかました。

 

「なっ?!」

 

それを聞いたフォースターは驚きと怒りの混じった顔を浮かべるが俺は無視して更に口を開ける。

 

「加えて大した実力もないのにチーム・トリスタンのリーダーとし大任を任されり、獅鷲星武祭以降弱いながらもフェアクロフさんの後を継いでガラードワースの弱体化をどう避けるべきかと内心穏やかじゃないんですよ?その辺りをわかってやってください」

 

「え、ええと……」

 

俺がフェアクロフ先輩にそう言うとフェアクロフ先輩はしどろもどろな口調になる。まあいきなり話を振られたらそうなるよな。

 

「……随分と言ってくれますね」

 

そんな声が聞こえたので振り向くとフォースターが鋭い目を向けている。目には明らかに殺気が篭っている。しかし俺は気にせずに口を開ける。

 

「俺は事実を言っただけだぜ。お前が小町に負けたのも、お前が弱いのも、フェアクロフさん達チーム・ランスロットが引退した後ガラードワースが弱くなるのも事実じゃないのか?」

 

実際フォースターはアスタリスク全体からすれば強いかもしれないが、俺やオーフェリア、シルヴィや星露からしたら弱いだろう。

 

ついでに言うと獅鷲星武祭が終わるとチーム・ランスロットの内、5位のガードナーを除いてフェアクロフさんとブランシャールとケヴィンさんとライオネルさんの4人は引退する。世間では以降のガラードワースは弱くなると言われているが間違いないだろう。

 

「くっ……!」

 

それはフォースターもわかっているようで苦い顔を浮かべて俯く。同時に俺はオーフェリアを見ると大分落ち着いていた。少なくともブチ切れる事はないと思う。

 

(まあガラードワースの面々はブチ切れそうだけどな)

 

前を向くと大半のガラードワースの人間が俺を睨んでいる。特に葉山とか。お前アレだけオーフェリアに失禁されたのに懲りてないのかよ?

 

「まあそんな訳だ。俺が品のない人間なのもお前が雑魚なのも事実なんだしここらで「比企谷、少し黙れよ」……いきなりだな」

 

「隼人?!」

 

「比企谷君?!」

 

葉山が唐突に俺の胸倉を掴んで壁に叩きつけてくる。それによって三浦と若宮が叫ぶ。そしてチラッと横を見ると変装したシルヴィがブチ切れているオーフェリアを羽交い締めしている。

 

「相変わらずだな葉山。先に喧嘩を売ったのは向こうなのに、俺が挑発を返すとキれる……文化祭でもそうだったが、俺だけを悪とするのは止めてくれないか?」

 

「黙れよ……あんなやり方をしておいて何を……!」

 

今になって考えてみれば文化祭にて、挑発した俺も悪いが元はと言えば実行委員長としてマトモに動かなかった相模が1番悪い。にもかかわらず文化祭以降、相模は全く咎められなかった。アレは明らかに葉山の影響もあってだろう。本当に迷惑な奴だな。

 

しかし今は問題ない。普通の学校ならともかく、ここはアスタリスク。葉山のように顔が良いだけの奴では周りに影響を与えるのは無理だろう。

 

てか……

 

「ところで葉山。さっきから通行人が見てるが良いのか?」

 

「……っ!」

 

そこで葉山は周りの状況に気が付いたようだ。辺りを見渡せば観客が信じられないモノを見るような目で見ていた。まあ事情を知らない人間からすれば『秩序を重んじるガラードワースの生徒が素行に悪いレヴォルフの生徒の胸倉を掴んで壁に叩きつけている状況』だからな。

 

それによって葉山は慌てて手を離す。まあ予想内だ。こいつは自分が大切だろうしな。世間からの目を気にしてそうだし。

 

「……まあ良い。とりあえず俺の意見に異論反論があるなら聞くぜ……王竜星武祭のステージで」

 

俺は最後にガラードワースの面々にそう言ってから息を吐いて連れの7人を見る。

 

「行くぞ。もう直ぐランスロットの試合が始まるしデータ収集をしろよ」

 

そう言って俺が観客席に向かって歩き出す。チラッと後ろを見ると恋人2人と赫夜の5人は顔を見合わせてから俺に付いてきた。

 

ガラードワースの面々は誰も止めようとしなかったが、まさか2日連続で面倒な事が続くとはな……まあ今日は半分は俺の所為だけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「比企谷……王竜星武祭で見てろよ。お前を倒してお前が間違っている事を教えてやる」




諸事情により明日明後日は投稿出来ませんがよろしくお願いします

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