学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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いよいよ抽選会が行われる

獅鷲星武祭8日目……

 

「じゃあ八幡君、オーフェリア。私は抽選以外にも仕事があるからもう行くね」

 

今日は選手にとっては完全休養日であり、生徒会長にとっては大事な大事な抽選会の日である。朝食を食べたシルヴィは俺とオーフェリアにそう言ってくる。

 

「ああ。気をつけてな」

 

「……頑張って」

 

俺とオーフェリアはシルヴィに応援の声をかける。一緒に行きたいのは山々だが、俺達は一般(?)生徒だし、シルヴィとの関係がバレたら面倒なので抽選会は若宮達チーム・赫夜と一緒に行く事になっている。

 

「うん。じゃあ……」

 

言うなりシルヴィは俺の方に近付き……

 

ちゅっ……

 

俺の唇にそっとキスを落とす。そして俺に蕩けた笑みを見せてからオーフェリアの方を向き……

 

「んっ……」

 

オーフェリアの唇にもそっとキスを落とす。最近になってシルヴィは挨拶のキスをオーフェリアにもするようになったのだ。まあ俺としては眼福だし、オーフェリアも嫌がらずにシルヴィのキスを受け入れているから問題ないだろう。

 

「行ってきます」

 

シルヴィは俺達に挨拶をして家から出て行った。同時に胸の内に寂しい感情が浮かび上がる。仕方ないとはいえ離れ離れになるのは寂しい。俺は日が経つにつれてオーフェリアとシルヴィを好きになっているので、離れ離れは嫌だ。だから結婚したら行動をする時は3人一緒に行動するつもりだ。

 

「さて……俺達が若宮達と合流するまでまだ時間はあるし、どうする?」

 

朝食の食卓に並ぶパンを食べてオーフェリアに尋ねると、オーフェリアは可愛らしく首を傾げる。たったそれだけの仕草なのにメロメロになってしまうとは、やっぱりオーフェリアは色々な意味で恐ろしいな。

 

「八幡と一緒なら何でも良いわ」

 

「奇遇だな。俺も同じ考えだ」

 

ぶっちゃけオーフェリアとシルヴィが居れば娯楽は必要としない。極論すれば2人と一緒にいるだけで幸せだし。

 

それはオーフェリアも同じ気持ちのようだ。しかしそうなった場合、どうすれば良いのやら……?

 

内心悩んでいるとオーフェリアが口を開ける。

 

「……じゃあ八幡、美奈兎達と会うまで八幡の膝の上に乗って良いかしら?」

 

オーフェリアがほんのりと頬を染めながらおねだりをしてくる。それに対する返事は……

 

「もちろん」

 

了承以外の返事は存在しない。俺はオーフェリアとシルヴィに甘えられるのが世界で一番の楽しみだからな。

 

「ありがとう……じゃあ」

 

言うなりオーフェリアは自分の席から立ち上がり、俺の方に寄ってきて……

 

「んっ……」

 

そのまま俺の膝の上に乗ってくる。オーフェリアの顔は俺の方を向いていて、両手が俺の背中に回された事によりオーフェリアの顔が近付き、キス寸前までお互いの顔を近付け合った。

 

「どうだ?乗り心地が悪いとか不満はあるか?」

 

「……まさか。八幡の膝の上の乗り心地が悪いわけないじゃない……んっ」

 

言いながらオーフェリアは俺の背中に回した腕の力を強めて、更に距離を詰めてから頬にキスを落としてくる。

 

「なら良かった……オーフェリア」

 

「何かしら?」

 

「改めて言うが……俺を好きになってくれてありがとな」

 

マジでこれに尽きる。オーフェリアとシルヴィを彼女にしてから毎日が楽しい。一緒に飯を食ったり、散歩をしたり、テレビを見たり、風呂に入ったり、一緒に寝たり、身体を重ねたりと色々やっているが、その全てが楽しくて仕方ない。

 

アスタリスクに来る前の俺はダラダラする事が幸せだったが、今考えるとアレは非生産的だ。

 

俺がそう返すとオーフェリアはキョトンとした表情を浮かべるが、それも一瞬で……

 

「……私の方こそ八幡にはお礼を言いたいわ。全てに絶望した私に改めて楽しい気持ちを教えてくれたり、自由にしてくれたり、思い切り甘えさせてくれてありがとう」

 

俺がアスタリスクに来た頃には想像出来ないくらい、可愛らしい笑顔を見せて俺の頬に頬ずりをしてくる。頬に柔らかい感触が伝わり、それが擦れる事で非常に気持ちが良い。

 

「どういましたして。それにしても今のお前は猫みたいだな」

 

膝の上に乗って甘えてくる、今のオーフェリアは漫画でよく見る主人に懐く猫みたいだ。

 

すると……

 

 

 

 

 

 

「猫…………にゃあ?」

 

(がはあっ?!)

 

オーフェリアは首を傾げてにゃあと鳴く。は、破壊力がヤバ過ぎる……!ここにシルヴィがいたらアイツは間違いなくオーフェリアを押し倒しているだろう。しかも狙ってやっているようではなく、全然あざとさを感じない。まさに最強だ。

 

「オーフェリア、もう一回頼む」

 

思わず頼んでしまった俺は悪くないだろう。今のオーフェリアを見て興奮しない男は居ないと断言出来る。まあこんな可愛いオーフェリアを他の男に見せるつもりはないけど。

 

「にゃあ」

 

するとオーフェリアは再度鳴いてくれる。ダメだ、幸せ過ぎて死んでしまうかもしれん。

 

(……いや、これをシルヴィに見せるまで死ぬわけにはいかないな)

 

そんなアホな事を考えながら俺はオーフェリアの顎に手を添えて優しく撫でると

 

「あっ……」

 

オーフェリアはくすぐった身を捩りながらエロい吐息を漏らしてくる。マジで可愛過ぎだろ?

 

内心癒されながら俺はオーフェリアをギュッと抱きしめる。するとオーフェリアは張り合うかのように抱き返してくる。

 

 

 

その後、結局俺達は出発時間までずっと抱き合っていて他には何もしてないが、とても充実した時間だった。

 

 

 

 

 

 

 

それから30分後……

 

「にしても相変わらずお偉いさんの話はつまらないな……」

 

「お決まりだから仕方ないわよ。観客も終盤の抽選会以外は興味がないでしょうね」

 

シリウスドームの廊下にて、ステージを見ながらオーフェリアと話し合う。ステージではお偉いさんのクソつまらない話が流れている。

 

俺達は若宮と集合するべくシリウスドームの廊下を歩いている。本来ならクインヴェール専用の観戦室に行きたいが、若宮曰くルサールカやチーム・メルヴェイユなどの他のチームがいるらしいので普通の観客席に集合することにした。

 

俺とオーフェリアがチーム・赫夜に協力しているのは有名だが、だからと言って色々聞かれるのは面倒だからな。

 

暫く廊下を歩いていると……

 

「むう、八幡にオーフェリアではないか」

 

後ろから幼女の声が聞こえてくる。俺を名前呼びする幼女なんて1人しか思いつかない。

 

振り向くと……

 

「星露か。久しぶりだな」

 

見れば界龍の序列1位にしてアスタリスク最強と評される范星露がいた。一応週に一度俺に稽古をつけてくれる人でもある。

 

「うむ。獅鷲星武祭が始まってからは儂も忙しくてのう」

 

「そりゃ生徒会長だから仕方ないだろ。つーかお前、生徒会長なのに来るのが遅くね?」

 

「……そうね。シルヴィアは1時間近く前にシリウスドームに着いたわよ」

 

まだ抽選会が始まっていないとはいえ、今の時間に生徒会長が来るのは遅いと思われる。

 

「生憎と儂はつまらない話に付き合う趣味はないのじゃ」

 

だろうな。楽しい事を最優先にするこいつがお偉いさんの話に興味があるとは思えない。

 

「ところで八幡よ。実はお主に頼みがあるのじゃが良いか?」

 

頼みだと?こいつの頼みって時点で嫌な予感しかしない。本気で戦えってか?

 

「内容次第だな」

 

とりあえずそう返すと星露は頷いて口を開ける。

 

「うむ。実はのうーーー」

 

 

 

 

 

 

 

「と、いう感じじゃ。お主を鍛えた授業料としてお主も参加して欲しいのじゃよ。予定としてはアレマ辺りにも声をかけるが、色々な人間をぶつけた方が面白そうじゃしのう」

 

星露の言った内容はとんでもない内容だった。

 

簡単に言うと星露は次の王竜星武祭に向けて他所の学園の生徒を鍛える腹だ。

 

何でも若宮達を鍛えた際に玉石混交で言う玉ではなく石でも場合によっては玉に匹敵する場合もあり得ることを理解したらしい。

 

それを奇石と言うなら、星露はその奇石を磨きたくて俺をアシスタントとして雇いたいとのことだ。

 

予想外にぶっ飛んだ内容に俺もオーフェリアも絶句してしまう。マジでイかれてやがる……!

 

星露の目的は簡単に理解出来る。鍛えた後に食べるつもりなのだろう。俺に対してもしょっちゅう良い匂いを放つとか、成長したお主を食べたいとか言ってるし。

 

しかし……

 

「それ界龍から煩く言われんじゃね?噂じゃ俺を鍛えている時点で界龍は良い顔をしてないだろ?」

 

以前このバトルジャンキーは自分の弟子達や雪ノ下の母親ーーー統合企業財体の幹部の前で俺を鍛えている事を暴露したが、アレは間違いなく界龍にとっては頭の痛い話だろう。

 

しかし……

 

「そんなものは知らんのう。儂は万有天羅。ただ楽しむだけ動くだけ、それに水を差すのは何人たりとも許さんのじゃ」

 

星露は一蹴する。つくづく万有天羅の称号がデタラメである事を理解する。

 

「……とりあえず話はわかった。授業料として要求するなら俺は構わない」

 

俺は1週間に一度星露に鍛えて貰い実力を大きく伸ばしたので、授業料と言われたら逆らえないのが痛い。

 

ついでに言うと星露は王竜星武祭に向けてと言っていたし、有力選手のデータ収集も出来るかもしれない。

 

「そうかそうか。これはますます楽しみになってきたのう!」

 

年相応の笑顔を浮かべる星露だが、やってることはぶっ飛んでんだよなぁ……

 

そこまで考えている時だった。

 

『師父!何処にいるのですか?!もう直ぐ抽選会が始まりますので急いでください!』

 

唐突に星露の正面に空間ウィンドウが開きチーム・黄龍の1人である趙虎峰の焦った表情が見える。

 

「おお、もうそんな時間かえ、直ぐに向かうから少々待っておれ」

 

『頼みますよ?絶対ですからね?』

 

虎峰は何度も念押ししながら空間ウィンドウを閉じる。やはり奴からは苦労人の匂いがするな……

 

「やれやれ……では儂はこれで失礼するのじゃ」

 

そう言って星露は走り去って行った。戦う時は地響きを立てる位激しく動くのに、こんな場面で可愛らしく走っているのが意外だった。

 

「……相変わらずぶっ飛んだ奴だな」

 

「そうね……それより八幡は本当に彼女がアシスタントをするの?」

 

「一応考えているな。そいつらが王竜星武祭に出るなら対策になるし」

 

「……まあ八幡が嫌じゃないなら私はどうこう言わないわ。ただ無茶はしないで」

言いながらオーフェリアは優しく手を握ってくる。しかし表情は不安に満ち溢れている。恐らくオーフェリアは俺が腕を斬り落とされた事を思い出したのだろう。

 

それを認識すると俺自身もあの時の出来事ーーーオーフェリアとシルヴィがガチ泣きしている光景を思い出す。

 

(最悪の記憶だな……)

 

アレはマジで最悪だった。何せ腕を斬り落とされた時に感じた痛みより、2人の涙を見た時に心に感じた痛みの方が強かったくらいだし。

 

次からは気をつけないといけない。そう強く決心しながらオーフェリアの手を引っ張って歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、来た来た!遅いよー!」

 

集合場所に向かうとチーム・赫夜の5人が居て、若宮は頬を膨らませながら手を振ってくる。

 

「悪い悪い。実はさっき星露に捕まってな」

 

「星露ちゃん?何かあったの?」

 

「ああ、実は……」

 

俺はさっき星露と話した内容ーーー星露が王竜星武祭に向けて他校の有力な選手を育てる際にアシスタントをしてくれと頼まれた事を説明する。

 

同時に赫夜の5人は……

 

「それが彼女の言っていた面白い計画みたいね……」

 

フロックハートが呆れ全開の表情でため息を吐くと、フロックハート以外の4人も頷く。フロックハートの会話の内容から察するに、大分前にチーム・赫夜達にも計画を示唆していたようだ。

 

「まあな。ちなみにお前らーーー若宮かアッヘンヴァルは王竜星武祭に出るのか?」

 

若宮とアッヘンヴァルに話しかける。尚、フロックハートと蓮城寺は後方支援タイプでタイマンだと弱いし、フェアクロフ先輩は既に王竜星武祭に2度出ていて今回の獅鷲星武祭がラストの大会だから王竜星武祭には出ないだろう。

 

「私は出るかも。比企谷君やシルヴィアさんがいるから優勝は厳しいかもしれないけど、どこまで成長したか見てみたいし」

 

「わ、私はまだ決めてない……」

 

「まあゆっくり決めれば良いでしょ。そういえばオーフェリア、貴方は『悪辣の王』の所有物じゃなくなったけど、王竜星武祭には出るの?クインヴェールの諜報員として知っておきたいわ」

 

フロックハートがそんな事をハッキリと聞いてくる。対するオーフェリアの返事は……

 

「……私は多分出ないわ。三連覇には興味ないし、八幡の恋人になった以上叶えたい願いはないわ」

 

言いながらオーフェリアは俺の腕に抱きついてくる。同時にフロックハートはため息を吐き、他の4人は苦笑を浮かべるがいつもの光景なので気にしない。

 

「そうなの?それなら次の王竜星武祭は別の意味で荒れそうね」

 

「だろうな。オーフェリアが出ない以上全ての学園が優勝を狙いに行くだろう」

 

フロックハートの言っている事は正しい。オーフェリアが自由にならなかったら『オーフェリアが三連覇するか、他の人が全力でそれを阻止する』大会となるが、オーフェリアが参加しない場合『大本命が居らず優勝する確率が上がるので各学園が大量に有力な選手を注ぎ込む』大会となる。

 

それはそれでかなり荒れるだろう。何せ強い選手の中には『優勝して願いを叶える為にオーフェリアに勝てないからと違う大会に出る選手』や『オーフェリアが卒業してから王竜星武祭に出る選手』もいる。しかしそれらの選手はオーフェリアが出ないと知ったら王竜星武祭に出る可能性も高い。

 

 

「え?オーフェリアちゃんが出ないなら比企谷君やシルヴィアさんが優勝する可能性が高いんじゃない?」

 

「そうでもねぇよ。オーフェリアが居なくてもヤバい連中はゴロゴロ出てくるぞ。ウチからはロドルフォ、界龍からは暁彗に梅小路が出るらしいし、後アルルカントからは新しい擬形体が出るって噂だ」

 

まあアルルカントの新型は噂だから絶対ではないが、材木座からは奴の上司のカミラ・パレードがリムシィを王竜星武祭に出すと聞いた。

 

他にも星導館からは天霧やリースフェルトや紗々宮が出てくる可能性もあるし、クインヴェールからはシルヴィやネイトネフェル、お袋に鍛えられた猛者が出てくるだろう。

 

結局のところ、王竜星武祭はオーフェリアみたいな絶対的な強者でない限り優勝するのは困難なのだ。

 

「俺としちゃ優勝候補が適当に潰し合ってくれると助か『それではこれより明日以降の本戦の組み合わせを決める抽選会を開始いたします』……っと、いよいよだな」

 

雑談をしていたらそんな時間になっていたので俺は話を切り上げる。同時に若宮達と一緒にステージを見るとステージには6人の生徒会長が揃っていた。当たり前だが、その中にシルヴィも居る。

 

 

さてさて、変な組み合わせにならなければ良いがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

『聖ガラードワース学園、チーム・ランスロット、1番』

 

アナウンスが流れると同時に会場が沸く。当然の帰結だ。優勝候補筆頭のチームが何処に配置されるのか決まったのだから。

 

現在俺は恋人の1人であるオーフェリアと、もう1人の恋人のシルヴィの紹介で知り合ったチーム・赫夜の5人と一緒に獅鷲星武祭本戦の組み合わせを決める抽選会を見ている。

 

そして今さっき抽選会が始まり前シーズンで総合優勝をしたガラードワースの会長のフェアクロフさんが自分の所属するチームのクジを引いたのだ。

 

ステージの上にある電光板を見ると1から32の数字が表記れたトーナメント表があって、1番左ーーー1番と記された場所にチーム・ランスロットの名前が表示される。

 

「ランスロットは1番か……となるとチーム・エンフィールドとチーム・黄龍が2番か3番か4番を引いてくれたら最高だな」

 

「あり得ないけど、万が一そうなったら優勝出来るかもしれないわね」

 

俺の意見に対してフロックハートはため息を吐きながら同意して他の面々も同意する。

 

もしも俺の言った事が実現してチーム・エンフィールドが2番、チーム・黄龍が3番や4番を引いたら優勝候補トップ3が本戦早々に潰し合う展開となる。そうなれば3チームの内何処が勝ち上がっても若宮達が優勝出来る確率は大幅に上がるだろう。まあそんな都合の良い展開はないと思うが。

 

そんなにを考えながらステージを見ると、いつの間にか界龍の番になっていて……

 

 

 

 

『界龍第七学院、チーム・黄龍、32番』

 

1番右ーーーチーム・ランスロットとは真逆の位置にチーム・黄龍の名前が表示される。それはつまりチーム・黄龍がチーム・ランスロットと当たるとしたら決勝という事を意味して……

 

「……決勝に上がるにはチーム・ランスロットかチーム・黄龍に勝たないといけない」

フロックハートの悔しそうな声が空気を重くする。こうなった以上シルヴィが何処を引いても、最低で準決勝で優勝候補と当たることを意味する。いずれ当たるのはわかっていたが、改めてトーナメントに名前が埋まっていくと来るモノがあるな。

 

とはいえ……

 

(全員多少は恐れてはいても戦意は失ってないから大丈夫だろうな)

 

見れば5人とも気圧されてはいるものの目は死んでいない。真剣な表情でトーナメント表を食い入るように見ている。どうやらしごかれている間に戦闘力だけでなくメンタルも鍛えられてんな。これなら優勝候補チームと戦う際にプレッシャーに潰されて何も出来ずに負ける、とかはまずないだろう。

内心感心していると星露が界龍のクジを引き終える。それにしても……まだ6学園中3学園がクジを引き終えているが、もう半分以上埋まっている。

 

本戦に出場するチームは全部で32チームだが、獅鷲星武祭に強いガラードワースと、どの星武祭でも安定した結果を出す界龍は相当優秀だ。

 

何せガラードワースは10チーム、界龍は9チームも本戦に出場しているのだ。他の4学園はアルルカントは4チーム、レヴォルフは2チーム、星導館が3チーム、クインヴェールが4チームである事からその凄さは嫌でも理解出来る。

 

まあ強いチームが多いかと聞かれたら微妙だが。少なくともガラードワースのチームでチーム・赫夜に勝てるのはチーム・ランスロットとチーム・トリスタンぐらいだろうし。

 

そんな事をノンビリと考えながらステージを見るとディルクが初日に若宮達と問題を引き起こしたチーム・ヘリオンのクジを引いて25の番号を引くと、エンフィールドがディルクと入れ替わって壇上に上がりクジを引く。さあ、どうなるか……

 

ステージに沈黙が続く中……

 

『星導館学園、チーム・エンフィールド、17番』

 

チーム・エンフィールドの文字が17番に表示される。つまりチーム・黄龍とは当たるとしたら準決勝で当たる事になる。

 

そんな中、エンフィールドは他の2チームのクジを引き壇上から降りる。いよいよ最後、クインヴェールの生徒会長のシルヴィがクジを引くが……

 

「シルヴィが23番を引いたら優勝は無理だろうな」

 

「でしょうね」

 

俺の独り言にフロックハートが頷き、オーフェリアや若宮達も頷く。現在28チームのクジを引き終えて残っている番号は6と15と16と23だ。

 

6を引いたら準々決勝でチーム・ランスロットと当たり、15か16を引いたら本戦1回戦で同じクインヴェールのチームと当たり準決勝でチーム・ランスロットと当たるが、23を引いた場合……

 

「準々決勝でチーム・エンフィールドと、準決勝でチーム・黄龍……そして決勝まで上がってくると思われるチーム・ランスロットの3連戦……確かに八幡さんの言う通りですわね」

 

フェアクロフ先輩の言う通りだ。23を引いたら準々決勝以降優勝候補3連戦という地獄が待っている。これについては本気で優勝を目指している赫夜のメンバーも認めてしまっているが仕方ないだろう。

 

チーム・赫夜にとっては、シルヴィがチーム・赫夜のクジを15か16の番号を、ルサールカが23を引いて、チーム・メルヴェイユが6を引けば最高の結果だろう。

 

クインヴェールから本戦に出場する4チームの内1チームはそこまで強くないチーム。そのチームが15を、チーム・赫夜が16を引けば本戦1回戦でそのチームと当たりチーム・赫夜が勝つだろう。以降は準決勝まで優勝候補とは当たらずに済む。てか23を引かなければ大丈夫だ。

 

ステージを見るとシルヴィがルサールカのクジを引き……

 

『クインヴェール女学院、チーム・ルサールカ、23番』

 

良し、最悪の事態は免れたな。ルサールカが準々決勝でチーム・エンフィールドを倒してくれたら尚ありがたい。ルサールカの持つ純星煌式武装なら可能性も充分あり得るし。

 

内心ヒヤヒヤしながらもステージを見るとシルヴィが次のクジを引き……

 

『クインヴェール女学院、チーム・赫夜、15番』

 

チーム・赫夜の名前が15番と表示された場所に記される。これで後2チーム。

 

「これでチーム・メルヴェイユが6番なら準決勝まで優勝候補筆頭クラスチームとは当たらないな」

 

まあ準々決勝でチーム・トリスタンとは当たるが、チーム・ランスロットとかに比べたらずっとマシ『クインヴェール女学院、チーム・メルヴェイユ、16番』……やっぱそう都合良くはいかないか。

 

「1回戦からサンドラのチームと……?!」

 

アッヘンヴァルが驚きの声をあげる。そういやこいつ、鳳凰星武祭ではメルヴェイユのリーダーと組んで参加したんだったな。

 

その後チーム・赫夜は模擬戦でチーム・メルヴェイユと戦って勝ったが……

 

「わかってると思うが、明日戦う時はチーム・メルヴェイユは相当に燃えてるぞ」

 

「ですね。あの試合も、向こうがこちらを舐めていたから勝てた試合ですし」

 

俺の言葉に蓮城寺及び赫夜の4人が頷く。

 

前回はチーム・メルヴェイユのリーダーのサンドラ・セギュールがアッヘンヴァルを嬲ることを優先していて、隙が多かった勝てたのは間違いない。

 

そんな彼女からしたらあの試合は屈辱以外の何物でもなく、明日の試合では一切の慢心無く死に物狂いで挑んでくるだろう。

 

すると……

 

「……でも美奈兎達なら勝てる」

 

オーフェリアが小さい声で、それでありながら力の籠った声でそう呟く。その声は小さい声ながらも全員の耳に強く届いた。

 

俺としては他人に興味ないオーフェリアがそういうことを言うのが驚きであり嬉しくもあった。

 

「そうだよね!優勝を目指す以上勝たないと!」

 

若宮は希望に満ちた表情を浮かべながらもガッツポーズをする。こいつは本当に……以前49連敗をしたからか、何としても願いを叶えたいからか知らないが諦めるって言葉を知らないな。コイツはアレか?超高校級の希望ってヤツか?

 

「全く……美奈兎は相変わらずね」

 

「へ?何が?」

 

フロックハートの言葉に若宮は頭に疑問符を浮かべるも、俺を含めた他の5人も苦笑を浮かべてしまう。狙ってやっている訳ではないのにチームの士気を高めるのは相変わらずっちゃ相変わらずだ。

 

「気にすんな。それより抽選会も終わったしこれからどうする?明日に備えて軽くトレーニングでもするのか?」

 

「そのつもりね。私としては八幡に明日戦うサンドラのグレールネーフ対策の練習に付き合って欲しいわ」

 

グレールネーフはクインヴェールが所有する純星煌式武装で水を操る能力を持つ。その能力で水の龍を生み出して飛ばしたり、地面に水を広げてから相手を捕まえるなど多彩で、俺の能力に似ている。

 

だから俺がその様な戦法を使えばチーム・赫夜のメンバーはサンドラ・セギュールとの仮想戦闘が出来るという事だ。赫夜からしたら利用しない手はないだろう。

 

「別に構わないぞ。やるならさっさと行こうぜ。観客達に巻き込まれたら堪らないし」

 

既に抽選会は終わったので観客達も席から立ち上がっているか観客の群に呑まれたら面倒だ。赫夜のメンバーは本戦出場を決めていて有名だし。

 

俺がそう言うと全員が頷いたので立ち上がり観客席を後にする。そして廊下を早歩きで歩き、エレベーターがある場所に向かうと……

 

 

 

 

 

「ん?馬鹿息子に義理の娘に可愛い生徒達じゃん」

 

視線の先にはお袋がチーム・メルヴェイユの5人を連れて立っていた。向こうは一瞬キョトンとした顔を浮かべるも、警戒した表情を浮かべる。まあ予想の範囲内だ。

 

てか、お袋よ。抽選会の時でもジャージ姿で酒瓶を片手に持ってんのかよ……割と恥ずかしい。

 

「ようお袋。お袋はクインヴェールの観戦室で見ていたのか?」

 

「まあな。それにしても本戦1回戦から同校同士の潰し合いなんて最悪だぜ。勝ち上がれば勝ち上がる程特別手当が貰えるってのに……」

 

「いやお袋、星武祭2回優勝したんだし、金なんて腐る程あるだろ?」

 

「わかってねぇな馬鹿息子。金を稼ぐのは楽しいだろうが」

 

「生憎と金を使う事に愉悦を感じる事はあっても、金を稼ぐことに愉悦を感じる事はないんでな。まあ安心しろ。チーム・赫夜が優勝すればお袋の懐に大量の特別手当が入るから」

 

俺がそう口にすると空気が一段重くなる。当然だろう。それはつまり目の前にいるチーム・メルヴェイユに対して暗に『お前達は明日負ける』と言っているようなものだからな。

 

「本気でそんな事を思っているのかしら、『影の魔術師』?」

 

するとチーム・メルヴェイユのリーダーであるサンドラ・セギュールが一歩前に出てくる。表情には信じられないと言った色がありありと出ている。

 

「何がだよ?」

 

「百歩譲って私達に勝つ事が出来たとして……準決勝でチーム・ランスロット、決勝で上がってくるであろうチーム・エンフィールドかチーム・黄龍にチーム・赫夜が勝てると本気で思っているの?」

 

「俺は勝てると思ってるぜ。3パーセント位だけど」

 

可能性は低いが0ではないと思っている。俺の見立てじゃチーム・赫夜が優勝出来る確率は、5パーセント以上はあり得ないが1パーセントは超えていると思っている。

 

「随分と評価しているわね」

 

「何だかんだ半年近く面倒を見たからな」

 

まあ実際は1年近くだが、世間ではお袋がクインヴェールに就任して以降に面倒を見始めた事になっているから嘘を吐く。

 

「と言っても俺は選手じゃないし、試合前にどうこう言ってもガキの喧嘩だからな。若宮達が優勝出来るかどうかはお前ら自身が判断すれば良い」

 

「……そうね。まあ私達からしてもあの屈辱を晴らす良い機会だわ」

 

言いながらサンドラ・セギュールは視線を俺からチーム・赫夜の方に向ける。その目には怒りの色が混じっており慢心の色は一切ない。まあ勝てる試合で舐めプして負けたからなぁ……

 

「そうですわ!あの敗北の屈辱は1日たりとも忘れてなんていませんわ!明日は比企谷先生に何度も何度も地面に叩きつけられて強くなった私達の実力にビビらせて、完膚なきまでに叩き潰してやがりますわ!」

 

するとチーム・メルヴェイユの後衛担当の『崩弾の魔女』ヴァイオレット・ワインバーグが真っ赤になりながら目を吊り上げて若宮達を指差す。叩き潰してやがりますわって、本当にお嬢様なのかこいつ?

 

 

 

対してチーム・赫夜は……

 

「うん!よろしくね!私達も比企谷君に何百回もボコボコにされて強くなったから簡単には負けないよ!」

 

「ちょ……?!軽すぎじゃありませんの?!」

 

純粋な若宮が馬鹿正直にそう返すとワインバーグは拍子抜けした表情を浮かべる。1年付き合ってわかったが、若宮に皮肉は通用しないぞ?

 

そんな事を考えていると……

 

「ほれほれ。口喧嘩すんな。明日の試合に備えて最後のトレーニングをしろって頼んできたのに口喧嘩してどうすんだー?」

 

お袋が両手をパンパン叩きながらチーム・メルヴェイユに話しかける。

 

「そうですね。失礼しました。ではクインヴェールに戻りましょう」

 

サンドラ・セギュールがそう口にするとお袋が頷いてから若宮達を見てくる。

 

「って、訳で悪いねチーム・赫夜。今日はチーム・メルヴェイユが先に私を予約をしているんで、最後のトレーニングをするならそこの馬鹿息子を使ってトレーニングしてくれ」

 

カラカラ笑いながらお袋はチーム・メルヴェイユを連れて去って行った。ワインバーグだけは未だに喚きながら。

 

「やれやれ……そんじゃあ俺達はクインヴェールじゃなくて中央区のトレーニングジムでやるぞ」

 

クインヴェールは遠いし、本戦前に俺が見つかったら面倒極まりないからな。

 

俺がそう口にすると全員が頷いたので、俺達はお袋達が歩き去った反対方向に向かって歩き出す。

 

 

 

 

 

いよいよ明日から本戦が始まる。予選のようなお遊びみたいな戦いではなく正真正銘の激戦が。


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