学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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いよいよ本戦が始まる

「ほれほれ、1発も食らうなよー?」

 

言いながら俺は周囲に黒い龍を12体生み出して前方ーーー若宮に飛ばす。対する若宮は最初の2体をジャンプで躱して……

 

「”螺鉄”!」

 

空中で回転しながら次に来る3体の首を飛ばして……

 

「”転槌”!」

 

次に向かってきた3体の首に両肘を叩き込む。それによって7体の龍は戦闘不能になるが……

 

「うわぁっ!」

 

その体勢から守りに入るのは無理みたいで生き残った2体の龍が若宮に頭突きをぶちかます。それによって若宮は地面に倒れ伏すので……

 

「王手、記録は8体な」

 

残る4体の影の龍を若宮の首に突きつける。

 

「8体か……出来れば10体倒したかったなぁ……リザイン」

 

若宮は悔しそうにしながらも笑い、校章に手を当てて負けを認める。

 

『間もなくトレーニングステージ終了の時間です』

 

同時にそんな機械音声が聞こえたので俺は息を吐いて自身の能力を解除して若宮から離れると、オーフェリアがスポーツドリンクを2本持ってくる。

 

「……お疲れ様」

 

「サンキューオーフェリア」

 

「ありがとうオーフェリアちゃん!」

 

礼を言ってスポーツドリンクを一気飲みする。同時に体内にヒンヤリとした感触が生まれて心地よくなる。やはり運動後のスポーツドリンクは最高だ。

 

そこまで考えているとオーフェリアに続いて若宮以外のチーム・赫夜の4人もやってくる。

 

「美奈兎は8体だからソフィア先輩の10体が最高ね」

 

「ふふん」

 

フロックハートの言葉にフェアクロフ先輩がドヤ顔を浮かべて胸を張る。同時に豊満な膨らみがプルンと揺れるので目を逸らすと、オーフェリアがジト目で俺を見ていた。これについては不可抗力だから勘弁して欲しい。

 

「まあ戦闘向きじゃないフロックハートと蓮城寺も4体なら対抗出来たし、問題ないだろ」

 

チーム・赫夜は次の試合で戦うチーム・メルヴェイユのリーダーのサンドラ・セギュール対策として、俺を仮想サンドラとして対策を練っていたのだ。

 

サンドラ・セギュールの二つ名は水龍。純星煌式武装『グレールネール』の使い手で、二つ名からわかるように水の龍を武器として戦うスタイルだ。

 

だから俺がサンドラ・セギュールの記録を見て学習した後に、チーム・赫夜のメンバー1人ずつとサンドラ・セギュールのスタイルで相手をしたのだ。

 

影の龍を駆使して戦闘した結果、若宮は8体の龍を相手に出来てフェアクロフ先輩が10体、アッヘンヴァルが6体、影の龍を撃退出来た。

 

「そうね。データを見る限りサンドラ・セギュールが同時に操れる龍は最大で6体。前衛2人と遊撃手の3人なら問題ないでしょう」

 

ついでに言うと戦闘向きでないフロックハートと蓮城寺も4体までなら対処出来ている。これも鍛錬の賜物だろう。

 

「だな。さて……トレーニングステージの終了時間だし出るぞ。お前らは明日に備えてゆっくり休めよ?」

 

俺の見立てだとチーム・赫夜がチーム・メルヴェイユに勝つ確率は6割前後。可能性としては充分だが、赫夜のメンバーのコンディションが悪かったりしたら普通に可能性は下がるだろう。試合前の睡眠は大切だ。

 

『はい!』

 

全員が了承の返事をしたので、俺はスポーツドリンクを飲み干してから6人を連れてトレーニングステージを後にした。

 

 

 

 

 

 

若宮達と別れた俺とオーフェリアは自宅に向かって歩くこと10分、視界の先に我が家が見える。窓からは明かりがついているので、もう1人の恋人のシルヴィが家に帰っている事を意味している。

 

「早くシルヴィに会いてぇな……」

 

「……そうね」

 

オーフェリアも同じ意見だったようだ。可愛らしく頷いて足を速める。

 

そして俺達が家の前に着いたので鍵を開けると、奥の方からドタバタと足音が聞こえてきて……

 

「おかえり八幡君、オーフェリア」

 

シルヴィが可愛らしい笑顔を浮かべて俺達に抱きついてくる。同時に今日も無事に終わったと安堵の気持ちで一杯になった。やはりシルヴィはマジで癒しだな。

 

とりあえず先ずは……

 

「「ただいま」」

 

帰りの挨拶をしないと、な。

 

 

 

 

 

 

 

帰宅した俺達はシルヴィの愛情の篭った美味しい夕食を食べ、3人一緒に風呂に入り……

 

 

 

「ほれほれ。本当にオーフェリアは可愛いなぁ」

 

「うんうん。こちょこちょ〜」

 

「にゃぁ……にゃあ〜」

 

俺とシルヴィは猫と化したオーフェリアを思い切り可愛がっている。

 

ベッドの上で俺は猫耳をつけたオーフェリアの顎を撫でて、シルヴィはオーフェリアの脇をこちょこちょする。対するオーフェリアは顔を赤くして可愛く鳴いている。

 

夕食の最中に俺は朝のオーフェリアとのやり取りを話した結果、シルヴィは興奮して私もやりたいと言ってきたので風呂から上がってから1時間、俺とシルヴィは猫と化したオーフェリアを愛でまくっている。

 

対するオーフェリアも恥ずかしそうに身を捩るも俺達の愛撫に逆らわず、受け入れてくれるので嬉しく思う。

 

暫くの間、そんな時間を過ごしていると……

 

pipipi……

 

アラーム音が部屋に鳴り響く。同時にオーフェリアは顔を真っ赤にしながらも起き上がり……

 

「……時間よ。猫になる時間はここまでにしてもう寝ましょう」

 

言いながら布団をかける。気の所為か拗ねているように見える。それを見た俺とシルヴィは苦笑して……

 

「「ああ(うん)。おやすみ、オーフェリア」」

 

ちゅっ……

 

3人一緒にキスをしてオーフェリアに続いて布団をかけて、オーフェリアを抱きしめる。

 

「んっ……八幡、シルヴィア……」

 

いつのはオーフェリアとシルヴィが俺を挟んで抱きついてくるが、今回は俺とシルヴィの間にオーフェリアを挟んでいる。偶には並び方が違うのも悪くないだろう。

 

俺は幸せの気分のままオーフェリアを抱きしめ続けた。誰かの温もりがあるという事に対して幸せを感じながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

獅鷲星武祭9日目

 

いよいよ今日から本戦が始まる。本戦は予選と違って有力ペア同士が激突する。また使用ステージも予選と違ってシリウスドームを始めとした大型ステージのみなので観客のボルテージも上がるのも必然だ。

 

「相変わらずシリウスドームは糞混んでるな」

 

「仕方ないわよ。チーム・ランスロットやチーム・エンフィールドも同じシリウスドームで戦うんだから」

 

俺はオーフェリアと2人で廊下を歩いている。シルヴィは朝から仕事で早く家を出たが、試合は一緒に見る予定だ。

 

チーム・赫夜の本戦1回戦、つまり4回戦はシリウスドームで行われる。まあチーム・ランスロットやチーム・エンフィールドの前座だと思うが。チーム・赫夜が優勝出来る可能性を秘めているとはいえ新前である事には変わりないからな。

 

「試合までまだ少しだけ時間があるし、弁当でも買っとこうぜ」

 

「そうだね。じゃあ……ん?」

 

「どうしたオーフェリア?」

 

「アレ……」

 

アレ?オーフェリアが指差した方向には……

 

(お袋にガラードワースの面々?てかお袋は葉山に何をやってんだ?)

 

俺のお袋が葉山に話しかけていた。見れば葉山は顔を青くしていて、大半のガラードワースの生徒は距離を取っていた。

 

距離を取ってないのはチーム・ランスロットの面々だけた。フェアクロフさんが困ったような呆れたような表情を浮かべて、ブランシャールが腹に手を当てている苦しんでいるように見えるのが印象的だった。

 

何か嫌な予感しかしないな……

 

そう思いながらも放置することが出来ず俺は集団に近寄る。

 

「お袋、この状況は何なんだ?」

 

俺が話しかけると、その場にいた全員が俺とオーフェリアを見てくる。

 

「やあ比企谷君にミス・ランドルーフェン」

 

対するガラードワースのリーダーのフェアクロフさんは苦笑を浮かべながら挨拶をしてくる。

 

「どうもっす。そんでこの状況は何なんですか?お袋が迷惑をかけたんですか?」

 

一応お袋とチーム・ランスロットの面々は俺が入院した時に面識があるのだが……

 

疑問に思いながら俺が質問をすると……

 

「大したことじゃないよ。そこにいる金髪のガキに何でウチの苗字をわざと間違えてヒキタニ呼びしているのか理由を聞いてるだけだよ。言っとくが暴力は振るってないぞ?」

 

お袋がそう答えるが、暴力を振るわないのは当然だからな?振るったらクインヴェールにペナルティが降るからな?

 

しかし……

 

「てっきり予選の時に揉めた事についてかと思ったぜ」

 

あの時は俺とフォースターが挑発し合って、葉山が俺の胸倉を掴んできた。てっきりその話だと思っていたが違うようだ。

 

「その件についてはさっきアーネストちゃんから聞いたが特に文句はないよ。ガキ同士の口喧嘩に第三者のガキが暴力を振るうことについてなんてレヴォルフじゃ日常茶飯事だし、一々目くじらを立てるつもりはないよ」

 

流石お袋。随分とあっけらかんとしてやがる。

 

「そうかよ……とりあえずフェアクロフさん。予選の時には騒動を起こして済みませんでしたね」

 

俺はフェアクロフさんに頭を下げる。過程はどうであれ、あの件はガラードワースのリーダーであるフェアクロフさんに迷惑をかけたのは間違いないからな。

 

「いや、先に挑発したのはエリオットだし、隼人については完全にこちらが悪いからね。寧ろガラードワースのリーダーとして、僕の方が謝るべきだよ」

 

言いながらフェアクロフさんが頭を下げてくる。それによってガラードワースの面々を始め、周囲の人間から騒めきが聞こえる。

 

まあ当然だろう。ガラードワースとレヴォルフは方針の違いから基本的に仲が悪い。にもかかわらずガラードワースのNo.1とレヴォルフのNo.2が互いに頭を下げているのだ。側から見たら異様な光景だろう。

 

「いえいえ。俺がフェアクロフ先輩ーーー妹さんと関わっていて、フェアクロフの家にも迷惑をかけてますし」

 

ネットでもその話題が割と有名だ。フェアクロフの家の品格云々と書かれた記事もあるくらいだし。

 

「まあネットではそんな記事もあるね。でも気にしなくても良いよ。少なくとも僕達チーム・ランスロットやソフィアは君が悪い人じゃないのは知っているしね」

 

フェアクロフさんは軽く笑いながらそう言ってくる。チーム・ランスロットの面々を見れば小さく頷いている。同時に他のガラードワースの面々から嫉妬に塗れた視線を向けられるが気にしない事にしよう。

 

そこまで考えていると……

 

 

 

 

 

『さあ!観客席のテンションが上がる中、第1試合のチーム・赫夜とチーム・メルヴェイユの試合まで15分を切りました!私自身今日から始まる本戦に胸が躍っております!』

 

『今年のクインヴェールは中々有望なチームが多いですからね。実に楽しみであります』

 

実況と解説の声がシリウスドームに響き渡る。どうやらかなり時間が経過していたようだ。

 

「おっと……もう時間か。んじゃフェアクロフさん、俺達はこれで。お袋、クインヴェールの観戦室に案内頼むわ」

 

俺がそう口にするとお袋が頷く。

 

「はいよー。じゃあアーネストちゃん。またなー、可能なら今度一戦やろう「却下ですわ!ガラードワースは決闘禁止ですわ!」ちぇー」

 

お袋が人懐っこい笑顔を向けてフェアクロフさんに勝負の約束をしようとしてくるがブランシャールの横槍が入る。予想はしていたがやはりお袋はバトルジャンキーだ。

 

「はははっ……そういう訳なので。決闘については僕が卒業してから誘ってください」

 

フェアクロフさんは苦笑しながらそう返す。まあ卒業した後なら戦うのは自由だし、『白濾の魔剣』も手放しているから問題ないだろう。

 

「おっ、言ったな。そん時を楽しみにしとくぜー……んじゃ行くぞ馬鹿息子に義理の娘よ」

 

「はいよ。てか俺達弁当買いたいんだが」

 

「あー、じゃあ先に売店に行くか」

 

お袋はそう言って歩き出すも直ぐに足を止めて……

 

「あ、そうそう。最後に言い忘れてたけど……」

 

お袋はこちらを振り向いて葉山を見て……

 

「アンタがウチの息子の何が気に入らないのか知らないけど、アンタが息子に勝っているのはルックスだけだから、ヒキタニ呼びして見下すような行為は止めといた方が良いぜー……ヨウザン」

 

最後に爆弾を落とした。おい……

 

「俺は葉山です……!」

 

対する葉山は怒りを露わにするも……

 

「あ、悪りー悪りー間違えた。わざとじゃないから」

 

軽く笑って歩き去って行った。いや絶対にわざとだろ?

 

するとオーフェリアはガッツポーズをしてから……

 

「……次に八幡を見下したら許さないから……葉虫」

 

葉山を見てから同じような事を言って去って行った。この2人は全く……

 

「お袋と恋人が失礼しました。正式な謝罪については後日菓子折りを持って改めて……」

 

内心ため息を吐きながらフェアクロフさんに頭を下げて2人に続いた。とりあえず売店に胃薬が売っていたら胃薬も買っておこう。

 

そう思いながら俺はガラードワースの面々に背を向けて2人に追いつこうと早歩きで歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ……!どこまでも俺を馬鹿にして……!」

 

「自業自得じゃないですの。確かに『狼王』とオーフェリアの言動には問題がありましたか、そもそもの発端は貴方が比企谷八幡の苗字をワザと間違えていた事ではないですの?」

 

「それは……」

 

「お願いですからこれ以上の問題は起こさないでくださいまし。はぁ……控え室に行く前に胃薬を買いたいですわ……」

 

「くっ……!(王竜星武祭では覚えていろよ)」

 


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