「おーす……って、ペトラちゃんもシルヴィアちゃんもいるじゃん」
クインヴェールの専用の観戦室に入ると、恋人の1人であるシルヴィとマネージャーのペトラさんが座っていた。
「あ、お義母さんに八幡君にオーフェリア、いらっしゃい」
シルヴィが笑顔で手を振ってくる。可愛いなぁ……ここが家だったら今直ぐ抱きついて甘えている自信がある。
「もう直ぐ試合だというのに随分と遅かったですね。何かトラブルがあったんですか?」
「んー?ちょっと葉虫に捕まっただけ」
「は?」
お袋の返事にペトラさんは訝しげな表情を浮かべる。シルヴィも何がなんだがわからない表情を浮かべている。
「まあ大したトラブルじゃないから気にしなくて良いよー」
対するお袋は話を切り上げようとするが、賛成だ。葉山の話をしたらペトラさんはともかく、シルヴィが不機嫌になるかもしれないし、オーフェリアが再度ブチ切れる可能性も0じゃないし。
そんな事を考えていると……
『さあいよいよ時間です!今日から始まる本戦!どのようなエピソードが生まれるのか?!先ずは東ゲートから現れるのはクインヴェール女学院のチーム・赫夜!』
実況がそう言うと東ゲートから若宮達5人が出てくる。同時に観客席からは大歓声があがる。チーム・赫夜は予選で他のチームを寄せ付けなかった事からかなり期待されている。加えて5人全員が容姿端麗だ。大歓声が上がらない方がおかしいだろう。
大歓声が上がる中、5人の様子を見ると……
(多分大丈夫だな。見る限り悪くないコンディションだ)
様子を見る限りしっかりと睡眠を取ったからか体調は万全のように見える。多少の緊張も見えているが、試合には差し障らないレベルだろうから問題ない。
『対する西ゲート!同じくクインヴェール女学院のチーム・メルヴェイユー!』
西ゲートからはリーダーのサンドラが4人を連れて悠然と歩いている。しかし遠目でもわかる。連中には微塵も慢心を感じない。
『チーム・赫夜とチーム・メルヴェイユは一度模擬戦をしてますね。当時はチーム・赫夜が勝ちましたが……』
『それは1年前ですし、当時のチーム・メルヴェイユは油断していたのでありますし、参考にはならないでしょう。昨日両チームの記録を復習しましたが、両チームとも1年前に比べて格段に実力を上げてますし』
『やはり『狼王』や『孤毒の魔女』、『影の魔術師』の指導が彼女らを強くしたのか?!両チームステージの上にて、睨み合っております』
大歓声が上がる中、ステージではチーム・赫夜とチーム・メルヴェイユのメンバー、計10人が向かい合っている。特にメルヴェイユのワインバーグ辺りは相も変わらずヒステリックに何かを叫んでいる。毎度思うが奴は本当にお嬢様なのか?
てか実況よ、俺がチーム・赫夜の面倒を見たのは事実だが、お袋はともかく俺が居なくても奴らは伸びたと思うぞ?
そんな事を考えていると……
『さあ!いよいよ開始時間が迫っております!5回戦に1番乗りで進出するのはチーム・赫夜か?!それともチーム・メルヴェイユか?!』
実況の声が響く中、ステージにいる10人は各々のチームの待機場所に移動する。
「いよいよか……頑張れよ」
「……大丈夫。美奈兎達なら勝つわ」
俺とオーフェリアがそう呟く中、シルヴィは苦笑を浮かべ、お袋はカラカラ笑いながら酒を煽る。
「私は生徒会長だから八幡君とオーフェリアと違って片方だけ応援するのは無理だなー」
「ま、私としてはどっちが勝っても給料が上がるしな。どっちも頑張れー」
「そうですね。どちらが勝つかはわかりませんが、可能なら準決勝までは頑張って欲しいものです」
クインヴェールの生徒会長と教師と理事長は中立の立場故に片方だけ応援するような言動は取らない。まあ当然だろう。彼女らの立場からしたら仕方ないことだ。
そうこうしている間に……
『獅鷲星武祭4回戦第1試合、試合開始!』
試合開始の合図がステージに鳴り響いた。
『獅鷲星武祭4回戦第1試合、試合開始!』
試合開始の合図が鳴り響く。
「さあ、行きますわよ!」
1番初めに動いたのはチーム・メルヴェイユのヴァイオレットだった。自身から星辰力を生み出して能力を発動する。万応素がヴァイオレットの周囲で渦を巻くと虚空から16の砲弾が生まれてチーム・赫夜に向かって飛ぶ。
対してチーム・赫夜は……
「半分は撃ち墜とします」
柚陽がそう呟きながら弓型煌式武装を起動して、手元に8本の矢を浮かばせて即座に射る。放たれた8本の矢はヴァイオレットの飛ばした砲弾とぶつかり、爆発音を生み出しながら相殺される。砲弾はまだ8発残っているが……
「これくらいなら……」
「避けれますわ!」
「大丈夫……!」
前衛の美奈兎とソフィアと遊撃手のニーナは前方に走り、着弾直前に高くジャンプする事で爆風から逃れる。絶対的な強者である星露の攻撃を受けた3人からしたら8発の砲弾など牽制にすらならない。
地面に着地すると美奈兎の前には序列12位のパドマが、ソフィアの前には17位のスバシニが、ニーナの前には22位のディヴィカがやって来ていた。その後ろではチームリーダーのサンドラが純星煌式武装『グレールネーフ』を起動して水の龍を生み出していた。
すると……
『向こうはサンドラが前衛のセティ三姉妹を援護するつもりね。初めに前衛3人を倒す予定だったけど、作戦変更よ。美奈兎はパドマを相手をして。ソフィア先輩はスバシニとディヴィカを足止め、私と柚陽でヴァイオレットの砲撃を食い止めるから、ニーナはサンドラの相手をして。今の貴女なら勝機はあるわ』
クロエが能力を使用して4人に指示を出す。それに対して4人は口に出さず、クロエの頭に直接了解と返事をしながら動き出す。
初めに動いたのはパドマだった。
「この前の借りは返してやるぞ!」
怒号と共に三叉矛型煌式武装を構えてから神速の一撃を放ってくる。以前に戦った時よりも一段と速度が上がっている。
しかし……
「はぁっ!」
今の美奈兎には見切れる速さである。突きを放ってくると同時に身体を逸らして、突きを回避するや否や矛の横っ腹を殴り飛ばしてパドマの手から武器をはたき落とす。
「ほう!」
そして美奈兎は軽く目を見開くパドマに追撃を放つべくナックル型煌式武装を振るうも……
「甘い!」
次の瞬間、パドマは身を低くして右拳を回避すると返す刀で美奈兎の腹目掛けて回し蹴りを放ってくる。
「くっ……」
何とか左拳で蹴りを防ぐが予想以上の衝撃に思わず後ずさする。同時に体勢を立て直すものの、パドマは既に自身の得物を拾って構えていた。
「……なるほどな。見切りに加えて、それに対応出来るレベルまで身体能力の向上……どうやら比企谷八幡に相当しごかれたようだな」
パドマは槍を構えながらも、舌舐めずりが似合うような不敵な笑みを浮かべ美奈兎を見据える。しかし構えには微塵も隙が見当たらない。
「まあね。そっちこそ体術を使うようになったんだ。知らなかったよ」
「公式序列戦では一度も使ってないからな、知らないのも当然だろう……さて、続きをやろうか」
言うなりパドマは再度突きを放ってくるので美奈兎は迎え討つべく迎撃の構えを見せた。
美奈兎がパドマと戦闘が始まると……
「はっはっはー!行っくぞー!」
ディヴィカが高笑いをしながらハンマー型煌式武装をニーナに振るうが……
「(大丈夫、これなら躱せる……!)やあっ!」
当たる直前に右に少しだけジャンプをして回避する。同時にディヴィカのハンマー型煌式武装が地面に当たり、地面から衝撃が生まれる。
……が、直撃していないニーナは特に気圧されることなく、サンドラの方に向かう。ニーナがクロエに与えられた仕事はサンドラとの戦闘。故に他の人と戦っている暇はない。
「サンドラの元には行かせな「させませんわ!」おおっ!」
ニーナに追撃をしようとしたディヴィカだったが、その前にソフィアがディヴィカのハンマー型煌式武装に突きを放ち、ディヴィカの手から武器を引き離す。
普通ならここで追撃を仕掛けるが……
「はあっ!」
それはあくまでタイマンの時の話だ。ディヴィカだけでなくスバシニに相手も頼まれていたソフィアは無理に追撃をせず、スバシニの短刀型煌式武装による一閃をサーベル型煌式武装を駆使して受け流す。
「ニーナさん!行ってくださいまし!」
ソフィアは短刀型煌式武装による一閃を防がれて攻め方を変えたスバシニの蹴りを後ろに跳んで回避しながらニーナに叫ぶ。
「わかった、ありがとう……!」
「行かせないったら「貴女の相手は私ですわよ!」くぅぅぅ!先にお前からだ!」
ディヴィカは再度ニーナに追撃を仕掛けようとするが、再度ソフィアに邪魔され、苛立ちながらも狙いをソフィアに変えて動き出す。
それによってニーナは必然的にフリーとなり……
「サンドラ……!」
「来たわね、ニーナ……!」
かつて鳳凰星武祭の時に組んだ相手と向き合う。対するサンドラは前回相対した時と違って一切の慢心が見えず、鋭い視線をニーナに向けながら自身の周囲に6体の水の龍を生み出す。
鳳凰星武祭の時は彼女の指示に従えずに敗北。その後に切り捨てられた所をチーム・赫夜に拾われてチームに入った。
入った当初ニーナはサンドラに対して認めて貰いたい気持ちや恐怖心があったが、今のニーナには無かった。
ーーーやったね、ニーナちゃん。最後の一撃、本当に凄かったよーーー
ーーーお前は期待値がデカいんだし、もう少し自信を付けろ。そうすりゃお前のチームの総合力は飛躍的に伸びるぞーーー
頭に過るのは自分をチームに誘ってくれた掛け替えのない友人の笑顔と、癖の強い自分の能力について真摯に考えて面倒を見てくれた少しエッチな変わり者の師匠の言葉。
「(美奈兎と一緒に戦っている時に、八幡が見ている中で無様な試合をする訳には行かない……!)」
そう思いながらニーナは星辰力を練り上げる。同時にニーナの前方に3枚の光り輝く盾が顕現して、内部に万応素が溜まり、弾丸となる剣を作り出す。
そしてハートの光弾を燃料として……
「(ダイヤの8、ダイヤの9、ダイヤの10、スペードの10に、ハートのクイーン……!)女王の崩順列!」
光り輝く剣を放つ。轟音と共に放たれた剣は一直線にサンドラに向かう。
対するサンドラも迎撃するべく6体の水龍を放つ。それによって光の剣とぶつかり合うが……
『おーっと!アッヘンヴァル選手が放った光の剣がセギュール選手の水龍を打ち破った!』
光の剣は6体の水龍を全て打ち破り、そのままサンドラに突き進む。前回の試合でニーナはこの技を使って同じように水龍を打ち破り、サンドラを倒した。その時から1年、ニーナの実力は桁違いに跳ね上がっているので水龍を打ち破ることは当然とも言える。
が……
「2度も同じ手は食らわないわ……!」
実力をつけたのはニーナだけではない。サンドラは『グレールネーフ』を使ってニーナが放った光の剣を簡単に叩き落とす。万全の状態ならまだしもニーナが放った光の剣は水龍を打ち破る際に小さくなっていた故だ。そしてサンドラは間髪入れずにニーナとの距離を詰めにかかった。
対するニーナは驚きを露わにした。試合前に公式序列戦などのサンドラの試合記録を見たが、サンドラの戦闘スタイルは基本的に遠距離から水龍を飛ばし、敵が距離を詰めてきたら地面に水を撒いて近づけさせないスタイルだった。
しかし今のサンドラは自分から距離を詰めるなど初めて見る戦い方でニーナは驚いたのだった。
「(よくわからないけど、焦っちゃダメ……!)王太子の葉剣!」
サンドラが『グレールネーフ』を振りかぶる中、ニーナは自身の手に光の剣を生み出して迎撃する。そして互いの武器がぶつかり合った瞬間……
「きゃあっ!」
『グレールネーフ』に備わっているウルム=マナダイトが光り、『グレールネーフ』から生まれた水の弾丸がニーナの右腕に当たり……
「くっ……!」
ニーナが星露との鍛錬で身に付けた蹴りがサンドラの鳩尾に当たることで、お互い苦悶の表情を浮かべ叫びながら吹き飛んだ。
『ここでチーム・メルヴェイユのセギュール選手とチーム・赫夜のアッヘンヴァル選手が互いに攻撃をぶつけ合う。初めのやり取りは痛み分けかー!』
『そうですね。アッヘンヴァル選手の体術も驚きましたが、遠距離タイプのセギュール選手が相手との距離を詰めるのは予想外でしたね』
背中から地面に叩きつけられると、観客席からは歓声が生まれる。
ニーナは痛みに顔を顰めながらも、濡れた制服から水を落としながら立ち上がると、サンドラも同じように痛みに顔を顰めながらも立ち上がり『グレールネーフ』を構える。
「やってくれたわね……蹴りを使うとは思わなかったわ。それも『影の魔術師』に教わったのかしら?」
「……まあそんなところ、かな?」
実際八幡に教わったのは能力の使い方と遊撃手として立ち回り方で、体術は星露から教わったものだ。しかし星露から教わった事は星露自身から箝口令が出ているので表上は八幡から教わった事にしている。
「サンドラこそ、接近戦を仕掛けてくるなんて……比企谷先生に教わったの?」
「ええ。『純星煌式武装に頼りきりの人間は二流だ』、『下らないプライドは犬に食わせて勝ちを最優先にしろ』って何度も何度も言われて何度も何度も叩き潰されながらね」
サンドラは苦笑を浮かべながら『グレールネーフ』をニーナに突きつける。目には1年前にあった見下した色は無い。
ニーナは内心舌をまく。サンドラが1年前に比べて強くなっていたのは知っていたが、戦闘力だけでなくメンタルも鍛えられているとは思っていなかった。
前回は向こうが舐めていたから勝てた。ニーナ自身も1年前に比べて絶対的な強者に鍛えられて強くなったが、今のサンドラが相手ではかなり厳しい……と、ニーナは考える。
すると……
『予想以上にサンドラのレベルが上がっているわね。作戦変更よ。ニーナはやられない事を最優先にしてサンドラの足止めをお願い。その間にこっちがセティ三姉妹を叩くわ』
ニーナの頭の中にクロエの能力によって指示が伝達される。それを聞いたニーナは内心了解の返事を返して……
「九轟の心弾!」
サンドラに対して目眩し目的で9つの光弾を放った。絶対に負けられないと強く思いながら。
「そんな……チーム・赫夜は俺達と戦った時は全く本気じゃなかったというのか……!」
現状
チーム・赫夜
撃破数 0
戦闘不能者 0
チーム・メルヴェイユ
撃破数 0
戦闘不能者 0