学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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チーム・赫夜VSチーム・メルヴェイユ(後編)

クインヴェール専用の観戦室にて、俺は今自身が面倒を見たチーム・赫夜と同じクインヴェールのチーム・メルヴェイユの試合を見ている。

 

ステージを見ると、4つの戦闘が生まれていた。

 

チーム・赫夜の後衛の蓮城寺柚陽とクロエ・フロックハートがチーム・メルヴェイユの後衛の序列35位『崩弾の魔女』ヴァイオレット・ワインバーグと撃ち合い……

 

チーム・赫夜の前衛の若宮美奈兎とチーム・メルヴェイユの前衛の序列12位、セティ三姉妹の長女パドマ・セティと互いの武器をぶつけ合い……

 

チーム・赫夜のソフィア・フェアクロフがチーム・メルヴェイユのセティ三姉妹の次女スバシニと三女ディヴィカの猛攻を凌ぎ……

 

「アッヘンヴァルがチームリーダーのサンドラ・セギュールと激突か……」

 

昨年の鳳凰星武祭で組んでいたアッヘンヴァルとセギュールがぶつかり合っている。

 

「これも不思議な縁だよね」

 

隣に座る恋人の1人のシルヴィは感慨深そうに頷くが同感だ。鳳凰星武祭でアッヘンヴァルはセギュールのオーダーに応えらず、鳳凰星武祭が終わってからセギュールに捨てられた。

 

その後模擬戦でアッヘンヴァルはセギュールを打ち破った。これを聞くと中々不思議な縁だろう。

 

しかし時が経つと人が変わる。実際アッヘンヴァルは俺から能力者としての戦い方や星露から体術を学び実力を大きく伸ばしたが……

 

「セギュールの奴、『グレールネーフ』を使って近接戦を使うとはな……お袋の教育の賜物か?」

 

それはチーム・メルヴェイユも同じだ。試合を見る限り、セティ三姉妹は戦闘に煌式武装だけでなく体術を持ち込んでいるし、ワインバーグは能力の発動速度を上げている。

 

特に変わったのはリーダーのセギュール。少し前までは遠距離戦で相手を嬲るスタイルだったが、アッヘンヴァル相手に接近戦を仕掛けるなど随分と泥臭いスタイルを見せている。

 

「別に大したことはしてないよ。単に純星煌式武装に頼りきりじゃ二流だって言ってボコボコにしただけだ。その際にサンドラちゃんが勝手に弱点の接近戦を身に付けただけだよ」

 

なるほどな……確かにステージでアッヘンヴァルと対峙しているセギュールを見ると『グレールネーフ』から生み出した水をアッヘンヴァルに飛ばしながらも、接近戦の構えを見せていつでも距離を詰めれるようにしている。

 

「つまりプライドをへし折って奮起させた訳か……随分と無茶なやり方で」

 

「そうですね。確かに涼子のおかげでチーム・メルヴェイユは格段に伸びました。しかしプライドをへし折られて潰れた生徒も少なくないですよ」

 

俺が愚痴るとクインヴェールの理事長のペトラさんが俺の意見に同意しながらお袋を見る。バイザー越しだが睨んでいるのだろう。

 

しかしお袋はどこと吹く風だ。

 

「やり方を任せたのはペトラちゃんじゃん。大体1回2回の挫折で潰れる奴なんてどの道星武祭で活躍するのは無理だからな」

 

お袋がそう返すとペトラさんはため息を吐くも文句は言わない。実際お袋の言っていることは間違ってないからな。俺自身もアスタリスクに来た当初は自身の能力ならオーフェリアとも渡り合えると思っていたが、実際にオーフェリアと戦ったら完膚なきまで叩き潰されて一度挫折しかけたし。

 

とはいえ……

 

「……このままだと能力のストックの限界に近いニーナが不利」

 

オーフェリアの言う通りだ。今ステージでは4つの戦いがあり、いずれも拮抗している。

 

しかしそれは長くは続かず、拮抗が崩れるとしたらアッヘンヴァルとセギュールの戦いだろう。無論アッヘンヴァルが不利な状況となって。

 

理由は簡単。アッヘンヴァルの能力は極めれば強いが根本的なデメリットは解決出来ないものであり、そのデメリットがある限り長期戦は不利なのだ。

 

アッヘンヴァルの能力はトランプを模した能力で4つのスートが4種類の属性に対応している。スペードは近接攻撃、ハートは遠距離攻撃、ダイヤは防御、クラブは補助系って感じで数字によって威力が変わる。つまり遠距離で1番強い攻撃をしたければハートの13を使う、という感じだ。

 

また複数の属性を合わせて桁違いの合成技を放つ事も可能でモノによっては俺の影狼修羅鎧にヒビを入れる位の破壊力の技も放つ事が出来る。

 

それだけならオールマイティな能力だが、問題なのは一度使ったスートと数字の組み合わせは一定時間ーーーアッヘンヴァル曰く1日使えないのだ。

 

つまりアッヘンヴァルは能力を使えば使うほど、星辰力に加えて攻め手も減るのだ。

 

(今のところアッヘンヴァルが使ったのは合成技ーーーダイヤの8、ダイヤの9、ダイヤの10、スペードの10に、ハートのクイーンと、スペードの11にハート9……ストックはまだまだあるが、7以下の数字による組み合わせはセギュールには通用しないだろうから、長期戦は無理だな)

 

セギュールを倒せるとしたら合成技以外無理だろう。しかしアッヘンヴァルの合成技は威力が高いが攻撃範囲が狭い技や、攻撃範囲は広いが発動に時間がかかる技だ。前者はさっきのように対処されるし、後者は発動している間に叩かれると、どっちもリスクが高い。

 

対するセギュールの持つ純星煌式武装『グレールネーフ』の代償は体温。使い続けると身体の熱が下がるらしいが、10分に一度低下とゆっくりとしたものである。よって長期戦になったらセギュールが圧倒的に有利だ。

 

「とはいえ、フロックハートもそれをわかってるから何かしら対策を講じるだろ」

 

何度かフロックハートと作戦会議をしたが、アイツの作戦立案能力はマジで高いからな。ペトラさんが法外な値段で買ったのも納得だ。

 

「……そうね。八幡とよく2人きりで一生懸命作戦を立てているから」

 

「そういえば2人ってなんだかんだ2人きりになるよね」

 

「待て、何故そこで俺を睨む?」

 

オーフェリアとシルヴィジト目で俺を見てくる。お袋はプルプル震えて爆笑寸前で、ペトラさんは呆れ顔を向けるだけで助けてくれる気配はない。実に薄情だ。

 

特に変な事は……いや、多少ラッキースケベはしたが、その日の夜に2人に搾り取られて許して貰っている。

 

 

「……別に」

 

「うん、別に」

 

そう言いながら2人は拗ねた表情を浮かべて俺を見てくる。仕方ない、こういう時は……

 

「んっ……八幡……」

 

「……ふにゅう……いきなりは反則だよ」

 

2人の頭を撫でる。すると2人はジト目を消してトロンとした表情を浮かべて俺の肩に頭を乗せてくる。2人が不機嫌な時の対処法は熟知しているからな。ここが家ならキスをしていたかもしれないが、流石にお袋とペトラさんが居る中では無理だ。

 

「おーおー、相変わらずのバカップルで」

 

「……こんな時にまで惚気ないで欲しいですね」

 

ニヤニヤ笑いと呆れ顔を向けられるが2人の機嫌を直すにはこれしかないんで勘弁してくださいな。

 

内心そんな事を考えていると、観客の歓声が上がったので意識をステージに戻すと……

 

「おっ、早速手の内を晒すのか」

 

セティ三姉妹の長女にして序列12位のパドマ・セティと相対していた若宮の右手にサーベル型煌式武装が握られていた。

 

 

 

 

 

遡ること1分……

 

「はあっ!せあっ!」

 

「まだまだっ!」

 

ステージの中央付近にて美奈兎とパドマが激突していた。パドマが三叉矛型煌式武装を振るいながら足技を仕掛けてくるのに対して、美奈兎は身を屈めて三叉矛を回避しながら両手をクロスしてパドマの蹴りを受け止める

 

同時に腕に若干の痛みが走る中、美奈兎はそれを無視してナックル型煌式武装でパドマの鳩尾を狙う。しかし当たる直前……

 

「甘い!」

 

パドマは三叉矛を盾のように構えて拳を受け止める。インパクトの衝撃によってパドマは多少吹き飛ぶが、星脈世代からしたら殆どノーダメージであろう。

 

さっきからこの調子で互いに決定打を決めることが出来ず小競り合っている状況である。故に無理に攻めることが出来ないが……

 

『美奈兎、アレをやるわ。今直ぐ煌式武装を準備して』

 

クロエが美奈兎の頭の中にこの状況を打破する為に新しい指示を出す。それには美奈兎も軽く驚いた。

 

『え?でもアレはチーム・ランスロットと戦うまでは……』

 

美奈兎はパドマの三叉矛を回避しながらもクロエの頭に返事をする。

 

『出し惜しみして負けたら意味ないでしょ?本戦の初めから手の内の一部を晒すのは好ましくないけど、確実に勝ちに行かないと』

 

クロエの言っている事は間違っていない。チーム・メルヴェイユの実力はチーム・赫夜の予想を遥かに上回っていた。そうなると出し惜しみなど言っていられないからだ。

 

『あ、う、うん!わかった!』

 

言いながら美奈兎は両手に装備してあるナックル型煌式武装を投げ捨てて腰にあるホルダーからサーベル型煌式武装を展開する。

 

「剣だと?お前のデータには剣を使っている場面は無かったが……まあ良い!」

 

パドマは一瞬だけ訝しげな表情を浮かべるも、直ぐに楽しそうな笑みを浮かべて三叉矛を構えて高速の突きを放ってくる。

 

しかし……

 

「なっ?!」

 

美奈兎に当たる直前、美奈兎がサーベル型煌式武装を振るってパドマの一撃を逸らした。全くブレる事なく、鮮やかに。

 

そして返す刀で美奈兎はサーベル型煌式武装を駆使してパドマ以上の突きを放つ。対するパドマは引き戻した三叉矛で防ごうとするも、その前に美奈兎が突きの軌道を変えて、パドマの鳩尾に突きを放つ。

 

「ぐうっ!」

 

それによってパドマは吹き飛び、観客席からは大歓声が上がる。

 

『おおっと!ここで若宮選手、サーベル型煌式武装を使ってパドマ・セティ選手を圧倒している!』

 

『まさか格闘術以外にも技術を持っているとは……というか、あの剣技、フェアクロフ選手の剣技に似てるわね』

 

実況と解説の声がステージに響くが、解説の言葉は間違っていない。

 

現在美奈兎はクロエの能力『伝達』によって、ソフィアの剣技が伝達されている。つまり今の美奈兎はソフィアと同じ剣技を持っているのだ。

 

ソフィアは人を傷付けられない弱点を持っているが、単純な剣の腕ならアスタリスク最強と評されている。そんなソフィアの剣技を人を傷付けられる美奈兎が使えば……

 

「くそっ!」

 

パドマが焦りながらも反撃の糸口をつかもうとするも、美奈兎の猛攻がそれを許さない。美奈兎の振るうサーベルが弧を描き、風を裂きながらパドマに攻撃を続けているのだから。

 

 

パドマは必死になって守りを固めるも、完全に防戦一方となって制服のあらゆる箇所が裂けて血が流れ……

 

「そこっ!」

 

遂に美奈兎はサーベルでパドマの三叉矛を跳ね上げて手ぶらになったパドマの校章に神速の突きを放ち、校章を粉微塵にする。

 

『パドマ・セティ、校章破損』

 

機械音声がパドマの敗北を告げると観客席が再度湧き上がる。

 

『ここでチーム・メルヴェイユ、1人落ちた!』

 

『それによって拮抗していた試合が動くわね』

 

実況と解説の声が聞こえる中、パドマを撃破した美奈兎は身体に掛かる痛みを無視して他の戦場を見る。すると……

 

『美奈兎、ニーナの援護に行って。ただし明日の事を考えたら後2分しか使えないから急いで』

 

クロエから美奈兎の頭に直接指示が出る。

 

クロエの能力は味方に感覚と経験の伝達という破格の能力だが当然欠点もある。それはクロエが伝達出来るのは技術だけで、専用の肉体は伝達出来ないという事。

 

本来なら格闘戦を得意とする美奈兎の肉体にソフィアの剣技は合わず、ソフィアの剣技を使うと身体には猛烈な痛みが走る。

 

チーム・赫夜の5人は獅鷲星武祭に備えて、美奈兎の格闘術とソフィアの剣技をある程度使えるように身体を作ったものの所詮は付け焼き刃。

 

美奈兎がソフィアの剣技を使える時間は最大5〜6分。ただしこれは明日の事を考えなければの話だ。フルにソフィアの剣技を使うと、翌日は筋肉痛でマトモに動けなくなる。星武祭は毎日あるので限界まで使うのは悪手である。

 

よって美奈兎は明日の事を考えると実質3分しかソフィアの剣技を使えないのだ。それ以上使うと明日の5回戦で戦力外となってしまう。

 

美奈兎がソフィアの剣技を使ってパドマを撃破するのにかけた時間は1分半。つまりタイムリミットはクロエの言う通り1分半だ。

 

よって……

 

『了解!』

 

美奈兎はクロエの頭にそう返事をしてからサンドラと激戦を繰り広げているニーナの元に走り出す。

 

すると……

 

「そうはさせないよー!」

 

ソフィアと小競り合いをしていたディヴィカが、スバシニにソフィアの足止めを任せて美奈兎にハンマー型煌式武装を振るってくる。

 

それに対して迎撃をしようとする美奈兎だったが……

 

『ディヴィカは私がやるわ!』

 

美奈兎の頭にクロエの声が響くと同時にディヴィカの前にクロエが現れて、手に装備したナックル型煌式武装でハンマーの一撃を逸らす。

 

そして空いている左手でディヴィカにパンチを放つ。対するディヴィカは慌ててハンマーを引き戻してクロエの一撃を防ぐも重量のあるハンマーを無理に引き戻した為体勢が悪い。

 

「ちょっとー!あんたは遠距離タイプじゃないのー?!何でナックル型煌式武装を使ってるのよー?!」

 

ディヴィカが驚きながらクロエに文句を言うが、クロエはそれを無視して攻撃を止めない。今のクロエは自身の能力で美奈兎の格闘術をトレースしている故だ。星露に弟子入りした当初は10秒も使えなかった美奈兎の格闘術だが、今のクロエは1分近く使える。

 

クロエは両腕からラッシュを仕掛けながら美奈兎とニーナの頭に指示を送る。

 

『美奈兎!ニーナは長く保たないから急いで!ニーナは美奈兎が来たらソフィア先輩の剣技を伝達するからそれまで持ち堪えて!』

 

『『了解!』』

 

すると直ぐにクロエの頭に2人から了解の返事が来る。それを聞いたクロエは内心頷いてからディヴィカに向けて拳と蹴りを放った。

 

 

 

 

 

 

一方……

 

「しぶといわね……!」

 

ニーナとサンドラの戦いも激化していた。サンドラが距離を取って『グレールネーフ』を使って水の龍を放つと、ニーナは鍛え上げた肉体を駆使して攻撃を回避する。

 

そして返す刀で……

 

「八裂の葉剣!」

 

光り輝く剣を使って地面に広がって触手のような形態を取っている水を斬り裂きながらサンドラに近寄り……

 

「はあっ!」

 

サンドラの顔面目掛けて放つ。対するサンドラは一瞬目を見開くも冷静に『グレールネーフ』を振るって水の壁を生み出して光の剣を飲み込む。

 

対するニーナは予想の範疇と思いながら水の壁がある内にとサンドラの後ろに走り出す。しかし……

 

「しまっ……!」

 

水浸しになっている床に足を滑らせてバランスを崩してしまう。同時にサンドラを守っていた水の壁が無くなり……

 

「これで終わりよ、ニーナ……!」

 

『グレールネーフ』を振るってニーナ目掛けて水の龍を6体放つ。体力を消耗しているニーナに対処する手段はない。

 

(ごめん……負けちゃった……!)

 

ニーナが内心謝った時だった。

 

 

 

 

「ニーナちゃん!」

 

ニーナとサンドラの間に美奈兎が割って入り、ソフィアの剣技を駆使して6体の水の龍の首を全て斬り落とした。

 

「なっ?!」

 

これにはサンドラも予想外で驚きを露わにする。サンドラ自身チーム・赫夜なら水の龍を対処出来るとは思っていたが、美奈兎が剣を使って対処するとは思わなかった。

 

サンドラが戦慄する中、美奈兎をニーナの手を引っ張ってニーナの身体を起こす。

 

『ニーナ、美奈兎と合流出来た事だし一気に勝負を付けて』

 

同時にニーナの頭にクロエから指示が入る。それを聞いたニーナは頷きながら美奈兎と同じようにサーベル型煌式武装を起動する。

 

そして……

 

「行くよニーナちゃん!」

 

「うん……!」

 

2人は頷いてサンドラの元へ斬り込みに行く。対するサンドラはニーナの行動に驚くも……

 

「こっちも負けられないのよ……!」

 

怒号と共に『グレールネーフ』を振るって水の龍を8体を生み出して飛ばす。

 

対する2人は……

 

「天霧辰明流剣術中伝ーーー矢汰鳥!」

 

美奈兎がそう叫ぶと同時に高速で剣を振るって全ての龍の首を刎ねる。

 

本来なら美奈兎が天霧辰明流剣術を使うのは無理だが、美奈兎、そしてチーム・赫夜はソフィアが天霧綾斗との鍛錬の際に天霧辰明流剣術を学んだ事を知っているので、クロエの能力でソフィアの剣技を伝達すれば可能である。

 

美奈兎が水の龍を全て斬り落とした事によって道は生まれた。この隙を逃すわけにはいかない。

 

ニーナはそう思いながら身体に掛かる痛みを無視して走り出し、自身に襲いかかる水の触手を全て斬り払い……

 

 

「これで終わり……!」

 

そのままサンドラの校章を斬り裂いた。

 

『サンドラ・セギュール、校章破損』

 

『試合終了!チーム・赫夜!』

 

次の瞬間、割れたサンドラの校章が地面に落ちてステージには大歓声が上がった。


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