学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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こうしてチーム・赫夜は5回戦に進出する

『サンドラ・セギュール、校章破損』

 

『試合終了!チーム・赫夜!』

 

聖ガラードワース学園専用の観戦室にて、チーム・ランスロットを始めとした、獅鷲星武祭に参加しているガラードワースの生徒が敗退した生徒を含めてチーム・赫夜の勝利を告げるアナウンスを耳にする。

 

同時に観戦室にいる生徒の殆ど(特にチーム・ヴィクトリーのリーダーの男やサブリーダーの女)は胸の内に苦々しい感情を抱く。

 

それも当然である。チーム・赫夜が現レヴォルフの2トップや元レヴォルフの序列1位に鍛えられている事は有名である。(加えて界龍の序列1位にも鍛えられている)

 

ガラードワースと対立関係のレヴォルフの生徒に鍛えられたチームが勝ち上がっているのだ。ガラードワースの生徒からしたら気分の悪い話である。

 

しかしその一方で……

 

「ふむ……中々見所のある試合だったね」

 

チーム・赫夜の勝利に対して苦々しい感情を抱いていない数少ない人間であるチーム・ランスロットのリーダー、『聖騎士』アーネスト・フェアクロフは興味深そうにステージを見ている。視線の先ではチーム・赫夜のメンバーが抱き合っていて、チーム・メルヴェイユの面々はリーダーを囲んで慰め合っていた。

 

「そうですわね。個々の実力もそうですが、戦闘スタイルや各々のポジションに適した立ち回り方、味方への援護の速さ……両チームともチームを結成して1年近くとは思えない練度ですわね」

 

アーネストの隣に座る『光翼の魔女』レティシア・ブランシャールも感心したように頷く。瞳には純粋な感心しかない。

 

「やるねー。八幡にしろオーフェリアちゃんにしろ、強くし過ぎだろ?こりゃ俺達と戦う時に覚悟しないといけないかもな」

 

レティシアの後ろに座る『黒盾』ケヴィン・ホルストは楽しそうに笑う。八幡と共にレティシアをしょっちゅうからかう彼としては中々愉快な気分となる。

 

しかしガラードワースの面々の空気は重くなる。何故なら……

 

「ちょっとケヴィン。それはつまりチーム・トリスタンが負けると仰っているのかしら?」

 

レティシアは若干目を鋭くしてケヴィンを咎める。もしもチーム・ランスロットとチーム・赫夜が順調に勝ち上がれば準決勝で当たる。

 

しかしチーム・赫夜はチーム・ランスロットと戦う前に準々決勝でチーム・トリスタンと戦う可能性が高いが、ケヴィンの言い方だとチーム・トリスタンがチーム・赫夜に負けると言っているようなものだ。

 

「そこまでは思ってないって。ただエリー達じゃ割と厳しいと思っただけだよ」

 

「そうだな。どういう理屈かは知らないがチーム・赫夜の若宮とアッヘンヴァルはソフィアの剣技を使っていた。アレを攻略するのは至難だろう」

 

ケヴィンの意見に『王槍』ライオネル・カーシュも頷く。対するレティシアやエリオットを始めとしたチーム・トリスタンの面々は苦い顔をしながらも否定はしない。

 

ソフィアの剣技はアスタリスク最強クラスと評されていて、ガラードワースの会長を務めるアーネストの妹という事もあってガラードワースではかなり知られている。

 

アーネストと互角と評されるソフィアの剣技を他の2人が使っていたのだ。厳しい戦いになるのは容易に想像出来ることだ。

 

「うーん。さっきの試合を見る限り、ミス・フロックハートの周囲の万応素が揺らいでいた事から察するに……ミス・フロックハートは自身の仲間に対して技術を与える能力を持っているのかもしれない」

 

実際ミス・フロックハートも若宮さんの体術を使っていたしね、とアーネストが言うとその場にいた面々は納得の表情を浮かべている。序列1位だけあってアーネストの洞察力は一流だ。

 

「まあ獅鷲星武祭は何が起こるかわからないからね。僕達にしろ、エリオット達にしろ、現時点で勝ち残っているチームは秩序を誇りに最善を尽くすように」

 

アーネストが立ち上がり『白濾の魔剣』を掲げてガラードワースの面々に号令をかけると……

 

『了解!聖ガラードワースに栄光を!』

 

他のメンバーが足並みを揃えてそう叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「(クソッ……王竜星武祭まで時間がない。後一年で比企谷を越えないと……!)」

 

一部の人間は苦い顔をしながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えへへー、勝ったよー!」

 

チーム・赫夜の控え室。俺が恋人2人を連れて中に入ると若宮が元気良くこちらにやって来る。相変わらず元気な奴だな。

 

「おめでとう美奈兎ちゃん。見てたけど格好良かったよ」

 

「……当然よ」

 

「とりあえずお疲れさん。ところでお前とアッヘンヴァルとフロックハート、身体は大丈夫か?」

 

今言った3人ーーー若宮とアッヘンヴァルはフェアクロフ先輩の剣技を、フロックハートは若宮の格闘術をフロックハートの能力でトレースしたのだ。アレは強力だが技術を使う肉体は伝達されないので他人の能力を使うと身体に凄く負荷がかかるのだ。

 

そう言った意味で3人に尋ねると……

 

「うーん。結構痛い。明日全く動けないってのはないと思うけど、筋肉痛にはなってるかも……」

 

「私は大丈夫……!」

 

「私も痛いけど、明日には治ってると思うわ」

 

若宮、アッヘンヴァル、フロックハートはそう答える。まあ予想の範囲だ。若宮はパドマとリーダーのセギュールの2人相手にフェアクロフ先輩の剣技を使ったのだし、身体が痛いのは当然だろう。

 

「とりあえず今日はもう帰って休みなよ。5回戦で当たる相手がわかるのは夕方なんだし、寮で見た方が良いんじゃない?」

 

シルヴィは赫夜の5人にそんな提案をするが、俺も賛成だ。チーム・赫夜と当たるチームは界龍か星導館のチームだが、その2チームの試合は夕方に行なわれる。だから俺としては今日はもう帰ってその試合を見てから寝て明日の朝に対策を練るのがベストだと思う。

 

「そうするわ……帰りましょう」

 

フロックハートがシルヴィの言葉に頷くと、他の4人も同じように頷いた。

 

そして廊下に出て歩き出す。若宮、アッヘンヴァル、フロックハートが疲労しているので歩幅を合わせてゆっくりと。

 

「それにしても……本戦の初めからクロエさんの能力を使ったのは痛いですわね」

 

フェアクロフ先輩がため息を吐きながらそう口にする。

 

まあ初っ端から持っているカードの1枚を晒したのは痛い。おそらく他所の学園の諜報機関はフロックハートの能力について把握しているだろう。

 

しかし……

 

「ですが仕方ないと思いますよ。チーム・メルヴェイユのレベルは俺達の予想を上回っていたんで」

 

「そうね……確かに手の内を明かすのは出来るだけ避けるべきだけで、出し惜しみし過ぎて負けたんじゃ話にならないわ」

 

俺の意見にフロックハートが頷く。実際フロックハートの伝達の能力を使わなかったら厳しい戦いになっていただろう。負ける可能性もあったし、勝てたとしてもフロックハートの能力以外のカードを晒していたと思うし、そう考えたら今回の結果はそこまで悪くないだろう。

 

「ただ……可能ならチーム・ランスロットと当たるまで『ダークリパルサー』だけは隠しておきたいわ」

 

「……そうね。アレを知っていると知らないでは全く違うわね」

 

オーフェリアがしみじみ頷く。『ダークリパルサー』は材木座が作り上げたサーベル型煌式武装。しかしそれは普通の煌式武装ではなく、刃は超音波で出来ていて受け太刀による防御が出来ない代わりに相手の防御をすり抜ける。

 

また殺傷能力はなく相手の体内に超音波を流す能力を所有していて、食らえば一溜まりもない。俺やシルヴィも食らったが、アレを食らったら暫くの間はマトモに身体を動かす事も能力を使う事も出来なかった。

 

アレは人を傷付けられないフェアクロフ先輩の為だけではなく、優勝候補チームのエースを倒す為に用意したものだ。可能ならチーム・ランスロットと当たるまでは隠しておきたい秘密兵器だ。

 

「まあバレないに越した事はないが、負けそうになったら直ぐに使えよな?」

 

俺が赫夜の5人に確認をする。勿論優勝を目指す以上、チーム・ランスロットの対策をするのは当然だが、だからと言って目の前の一戦を疎かにして良い理由にはならない。本戦に上がったチームはどのチームも練度が高いのだ。負けそうになったら出し惜しみはしてはいけない。

 

それについては全員理解しているようで……

 

『はい!』

 

5人揃って良い返事をしてきた。これなら実力を発揮する前に負けた、なんてことにはならないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

『試合終了、勝者チーム・ランスロット!』

 

所変わって自宅の自室、俺は今チーム・ランスロットの4回戦の試合を見ているが……

 

「やっぱり強いな……」

 

チーム・ランスロットの強さに辟易してしまっている。個々の実力ならチーム・エンフィールドやチーム・黄龍も負けてはいないが、チームの練度が桁違いに高い。

 

幾ら前回の獅鷲星武祭の時と殆どメンバーが変わっていないとはいえ、ここまでの実力だと頭が痛くなってくる。

 

「とりあえず『贖罪の錘角』のインターバルは100秒近くって事がわかったから良しとするか……」

 

試合を見るとガラードワースの序列5位『優騎士』パーシヴァル・ガードナーが純星煌式武装『贖罪の錘角』を使って対戦チームのリーダーの意識を刈り取って試合を終わらせていた。

 

『贖罪の錘角』は相手の精神力を削り意識を刈り取る純星煌式武装。一切の物理的破壊力を伴わない性質故に防ぐことは不可能だ。

 

(まあ、星露辺りなら食らっても平然としてそうだけど)

 

そんなことを考えていると……

 

「八幡君、ご飯出来たよー」

 

ドアからシルヴィが顔を出して夕食の完成を伝えてくるので、空間ウィンドウを閉じて椅子から立ち上がる。続きは飯を食べてから考えよう。

 

「わかった。今行く」

 

言いながらリビングに向かうと既に料理は並んでいた。言ってくれりゃ手伝ったのに……水くさいな。

 

「じゃあ……いただきます」

 

「「いただきます」」

 

シルヴィに続いて挨拶をして食事を始める。今回は……シルヴィが作ったな。味が濃いのがシルヴィ、サッパリした食感なのがオーフェリアだと長い付き合いで理解しているからな。

 

そんなことを考えながらいつものようにテレビをつけてニュース番組にすると……

 

『次のニュースです。俳優◯◯さんが今日未明に女優××さんに刺され死亡しました。取り調べによると◯◯さんは××さんと一般女性である△△さんの2人の女性と交際していることが判明しました。××さんは、◯◯さんに△△さんの方が好きだから別れろと告げられ、カッとなったと容疑を認めております』

 

嫌なニュースだな。二股をかけて片方の方が好きだから別れろと言うなんて……

 

内心辟易しているとチョンチョンと両肩を叩かれたので左右を見ると……

 

「八幡君、八幡君はあんな風に別れを切り出さないよね?」

 

「……私はシルヴィアに比べて可愛げがないし、つまらない女だけど……捨てないで欲しいわ」

 

今のニュースを見て真に受けたのか不安な表情を浮かべているオーフェリアとシルヴィがいた。オーフェリアはともかく、シルヴィが悲しみに満ちた表情をするのは初めて見る。

 

2人のそんな顔は見たくない。見るだけでこっちも嫌な気分になる。

 

だから俺は……

 

「安心しろ。俺はお前らの事を同じ位愛しているし、どちらかを切り捨てるつもりはない」

 

2人が理解してくれるように強い口調で返事をして2人を抱き寄せる。俺は2人に告白されて重婚でも良いから2人一緒に付き合ってくれと言われたが、あの日以降1日たりとも『どっちの方が上』などと考えた事はない。

 

俺がそう返すと2人は俺の腕に抱きついてくる。

 

「絶対だよ?」

 

「ああ」

 

「……私とシルヴィアをお嫁さんにしてね?」

 

「勿論だ」

 

「死ぬまで愛し続けてね?」

 

「死んでからも天国で愛してやるよ」

 

「……もうラッキースケベは止めて」

 

「……善処する」

 

「そこは絶対にしないって言ってよ?!」

 

「……八幡のバカ」

 

瞬間、2人は頬を膨らませながら俺を叩いてくる。いや、努力はするが今までの経験上、注意していてもやっちまうんだよなぁ……

 

内心辟易しながらも2人のポカポカパンチを受け入れる。まあ偶にはこんな風に過ごすのも良いか。いつもはシルヴィの流星闘技やオーフェリアの塵と化せを食らっているんだし。

 

「はいはい。ごめんな2人とも」

 

そう言って俺は2人の機嫌を直すべく頭を撫でる。怒られていてアレだが、こんな時間がずっと続いて欲しいものだ。

 

対する2人はポカポカパンチを止めてトロンとした表情を浮かべて俺に寄りかかってくる。本当に可愛いなぁ……

 

それから10分、俺は飯が冷めるまで2人の頭を撫で続けていたのだった。

 

 

 

 

しかしこの時の俺はまだ知らなかった。

 

近い将来に俺達3人の関係が世間にバレる事を。


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