学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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クインヴェールの観戦室にて比企谷八幡は5回戦を見る

 

獅鷲星武祭10日目

 

今日は5回戦が行われ、今日勝てばベスト8が決まる。優勝を目指しているチームからすれば当然負けられない戦いである。ハナから優勝は無理と判断しているチームもベスト8に上がる為に奮起している。

 

星武祭では本戦に出場すれば各学園から金や待遇の良い学園生活が支給される。勿論勝ち上がれば勝ち上がるほど待遇は良くなるが、ベスト8とベスト16では与えられる待遇が結構違うので否が応でもやる気が出るものだ。

 

まあ若宮達はハナから優勝を目指している人間なので関係ない話だが。

 

そんな訳で俺はいつものように恋人2人と一緒にシリウスドームにて応援に向かったのだが……

 

 

 

 

「何でお前らが居んだよ……?」

 

クインヴェール専用の観戦室にてチーム・赫夜が5回戦の対戦相手である星導館のチーム・ヒュノスティエラと戦っているのを俺は思わずボヤいてしまう。すると……

 

「いやいや!それはこっちのセリフだから!」

 

「レヴォルフの生徒のお前らがいる方があり得ないからな!」

 

ルサールカのミルシェとトゥーリアからツッコミが入る。2人の後ろを見れば同じルサールカのパイヴィとモニカは呆れたような目を俺に向けていて、ルサールカ唯一の良心のマフレナは苦笑を浮かべていた。

 

(そういや本来なら俺とオーフェリアが入れる場所じゃないんだったな)

 

獅鷲星武祭が始まってからクインヴェールの観戦室に毎日入っていたから失念していた。

 

ちなみにお袋とペトラさんはこの場に居ない。ペトラさんは仕事があって、お袋はペトラさん曰く昨夜歓楽街でカジノで遊び倒したらしく寝ているらしい。

 

閑話休題……

 

「あー、そうだった。悪い悪い、コーヒーやるから許してくれ」

 

「おっ、飲み物の準備なんて随分と気が利いてんな!」

 

「いただきまーす!」

 

俺が懐に入れていたMAXコーヒーを差し出すと、2人は笑顔で受け取ってプルトップを開けて……

 

「「甘いわ!」」

 

一口飲んだ瞬間、同時に突っ込んでくる。さっきからテンションの高い2人だな……

 

「何だよ?人生は苦い事が多いんだし、コーヒー位甘くて良いだろうが」

 

まあオーフェリアとシルヴィの2人と付き合ってからはそこまで苦い事は無くなったけどな。

 

「限度にも程があるからな。つーかオレ達はシルヴィアからお前と『孤毒の魔女』の2人に関する惚気話を聞かされているからブラックコーヒーが飲みてぇよ!」

 

トゥーリアが俺に怒鳴り散らしてきて、トゥーリア以外のルサールカのメンバーはウンウンと頷いてくるが……

 

「惚気話だと?シルヴィ、お前こいつらに惚気話を話してるのか?」

 

シルヴィが惚気話をするとは思えないんだが……。不思議に思いながらシルヴィを見るとシルヴィは首を横に振る。

 

「え?別に私は家で2人とどう過ごしているかを話してるだけで惚気てるつもりはないよ?」

 

シルヴィがキョトンとした顔でそう言うと、ルサールカの5人はギョッとした顔で俺を見てくる。

 

「え?!て事はアンタ、毎日シルヴィアとオーフェリアが自分達の身体をスポンジ代わりにして身体を洗ってきたり、2人に1日最低300回キスをしたり、2人に媚薬を飲ませて野獣になってるの?!」

 

えーっと、まあ確かに、シルヴィとオーフェリアと一緒に風呂に入る時は2人が自分達の身体にボディーソープを纏わせてから俺に抱きついて擦り付けてくるし、2人に1日最低300回はキスをしようと言われたり、ロドルフォに紹介して貰った媚薬を2人に飲ませた時には2人を雌犬扱いしてるな……

 

その点を考えると……

 

「まあ、事実だな」

 

ミルシェの問いに俺が頷くと……

 

「嘘ーっ?!てっきりシルヴィアが大袈裟に話していたと思ったわよ!」

 

モニカが叫び出す。どうやらルサールカの面々はシルヴィの言葉を信じていなかったようだ。

 

「……ケダモノ」

 

「ほっとけ。仕方ないだろ。シルヴィもオーフェリアもマジで可愛くて一緒に過ごしてると幸せな気分になりながら理性の1つや2つ、簡単に吹っ飛んじまうんだよ」

 

パイヴィの罵倒を一蹴する。2人の誘惑に勝てない俺は仕方ないだろう。あの2人の誘惑に勝てる男なんて居るはずがない。まあ2人が俺以外の男に対して誘惑なんてしないと思いたいが。

 

「えへへー、八幡君にそう言われると嬉しいなー」

 

「……私も今、凄く幸せよ」

 

横に座っているシルヴィとオーフェリアは俺に抱きついて頬にスリスリしてくる。マジで可愛過ぎる。18歳になったら即挙式を挙げたいくらいだ。まあシルヴィがアイドルをやってる場合は厳しいとは思うが、出来るだけ早く結婚したいな。

 

「いやいや!さり気なく惚気ないでイチャイチャしないでくれる?!」

 

ミルシェがそう言って地団駄を踏むが、本当にこいつらは騒がしいな。今は昼前でルサールカの試合が夕方とはいえ少しは緊張感を持てよ?

 

てか……

 

「いやいやミルシェ、イチャイチャなんてしてないからね?」

 

「……この程度のやり取り、付き合う前からやっていたわよ」

 

だよな。付き合う前からキスをされたり、一緒に風呂に入ったり、一緒に寝てる俺達からしたらこの程度の事はイチャイチャとは言わないな。

 

俺の中でのイチャイチャは、2人にプリキュアのコスプレをさせたり、3人一緒にお互いの身体を触りまくって楽しむことだし。

 

「……バカップル過ぎでしょ、この3人……」

 

「もうさっさと結婚しなさいよー!」

 

パイヴィとモニカが俺達に文句を言ってくる。出来れば俺達も早く結婚したいんだけどなぁ……シルヴィの仕事の都合上、早期の結婚は割と厳しいだろう。

 

そんな事を考えていると、歓声が上がったのでステージに意識を戻すと……

 

『ここでチーム・赫夜のフロックハート選手とアッヘンヴァル選手が剣を持って、若宮選手を襲うファンドーリン選手の攻撃を全て防いだ!』

 

『昨日のチーム・メルヴェイユ戦でも若宮選手とアッヘンヴァル選手が同じようにセギュール選手の攻撃を打ち落としておりましたね。ネットではコピー能力と言われてますが、実際のところどうなのでしょう?』

 

実況と解説の声が聞こえる中、フロックハートとアッヘンヴァルはフェアクロフ先輩の剣技をコピーして、チーム・ヒュノスティエラのチームリーダーにして星導館の序列4位『氷屑の魔術師』ネストル・ファンドーリンの放つ氷の礫を斬り払う。

 

現在チーム・赫夜は1人も落ちておらず、チーム・ヒュノスティエラは遊撃手が1人落ちている。

 

そしてフェアクロフ先輩と蓮城寺がチーム・ヒュノスティエラの前衛2人と後衛1人と、それ以外の3人がファンドーリンと向かい合っている。

 

そして若宮がファンドーリンに向かって突撃を仕掛ける。手にはサーベル型煌式武装はなく、本来若宮が使うナックル型煌式武装を装備している。これは昨日フェアクロフ先輩の剣技を使い過ぎた故だろう。でなきゃフェアクロフ先輩の剣技をコピーした方が確実に倒せるし。

 

そう思いながら若宮を見ると、若宮と向かい合うファンドーリンは手に氷の刀を生み出しながら再度氷の礫を放つ。遠距離で攻めて、当たれば良し、外れたら近接戦で倒す算段だろう。

 

しかしフロックハートとアッヘンヴァルが再度氷の礫を斬り払う。遠距離戦を苦手とする若宮の援護が目的だろう。

 

そんな中、若宮とファンドーリンの距離が3メートルまで縮まった瞬間だった。ファンドーリンが氷の刀を振り上げると同時に若宮は左手に装備してあるナックル型煌式武装をファンドーリンの顔面目掛けて投げつけた。

 

これにはファンドーリンも予想外だったようで、思わず刀でナックル型煌式武装を弾き飛ばす。しかしこれは囮であり、若宮は身を低くしてファンドーリンの懐に潜りナックル型煌式武装が装備されている右の拳を一直線に放つ。

 

対するファンドーリンは星辰力を利用した防御ではなく回避を選択したようで、後ろにジャンプをしたが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁっ……」

 

次の瞬間、若宮の放った拳の軌道上にファンドーリンの股ーーー股間が現れて、若宮の拳がモロにめり込んだ。

 

『ぐぉぉぉぉぉっ!』

 

同時にファンドーリンが苦悶に満ちた表情を浮かべ絶叫を上げながら地面に倒れこんだ。ファンドーリンの両手は勿論股間をおさえているが、俺も思わずおさえてしまった。

 

「若宮の奴、悪気はないとはいえ容赦ないな……」

 

「……ねぇ八幡。アレって痛いの?」

 

俺がしみじみ呟いていると、女子故にあの痛みを知らないオーフェリアが質問をしてくる。見ればシルヴィやルサールカも俺を見ていた。

 

「あー……痛いどころじゃないな。下手したらやり過ぎって事でペナルティを食らうかもな」

 

星武憲章において星武祭でやり過ぎと判断された場合、星武祭のポイントが減少されたりする。一応狙ったやった訳ではないから大丈夫だとは思うが、ステージ上にて悶絶しているファンドーリンを見ていると何とも言えない。

 

「そんなに痛いのかよ?あんな弱点を持ってるなんて男って損だなー」

 

トゥーリアがそんな風に言ってくる。それについては間違っちゃいないが、これについてはファンドーリンが対策をしてない事にも原因はあるだろう。

 

急所を狙われたら1発で逆転されるので対策をするのは必然だ。俺自身も首の裏と股間は常に警戒しているし、いつでも防御出来るように星辰力を張り巡らせている。

 

「まあ否定はしない……っと、もう終わりだな」

 

見ればフロックハートが未だに悶えているファンドーリンに近寄り、そのまま校章を切り裂いた。

 

『ネストル・ファンドーリン、校章破損』

 

『試合終了!勝者、チーム・赫夜!』

 

機械音声が勝利を告げる。しかし観客席は静まったままだ。暫くしてから疎らに拍手が生まれるも、歓声は生まれていない。

 

いや、まあ……確かに締まらない形で試合は終わったからわからないでもないが、一応これベスト8を決める試合だったんだぞ?

 

かつてここまで気まずい形で終了した試合はないだろう。それほどまでに空気が重い。

 

若宮達は観戦席からでもわかるくらい微妙な表情をしながらゲートに戻って行った。その間、クインヴェール専用の観戦席にも沈黙が生まれていたが、若宮達の退場により……

 

「と、とりあえずベスト8進出か。中々やるじゃねーか」

 

「そ、そうねー。ま、まあ手を抜いたとはモニカ達に勝ったんだしこれくらいは当然よ」

 

トゥーリアとモニカの若干低い声で漸く沈黙が破られた。ま、まあ確かにこれでベスト8に進出だし。めでたいっちゃめでたいし素直に喜んでおこう。

 

「そうだな。結局『ダークリパルサー』は使ってないし、今回の試合は百点満点だな」

 

試合の終盤でフロックハートの伝達能力を使ったが、アレはもう世間では有名なので、今後の試合ではそこまで影響は出ないだろう。

 

「あー……アレは確かにチーム・ランスロットと当たるまでは使わない方が良いよねー。アレを使えば『聖騎士』を倒せる可能性もあるし」

 

かつてチーム・赫夜と戦った際に『ダークリパルサー』を食らった事で負けたミルシェはしみじみと頷く。『ダークリパルサー』は相手の体内に超音波を流す煌式武装だが、アレを食らって平然としている人間は居ないだろう。ミルシェを始め、俺やシルヴィ、お袋も食らったら暫くの間マトモに動けなかったし。

 

(しかし『ダークリパルサー』を使ったら材木座は大丈夫か?もし仮に『ダークリパルサー』を使ってチーム・ランスロットに勝った場合『アルルカントの人間がクインヴェールに協力した』なんて言われてもおかしくないぞ……)

 

一瞬悩んだが、腹から空腹を告げる音が鳴るとどうでもよくなった。まあ材木座だから何とかするだろう、多分。

 

「まあな。だからこそ準決勝までは隠しておきたいぜ。それより俺はちょっと昼飯を買ってくる」

 

「マジで?じゃあついでにサンドイッチをよろしく頼むぜ!」

 

俺が昼飯を買ってくると言うとトゥーリアが手を挙げて頼んでくる。他校の生徒をパシらせるとは良い度胸だな。まあ別に文句はないけど。

 

「はいよ。他の6人は何か買って欲しいものはあるか?」

 

トゥーリアの分も買うなら他の6人の分を買っておくべきだろう。

 

「え?い、いや比企谷さんにそんなパシリを「私もサンドイッチ!」「モニカはナポリタン!」「……私はおにぎりで」え、えーっと……」

 

マフレナが遠慮しようとしたが、その前にミルシェとモニカとパイヴィが各々食いたいものを言って、引き攣った笑みを浮かべる。マフレナの奴、俺は別に気にしてないから他の4人程とは言わないが少しは図々しくなった方が良いぞ。

 

「別に気にしなくて良いぞ。マフレナは何が良いんだ?」

 

「で、ではパスタをお願いしても宜しいですか?」

 

「ああ。わかった」

 

「わざわざすみません。宜しければ手伝いましょうか?」

 

「いや、俺1人で充分だ。にしてもルサールカってマフレナ以外はお淑やかさが足りねぇな……」

 

「何だとおっ?!」

 

ミルシェが叫びトゥーリアやモニカ、パイヴィがブーイングをしてくるが、そういう所だからな?マフレナはこいつらのストッパーだが、大変そうだな。

 

内心マフレナに若干同情しながらも恋人であるオーフェリアとシルヴィを見る。

 

「で?お前らは何が食べたい?」

 

俺が尋ねると……

 

「「八幡(君)と同じで良いわ(よ)」」

 

即答される。

 

「……まあ2人がそれで良いなら構わないが。じゃあ行ってくる」

 

「……ええ。行ってらっしゃい。もしも大変なら手伝うわよ……あ、あなた」

 

オーフェリアが恥じらいながら俺をあなた呼びしてくる。マジで最高過ぎる。これにはシルヴィやルサールカのメンバーも若干恥ずかしそうにオーフェリアを見ていた。

 

「い、いや。俺1人で大丈夫だ」

 

何とかオーフェリアに返事を返すと……

 

「そうなの。じゃあ気をつけてね……だ、ダーリン」

 

今度はシルヴィにダーリン呼びされる。ま、マジでこれ以上は……!

 

「わ、わかったよ!じゃあまた後で!」

 

これ以上2人の顔を直視出来ない俺は半ば逃げるように観戦席を後にして、顔の熱を冷ますくらい全力で売店に向かって走り出した。頼むから売店に行くまで何事も起こらないでくれよ……

 

 

(アレ?ひょっとしてこれはフラグじゃね?)


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