学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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比企谷八幡はベスト8に進出したチーム・赫夜を出迎える

「ふぅ……とりあえずこれで全部だな……」

 

俺は自分や恋人のオーフェリアとシルヴィ、ルサールカの分、そしてチーム・赫夜の分の昼食を買って売店を出る。昼時のシリウスドーム、それも5回戦の最中だけあってメチャクチャ混んでいた。星武祭は決勝に近づくにつれて盛り上がるのは必然だが、この混み具合には慣れる気はしないな。

 

だから赫夜の分の昼食も買った。こいつらについては適当に選んだが大丈夫から。

 

(まあ、弁当は買ったし若宮達と合流してさっさと戻ろう……ん?)

 

少し離れた場所から騒ぎ声が聞こえたので騒ぎの元に歩いてみると……

 

 

 

「あいつら……」

 

見ればチーム・赫夜の5人が沢山の観客に囲まれていた。獅鷲星武祭が始まった頃は多少有名なチームだったが、ベスト8まで進出したので評価が上がったからだろう。

 

実際本戦以降、ネットでも評価がガンガン上がっているのであの人気っぷりも納得だ。しかしファンの数は多く、赫夜の面々は対応に苦慮しているように見える。これがレヴォルフの生徒なら邪魔だと一蹴出来るが、クインヴェールの生徒がそれをやったら学園の顔に泥を塗るだろうから出来ないのは容易に想像出来る。

 

とりあえず5人を助ける為に動くか悩んでいる時だった。

 

「あ、比企谷君ー!5回戦勝ったよー!」

 

若宮が持ち前のマイペースっぷりを発揮して笑顔でこちらに向かってくる。同時に観客は俺を見てからモーセの海割りのように若宮と俺の間に進路を作る。

 

「お、おう。見てたぞ。締まらない勝ち方だったけど、おめでとさん」

 

あんな終わり方をした試合は今までに一度も無かったし、未来永劫現れないと思うが、勝ちは勝ちだから良しとしよう。

 

周りからは好奇の目で見られるが気にしたら負けだ。既に俺が若宮達の面倒を見たのは有名だからな。

 

「あ、うんありがとう。ところでアレって痛いの?」

 

女故にあの痛みを理解出来ない若宮は先程のオーフェリアと同じ質問を繰り返してくる。

 

「ああ。痛いな。女のお前らじゃ理解出来ないとおもうが」

 

「ヘェ〜」

 

アレは男にしか理解出来ないだろう。試合を見た男は間違いなく股間を手でおさえていたと思う、

 

「それよりお前らは今から昼飯か?」

 

「うん!比企谷君はお弁当を持ってるけど、もしかして私達の分?」

 

「ああ。そんでオーフェリアとシルヴィとルサールカの分な」

 

この辺りは周りに聞こえないように小声で喋る。オーフェリアはともかく、シルヴィやルサールカと交流がある事を知られたら面倒な事になるのは容易に想像出来るし。

 

「ありがとう!お腹ペコペコだったんだよね〜!」

 

若宮は俺の空いている左手を握ってブンブン振ってくる。本当にこいつは純粋で可愛いなぁ。名前の通り兎っぽいし一緒に居ると癒される……

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻……

 

「はっ!」

 

「あっ……!」

 

「ん?2人ともどうしたの?」

 

「「今、八幡(君)が女の子にデレデレした気が……!」」

 

「いやいや、2人して何を言ってるの?それはないでしょ」

 

 

 

 

 

 

 

所変わって売店前……

 

俺は苦笑しながら若宮が笑顔でブンブンしてくる手の速さを緩める。

 

「どういたしまして。それより混んでるから行くぞ」

 

人に見られるのは慣れてるが、いつまでも見世物になる趣味はないんでな。

 

「あ、そっか。皆〜!比企谷君がお昼ご飯買ってくれたから売店に行かなくて良いよ〜」

 

若宮が言いながら他の4人に話しかけるとフロックハートを先頭とした4人がこちらにやって来たので、俺は進行先にいる観客を一瞥する。同時に観客らが道を開けたので5人を連れて歩き出した。

 

 

暫く歩きドームの廊下に出ると売店前と違って人は少なくなったので、視線はそこまで感じなくなった。そしてクインヴェール専用の観戦席に戻るべくエレベーターに乗ると……

 

「わざわざ私達のお弁当も買っていただきありがとうございます。お幾らでしょうか?」

 

蓮城寺が綺麗なお辞儀をしてから財布を取り出す。初めて会った時から思っていたが1つ1つの仕草に品があって美しいな。流石癖の強いチーム・赫夜のメンバーの纏め役だな。

 

「別に今回はタダで良い。俺の奢りだ」

 

昔の俺なら奢りなんて絶対にしないと思うが、今の俺は割とこいつらチーム・赫夜を気に入っているからな。弁当の1つや2つ奢る事に忌避感を抱いていない。

 

「それよりベスト8進出おめでとさん。締まらない勝ち方だったが、『ダークリパルサー』を使わなかったし悪くない結果だろ?」

 

俺がそう言うと赫夜のメンバーは苦笑を浮かべる。戦った本人らからしたら実に気まずかっただろう。

 

「……そうね。今回は全員肉体にそこまで負担は掛かってないし、隠し玉の『ダークリパルサー』も出さずに済んだ……これで次のチーム・トリスタン戦で『ダークリパルサー』を使わなかったら準決勝は万全の状態で挑めるわね」

 

現時点でベスト8進出を決めたのはチーム・赫夜だけだが、次の準々決勝で当たるのは十中八九チーム・トリスタンだろう。ここで切り札を使わずに勝てば、準決勝で当たるチーム・ランスロットには最高の状態で当たれる。

 

しかし逆を言えばチーム・トリスタンで『ダークリパルサー』を使ったらチーム・ランスロットに対しての勝率は大きく下がるだろう。だから次の準々決勝も1ミリも油断出来ないのは当たり前のことである。

 

「まあその辺りは飯を食いながら話せば良いだろ」

 

話してる間にクインヴェールの観戦席がある階に着いたのでエレベーターから降りる。そして目的地がある左方向に行こうとすると……

 

「おや、比企谷君にソフィア……チーム・赫夜じゃないか」

 

右方向から聞き覚えのある声が聞こえたので振り向くと……

 

「お、お兄様?!」

 

フェアクロフさんを筆頭としたガラードワースの面々がゾロゾロとやって来る。毎回思うがガラードワースって獅鷲星武祭に参加するチームは集団で行動してるな。レヴォルフ否、ガラードワース以外の5学園では見れない光景だろう。

 

てか毎度のことながら葉山は俺を睨んでんじゃねぇよ。他のガラードワースの面々も俺を睨んでいるが、お前はあからさま過ぎるわ。

 

「どうもっす。そっちは今会場入りですか?」

 

「ああ。さっきの試合は見たけどベスト8進出おめでとう」

 

フェアクロフさんは含むものがない笑顔を見せてくる。本当この人って誠実だな。……まあ心の底にはとんでもない鬼気がありそうだけど。

 

「あ、ありがとうございます」

 

若宮は若干照れながらも返事を返し、他の4人もそれに続く。フェアクロフ先輩だけは若干慌てているが。

 

「チーム・赫夜の試合は全試合見てるけど、結成してから1年以内とは思えないよ。余程良い師に恵まれたのかな?」

 

フェアクロフさんはそう言ってあからさまに俺を見て笑ってくるが……

 

「それはお袋の事でしょう。俺は適度なアドバイスを何度かして模擬戦をしただけで良い師ではないですよ」

 

確かに若宮達の面倒は見たが、功績ならお袋や星露の方が上だろう。お袋はクインヴェールの生徒を、星露は界龍の生徒の力を底上げしてるし、2人の方が優秀なのは一目瞭然だ。

 

そう思いながら答えるも……

 

「そんな事ないよ!比企谷君の特訓は凄く役立ったよ!」

 

「美奈兎さんの言う通りですわ!私達の為に殆ど毎日時間を割いてくださって感謝しておりますわ!」

 

「お、おう……」

 

若宮とフェアクロフが俺に詰め寄りながら俺の言葉を論破してくる。予想外の勢いに思わずタジタジしてしまう。

 

チラッと左ーーーチーム・赫夜の3人を見るとアッヘンヴァルは頷き、蓮城寺は苦笑を浮かべ、フロックハートはため息を吐いて俺を見てくるが3人とも助けてくれる気配はない。

 

「ふふっ、だ、そうだよ比企谷君?」

 

そんな声が聞こえたので右を見ると、そこそこ交流のあるチーム・ランスロットの面々もフェアクロフさんとケヴィンさんは笑って、ブランシャールは意外そうな表情を、ライオネルさんとパーシヴァルは無表情と助けてくれる気配はない。

 

一方他のガラードワースの面々はチーム・ランスロットと親しいのが気に入らないのか睨んでくる。(特に以前俺の挑発に乗ったフォースターや俺を嫌っている葉山)今更どうこう言うつもりはないが、次に胸倉を掴んできたら容赦はしないぞ?

 

閑話休題……

 

「……みたいですね……っと、そろそろチーム・ランスロットの試合ですね。頑張ってください」

 

「気持ちはありがたく受け取りますが、普通貴方の立場からしたら私達の負けを祈るのでは?」

 

ブランシャールは呆れた表情を浮かべるが、当然理由がある。

 

「そりゃ敗退してくれるに越した事はないですけど、チーム・ランスロットの5回戦の相手の力じゃ無理だろうからな」

 

「本当に貴方はずけずけ言いますわね……」

 

「じゃあ聞くが俺が馬鹿正直に”お前らの事を信じてるからな。きっと勝ってくれるさ”なんて言ったら?」

 

「まず偽物だと思いますわね」

 

「お前もずけずけ言うなぁ……オカンが」

 

「ですから!オカン呼びは止めてくださいまし!最近じゃケヴィンだけでなくアーネストも私の事を母親みたいだと仰いますのよ!」

 

途端にブランシャールは真っ赤になって怒り出す。やっぱりブランシャールってフェアクロフ先輩と似てからかい甲斐があるなぁ。

 

「わかったよお母さん」

 

「そういう意味ではありませんわよ!お母さん扱いを止めてくれと申しているのですわ!」

 

「わかったよお父さん」

 

「私は女ですわよ!」

 

「我儘な奴だな……はぁ」

 

「何で私が悪いようにため息を吐くんですの?!」

 

「ちなみにブランシャール、砂糖かミルク、紅茶に入れるとしたらどっちだ?」

 

「何故そこで紅茶の話になりますの?!砂糖ですわ!」

 

「律儀に答えるのかよ……ところでさっきから叫んでばかりで疲れないか?」

 

「誰の所為だと思っていますのよーーーー?!」

 

遂にブランシャールの中の火山が噴火したようだ。やっぱりこいつ面白いな……思わず笑いが込み上がってくる。

 

見ればチーム・赫夜からは若宮とフェアクロフ先輩が、チーム・ランスロットからはフェアクロフさんとケヴィンさんが差はあれど笑っている。他のメンバーは唖然としているが。

 

すると……

 

「……八幡」

 

後ろから声が聞こえたので振り向くとオーフェリアがこちらに向かって歩いてきていた。

 

「おうオーフェリア。どうかしたか?」

 

「……お手洗いに行っていたらレティシア・ブランシャールの叫び声が聞こえたから、八幡がいつものようにからかっているのかと思ったのよ」

 

流石俺の恋人。俺の行動はしっかりと理解しているようだ。

 

「ビンゴビンゴ。いやー、ブランシャールって本当に面白いからな」

 

「……気持ちはわかるけど、もう直ぐ試合が始まるしおもち……レティシア・ブランシャールで遊ぶのは程々に」

 

「ちょっと待ちなさいオーフェリア・ランドルーフェン!貴女今私の事をおもちゃと呼ぼうとしませんでした?!」

 

「……気の所為よ、お母さん」

 

「で・す・か・ら!お母さん扱いするのは止めてくださいまし!」

 

「わかったわ……お父さん」

 

オーフェリアが薄く笑いながら言うと……

 

ブチッ……

 

「はっ倒しますわよ!」

 

いかん、少し揶揄い過ぎたようだ。ブランシャールの頭から何かが切れる音が聞こえてきて俺達にズンズン詰め寄ってくる。

 

「まあまあレティシア。もう直ぐ試合だから落ち着いて。比企谷君もミス・ランドルーフェンも余りレティシアを揶揄わないで欲しいな」

 

するとフェアクロフさんが間に入って仲裁をしてくる。確かに揶揄い過ぎだな。以後は迷惑をかけないようにTPOを弁えて揶揄う事にしよう。

 

「すみませんでした」

 

「……以後気をつけるわ」

 

「……全く!私を揶揄うのは止めてくださいまし!」

 

俺達が謝るとブランシャールは頬を膨らませてそっぽを向く。ブランシャールは何だかんだ子供っぽいのは知っていたが、実際に子供っぽい仕草を見ると癒しを感じるな。

 

「それじゃあ僕達はこれで失礼するよ。縁があったらまた」

 

フェアクロフさんがそう言って歩き出そうとした時だった。

 

「お、お兄様!」

 

俺の後ろにいたフェアクロフ先輩が俺の横に立ち、兄であるフェアクロフさんに話しかける。

 

「ソフィア?どうかしたのかい?」

 

不思議そうな表情を浮かべるフェアクロフさんに対して、フェアクロフ先輩は迷いが混じった表情を浮かべてから俯き、暫くの間深呼吸をして……

 

 

「私達はお兄様達を倒して……優勝してみせますわ!」

 

凛とした声でそう口にする。それによって場は静まる。見ればこの場にいる殆どの人が驚きの表情でフェアクロフ先輩を見ている。てか俺も若干驚いている。

 

フェアクロフ先輩は割と物事をハッキリ口にする人間だが、兄そして前シーズンのディフェンディングチャンピオンに優勝宣言をするとは思わなかった。

 

対して兄の方は軽く目を見開いて驚きを露わにするも、一瞬でいつもの爽やかな笑顔に戻り……

 

「そうか……じゃあもしも当たったら宜しく頼むよ……ああ、それと比企谷君にミス・ランドルーフェンにチーム・赫夜。ソフィアの事を宜しく頼むよ」

 

言いながらフェアクロフさんは自身の学園の生徒を引き連れて去って行った。その後フェアクロフ先輩を見れば両手を組んで俯いていた。

 

フェアクロフ先輩が叶えたい願いは知っているが、それ以外にも何かしら事情があるのだろう。知りたいのは山々だが、踏み込んで良いかどうかの分別はあるので聞くつもりはない。

 

「ふぅ……とりあえず昼飯を食って次に当たるチームを見ておこうぜ」

 

俺がそう口にすると、全員表情に差はあれど異を唱える人間はこの場に居なかったので、俺は6人の先頭に立ってクインヴェール専用の観戦室に向かって歩き出した。


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