学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

184 / 324
チーム・赫夜VSチーム・トリスタン(前編)

クインヴェールの専用観戦室にて俺は今生き地獄を味わっている。マジで恥ずかしくて穴があったら入りたい位だ。

 

何故なら……

 

「そんで?八幡はどんな風に攻めたんだー?」

 

「え、えっと……媚薬を飲んで身体が熱い私達に優しくキスをしたり愛撫をしてきて……」

 

「……私達が泣いて激しく攻めてくれと懇願するまで焦らしてきたわね」

 

「おーおー、八幡の奴やるなー。Sの才能があるじゃん」

 

恋人2人がお袋に昨夜の夜の営みについて説明しているからだ。

 

シリウスドームに到着すると同時にお袋とペトラさんと合流したのだが、その際お袋に「お前、昨夜2人を抱いただろー?」と何故か1発でバレた。

 

俺達が恥ずかしがっている間にお袋はニヤニヤ笑いを浮かべてオーフェリアとシルヴィに問い詰めて2人が説明しているのだが……

 

(マジで恥ずかしい……死にてぇ……!)

 

何でこんな状況になってんだよ。実の母親に自分の夜の営みについて聞かれるとか拷問以外の何でもねぇよ!これにはシルヴィと付き合っている俺に対して良い感情を抱いていないペトラさんも同情の眼差しを俺に向けてくる。

 

内心悶えていると漸く、お袋はオーフェリアとシルヴィから事情聴取を済ませたのか2人から離れて俺の隣に座りニヤニヤ顔で肩を叩いてくる。

 

「いやー、やるな八幡よ。相変わらずラブラブで何よりだぜー」

 

「煩ぇ……マジでこれ以上言わないでくれ……」

 

何で母親にそんな理由で褒められるんだよ。お袋はそんなに俺を悶死させたいのか?

 

「まあそう言うなって。で、ペトラちゃんよ。こいつらラブラブなんだし引き裂かないでくれよ〜?」

 

「ですからちゃん付けはやめて下さいと何度も言っているでしょう?それと3人の関係ですが、彼らがクインヴェールひいてはW=Wにどれだけ貢献するかによりますね。少なくとも上の人間は2人の事を評価していますので」

 

そういや昨日ミルシェから準優勝以上に加えて俺とオーフェリアがレヴォルフ卒業後にW=Wに就職すればウンタラカンタラって聞いたな。

 

俺はシルヴィの為なら何でもやるのでW=Wに就職するのは問題ない。これはオーフェリアも同じだろう。昔ならともかく、今のオーフェリアはシルヴィを大切に想っているし。

 

となると問題は……

 

そこまで考えた時だった。

 

『さあいよいよ準々決勝第2試合の時間です。先ずは東ゲートから現れたるは、聖ガラードワース学園が誇る銀翼騎士団が一翼にして前大会の準優勝チーム!と言ってもメンバーは入れ替わっておりますが……それはともかく!『輝剣』エリオット・フォースター率いるチーム・トリスタン!』

 

実況のデカイ声が観戦室に響き、ステージを見れば東ゲートからチーム・トリスタンのメンバーが粛々とした様子で入場して歓声が上がる。

 

『そして西ゲート!今大会初出場!チーム結成してから僅か1年以内にもかかわらず、ベスト8まで勝ち上がってきたダークホース!クインヴェール女学園所属チーム・赫夜!』

 

実況の声と共に若宮達が西ゲートから入場して再度歓声が上がる。片や前大会の準優勝チーム、片や初出場でベスト8まで生き残るチーム。盛り上がるのも必然と言える。

 

『両チームとも危なげない試合運びでここまで来ましたが、どうでしょうか?』

 

『そうですね……チームの練度はチーム・トリスタンの方が上でありますね。ですがチーム・赫夜は味方の技術をコピーする規格外の能力がある上にまだ何か隠し球を持っていそうですし、勝敗を判断するのは難しいであります』

 

だろうな。チームの練度はチーム・トリスタンの方が上だ。しかしこれは仕方ない。ガラードワースのチーム・ランスロットやチーム・トリスタンの戦術は基本的に昔から同じと既に確立してある。対するチーム・赫夜は1年かけて作り上げた戦術を使う。こればかりはチーム・トリスタンが有利だ。

 

しかし勝負ってのはそれだけでは決まらない。作戦や選手の質やコンディション、所有している武器の数、フォーメーションの相性など色々な条件がある。

 

加えてチーム・赫夜のメンバーの個々の実力は決して悪くないので勝ち目は普通にあるだろう。

 

そんな事を考えていると、チーム・トリスタンのリーダーのフォースターがチーム・赫夜の連中に近寄り何かを言っているのが見える。しかし特に赫夜のメンバーは怒ってるようには見えないので挑発合戦はしてないのだろう。

 

「頑張れーチーム・赫夜ー」

 

「……負けないで」

 

「勝てー!私の給料の為に!」

 

内心呆れているとシルヴィとオーフェリアとお袋が若宮達にエールを送る。お袋だけは私慾に塗れているエールだけど。

 

「やれやれ……ちなみに貴方はどちらが勝つと?」

 

「チーム・赫夜」

 

ペトラさんに尋ねられた俺は即答する。

 

「根拠は?貴方の事ですから私情を抜いて判断したのでしょう?」

 

「ええ。簡単に言うとあいつらにはまだ奥の手が2つ残っているので」

 

「奥の手?1つは新年にルサールカとの試合で見せた超音波の剣だと思いますが、もう1つは何なんですか?」

 

ペトラさんの指摘は的を得ている。1つは当たればどんな相手でもマトモに動けなくさせる超音波の剣『ダークリパルサー』だ。まあアレはチーム・ランスロット戦での秘策なので、この試合では負けそうにならない限り使用しないだろう。

 

「ええ。それはですね……」

 

そこまで口にした時だった。

 

『さあいよいよ時間です!試合に勝ち準決勝でベスト4に1番乗りしたチーム・ランスロットと戦うのはチーム・トリスタンかチーム・赫夜か?!』

 

実況の声と同時にステージにいる10人が各々使用する武器を持ち準備を完了する。

 

「ま、とりあえず今は試合を見ましょう」

 

それによってステージから観客席に緊張感が伝わる中、遂に……

 

『獅鷲星武祭準々決勝第2試合、試合開始!』

 

機械音声が試合開始の合図を告げて試合が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『獅鷲星武祭準々決勝第2試合、試合開始!』

 

機械音声が試合開始の合図を告げるとステージにいる10人が動き出す。

 

今回はチーム・赫夜の前衛は2人で、チーム・トリスタンの前衛は3人だ。両チームの先陣を切るのは……

 

「行っくよー!」

 

「行きます……!」

 

チーム・赫夜からは切り込み隊長の若宮美奈兎、チーム・トリスタンからはチームリーダーのエリオット・フォースターだ。

 

『ソフィア先輩は前衛2人の足止めをお願いします。私とニーナと柚陽で『聖茨の魔女』ら後衛の足止めをするので』

 

『了解ですわ!』

 

クロエがソフィアに指示を出しながらハンドガン型煌式武装を展開して『聖茨の魔女』ノエル・メスメルに向けて光弾を放つも、もう1人の後衛が光弾を弾き飛ばす。

 

同時に杖型煌式武装に額を付けて祈るようにしゃがむノエルの足元から茨が生え始める。ノエルの能力は領域型と呼ばれる希少な能力で展開までに時間がかかるが、効果範囲を殆ど完全に支配下に置くことが可能である。つまり長期戦になればチーム・赫夜が不利になるということである。

 

よってチーム・赫夜はチームリーダーを早く倒す短期決戦となり、チームリーダーのエリオット・フォースターを倒す役割の人は若宮となった。

 

「やあっ!」

 

美奈兎がナックル型煌式武装に星辰力を込めてエリオットの顔面に右拳を放つ。

 

しかし……

 

「甘いですよ!」

 

その直前、エリオットは片手剣型煌式武装を軽く振るって美奈兎の拳を受け流す。そして間髪入れずに円を描くような斬撃を美奈兎の校章に放つ。

 

「おっと!」

 

対する美奈兎は身体を捻りながら回避するも、完全に回避する事は出来ず制服に剣が擦り制服が避ける。

 

身体を捻り体勢を立て直そうとした美奈兎だが、エリオットは休めることなく突きを幾度も放ってきてくる。美奈兎はナックル型煌式武装で突きを防ぐものの予想以上の攻撃速度に反撃の糸口をつかめずにいた。美奈兎には確信があった。今無理に反撃しようとしたら隙を突かれて校章を破壊される、と。

 

『美奈兎、長引かせると不利だからソフィア先輩の剣技を伝達するわ。今直ぐ煌式武装を変えて』

 

すると美奈兎の頭にクロエから指示がやってくる。対する美奈兎はクロエの頭に了解と返事をしながら腰にあるホルダーからサーベル型煌式武装を取り出そうする。

 

 

 

……が、

 

「それはさせまんよ」

 

「わわっ!」

 

その前にエリオットは予期していたかのように美奈兎の右手に向けて突きを放つ。それによって美奈兎は反射的に腕を上げて回避するも、エリオットの片手剣はそのまま突き進みサーベル型煌式武装の入ったホルダーを美奈兎のスカートから弾き飛ばす。

 

エリオット、ひいてはチーム・トリスタンはチーム・赫夜の『チームメンバー全員が他のチームメンバーそれぞれの技術を使用出来る事』に対して『武器を取ろうとした所を狙う』戦術を選択したのだ。いくらソフィアの剣技を持っていても剣が無ければ意味がないと判断した故だ。

 

そして武器を落として体勢を崩した美奈兎には隙が出来て……

 

「これで終わりです……!」

 

ホルダーを弾き飛ばしたエリオットの片手剣が一度引かれて、上段から振り下ろされる。今度は美奈兎の胸の校章目掛けて。

 

これはマズい、美奈兎がそう思った時だった。

 

『仕方ないわ……美奈兎、第2のカードを切るから構えて』

 

クロエから頭に指示が来る。同時に美奈兎は了解の返事をするまでも無く、身体を捻って上段からの振り下ろしを回避する。

 

そして……

 

「やあっ!」

 

軽くジャンプをしてから右足で片手剣に蹴りを入れてエリオットのバランスを崩し……

 

「そこっ!」

 

「くっ……!」

 

空いている左足でエリオットの顔面に蹴りを放つ。対するエリオットは顔面に星辰力を集中して防御の構えを見せるも、威力を完全に相殺するのは不可能だったようで顔面にモロに蹴りを食らった。

 

エリオットがよろめきながら数歩後ろに退がると同時に美奈兎が地面に着地して、観客席が湧き上がる。

 

『おおっと!若宮選手の先制パンチ、いや先制キックがフォースター選手に炸裂!アレは痛そうだー!』

 

『まあ顔面に蹴りを食らったら痛いでしょうね。でもアレって若宮選手本来の技じゃないね。若宮選手の技は何となく型がある技だけど、今の技は見る限り実戦で培われた荒々しい技だし』

 

実況と解説の声がステージに響く中、美奈兎は呼吸を整えながら先程弾き飛ばされたホルダーを装備し直して辺りを見渡す。

 

ソフィアは持ち前の剣技で2人の騎士の足止めをしていて、ニーナは得意の合成技でノエルの茨を食い止めて、クロエと柚陽はノエルを叩く為2人がかりでノエルの護衛の騎士に攻撃をしていて……

 

「やってくれますね……まさか顔面に蹴りを放つとは思いませんでしたよ……!」

 

美奈兎自身の相手をしているエリオットは先程の美奈兎の蹴りによって生まれた鼻血を拭いながら片手剣を構える。瞳には屈辱と怒りが見て取れる。

 

「ごめんね。負けるのが嫌だったからつい、ね?」

 

「別にそれくらいは構いませんが……今度は誰の技術を真似たのですか?」

 

詳細は明らかになっていないが、世間一般ではチーム・赫夜は『チームメンバー全員が他のチームメンバーそれぞれの技術を使用出来る』事については有名である。

 

しかしエリオット自身今の体術はチーム・赫夜のメンバーの技術ではないと確信を得ていた。

 

美奈兎がエリオットの顔面に放った蹴りは荒々しく美奈兎の技術ではないのは一目瞭然。よって先程の体術は美奈兎以外の技術であり、それを美奈兎がトレースしたのも一目瞭然だが、誰の技術かエリオットには理解出来なかった。

 

しかしエリオットが理解出来ないのも仕方ないだろう。

 

クロエの能力による伝達ーーーテレパシーなどは誰でも可能だが、クロエの能力の真髄である感覚、経験、技術の伝達は信頼した者同士でないと出来ないのだ。

 

そして今回美奈兎が使った技術は……

 

「今回はね、比企谷君の技術を真似したんだ」

 

美奈兎の言葉にエリオットが目を丸くして驚く。

 

既に美奈兎ひいてはチーム・赫夜は比企谷八幡を信頼していて、八幡自身もチーム・赫夜を信頼しているのでチーム・赫夜のメンバーは八幡の体術を使用することが出来る。

 

これがチーム・赫夜の第2のカード。週に一度、本気の『万有天羅』と戦う男が実戦で身につけた高レベルの体術の使用である。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。