学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

186 / 324
こうしてベスト4が出揃う

『エリオット・フォースター、校章破損』

 

『試合終了!勝者チーム・赫夜!』

 

 

機械音声がそう告げると観客席からは大歓声が生まれる。そんな大歓声が耳をつんざく中、俺も思わずガッツポーズをしてしまう。

 

『ここで試合終了!チーム・赫夜、前評判を覆して前回準優勝チーム相手に金星を挙げてベスト4に進出だー!』

 

『最後にクインヴェールがベスト4以上に進出したのは第19回の獅鷲星武祭ーーー15年前ですからね。これは大きいですよ』

 

実況と解説も興奮した声音で説明をする。まあ獅鷲星武祭のファンは金星が挙がるのを好むファンも多いからな。

 

「美奈兎ちゃん達、凄く成長したなぁ……」

 

「……そうね。八幡に弟子入りした頃は本戦に上がれるかわからないレベルだったのに」

 

「いやー、良かった良かった。楽しかったし、私の給料も上がるし一石二鳥だなー」

 

「貴女はそればかりですね……まあチーム・赫夜を成長させたのは事実ですし、昇給の申請はしておきますよ」

 

「おっ、マジで?ペトラちゃんサンキュー!」

 

「ですからちゃん付けは止めてくださいと何度も言っているでしょう?」

 

クインヴェールの専用観戦室にいる俺以外の面々も大小差はあれどテンションが上がっている。まあ久しぶりのベスト4だからな。気持ちは良くわかる。

 

しかし……

 

『チーム・赫夜、次はいよいよチーム・ランスロットとの試合ですが、前回の優勝チーム相手にどう戦うか今から楽しみですあります』

 

問題は次からだ。チーム・赫夜が頂に近付いているのは事実だが、次からは更に険しい道が待ち受けているのだ。明後日戦うチーム・ランスロットは今まで戦ったどのチームより個々の力もチームワークも上である。

 

チーム・赫夜が持てる全ての力を出して尚且つ運が良ければギリギリ勝てる……ってのが俺の考えだが、間違ってはいないだろう。

 

とはいえ……

 

「とりあえず若宮達に差し入れでも持って行くか……」

 

今回の試合で若宮とアッヘンヴァルはフロックハートの伝達能力を使用した。特に若宮は自分の体術に加えて、俺の体術とフェアクロフ先輩の剣技を使用したのだ。その消耗が半端ないのは容易に想像出来る。売店で果物や栄養回復ゼリーで買っておいてやるか。

 

俺がそう言って立ち上がるとシルヴィとオーフェリアもそれに続いて立ち上がり、俺の腕に抱きついて俺を引っ張る形で観戦室から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

『エリオット・フォースター、校章破損』

 

『試合終了!勝者チーム・赫夜!』

 

所変わって聖ガラードワース専用観戦室にて、チーム・ランスロット及び獅鷲星武祭に参加して敗退したガラードワース所属のチームはチーム・トリスタンの敗北を目の当たりにした。

 

観戦室にいる生徒の内大半が信じられない気持ちで一杯だった。チーム・ランスロットとチーム・トリスタンはガラードワースの象徴である銀翼騎士団のメンバーから構成されたチームで、ガラードワースの生徒からすれば憧れそのものである。

 

その2チームの内、片割れが結成して1年以内のチームに負けたとなれば心中穏やかではないだろう。

 

(クソッ……まさかチーム・赫夜がベスト4まで来るとは……比企谷……!王竜星武祭では見てろよ……!俺はお前に勝つ……!)

 

一部の連中が的外れな怒りを胸に秘める中、ガラードワース最強のチームのチーム・ランスロットのリーダーのアーネストは紅茶を飲んで一息吐く。

 

「ふむ……想定はしていたが、エリオット達を倒すとはね……」

 

「ええ。チームは出来てから1年以内と浅い歴史ですが、比企谷親子にオーフェリア・ランドルーフェンという桁違いの3人が協力した事もあって侮れないチームですわ」

 

アーネストの隣に座るレティシアも真剣な表情をしながら試合を見ていた。目には一切の驕りは見えない。王竜星武祭を二連覇した女2人と世界最強の魔術師と評される男のネームバリューは大きい。

 

しかしレティシアは知らない。この3人に加えて『万有天羅』も一枚噛んでいる事を。

 

「うんうん。全員可愛い顔をしてるのに強い意志を感じるなー。今度食事に誘ってみようかな?」

 

「相変わらず浮ついた男。試合が終わって第一声がそれか?」

 

「レオこそ、相変わらず堅苦しいなぁ、そんなんじゃ彼女の1人も出来ないぜ」

 

ケヴィン・ホルストとライオネル・カーシュは真剣な表情を浮かべながらもいつものようなやり取りをして……

 

ズガァン!

 

「お二人共、関係ない話は止めてくださいね?」

 

パーシヴァル・ガードナーはいつものように銃を発砲して辺りの空気を凍らせる。チーム・ランスロットの面々からしたら慣れた光景だが、他のガラードワースの生徒は驚愕の表情を浮かべていた。まさかガラードワースの生徒会のメンバーの一員が観戦室で発砲するとは……と、考えながら。

 

「はぁ……お願いですからもう少し引き金を重くして欲しいですわ……そして、アーネスト。準々決勝が終わり次第チーム・赫夜の対策ミーティングで宜しいですの?」

 

レティシアはパーシヴァルの行動に頭痛と胃痛を感じ胃薬を飲みながらアーネストに尋ねる。(尚、レティシアは一色がシルヴィアとオーフェリアに文句を言われている動画がネットに配信されて以降常に胃薬を常備している)

 

「そうだね。チーム・赫夜の若宮さんが見せたあの荒々しい体術は予想外だったし、もしかしたらまだ秘策があるかもしれない」

 

当然の事ながらチーム・赫夜の総合力はチーム・ランスロットのそれに比べて遥かに劣っている。しかしアーネストは一切の油断をしていない。自分の妹は力の差を理解して尚、優勝すると言ったのだ。つまり何かしらの勝算があるとアーネストは考えている。

 

「まあそれは準々決勝が全て終わってからにしよう。今は次の試合に集中しないとね。……君達も次回に備えてしっかり見ておくように」

 

『はい!』

 

アーネストが後ろにいる全員にそう告げると、一斉に了承の返事が返ってくる。それを確認したアーネストは1つ頷いて、次の試合に備えて星武祭のスタッフがステージの整備をしている光景を眺め始めた。

 

(まさか本当に上がってくるとはね……僕の事は気にしなくても良いのに……ソフィア)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……とりあえずこれくらい買っとけば充分か」

 

「あ、後は鎮痛薬も買っとかないと」

 

「……そうね」

 

現在俺は変装しながらシリウスドームの売店にて、同じように変装した恋人2人と一緒にチーム・赫夜に向けた差し入れを買っている。買い物カゴには果物や栄養回復ドリンク、鎮痛薬など様々な物が入っている。これもチーム・トリスタンとの戦いでかなり消耗したからだ。

 

そう思いながらも俺達は会計を済ませて売店を出る。

 

「さて……あと2回勝てば優勝だが……」

 

「その2回が大変ね……」

 

オーフェリアの言う通りだ。次の相手は前回のチャンピオンチームのチーム・ランスロット。決勝の相手はチーム・エンフィールドかチーム・黄龍のどちらかだと思うが、両チームともチーム・ランスロットと比べても大差ない実力だ。今までの相手とは文字通り桁違いだ。

 

「まあその為に試合以外の所で、私達がフォローしてあげないとね」

 

「同感だな。……っと、ここだな」

 

話してる間にもチーム・赫夜の控え室に到着したので、俺は事前に若宮達に渡された通行証となるカードを懐から取り出して、カードリーダーにスラッシュする。

 

するとカードリーダーからピーと機械音が鳴り出してドアが開くので中に入ると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『え?』

 

そこにはバスタオル姿のチーム・赫夜のメンバーがいた。尚、フェアクロフ先輩とアッヘンヴァルに至っては着替えるためか下着を片手にバスタオルすら纏っていなかった。

 

予想外の理想郷に困惑する中、俺の両肩に手が置かれる。同時に全身に寒気が走り鳥肌が立つ。俺は恐る恐る振り向くと……

 

 

「「八幡(君)、またなの?」」

 

オーフェリアとシルヴィが絶対零度の眼差しを向けながら引き攣った笑みを浮かべていた。どうやら俺はラッキースケベの神に愛されているようだ。全然嬉しくないけど。

 

内心そう毒づく中、フェアクロフ先輩とアッヘンヴァルの悲鳴が控え室全体に響いた。

 

 

 

 

 

 

5分後……

 

「ほらよ。差し入れだ」

 

「……どうもありがとう」

 

俺は先程売店で買った品々をフロックハートに渡すと、フロックハートはジト目で俺を見ながら差し入れを受け取る。

 

横に座るオーフェリアとシルヴィは頬を膨らませていて、向かいに座るフロックハート以外のチーム・赫夜のメンバーは大小差はあれど顔を赤らめている。さっきのラッキースケベの所為だろう。しかしオーフェリアとシルヴィ以外の女子の裸を見たが予想以上に魅力て「「八幡(君)?」」……余計な事を考えるのは止めよう。

 

内心ビクビクしながら煩悩を断つ。普段ならオーフェリアとシルヴィにボコボコにされている所だが、今回ラッキースケベが起こった場所は暴れることを禁止されている控え室に加えて、若宮達が止めてくれたのでボコされずに済んだ。

 

まあネチネチ嫌味を言われた後に今夜搾り取ると言われたけど。俺が悪いとはいえ2日連続は結構キツイんだよなぁ……

 

「とりあえずお疲れ様。これを食べて明日はゆっくり休んでね?」

 

シルヴィは若宮達に優しい笑顔を見せる。先程俺に対して向けた阿修羅のような表情とは真逆の表情だった。

 

「……そうするわ。それにしても八幡の体術を使ったのは痛いわね……可能なら『ダークリパルサー』と一緒にチーム・ランスロット戦まで取っておきたかったわ」

 

フロックハートは若干悔しそうにしているが、アレは落ち度はないと思う。アレが無かったら負けていた可能性もあったし、寧ろ『ダークリパルサー』を残せたのは僥倖だろう。

 

「まあ使っちまった物をどうこう言っても意味ないだろ?それよりお前らは体力の回復に努めろ」

 

明後日の試合までに万全の状態にならなければ、タダでさえ低い勝率が更に下り、下手したら0になるかもしれないし。

 

「わかってるわ。とりあえず今日明日で回復に努めて、明後日の朝に最終ミーティングって感じで行くわよ」

 

『うん(ええ)(はい)!』

 

フロックハートがチームメイト4人にそう指示を出すと4人は了承の返事をする。若宮とアッヘンヴァルはソファーに転がりながら返事とダラシないが気にしない。こいつらは限界寸前だろうから。

 

「そうしろそうしろ。俺は俺でチーム・ランスロットの対策を練ってくるから明後日の朝によろしくな」

 

0.1%でも勝率を上げる必要があるからな。今夜2人に搾り取られてからは獅鷲星武祭が終わるまで遊ぶつもりない。俺も最後の最後まで全力を尽くすつもりだ。

 

「協力感謝するわ。最後までよろしくね」

 

「勿論だ」

 

「それと……ラッキースケベは余りしないでね」

 

「したくてしてる訳じゃねぇよ!」

 

フロックハートの言葉に思わずツッコミを入れてしまう。つーかフロックハートがラッキースケベって言ってくるとは予想外だ!

 

「それは理解しているけど……回数を思うと……」

 

「そうだよねー。わざとじゃないとわかっていても多過ぎだよねー」

 

「……だから偶に狙ってやっていると思ってしまうわ」

 

フロックハートのため息混じりの愚痴にシルヴィとオーフェリアがこれ見よがしに嫌味を言ってくる。言い返したいのは山々だが、事実だから言い返せねぇ……

 

結局俺は暫くの間2人の嫌味に耐え抜いて、獅鷲星武祭以降にする予定のデート代を全額払うことで何とか許して貰った。マジでラッキースケベの神様が居るなら是非ともお祓いしたいです、ハイ。

 

 

 

 

 

 

 

それから2時間後……

 

『試合終了!勝者チーム・黄龍!』

 

俺達はチーム・赫夜の控え室にて、準々決勝最後の試合であるチーム・黄龍とチーム・ヘリオンの試合の中継を見終えた。

 

第3試合のチーム・エンフィールドとチーム・ルサールカは序盤はルサールカが押してたものの、エンフィールドがルサールカで1番厄介なモニカと相討ちになって互角となった。その後、ミルシェがマフレナの援護を受けてチーム・エンフィールドのリーダーの沙々宮を叩こうとするも、沙々宮が天霧辰明流剣術を使って返り討ちにしてチーム・エンフィールドの勝利となった。

 

さっき終わったチーム・黄龍とフロックハートと因縁のあるチーム・ヘリオンの試合はチーム・黄龍のリーダーの暁彗がチーム・ヘリオンのリーダーのネヴィルワーズとエースのロヴェリカの2人を纏めて蹴散らしてチーム・黄龍の勝利となった。

 

よって明後日の試合は……

 

第1試合

 

チーム・ランスロットVSチーム・赫夜

 

第2試合

 

チーム・エンフィールドVSチーム・黄龍

 

と、いう感じになるが普通の客からしたらチーム・赫夜の場違い感が半端ない。

 

何故なら……

 

チーム・ランスロット

 

ガラードワーストップ5が揃っているチーム

 

チーム・エンフィールド

 

今シーズンの鳳凰星武祭の優勝ペアとベスト4の2ペアと序列2位がいるチーム

 

チーム・黄龍

 

メンバー全員が『万有天羅』の弟子であり界龍の冒頭の十二人であるチーム

 

チーム・赫夜

 

5人全員、ある分野においては突出した才能を持ちながら、それを帳消しにしてしまう程大きな欠点を持つ人間であるチーム

 

 

……うん、一般客からしたら運だけで勝ち上がってきたチームと思ってしまったかもしれないな。

 

しかし俺は当事者であるから知っている。奴らには可能性がある事を。チーム・赫夜以外の3チームは勝利をもたらすが、チーム・赫夜は可能性をもたらすだろう。優勝出来る可能性を。

 

 

「さて……全試合終わったし、帰りましょう。美奈兎とニーナはしっかり休むように」

 

「はーい」

 

「わ、わかった」

 

空間ウィンドウを閉じたフロックハートはそう指示を出すと若宮とアッヘンヴァルは消え入りそうな声で返事をしてフェアクロフ先輩と蓮城寺はコクンと頷く。

 

同時に俺達は立ち上がり控え室を出て、疲れ果てている若宮とアッヘンヴァルのペースに合わせてゆっくりと歩く。

 

そうしてシリウスドームを出ると辺りは夕暮れに包まれていた。秋だから4時過ぎでも薄暗くなっている。

 

それを認識した俺は影に星辰力を籠めて巨大な龍を生み出す。

 

「左の龍乗って帰れ。クインヴェールに行くように指示をしてある。この時間電車は混んでるからな」

 

こいつらに無駄な体力を浪費させる訳にはいかない。試合以外の所でサポートしてやらないとな。

 

「ありがとう。じゃあお言葉に甘えて……ほら行くわよ」

 

「はーい……ありがとう比企谷君〜」

 

若宮が疲れながらも笑みを浮かべて礼を言うと他の3人も頭を下げるなど礼をしてくるので、俺は軽く手を振って答える。

 

5人が龍に乗ると龍は雄叫びを上げてから翼を広げてクインヴェールがある方向に飛んで行った。

 

「さて、俺達も帰ろうぜ」

 

「そうだね……あ!そういえば冷蔵庫に余り食材が残ってなかったな。帰りにスーパーに寄るけど八幡君は何が食べたい?」

 

俺が両隣を歩く恋人2人に話しかけるとシルヴィがそんな事を聞いてくる。何が食べたいか……ふむ、色々食いたい物はあるが……

 

 

 

 

 

 

 

「スッポンで頼むわ」

 

流石に何の準備もしないで2日連続で搾り取られるのはキツいですから、ね?

 

 

 

 

その後、俺は恋人2人と夕食にスッポン鍋を食べて、風呂から上がった後に約束通り干からびるまで搾り取られたのは言うまでもないだろう。




唐突ですが、活動報告にアンケートを取りましたので時間のある方は回答をお願いします

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。