学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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本編
影の魔術師


 

 

レヴォルフ黒学院

 

校章は覇道の象徴たる二本の双剣。

 

校則は無いに等しく個人主義が強く、非常に好戦的な校風となっている。また学園も積極的に生徒の決闘を推奨している。そのため決闘を原則禁止としているガラードワースとは折り合いが悪い。

 

 

 

 

 

また基本的に素行不良な生徒が多く、アスタリスクの再開発エリアを根城にしているものやカジノで暴れるものも少なくない正に不良の学校だ。

 

そんな学校に俺、比企谷八幡は通っているのだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良かった……クラスにマトモな奴が1人いて……」

 

高等部に進学して新しいクラスの席に座った俺は隣に座っている女子の顔を見て歓喜の声をあげる。

 

「あ、あはは……少し大袈裟過ぎませんか?」

 

そう言って苦笑いするのはプリシラ・ウルサイス。基本クズが多いレヴォルフの数少ない清涼剤だ。メチャクチャ優しくマジで天使。ガラードワースに行っても問題ないレベルだ。

 

「何言ってんだ?俺が転校した時のクラスなんて初日からカツアゲされかけたんだぞ」

 

その時点で普通の学校じゃない。

 

「あ、それお姉ちゃんから聞きました」

 

「まあ自分で言うのもアレだがあんときはやり過ぎた。てか姉と言えばあのバカ先週再開発エリアで暴れてたが大丈夫か?」

 

姉と言うのはプリシラの姉であるイレーネ・ウルサイスでレヴォルフで3番目に強い人間だ。根が悪い奴じゃないが性格はかなり粗暴でよく暴れている。

 

俺が話すとプリシラは頬を膨らませる。

 

「もー!お姉ちゃんったら!八幡さん、報告ありがとうございます」

 

あー、これでイレーネの奴今夜はプリシラの説教だな。あいつ妹には頭が上がらないしざまぁ。

 

内心笑っていると新しい担任が入ってきて新学期の説明をするが、殆ど全員(多分俺とプリシラ以外)聞いている素振りすら見せない。今更だがこの学校ヤバすぎだろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新学期なので授業はなく午前で終わる。授業はないが腹が減ったので飯を食いに行く。

 

廊下を歩くと全員が俺を見ると避けてくる。俺はモーゼかよ?

 

まあそれも仕方ない事だ。一応俺はレヴォルフの『冒頭の十二人』の1人で序列は2位、つまりレヴォルフで2番目に強いって事だ。まあ1位のあいつには勝てる気がしないけど。

 

昔はガンガン決闘を挑まれたりしていたが『冒頭の十二人』入りしてからはかなり減って、2位の座を手に入れてからは公式序列戦で数回挑まれるくらいになった。

 

それにより俺はこの野蛮な学校で平穏な生活を手に入れた。まあ恐れられるのは今でも慣れないけど。

 

息を吐きながら購買でパンを買っていつも1人で飯を食う場所に向かう。あそこは静かな場所で特に何もあるわけではないのでレヴォルフの生徒も殆ど来ない、正にベストプレイスだ。

 

そんな事を考えながらベストプレイスに行くと俺以外にあそこをベストプレイスとしている少女がいた。

 

 

 

 

 

「よう」

 

とりあえず声をかけると少女は振り向いて俺を見てくる。その表情は悲しみと諦観を持っていて今にも泣きそうだ。

 

「……久しぶりね」

 

素っ気ない態度だがこれでもかなり変わった方だ。初めて会った頃はお互い一言も喋らなかったし。

 

「そうだな。春休みには会ってないし久しぶりだなオーフェリア」

 

俺が話しかけるのはレヴォルフ最強、いやアスタリスク最強と言われているレヴォルフ黒学院序列1位『孤毒の魔女』オーフェリア・ランドルーフェンだ。

 

俺自身、それなりに強いと思うがこいつには勝てるイメージが全く出来ない。俺の影はこいつの操る毒を防ぐ事は出来るが圧倒的な星振力による力技をされたら負ける。てか公式序列戦で力押しで負けた。

 

ほぼ無尽蔵の星辰力を誇るが、その反面能力を抑え込むことが出来ず、常に周囲へ毒素をまき散らしている。俺は自身の能力である影が自身の中に入り込み体内をコーティングしているから効果はないが殆どの連中には防ぐ事が出来ないので関わる人間はいない。

 

そんな訳でお互いぼっちだったからか飯を食う場所も同じ場所になってから知り合うようになった。

 

いつも通りオーフェリアの隣に座って買ったパンを食べる。隣ではオーフェリアも特に気にした様子もなくパンを食べている。基本的にお互い喋らないが俺はこの時間が結構好きだ。

 

お互いに無言のまま飯を食べていると風が吹いて目に埃が入り、とっさに目を擦ってしまってパンを落としてしまった。

 

「あー、バカした」

 

勿体無い事をしたな。仕方ない、帰り道レストラン街で飯を食うか。

 

そう思い立ち上がろうとした時だった。

 

 

 

 

 

「……あげるわ」

 

オーフェリアが自分の買ったパンの一つを差し出してきた。初めは遠慮しようと思ったが空腹には勝てずにありがたく頂戴した。

 

全部食べてからオーフェリアに礼を言う。

 

「サンキューオーフェリア。で幾らだ?」

 

そう言いながら財布から金を出す。

 

「別にいいわ」

 

「いや、そういう訳にはいかないだろ」

 

「パン一つくらいタダでいいわよ」

 

オーフェリアはそう言って金を受け取る素振りを見せない。

 

「いやいや、俺は養われる気はあるが施しを受ける気はないぞ?」

 

「……意味がわからないわ」

 

普段の悲しげな表情に若干の呆れが混じる。こいつに長時間そんな表情で見られると変な扉が開きそうな気がするんだが……

 

そんな馬鹿げた考えを持っているとオーフェリアは息を吐きながら俺の手にある金を取る。

 

「八幡は考えを曲げなそうだから貰うわ」

 

そう言いながら金を自分の財布に入れる。それを見て俺は頷いた。

 

「なら良し。ありがとな」

 

「……ん」

 

オーフェリアは頷いて残ったパンを食べる。俺は全て食べ終わっているが何となくオーフェリアの隣で彼女が食べ終えるのを待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

オーフェリアはパンを食べ終えると同時に俺は無言で立ち上がる。

 

「今日は始業式だがお前は帰るのか?それともあのデブに呼ばれたりしてんのか?」

 

 

 

 

 

あのデブとはレヴォルフ黒学院生徒会長のディルク・エーベルヴァインの事を指している。

 

非星脈世代にも関わらずレヴォルフ黒学院の生徒会長の座についている。序列に入っていないが謀略に長け『悪辣の王』二つ名を付けられるほどに嫌われまくりの生徒会長だ。何せ自分が勝つのではなく、相手が負けるように仕向ける事で相対的に利益を得るスタンスにある奴だ。

 

その上色々な奴を手駒にしているからタチが悪い。序列1位のオーフェリアと序列3位のイレーネもそのメンバーだ。

 

俺は奴の手駒ではないし今後もあいつの手駒になるつもりはない。序列2位になった際に申請云々で会ったが恐怖を感じた。その上生徒会室にはディルク以外の人間の気配を感じたがおそらくレヴォルフの諜報機関の黒猫機関だろう。あんな奴らと関わったら碌な目に遭わないだろうし。

 

「今日は呼び出されてないから帰るわ」

 

「そうか。じゃあまたな」

 

「ええ。また」

 

そう言ってお互いの住む場所に向かって歩き出す。さよならの挨拶は初めて会ってから数ヶ月もかかったが今では普通にするようになった。オーフェリアと会ったばかりの頃の俺からすれば信じられない事だ。

 

 

 

 

 

そんな事を考えながら自分の寮に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

レヴォルフの冒頭の十二人の特権の一つである巨大な1人寮に着いた俺は鞄を置いて横になる。今日は暇だし前シーズンの鳳凰星武祭の記録でも見るか。もう少ししたら今シーズンの鳳凰星武祭もあるし。

 

部屋にある巨大モニターで決勝戦を見ていると俺の端末に着信があった。画面を見てみると知っている番号が出ていた。スルーすると後が面倒なので電話に出る。

 

『やっほー、今大丈夫八幡君?』

 

そこにはピンク髪の可愛い女子がいた。この女子は知っている顔だ。というか知らない奴はこの世にいないと思う。

 

「別に大丈夫だが何か用か?リューネハイム」

 

電話の相手は世界で最も有名な歌姫のシルヴィア・リューネハイム。そしてクインヴェールの序列1位だ。前回の王竜星武祭準決勝で戦って負けて以来交流を持った女子だ。

 

適当に返すとリューネハイムはジト目で見てくる。

 

『八幡君、そろそろシルヴィって呼んでよ』

 

「断る。女子をニックネームで呼ぶのは勘弁してくれ。で、リューネハイム、用は『シルヴィ』……何だよ?」

 

『今日という今日こそシルヴィって呼んでもらうから。じゃないと……』

 

「じゃないと何だよ?」

 

ボコボコにするとかか?だったら大歓迎だ。逆に返り討ちにして王竜星武祭での借りを返してやる。

 

しかしリューネハイムの返事は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今度のステージで八幡君の事が好きですって言うよ』

 

「わかったよシルヴィ。で、何の用だ?」

 

何て事を言ってくんだこいつは?そんな事を言ったら俺は全世界の人間から後ろ指を指されるからね?そんな事になるならニックネームで呼ぶ方が遥かに良い。

 

『ふふっ。じゃあ今度からシルヴィって呼んでね?』

 

「わかったわかった。そういやアメリカ横断ライブお疲れ。次は何処に行くんだ?」

 

リューネハ『シルヴィ』……何でこいつは俺の心の内がわかるんだよ?

 

シルヴィは世界の歌姫ゆえ世界中を飛び回っている。今は日本にいるみたいだが余り長くは滞在しないだろう。

 

『次は1ヶ月くらい後に欧州ツアーだよ。その間は日本にいるから何処かに遊びに行かない?』

 

絶対に遠慮します。リューネハ……シルヴィみたいな有名人と歩いてみろ。間違いなく面倒事に巻き込まれるのが目に見えるわ。

 

とりあえず無難な返事をしとくか。

 

「ああ、行けたら行くわ」

 

『八幡君の行けたら行くは行かないと同じでしょ?八幡君の寮に迎えに行くよ?』

 

止めろ。間違いなく面倒な事になる。新聞部に見つかったらヤバい。

 

「わかったわかった。行くから迎えに来るな」

 

『うん。八幡君ならそう言うと思ったよ。後高等部進学おめでとう』

 

「そいつはどうも」

 

『今年もよろしくね。八幡君と会ってからまだ1年経ってないけど今から次の王竜星武祭が楽しみだよ』

 

シルヴィにそう言われて去年の試合を思い出す。勝てない試合じゃなかった。でもシルヴィの巧みな攻めに押し切られて負けてしまった。

 

「次は負けない。勝ってマッ缶を一生飲み放題だ」

 

『あははっ。やっぱりその願いなんだ』

 

モニターには苦笑したシルヴィが映っているがこれだけは譲れない。

 

『でも八幡君には悪いけど今シーズンも諦めて貰うよ。優勝するのは私だから』

 

そう言って今度は不敵な笑みを浮かべてくる。今更だが……こいつの笑みはどれも魅力的だな。

 

……だが俺も負けるつもりはない。シルヴィに負けた時結構悔しかったし。

 

「まあ試合は2年後だしそれまでに借りを返せるくらい強くなって今度は勝つ。それに妹とも約束してるし」

 

『妹さんって星導館の序列8位の神速銃士の比企谷小町?』

 

「そうそう」

 

そう、俺の妹の小町は星導館学園の冒頭の十二人の1人だ。元々はレヴォルフに入るつもりだったが俺や両親が猛反対して星導館に入った。そんで王竜星武祭に参加する気満々で俺に勝ちたいらしい。

 

『へー。今度会ってみたいな』

 

「会ったらよろしくしてやってくれ。あいつお前のファンだし」

 

何せファンクラブの会員番号は3桁台とかなり古参のファンだ。去年の王竜星武祭で俺とシルヴィが戦ってるのを見てメチャクチャ興奮してたし。

 

『うんわかった……あ!仕事のメールが来たから切るね!』

 

「そうか、わかった」

 

『うん、じゃあ遊ぶ日は今度決めよう。またね』

 

そう言ってシルヴィが画面から消える。どうやら遊ぶ事は決定したようだ。女子と、しかも相手は世界の歌姫かよ?今から緊張して胃が痛くなるわ。

 

俺はため息を吐きながらさっきまで見ていた鳳凰星武祭の続きを見るのを再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

星武祭

 

統合企業財体が主催しアスタリスクで行われている力を持つ学生同士の大規模な武闘大会。3年を一区切りとし初年の夏に行われるタッグ戦は鳳凰星武祭、2年目の秋に行われるチーム戦は獅鷲星武祭、3年目の冬に行われる個人戦は王竜星武祭と呼ばれる。

 

注目度が非常に高く、世界中にライブ放送され、世界最大の興行規模を誇る。

 

そして優勝者は好きな望みを叶えてもらえるというバトルエンターテインメントでもある。

 

アスタリスクにいる学生は自身の望みを賭けて星武祭に参加する。

 

 

 

 

これは1人の目が腐った魔術師が星武祭やその裏で蠢く陰謀に挑む物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『てめぇ八幡!プリシラに余計な事チクってんじゃねぇよ!!』

 

「……はぁ」

 

当の本人は今はその事を知らずドアの外にいる女生徒に呆れ目を腐らせているが。


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