学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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激闘の準決勝、チーム・赫夜VSチーム・ランスロット(前編)

「クソッ……マジで死にたい……」

 

クインヴェールの専用観戦室にて俺は顔に残った熱を感じながら思わずそう呟いてしまう。

 

理由は簡単。さっきお袋が俺の恋人2人に俺の秘密をバラして、その後お袋以外にも人がいるのを忘れて、それを聞いた恋人2人と抱き合ったからだ。自分の秘密を沢山の人に暴露された挙句に恋人2人と愛を語り合うって、マジで死ねるわ。

 

「まあまあ八幡君。私は恥ずかしさより幸せの気持ちが勝ったから問題ないよ」

 

「……私もよ。八幡の私達に対する気持ちを改めて知れて嬉しいわ」

 

一方、俺の恋人のシルヴィとオーフェリアは一切気にする素振りを見せずに楽しそうに笑っていた。どうやら2人は俺に比べて羞恥心が無いようだな。

 

「そうだーそうだー。3人の愛が深まってよかったじゃねぇかー」

 

「ブチ殺すぞ」

 

「悪い悪い」

 

当のお袋本人はニヤニヤ笑いを浮かべながらおちょくってきたので思わずキレてしまったが、俺は悪くないだろう。俺が殺気を向けても全然気にしてないし。

 

「やれやれ……イチャイチャするなら第三者のいない所でお願いします。第三者からしたら堪ったものではないので」

 

「そうだそうだ!」

 

ペトラさんがため息混じりにそう言うと、ルサールカのミルシェが便乗して叫び、他のルサールカのメンバーもミルシェの意見に賛同する空気を生み出す。これについては完全に俺達が悪いので返す言葉がない。

 

「以後気をつける」

 

俺が小さく頭を下げる。まあ第三者からしたらアレな光景だからな。

 

そんな事を考えている時だった。

 

 

『さぁ!ついに迎えた第二十四回獅鷲星武祭準決勝!残す試合はこの試合を含めて3つとなりました!先ずは東ゲート!チーム結成から1年以内にもかかわらず、先の準々決勝で前回準優勝のチーム・トリスタンとの激闘を制し、クインヴェール女学園からは久方ぶりのベスト4まで駒を進めたチーム・赫夜ー!』

 

実況の梁瀬ミーコの声がシリウスドーム全体に響き渡る。同時にゲートが開き、若宮達チーム・赫夜が現れて耳を劈くような大歓声が生まれる。

 

「いやー、まさかあいつらがここまで来るとはなー」

 

ルサールカのトゥーリアは感慨深げにそう呟くが、この部屋にいる全員が同じ事を考えているだろう。

 

チームメンバー全員癖が強く、絶対的な才能がある訳ではないにもかかわらず、ここまで勝ち上がってきたのだ。若宮達と関わった俺も嬉しい気持ちがあるのを自覚している。

 

しかし……

 

「ですが今回の相手は今までとは桁違いの相手なのも事実」

 

ペトラさんの言うことも、この部屋にいる全員が正しいと理解している。チーム・赫夜がここまで勝ち上がったのは凄いが今回の試合は一筋縄ではいかないだろう。

 

そう思いながらステージを見ると、若宮達が出てきた東ゲートの反対側ーーー西ゲートの扉も開き……

 

『そーしてそして!西ゲートから姿を現したのは獅鷲星武祭二連覇し、三連覇を目指し準優勝まで勝ち進む絶対王者!聖ガラードワース学園のチーム・ランスロットー!』

 

5人の騎士が粛々とゲートから現れて、チーム・赫夜が入場した時以上の歓声が上がる。まあ予想内だ。客の殆どはチーム・ランスロットに期待しているだろう。

 

(若宮達の様子を見る限り緊張はしてないようだ……)

 

体力も万全だし、コンディションは最高だろう。これなら可能性は低いが勝ち目はあるだろう。

 

そんな事を考えながらステージを見るとフェアクロフさんがチーム・赫夜の方に歩いていき、チームリーダーのフロックハートと握手をする。

 

そして握手を終えると妹のフェアクロフ先輩と何か話してから踵を返してチーム・ランスロットの面々の所に戻る。

 

実に淡々としているが、チーム戦なのだから問題ない。語りたい事があるなら試合で語ればいいのだから。

 

『さあ!いよいよ試合開始時刻となりました!チーム・ランスロットが王者の貫禄を見せるのか?!はたまたチーム・赫夜が金星を挙げるのか?!』

 

実況の声が響くと同時にステージにいる面々はそれぞれ武器を持ち、試合の開始位置につく。

 

実況の声によってシリウスドーム全体に沈黙が生まれる中……

 

『獅鷲星武祭準決勝第一試合、試合開始!』

 

機械音声が試合開始を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合開始が告げられる2分前……

 

ステージではチーム・赫夜とチーム・ランスロットが向かい合っている。しかし美奈兎を始め赫夜のメンバーはチーム・ランスロットが放つプレッシャーを強く感じ取っていた。

 

それこそ美奈兎達に稽古をつけた八幡や星露のプレッシャーに慣れていなければ気圧されていたであろう強いプレッシャーを。

 

するとチーム・ランスロットの面々の中から1人ーーーチームリーダーのアーネスト・フェアクロフが美奈兎達の方に歩いてきて、チームリーダーのクロエに向けて右手を差し出してくる。

 

「よろしく頼むよ」

 

「こちらこそ」

 

クロエは短くそう返してアーネストの手を取ると、アーネストは強く握り返してくる。

 

そして握手を終えるとアーネストは妹のソフィアを見る。

 

「ソフィア。君が僕の為に戦ってくれるのは素直に嬉しい……が、ソフィアが気にすることはないし、容赦はしないからね?」

 

「わかっておりますわ……ですが、私達も負けるつもりはありませんわ!」

 

ソフィアは強い口調でアーネストにそう返す。目に絶対に負けないと強い思いを乗せながら。

 

「……そうか」

 

対するアーネストはそれを見て小さく頷くとチーム・ランスロットの面々の元へ戻って行った。

 

すると……

 

『さあ!いよいよ試合開始時刻となりました!チーム・ランスロットが王者の貫禄を見せるのか?!はたまたチーム・赫夜が金星を挙げりのか?!』

 

実況の声が響くので、美奈兎達は煌式武装を展開する。向かい側ではチーム・ランスロットも似たような動きを見せている。

 

「さあ、いよいよチーム・ランスロット戦よ。これまで以上に厳しい戦いだけど……絶対に勝つわよ」

 

チームで1番冷静なクロエが熱い言葉を口にするのに対して美奈兎達は一瞬驚いた表情を見せるも……

 

「もちろん!」

 

「はい!」

 

「当然ですわ!」

 

「が、頑張る……!」

 

直ぐに笑いながらクロエの言葉に賛成する。それに対してクロエが嬉しい感情を胸に抱く。

 

試合前に落ち着いた空気を保つ中、遂に……

 

 

 

 

 

『獅鷲星武祭準決勝第一試合、試合開始!』

 

機械音声が試合開始を告げる。同時に大歓声が生まれるも、チーム・ランスロットは即座に一糸乱れぬ動きで布陣する。

 

前衛はこれまでの試合と同じようにアーネストとライオネル、中盤にケヴィンとレティシア、後衛にパーシヴァルという陣営だ。

 

対するチーム・赫夜は前衛にソフィアと美奈兎、中盤にニーナ、後衛にクロエと柚陽と基本的な陣営だ。

 

「さあ、参りますわよ!」

 

レティシアの言葉と同時にレティシアの背中から万応素が荒れ狂ったかと思えば10枚の光の翼が生まれる。

 

それが前衛のアーネストとライオネルを援護しようとすると、チーム・赫夜の方も動く。

 

「させないわ」

 

「そこです……!」

 

クロエがレティシアの顔面と校章に光弾を撃ち込み、柚陽が弓型煌式武装から6本の矢を生み出してレティシアの翼に向けて放つ。

 

「くっ!」

 

対するレティシアは10枚の翼の内、2枚をクロエからの攻撃に対する防御に使って光弾を防ぐ。同時に8枚の光の翼を放つも、内6本は柚陽の精密射撃によって破壊され、残った翼は2枚となって放たれる。

 

そして2枚程度であれば……

 

「やあっ!」

 

「はあっ!」

 

前衛の美奈兎とソフィアなら簡単に対処出来る。2人は自身らの持つナックル型煌式武装とサーベル型煌式武装で光の翼を簡単に破壊して、そのままアーネストとライオネルに向かっていく。

 

レティシアが再度光の翼を生み出そうとする中、両陣営の前衛2人がぶつかり合う。

 

「お兄様!勝たせていただきますわ!」

 

「ソフィアと剣を交えるのは久しぶりだけど、こちらも負けるつもりはないよ!」

 

ソフィアがアーネストの校章目掛けて袈裟斬りを放つとアーネストは『白濾の魔剣』で受け止める。互いの武器がぶつかることで火花が飛び散ると、アーネストはお返しとばかりに『白濾の魔剣』を振るい、ソフィアのサーベルをすり抜けて校章を狙う。『白濾の魔剣』は任意の存在だけを選んで斬る能力を持つので防御不能だ。

 

が……

 

「効きませんわ!」

 

ソフィアはわかっていたように身を屈めて回避するや否や、お返しとばかりに低い体勢のまま三連突きをアーネスト校章に向けて放つ。

 

「へぇ……」

 

アーネストは興味深そうに『白濾の魔剣』を盾のように構えて三連突きを防ぐ。

 

普通ならソフィアの神速とも言える突きに対応出来ないが、アーネストもソフィアが人を傷付けられない事を知っている。したがってソフィアが校章を狙ってくる事を予想出来たので全て防ぐことが出来たのだ。

 

もしもソフィアにその弱点が無かったら、どこを狙ってくるかわからずアーネストはダメージを受けていただろう。

 

しかしそれを差し引いてもアーネストはソフィアの立ち回り方に感嘆する。剣の腕が上がっているだけでなく、『白濾の魔剣』に対する立ち回り方が余りにも上手過ぎるという事に。

 

ソフィアは攻撃を済ませると、突きに対して防御の体勢を取っているアーネストから距離をとって体勢を整える。低い体勢のままでアーネストに勝つのは不可能だから。

 

その時だった。

 

『気をつけて!翼が来るわ!』

 

ソフィアの頭の中にクロエの声が聞こえたのでソフィアは上をチラッと見る。するとソフィアの頭上に2枚の翼が襲いかかってくる。少し離れた所でライオネルと対峙している美奈兎の頭上にも。

 

アーネストとの戦いに集中していたソフィアにはわからなかったが、クロエと柚陽がレティシアの翼をことごとく破壊している際、途中でパーシヴァルが短銃型煌式武装による援護射撃をしてきて、レティシアの生み出す翼を幾つか破壊し損ねたのだ。

 

しかしソフィアはクロエ達を責めるという考えは持っていない。チーム・ランスロットの面々の実力は自分達より上だという事は初めから理解していたので。

 

「わかりましたわ!」

 

言葉と共にソフィアはサーベルを振るって光の翼を斬り払う。人を傷付けられないソフィアでも剣技そのものはアスタリスクトップクラス。この程度の事はソフィアにとって朝飯前である。

 

しかし……

 

「はあっ!」

 

「くっ!」

 

目の前にいる兄を相手にするのは容易ではない。レティシアの翼を斬り払うのに気を取られた事によって生まれたソフィアの隙を逃さないように『白濾の魔剣』を上段から振るってくる。

 

対するソフィアはバックステップを駆使して紙一重で避けるも、アーネストは直ぐに『白濾の魔剣』を斬り上げて、ソフィアの制服の袖を割く。

 

それによってソフィアの左手から僅かに血が流れるも、剣を振るのには支障はない。

 

「まだまだですわ!」

 

 

若干腕に走る痛みを無視して上段からサーベルをアーネストの校章に振り下ろす。人を傷付けられないソフィアには校章以外を狙うことが出来ない故だ。

 

対するアーネストは『白濾の魔剣』でソフィアの上段の一撃を防ぎ、鍔迫り合いの形になる。

 

『白濾の魔剣』ならサーベルをすり抜けてソフィアの校章を狙えるが、その場合ソフィアもアーネストの校章を狙える。チームリーダーである以上自分の負けは許されないと考えているアーネストは『白濾の魔剣』の能力を使用せずにソフィアの上段を受け止める。

 

両者は一歩も引かぬ状態で鍔迫り合いをする。膂力や機動力はアーネストの方が上だが、鍔迫り合いで最も重要なのは絶妙な駆け引きでありソフィアの駆け引きの技術はアーネストと互角故に、両者は拮抗している。

 

すると次の瞬間、アーネストは『白濾の魔剣』を僅かに傾けてソフィアの上段の軌道を僅かに変える。するとソフィアは一瞬驚きを露わにするも、アーネストの反撃に備えて直ぐに剣を引く。

 

しかしその際にバランスを僅かだが崩してしまう。そんな一瞬だけ生まれた隙をアーネストが見逃す筈もなく、お返しとばかりにソフィアの校章に袈裟斬りを放つ。

 

対するソフィアは……

 

『クロエさん!八幡さんの体術を!』

 

『了解!』

 

クロエの能力によって八幡の体術をトレースしたソフィアは足に星辰力を込めるや否や地面を強く蹴り上げて、空へ舞いアーネストの袈裟斬りを回避する。

 

人を傷付けられないソフィアでも八幡や美奈兎の体術をトレースする意味がないという訳ではない。2人の体術はソフィアにとって攻撃に使用出来なくとも防御や回避には使用出来る便利な技術である。

 

アーネストの袈裟斬りが空を切り、斬り上げようとすると同時にソフィアは『白濾の魔剣』の柄に蹴りを入れて斬り上げを防ぐ。そしてそのまま空中で身体を捻りながら着地する。

 

同時に八幡の技術を使った反動で身体が痛むもソフィアは表に出さずにアーネストにサーベルを向ける。対するアーネストも『白濾の魔剣』を構えて仕切り直しとなるも、それも一瞬で直ぐに互いの武器を振るう。

 

「やるねソフィア……『白濾の魔剣』の対応が上手いとは思わなかったよ……!」

 

アーネストはソフィアの突きを配備するとカウンターとして『白濾の魔剣』の下段斬りを放つ。

 

「ええ!これでも私、天霧綾斗とも鍛錬をしましたので!」

 

「なるほどね……!それならこの立ち回り方も納得だよ!」

 

フェアクロフ兄妹は互いに言葉を交わしながらも互いの校章を虎視眈々と狙っている。ソフィアがアーネスト相手に互角にやり合えるのも、本人の言う通り天霧綾斗と戦ったからだ。

 

彼の持つ『黒炉の魔剣』は『白濾の魔剣』同様に受け太刀の出来ない純星煌式武装で、それを相手に半年近く鍛錬したソフィアは受太刀をしない戦い方を熟知したのだ。だからソフィアはアーネストと戦えている。

 

ソフィアは強く燃えながらアーネストの方に一歩踏み出そうとするも、その前……

 

『皆、気を付けて!アレが来るわ!』

 

クロエの声が頭に響く。同時にソフィアはチーム・ランスロットの最後尾を見ると、パーシヴァルが右手を高々と掲げた所だ。彼女の頭上には巨大な杯状の純星煌式武装『贖罪の錘角』が浮かんでいて煌々と輝いている。あと少しでアレから精神を削る金色の光が放たれるのだ。

 

それを確認したソフィアは……

 

『クロエさん!八幡さんの作戦を実行しますわ!失敗した場合に備えてフォローをお願いします!』

 

『了解したわ……ご武運を』

 

クロエがそう口にすると同時にソフィアは動き……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー汝らに、慈悲と贖罪の輪光を」

 

「道連れですわ!一緒に気絶しましょう!お兄様っ!」

 

「何っ?!」

 

パーシヴァルの右手が振り下ろされて、同時にソフィアがアーネストを力強く抱きしめた。それによってアーネストは久しぶりに本気の驚きを露わにした。

 

そんな中、黄金色の光が放たれーーー

 


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