『試合終了!勝者チーム・赫夜!』
ーーー界龍第七学院黄辰殿、謁見の間にて……
「へー、チーム・ランスロットが負けるとはね……やるじゃん!」
チーム・黄龍の1人にして界龍の序列5位『雷戟千花』セシリー・ウォンが楽しそうに頷く。謁見の間にはセシリーだけでなく界龍の殆どの序列者が並んでいた。
「だな。全員良い顔をしてるし」
セシリーの言葉に元界龍序列1位のアレマ・セイヤーンも似た表情で頷く。
「うむ。まさかここまで成長するとは思わなかったのう。やはりあの時に鍛える事にして正解じゃったようじゃな」
「ちょっ、ちょっ待ってください師父!」
玉座に座る『万有天羅』范星露の言葉に序列6位『天苛武葬』趙虎峰が焦るような声を出す。
「何じゃ虎峰?」
「今、鍛える事にして正解と言いませんでしたか?!」
「そうじゃ。美奈兎達についてじゃが、儂が稽古をつけていたのじゃよ」
星露はこともなげにそう返すも、謁見の間には騒めきが生じる。
「え?チーム・赫夜って比企谷八幡が鍛えてんじゃないの?」
「それは合っとるぞ。基本的には八幡じゃが、週に一度儂が稽古をつけておったのじゃ」
「つけておったのじゃではないですよ!どうして他校の生徒をあそこまで鍛えたんですか?!」
アレマの問いに星露が答えると、虎峰は信じられないとばかりに星露にツッコミを入れる。それも当然だろう。他校の生徒を獅鷲星武祭で二連覇をしていたチームを撃破する程までに鍛えたのだから。
しかし星露は特に気にする素振りを見せずに口を開ける。
「いやなに。半年くらい前に美奈兎達に助けて貰ってのう。その恩を返してから色々あって美奈兎達や八幡を鍛えることになったのじゃ」
さも当然のように語る星露に虎峰は頭痛と胃痛がやって来るのを理解してしまう。そんな簡単に他校の生徒ーーーしかも1人はアスタリスクで10本の指に入る怪物を鍛える星露の行動は虎峰の身体を蝕む。
「そういや星露ちゃん、今の比企谷八幡ってどれくらい強いの?」
「ん?彼奴の奥の手は5分しか使えんが、その5分においては全力の儂と互角に戦えるのう。あの時の彼奴との殴り合いは本当に心地良い」
楽しそうに喋る星露の言葉にその場にいた星露の弟子の間から再度騒めきが生じる。それもそのはず、殴り合いをするという事は星露を殴るという事を意味する。
しかし今の界龍の人間で星露に一撃を食らわせた者は1人も居ないのだから。
「へー!良いねー!星露ちゃん、次にあいつと戦う時にはあたいも連れてってよ!」
しかしこの場にいる面々の中で唯一星露の弟子でないアレマは心から楽しそうに星露に話しかける。バトルジャンキーであるアレマは自分より強い相手と戦うのを何よりの楽しみとしている故だ。
「構わんぞい。それにしても今から4年後……次の王竜星武祭で八幡と戦うのが楽しみじゃのう」
星露は今から4年後にある来シーズンの王竜星武祭を心待ちにしている。千年以上生きている星露からしたら4年などあっという間だ。
星露はその時に生まれるであろう血湧き肉躍る戦いに期待しながらも、チーム・赫夜の面々が笑顔を浮かべているのを眺め続けた。
『試合終了!勝者チーム・赫夜!』
チーム・エンフィールドの控え室にて……
「あらあら……まさか本当に勝つとは思いませんでした」
クローディアは口に手を当てて驚きを露わにしている。可能性は考慮していたが、いざチーム・ランスロットが負けるのを見ると驚きの感情が浮かんでくる。
「全くだ。比企谷の奴、彼女の頼みとはいえ他所の学園の生徒をあそこまで鍛えるか?」
クローディアの隣に座るユリスも驚きの感情を抱いているが、どちらかというと呆れの感情の方が強い。
「……全く。フローラの件や小町達の件といい、比企谷はレヴォルフの生徒らしくなさ過ぎる」
「ん?ああ……まあ当然だろう。あの馬鹿はクジ引きで自分の行く学園を決めたのだからな」
「ええっ?!」
紗夜のため息混じりの独り言にユリスがツッコミを入れると、事情を聞いた綺凛からは驚きの声が上がる。実際ユリスもこの話を聞いた当初はとても驚いたものだ。
「全く呆れますよ。どうせなら星導館に来て欲しかったものです……まあそれは良いでしょう。本題に戻りますと、チーム・赫夜が絶対王者を倒してくれたのはありがたい話です。その上かなりボロボロですので明日の決勝では万全の状態で挑むのは無理でしょう。」
チーム・赫夜はチーム・ランスロットを撃破したとはいえ、かなりボロボロの状態である。決勝まで丸一日あるが、その時のチーム・赫夜のコンディションは良くて全力の7割から8割、とクローディアは考えている。
しかし……
「そうなるとこっちも準決勝で出来るだけ消耗しないで勝たないとね」
綾斗がそう口にする。言っていることは間違っていないが、言うは易く行うは難しだ。今のチーム・エンフィールドは昨日銀河の実働部隊と戦ってコンディションは万全の状態から程遠い。
この状態でチーム・黄龍の相手は厳しいし、よしんば勝てたとしても決勝では間違いなくボロボロになっているだろう。だからチーム・エンフィールドとしては優勝するには出来るだけ消耗しないでチーム・黄龍に勝たないといけないと中々の無茶をしないといけないのだ。
「ええ。試合まで時間があるのでもう少し作戦を煮詰めましょ。先ずはフォーメーションについてですが……」
クローディアが改めて作戦の説明を始めたのでチームメイトの4人は集中してクローディアの説明を聞き始めた。
「さて……これだけ買えば大丈夫だな」
シリウスドームの売店にて、俺は恋人2人と一緒に買い物を済ませチーム・赫夜の控え室に向かう。
手にあるビニールには果物や栄養ドリンクや鎮痛剤、テーピングなどが入っている。チーム・ランスロット戦は激戦でメンバー全員が消耗しているだろうからフォローをしておきたい。
出来れば治癒能力者の回復が欲しいが、星武祭のルールで星武祭で負った傷を治癒能力者に回復させて貰うのは失格となってしまうので無理だ。
よって試合以外の所では可能な限りフォローしてやりたいのが俺の意見だ。今の俺が出来ることなんざこれくらいだし。
そんな事を考えながらもチーム・赫夜の控え室に着いたのでインターフォンを鳴らす。一応通行パスを持っているが、前にインターフォンを押さずにドアを開けたら若宮達が着替えていたからな。
『八幡?』
インターフォンから聞こえてきたのはフロックハートの声だった。
「俺だ。見舞いの品を持ってきたから開けてくれ」
『……直ぐに開けるわ』
言うなりドアが開いたので中に入る。すると予想通り全員が疲れている空気を醸し出していた。
既に意識を戻した若宮とアッヘンヴァルとフロックハートは限界に近いのかソファーに寝転んでいる。フェアクロフ先輩と蓮城寺は寝転んではいないが、顔に疲れの色が見て取れる。
「とりあえず決勝進出おめでとさん。そんでこっちが見舞い品な。しっかり食っておけよ」
言いながら果物や栄養ドリンクを取り出してテーブルの上に置く。
「うーん……食べたいけど動けないよぉ……」
若宮は動こうとするも身体に痛みが走っているのか動けない。まあこいつの場合、フロックハートの能力の伝達を使用した以外にもライオネルさんの攻撃をかなり食らったからな。
仕方ないか……
「……食わしてやるから口を開けろ」
俺はため息を吐きながらバナナの皮を剥いて、栄養ドリンクを手に持ち若宮にさしだす。
「「あ!」」
するとオーフェリアとシルヴィが声を上げるのでチラッと見るとジト目で俺を見ている。大体2人の考えはわかるが今回は事情が事情だし見逃してくれ。
「え?あはは……迷惑をかけてゴメンね?」
若宮は小さく笑いながら口を開けるので、バナナを食わせてドリンクの入った容器を口に突き出す。別に謝ることじゃない。お前は決勝に上がる為に全力を尽くしたんだ。ならば試合以外の所では俺が全力を尽くす場面だからな。
言いながら若宮を見ると差し出したものは全て口の中に入れたので、俺は次の相手にしようと若宮から目を逸らすと……
「ほーらニーナちゃん。しっかり食べてね?」
「……クロエはチームの要だからしっかり休んで」
シルヴィはアッヘンヴァルに、オーフェリアがフロックハートに俺が若宮にやったように食い物を差し出している。気の所為か2人とも頬を膨らませているような気がする。……今日は帰ったら甘えさせてやるか。
「では私達もいただきますわ」
「わざわざありがとうございます」
ソファーに寝転んでないフェアクロフ先輩と蓮城寺も礼をしながらビニールの中にある物を食べ始める。
「どういたしまして。それと他に鎮痛剤や包帯も買っといたから、後でシルヴィとオーフェリアにやって貰え」
テーピングをする以上若宮達は服を脱がなくちゃいけない。しょっちゅう事故で5人の下着姿や裸は見ているが、意図的に見るのはちょっと恥ずかしいから無理なので恋人2人に任せるつもりだ。
「わかった。じゃあ少し休んだら私とオーフェリアがやっとくから八幡君は暫く控え室から出てね?」
「……ないとは思うけど、もしまたラッキースケベをしたら搾り取るから」
「気を付ける」
どんだけ信用されてないんだって話だが、週に4回は若宮達にラッキースケベをしてしまっている以上否定は出来ない。
恋人2人の目が笑ってない笑顔を見て冷や汗を流しながらも俺はしっかりと首を縦に振った。まあラッキースケベをする気はないが搾り取られるのはそこまで嫌じゃないんだよなぁ、翌日が眠くて辛いだけで。
「というか搾り取るなんて、私達の前で言うのを止めてくれるかしら?」
フロックハートがジト目で俺達を見てくる。周りを見ればアッヘンヴァルとフェアクロフ先輩は顔を真っ赤に、蓮城寺は何とも言えない表情を浮かべ、そういった事情に疎い若宮はキョトンとした表情を浮かべていた。
まあ確かに女子校に通う面々の前でそういった話はアレだな。俺は軽く頭を下げて謝罪の意を伝えて控え室を後にした
控え室を出た俺は適当に時間を潰すべく、シリウスドーム内部にあるカフェに行くことにした。1時間くらいしたら向こうも応急処置を終えているだろう。
「とりあえず決勝の対策を練っておくか……」
決勝の相手がチーム・黄龍かチーム・エンフィールドになるかはわからないが準決勝以上に厳しい戦いになるだろう。
何せチーム・ランスロットを倒したとはいえチーム・赫夜はチームメンバー全員が軽くないダメージを受けているし、『ダークリパルサー』などの隠し球も全て曝け出してしまったのだ。
加えてチームの総合力も向こうが上。勝算があるとすれば準決勝でチーム・黄龍とチーム・エンフィールドが共倒れする位ボロボロになる事ぐらいだろう。
しかしそれを含めても勝算は低いのは間違いない。多分観客の殆どはチーム・赫夜の優勝は無理だと思っているだろう。
一応俺も明日までに策を練るが、厳しいのは紛れもない事実だ。
(可能ならあいつらの願いを叶えてやりたいもんだ)
若宮は月に行く事、フェアクロフ先輩は兄に代わって実家の跡を継ぐ事、フロックハートは自由になる事を願っている。
蓮城寺は修行の為に星武祭に参加しているから願いはない。
そしてアッヘンヴァルは金を手に入れて両親に楽にする為に星武祭に参加したが、準優勝以上が確定している時点である意味願いは叶っている。星武祭で本戦に出場した人間にはその時点で大金が約束されているからな。
「まあ……もしも無理なら俺が王竜星武祭で優勝した際にあいつらにあげるか」
元々総武中が嫌だからアスタリスクに来た上に、前回の王竜星武祭でもMAXコーヒーを一生分と願った俺だ。ぶっちゃけそこまで物欲はない。
オーフェリアとシルヴィが一緒にいる時点で絶対に叶えたい願いはない。今の俺にとって1番の願いは『3人で幸せに過ごすこと』なのだから優勝した暁には『チーム・赫夜の願いを叶えてやってくれ』と頼むのも良いだろう。別にあいつらの為に願いを使うの嫌じゃないし。
(いや、それはあいつらが優勝を逃してからだな。今はあいつらが優勝出来るように策を練る事が第一だ)
別にあいつらに願いを譲るのは吝かじゃないが、その前にあいつらを勝たせることを考えないとな……
そんな事を考えながら俺はカフェに向かって歩くのを再開した。途中チーム・赫夜との繋がりがある事から沢山の人から視線を向けられた。
それは当然の事だと割り切ったものの、カフェに着く直前に妙な不気味な視線を感じたのが妙に気がかりだった。
「ふん……!どうせチーム・ランスロットが負けたのも卑怯な手を使ったからですよー!あの人の所為でガラードワースでは居場所が無くなったし……絶対にスキャンダルになるネタを手に入れないと……!」