「うーむ……やっぱり勝ち筋が見えねぇ……」
シリウスドーム内部にあるカフェにて、俺は空間ウィンドウを見ながらため息を吐く。周囲からは他の客に見られまくりだが気にしない。俺自身目立つのは嫌いだが、割りかし有名だからと割り切っている。
空間ウィンドウにはチーム・黄龍とチーム・エンフィールドがこれまでの獅鷲星武祭で行った試合を見るが、見る度に絶望が増してくる。
理由は簡単。戦闘スタイルは全然違うも両チームともチーム・ランスロットに匹敵するチームだからだ。
対するチーム・赫夜は全員が軽くないダメージを受けていて秘策も全て曝け出している状態だ。万全でも勝てる可能性は限りなく低いのに………今のチーム・赫夜は殆ど詰んでいる状態だ。
(ダメだ。全く思いつかない……やっぱり1人じゃ無理だしシルヴィやオーフェリアと一緒に考えてみるか)
3人揃えば文殊の知恵っていうからな。最愛の恋人2人が意外な案を出してくれるかもしれないし、2人と話している内に俺自身が奇抜な案を思いつくかもしれないしな。
そうと決まればチーム・赫夜の控え室に戻るか。俺が控え室を後にしてカフェで一杯やって1時間近く経過している。向こうも応急処置やテーピングを終わらせているだろうし。
俺は請求書を持って店員に現金を渡して、カフェから出ると……
「おっと」
「おや、比企谷君じゃないか」
偶然にもフェアクロフさん率いるチーム・ランスロットを始め、獅鷲星武祭に参加したと思えるガラードワースのチームが集結していた。
チーム・ランスロットの後ろにいる面々は俺に敵意を剥き出しにしているが、俺がチーム・赫夜と繋がりを持っている事から仕方ないだろう。特に怒りを出さずにフェアクロフさんと向き合う。
レヴォルフじゃ基本的に毎日これ以上の敵意を向けられているから全然怖くないってのが本音だ。てか序列入りした頃はしょっちゅう闇討ちをされてたし。
「どうもっす。全員揃ってる事はもう帰るんですか?」
「ああ。このまま第二試合を見ていきたいのは山々だけど、仕事が溜まっていてね」
そういやガラードワースの生徒会は割と統合企業財体に仕事を任されているってシルヴィから聞いた事があるな。
「そうですか。星武祭に参加しながら仕事なんて俺には絶対に無理ですね」
「ははっ、慣れてしまえばそこまで大変じゃないよ。それよりも今回は負けたよ」
「別に俺は星武祭に参加してないんで若宮達に言う言葉ですよ、それ」
「そうかな?確かに君は実際に参加してないけど、僕が思うに君自身チーム・赫夜の作戦立案に結構協力したと思うな。初めの道連れ戦法や僕とライオネルに頭痛を与えた剣、とかね」
「そういえばアレは結局なんだったんだ?俺の槍をすり抜けたから『白濾の魔剣』に似ているが」
フェアクロフさんとライオネルさんがそんな事を聞いてくるが話しても良いだろう。既にチーム・ランスロットは負けたし、俺が話さなくてもフェアクロフさん達なら1日もしないで理解するだろうし。
「アレは『ダークリパルサー』と言って刃が超音波で出来た煌式武装ですね。マトモに食らえば俺でもマトモに戦えなくなります」
というかアレを食らって平然と出来るのは星露くらいだろう。奴相手に使った事はないが食らっても嬉々として反撃してくる未来が容易に想像出来るわ。
「超音波……だからライオネルの槍をすり抜けたのですわね」
「まあ欠点として肉体的損傷がない事と受け太刀が出来ない事だな」
「肉体的損傷がない……つまりソフィアさんの為に作った武器ですわね」
「作ったのは俺じゃないが正解だ」
『ダークリパルサー』は強力だが、受け太刀を出来ない時点でリスクがデカい武器だ。実戦でアレを使うのはフェアクロフ先輩みたいに人を傷付けられない人間や、幻術を使える人間だろう。受け太刀は出来ないが一太刀浴びせれば大抵の敵の動きを封殺出来るし幻術使いとは相性が良い。
「それが前に言っていたソフィアさんの弱点対策ですか……本当に貴方は色々と手を回しますわね」
「よせよ、照れるだろ?」
「褒めてないですわよ!皮肉がわからないのですの?!」
「わかるけど敢えて、みたいな?」
「また私をからかうおつもりで?!」
「いや悪い。決勝の対策を練っていたら煮詰まってな。気分転換にからかってみた。やっぱりお前をからかうと楽しいわ」
さっきまで若干決勝の対策を練って疲れていたがブランシャールをからかったからか少し気分がマシになってきた。
「私は全然楽しくないですわよ!」
だろうな。これで楽しかったらドM以外の何物でもない。つーかブランシャールの場合、鞭を持ってドM男を叩くイメージが強いな」
「はっ倒しますわよ!」
するとブランシャールが真っ赤になって俺に詰め寄ってくる。もしかして口に出していたか。
「落ち着いてレティシア。試合にら負けたとはいえ星武祭に参加している選手が試合以外で暴れるのはマズイからね?」
するとフェアクロフさんがブランシャールの手を握って止めに入る。
「離してくださいアーネスト!この男とは一度決着をつけないと気が済みません!それとケヴィン!なに貴方も笑っているのですの?!」
「わ、悪ぃ……でもレティに鞭って結構似合うと思って……ぷふっ!」
「〜〜〜っ!」
ブランシャールは真っ赤になって俯く。どうやら少し揶揄い過ぎたようだな、反省反省。まあ次に会う時には再度揶揄う自信があるけど。
そんな事を考えながら俺はノンビリとブランシャールを眺めるが、存外に楽しかった事は口にしない。したら面倒な事になるのは目に見えているからな。
それから5分後……
「どうもすみませんでした」
漸くブランシャールが大人しくなったのでブランシャールと彼女を抑えたフェアクロフさんに謝罪をする。
「別に僕は怒ってないよ。ただ今後は自重して欲しいかな」
「全くですわ!いつかこの借りを返しますので!」
フェアクロフさんはともかく、ブランシャールはプリプリ怒っているが別に返さなくて良いからな?
「まあご自由に。それよりも時間を取らせて申し訳なかったな」
よく考えたらフェアクロフさん達が仕事があるから帰ろうとしていたが、俺のブランシャール弄りで無駄に時間が消費してしまったんだった。
「気にしなくていいよ。別に急を要する仕事はないからね。それより比企谷君は決勝の対策を頑張ってね」
「そうですわ!私達を打ち破ったのですから優勝しないと許しませんわよ!」
ブランシャールはビシッと指差しながらそう言ってくるが、そんな台詞は実際に戦った若宮達に言ってください。まあ後であいつらに伝えとくか。
「はいはい。まあ俺はやれるだけやるだけだ。んじゃ機会があればまた」
俺はチーム・ランスロットに一礼してから歩き出す。彼らと話している内に大分時間も経過した。今なら若宮達と会うのにちょうど良い時間だろう。
そしてガラードワースの面々の横を通り過ぎていると……
「……良い気になるなよ」
その途中、チーム・ヴィクトリーのリーダーにして、(俺以外の)皆仲良くを地で行く葉山が俺を睨みながら低い声で囁いてくる。
別に良い気になってねぇからな?てか前から思っていたが俺のこと嫌い過ぎだろ?まあ俺もこいつの事は好きじゃないけど。
しかしあの口調から察するに王竜星武祭で俺を倒すつもりか?だとしたらそれはそれで構わない。優勝を目指す以上誰であろうと叩き潰す事には変わりないのだからな。これについてはシルヴィや小町が相手でもだ。元々こういう性分だったのか、アスタリスクに来てから変わったのか知らないが今の俺は負けず嫌いなんでな。仮に葉山と当たったら受けて立つだけだ。
そんな事を考えながらも俺はガラードワースの面々が並ぶ列を通り過ぎてチーム・赫夜の控え室に歩を進めた。
「うーす……って終わってんな」
チーム・赫夜の控え室に入ると既に全員が応急処置を済ませたようだ。部屋には薬品の匂いがする上、全員の肌に包帯が巻いてあるのが見える。
「ええ。と言っても明日までにどれ位回復するかはわからないけど」
フロックハートの言うように明日の決勝まで1日を切っている。明日も厳しい戦いだが、試合までにどれだけ回復しているかが勝敗に関わってくるだろう。
「だろうな。とりあえずお前らはどうすんだ?どの道明日の朝に対策ミーティングをすると思うが、第2試合もここで見るのか?」
「……そうね。私としては試合が始まる前にクインヴェールに戻って、試合開始まで休んで試合を見てから簡単にミーティングをして、終わると同時に休む……って流れが良いわね」
「まあ遅かれ早かれクインヴェールに戻る必要があるからね。試合はトレーニングステージで見ればいいんじゃない?」
シルヴィがそんな事を言ってくる。シルヴィの言うトレーニングステージとはクインヴェールの地下にある俺達が毎日鍛錬している場所だろう。
(今更ながら女子校に入り慣れている俺ってヤバくね?)
まあ理事長のペトラさんは了承してるし、シルヴィやチーム・赫夜、ルサールカは知っているけど。
「じゃあそうするか。若宮達は立てるか?」
「立てるけど〜歩きたくな〜い。比企谷君おんぶして〜」
「おんぶだぁ?……まあ疲れてるなら別に構わな「「……ダメ(ダメッ!)。私がやるわ(よ!)」」……そ、そうか」
俺が了承の返事をしようとするとオーフェリアとシルヴィが即座にダメと言って、間髪入れずにオーフェリアが若宮を背負う。
「他は大丈夫?もしも疲れてるなら私や八幡君の影人形がおんぶするからね」
「そこは俺じゃないのかよ?」
まあ女子をおんぶしたい訳じゃないけどさ……
「……だって、八幡が美奈兎達をおんぶしたら間違いなくラッキースケベを起こしそうだわ。例えば美奈兎をおんぶしたら直ぐにクロエがいる方向に転んで、八幡の顔と後頭部が美奈兎とクロエの胸に挟まれる可能性もあるし」
「だよね。他にもニーナちゃんをおんぶしたら次の瞬間、転んでフェアクロフさんの胸を揉んだり、柚陽ちゃんのスカートに顔を埋めそうだし」
「しねぇよ!」
恋人2人の言葉に思わずツッコミを入れてしまう。そりゃ何百回もラッキースケベをしたのは事実だが、そこまで想像されるのは遺憾である。
しかし……
「……実際にありそうね」
フロックハートがそう呟くとこの場にいる俺以外の人間が全員頷く。もうヤダ……ハチマンおうちにかえる。
「はぁ……どんだけ信用されてないんだよ。一応言っとくがわざとじゃないからな?」
「それはわかってるわよ。でも回数から察するに貴方のソレは能力なんじゃない?」
「んな訳ないだろうが……」
どんな能力だよ?そんな能力、あっても星武祭ではクソの役にも立たないに決まってるだろうが。普通に考えていらねぇよ。
内心フロックハートに毒づきながら控え室を出ると、他の面々もそれに続いた。
尚、シリウスドームからクインヴェールに向かう為に影の竜を生み出して向かったが、クインヴェールに到着して竜から降りる際、フェアクロフ先輩が竜の背中からずっこけて俺を押し倒す体勢になって俺の頬にフェアクロフ先輩の柔らかい唇が押し付けられた。
その時のオーフェリアとシルヴィの表情は一生忘れないくらい怖かった。しかし今回は俺は全く悪くないと思う。まあ何百回もラッキースケベをしてるから口にはしなかったけど。
そしてその後、オーフェリアとシルヴィはチーム・赫夜の前で俺の頬にちゅっちゅっしてきた。余りにも恥ずかしいので止めてくれと頼んだら……
「「嫌。今後、八幡(君)がラッキースケベをする度に八幡(君)を恥ずかしい目に遭わせるから」」
と同時に却下して即座に頬にキスを再開してきた。2人のキスを食らった俺は転んでラッキースケベを起こさないように普段の移動は能力を使うべきかと真剣に考えるようになった。
そして俺がオーフェリアとシルヴィの2人にキスをされる光景を見せられ、巻き添えを食らったチーム・赫夜の5人についてはマジですいませんでした。