処刑刀は瞬時に距離を詰めて『赤霞の魔剣』を振るってくる。対する俺は星露との戦いによって反射神経はとことん高くなっているので身を屈めて回避する。
対する天霧は『黒炉の魔剣』で『赤霞の魔剣』を受け止めるも……
「くっ!」
膂力の差で押され始める。しかし両手の天霧に対して処刑刀は片手で対峙している。信じられない程のパワーである。
「殴れーーー影籠手」
言いながら両手に影の籠手を纏わせて処刑刀の持つ『赤霞の魔剣』を殴りつける。同時に軽い音が辺りに響き処刑刀の持つ『赤霞の魔剣』の勢いが無くなる。
……が、
「甘いな!」
「ちっ!」
「うわあっ!」
次の瞬間、処刑刀は両手で『赤霞の魔剣』を持ち振り抜き、いきなり桁違いのパワーによって俺と天霧は後ろに吹き飛ぶ。幸い受け身は取れたものの、俺と天霧の間に距離が出来て、処刑刀は天霧目掛けて『赤霞の魔剣』を振るってくる。
天霧は『黒炉の魔剣』で何度か受けるも明らかに劣勢だ。今日の準決勝で見せた天霧でも勝ち目が薄いと俺は思う。だから今の天霧に勝ち目は無いだろう。
そして処刑刀の一振りが『黒炉の魔剣』を弾き上げる。そして天霧の空いた胸に必殺の一撃を叩き込もうとしてくる。
俺は急いで支援攻撃をしようとするが……
「おおっ!」
その前に天霧の動きが変わった。処刑刀にとって明らかに隙だらけだったにもかかわらず、天霧は『赤霞の魔剣』の一撃を回避して、拳を使ってカウンターの一撃を叩き込む。
対する処刑刀はカウンターの一撃をバックステップで回避するも先程弾き上げられた『黒炉の魔剣』の一撃が振り下ろされる。その速さは今まで見た天霧のどの一撃よりも速い。
「ふむ……漸く最後の封印が解かれたようだ」
しかし処刑刀は冷静に分析しながらも『赤霞の魔剣』で『黒炉の魔剣』を受け止めて、両者の間から轟音が生じる。
(だが、今はさっきより隙が少ない……!)
俺は背中に星辰力を込めて……
「影の鞭軍」
背中から8本の影の鞭を生み出し……
「ついでにこいつも……!」
材木座が制作した『ダークリパルサー』を4本取り出して宙に投げつける。同時に8本の影の鞭の内、4本が『ダークリパルサー』を捕まえる。
「行けっ!」
それを見た俺は8本の影の鞭を処刑刀に向けて放つ。前に開発した戦法だが、1発でも当たれば戦いの主導権を握れる技だ。まあ星露には全然効かなかったけど。
対する処刑刀は俺の攻撃に気付いたようで、圧倒的な膂力で天霧を押し退けるや否や『赤霞の魔剣』を一振りして影の鞭を全て斬り落とす。
それによって鞭が掴んでいた4本の『ダークリパルサー』は地面に落ちるが……
(テメェ相手にこの程度の策が効くわけないよなぁ……!)
即座に処刑刀との距離を詰めにかかる。こんなもの予想の範囲内だ。てか処刑刀や星露クラスが相手だと全ての作戦において失敗することを第一に考えてるし、そのおかげもあってスムーズに距離を詰めれる。
対する処刑刀は『赤霞の魔剣』を上段から振り下ろしてくる。その速さは今まで戦った剣士より断然速い。星露に匹敵する速さだろう。
(だが、これならギリギリ避けれる)
俺は当たる直前に身を捻りギリギリのところで『赤霞の魔剣』の一撃を回避して、左手を使って懐にしまってある最後の『ダークリパルサー』を起動して処刑刀に振るう。これなら……
当たる、そう思った一撃は……
「甘い」
処刑刀が振り下ろした『赤霞の魔剣』は途中で弾くように跳ね上げて俺の義手を斬り落とす。幸いにも斬られた箇所は義手の部分だったので俺自身に感じる痛みはないが、『ダークリパルサー』は地面に落ちてしまう。
「比企谷!……天霧辰明流奥伝ーーー修羅月!」
同時に天霧が処刑刀により追撃を仕掛ける。鳳凰星武祭で合体したアルディを倒した技か?!
天霧は処刑刀とすれ違いざまに相手を斬り伏せようとするが……
「ははっ!まだまだ甘いな!」
その直前に『赤霞の魔剣』を一回転して『黒炉の魔剣』を防ぐ。あの状況で防ぐのかよ?!
「(仕方ない……こうなったら……)下がれ天霧……爆!」
俺がそう言いながら天霧の首根っこを掴み後ろに跳びながらそう叫ぶと、斬り落とされて宙に舞った俺の義手が光り輝き……
ドゴォォォォンッ………
爆発を引き起こす。それによって爆音と爆風が生じ、上空に煙が上がる。
「比企谷、今のは……」
「仕込み武器だ」
呆気に取られた表情の天霧に簡単に返答する。
義手に仕込んだ能力の1つだ。音声認識で俺が一定以上の音量で『爆!』と叫ぶと自爆するように設定されている。他にもオーフェリアの毒や荷電粒子砲、ワイヤーなど色々仕込んでいるが、この3つは義手を斬り落とされた場合使えなくなる。
もしも義手を斬り落とされた場合に備えて仕込んだ自爆機能だったが……
「ははっ……!まさか義手に仕込みをしていたとはね。これは一本取られたよ」
爆風が晴れた先には『赤霞の魔剣』を盾にした処刑刀がいた。しかし俺の義手を斬り落として直ぐに爆発したからか、完全に防御仕切れなかったようで左手が若干焦げて煙が立っていた。
「こんなんで倒せるとは思ってないが、殆ど無傷かよ……」
「強い……!でもあいつの強さの要って何なんだ?」
「多分星辰力の質だろ?俺達の星辰力より密度が濃いんだと思う」
前に星露から強い意志や感情は星辰力を変質させると聞いた事がある。そして処刑刀は憎しみもしくは怒り、鬼気などによって星辰力を変換しているのだと思う。それが強さに変わっているのだろう。
「え?!でもそんな話「おしゃべりは後だ」……っ!」
奴の強さの根源については俺も興味があるが、奴らを目の前にして話すことではない。
「さて、こちらもやられっぱなしは趣味ではないのでね。お返しと行こうか」
処刑刀がそう呟き、『赤霞の魔剣』を俺達に突きつけると、『赤霞の魔剣』の刀身が分解するように細やかな破片へと分かれ、その破片が更に細かくなり……やがて処刑刀の手には巨大な柄だけが残されて、処刑刀の前方には無数の破片が赤い霞のように漂う。
それと同時に俺と天霧も動き出す。俺は自身の星辰力の半分を使って手にシンプルな形状の黒い槍を生み出し……
「比企谷!俺の後ろに!」
「わかってる」
天霧は『黒炉の魔剣』に星辰力を注ぎ『黒炉の魔剣』の刀身は巨大化するので俺は槍を持ちながら天霧の方に向かう。
そして天霧が巨大化した『黒炉の魔剣』を盾のように地面に突きつけると同時に
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「裁けーーー影王槍」
処刑刀が『赤霞の魔剣』の柄を振り下ろし、俺は手に持つ槍を投げつけて天霧同様『黒炉の魔剣』の後ろに隠れる。
直後、『黒炉の魔剣』の向こう側から物凄い轟音が聞こえてくる。何が起こっているからは見えないが今は俺が投げた槍が『赤霞の魔剣』の破壊の波とぶつかり合っているのだろう。
そんな轟音が暫く聞こえていると……
「ぐっ!」
音の種類が変わって『黒炉の魔剣』から衝撃が伝わってくる。その事から俺の影王槍が破壊されたのだろう。予想はしていたがやはり『赤霞の魔剣』の破壊力は桁違いのようだ。
「流石『黒炉の魔剣』だ。槍によって威力を削られたとはいえよく凌ぐ」
暫く『黒炉の魔剣』から軋む音が無くなると同時に処刑刀の声が聞こえてきたので、天霧が『黒炉の魔剣』を地面から引き抜くと俺達と処刑刀の間はボロボロになっていた。地面は吹き飛び、噴水は木っ端微塵となり水が辺りに噴出している。
「ったく……随分と物騒なもんを振り回すなオイ」
「あんな破壊力のある槍を投げた君に言われたくないな。しかしアレはオーフェリア嬢を傷つけた槍に比べて随分と威力が低いようだが?」
当たり前だ。影狼神槍は最盛期のオーフェリアの防御すらも打ち破る程の破壊力だが星辰力の消費が多いからな。
だから影狼神槍の3割位の威力の影王槍を使ったが……
(アレも並みの純星煌式武装とやり合えるんだがな、流石は四色の魔剣と言ったところか)
やはり『赤霞の魔剣』は四色の魔剣だけあって影王槍で攻撃を相殺するには無理なようだ。
そうなると俺の攻撃の選択肢は限られてくる。影王槍は影狼修羅鎧の一撃に匹敵する破壊力を持つ。そうなると影狼修羅鎧と影狼夜叉衣を使っても決定打を与えるのは厳しいかもしれん。
影狼神槍は更に論外。星辰力の消費が半端無い上に作るのに時間がかかる。向こうが待ってくれる訳ないし、仮に作れたとしても外れたら即負けに繋がってしまう。星武祭や序列戦ならまだしも命のやり取りの最中にリスクの高い事をする気はない。
(オーフェリア達が来るとしたら後7分くらいか?そうなるとこんなチマチマした戦いをしていたら時間稼ぎとバレるし、この辺で攻めに出るか)
こいつらと会えたのはラッキーだ。可能ならここで捕まえておきたい。そう判断した俺は……
「天霧」
「何かな?」
「ヴァルダ……あっちのフードの方を任せて良いか?」
「え?!」
「ほう……」
天霧は驚き、処刑刀は興味深そうな声を上げる。まあ当然だろう。小競り合いのレベルとはいえ、さっきまで二人掛かりで押されていたのだから。
「今から本気を出す……が、俺の本気は加減が出来ないから巻き添えを食らわせるかもしれん」
天霧レベルなら大丈夫かもしれないが、天霧にはまだ見せてない技である以上リスクの高い行動は避けるべきだろう。
「……わかった。任せる」
天霧は暫く考える素振りを見せるも、俺の意見に従ってくれるようだ。『黒炉の魔剣』を構えながらヴァルダと向き合う。
「纏えーーー影狼修羅鎧」
それを確認した俺がそう呟くと周囲に存在している影から水音に近い音が聞こえ始め、俺の顔に奇妙な感触が襲いかかり、視界が少し狭くなる。そしてその感触は徐々に首や胴体、足にも伝わる。
暫くすると俺の全身に狼を模した厚さ30センチ近くの分厚い西洋風の影の鎧が纏われる。
「……それで今の私に勝てると?」
「まさか、コイツでお前に勝つのは無理だろうな」
処刑刀の問いに俺は即座に否定する。去年の鳳凰星武祭の開催中に俺は影狼修羅鎧を纏って処刑刀とやり合った。あの時はある程度戦えたが、あの時の処刑刀は天霧の姉ちゃんの封印有りの状態だった。
星露との戦いで戦闘技術を高めたとはいえ、封印を解除した今の処刑刀相手に影狼修羅鎧は通用しないと俺は思っている。
ならば何故影狼修羅鎧を使うかというと、最後の切り札を発動する為に影狼修羅鎧の発動は必須だからだ。
そう思いながら俺は息を吐き……
「呑めーーー影神の終焉神装」
ただ一言、そう呟く。
同時に俺の周囲から星辰力が爆発的に噴き上がり、影狼修羅鎧に纏わり付いたかと思えば、押し付けるように圧縮が始まる。
同時に俺の身体からギシギシと音が鳴り若干の痛みが生まれるも、俺はそれを無視して、更に影狼修羅鎧を圧縮するように星辰力を操作する。
そして遂に……
「ぐっ……おおおおおおおおおおっ!」
雄叫びと共に限界まで影狼修羅鎧を圧縮し切り、背中から翼を生やす。しかしその翼の形状は影狼夜叉衣が持つ竜の様な翼ではなく、人を不幸にする悪魔のようや翼だ。
「ほう……実に素晴らしい圧だ。それこそオーフェリア嬢やあのご老体に匹敵する程のね」
処刑刀は感心したように頷く。ご老体とは間違いなく星武だろう。オーフェリアとタメを張れる奴なんて星露以外考えられないし。
しかし処刑刀の言葉は間違っていないだろう。この力を使っている間の俺は星露相手に負けた事はないのだから。まあ勝ってもいないんだけど。
しかしこの影神の終焉神装は俺の魔術師としての能力の極致であり、使用すると間違いなく使った後は疲労困憊となる。使える時間は星露との戦いで伸びたとはいえ、根本的な部分の解決はまだである。
そして今の俺が影神の終焉神装を使える時間は最大10分だ。だから今の俺がする事は……
「ああ。だからお前はその圧をしっかり味わいな」
「……っ!」
処刑刀を10分以内に倒すことだ。俺は瞬時に処刑刀との距離を詰めて鳩尾目掛けて右拳を放つ。
対する処刑刀は『赤霞の魔剣』で右手を防ぐも……
「何っ……!」
轟音と共に『赤霞の魔剣』による防御を打ち破り、処刑刀を吹き飛ばす。それによって処刑刀は今俺達がいる治療院の中庭から直接繋がっている入口の方に飛んで行ったので……
(今度は逃がさねぇ……!確実にぶっ潰す……!)
俺は翼に力を込めて処刑刀のいる方に飛翔した。
「マズい……!忌避領域はまだしも認識干渉の範囲外に出られたら……」
ヴァルダは久しぶりに焦りの感情を抱きながら、急いで2人が飛んだ先に向かおうとするが……
「悪いけど、ここは通さないよ。比企谷にも頼まれたからね」
綾斗がヴァルダの前に立ち塞がる。
「ちいっ……!邪魔をするな……!」
綾斗からヴァルダの顔はフードで見えないが苛立っているのは丸わかりだ。ヴァルダは苛立ちながら両手に黒い光を生み出して綾斗に振るう。
対する綾斗も『黒炉の魔剣』を振るって迎え撃つ。『黒炉の魔剣』とヴァルダ、どちらも純星煌式武装である故にカラフルな火花を散らしてぶつかり合う。
「我の力を易々と……これだから四色の魔剣は……!」
「君達の目的はわからないけど危険なのはわかるからね。ここで倒させて貰うよ」
「ほざけ!」
意思のある純星煌式武装であるヴァルダと、全ての封印を解除した綾斗。八幡と処刑刀とはまた違う、絶対的な強者のぶつかり合いが生じた。