学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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比企谷八幡は世界の歌姫と遊びに行く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高等部に進学してから二週間、俺は今アスタリスクの商業エリアの有名な噴水の前に立っている。

 

予定の時間まで後30分、暇なので過去の星武祭の試合を見ているもののさっきから視線を感じて仕方ない。顔を上げると全員が目を逸らして離れていく。

 

まあ俺は一応王竜星武祭ベスト4の記録を出した上、悪名高いレヴォルフの序列2位の有名人だ。レヴォルフの制服を着てなくても目立つだろう。

 

てか今更だがシルヴィが来たらヤバくないか?片や世界の歌姫、片やならず者学校のNo.2。明らかにヤバい組み合わせだろ?それでシルヴィに悪評が立ったら申し訳ない。

 

そう思っていると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「八幡君」

 

後ろから声をかけられたので振り向くと茶髪でカジュアルな雰囲気を醸し出している女子がいた。しかし見覚えのない奴だな。いきなり知らない女子に名前呼びされてるけど……いや、待てよ。

 

「もしかして……シルヴィか?」

 

髪の色は違うがシルヴィだと思う。俺の事を名前で呼ぶのはシルヴィとオーフェリアとウルサイス姉妹の4人だけだ。

 

「当たり。出かける時は目立つといけないから変装するんだ」

 

それを聞いて納得した。まあ世界の歌姫が堂々と歩くのは人目を引くからな。

 

「なるほどな。悪いな俺は特に変装してないから目立って」

 

さっきからマジで目立ち過ぎだ。結構苛つく。

 

「気にしないでいいよ。八幡君有名人だから」

 

「お前が言うな。てか何処に遊びに行くんだ?」

 

何処に行くか全く聞いてないし。シルヴィの事だから変な場所じゃないのはわかるけど。

 

「うん。八幡君って星武祭でMAXコーヒー飲み放題って願いを求めるって事は甘い物好きだよね?」

 

「まあな」

 

今更だが俺の願いふざけ過ぎだろ?あのオーフェリアですら呆れさせる事が出来るくらいだし。ウルサイス姉妹は姉が大爆笑して妹は苦笑いしてたけど。

 

「だから商業エリアの美味しいスイーツを食べ回りながらお喋りしようよ」

 

「まあそんぐらいなら構わないが……」

 

っても俺が話せる世間話なんて星武祭以外殆どないけど。

 

「じゃあ行こっか。色々調べてきたんだ」

 

そう言ってシルヴィは俺の手を引っ張って歩き出すので俺はそれに続く。まさか世界の歌姫と遊びに行くなんて……人生ってのは何が起こるかわからないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、2人がいる場所から少し離れた店の陰。

 

「……おい、ミルシェ見たか?」

 

「うん。見たよ」

 

2人の視線の先には自身の学校の生徒会長が男性の手を引っ張って歩いていた。

 

瞬間、2人の女子は驚愕と歓喜の混じった笑顔でハイタッチを交わす。

 

「おいおい!これマジで大スクープだろ!」

 

「うんうん!まさかシルヴィアが男の手を引っ張るなんてさ!」

 

そう言ってはしゃぐのはクインヴェール女学園が擁するガールズロックバンド『ルサールカ』のメンバーのミルシェとトゥーリア。

 

ルサールカは前回の獅鷲星武祭でデビューを飾り、初出場ながらいきなりベスト8入りしたことで一気にブレイクした。世界屈指のバンドだ。

 

最もシルヴィア・リューネハイムには及ばず、その為メンバー全員が打倒シルヴィアを標榜し世界のトップに立つことを夢見ている。

 

そんな事もありシルヴィアのスクープを探した結果彼女らにとって望ましい光景が目に入った。

 

「とりあえず写真は撮れた?」

 

「おう!しっかり!」

 

そう言ってトゥーリアが撮った写真をミルシェに見せてくる。そこにはシルヴィアが男子の手を引っ張っている写真があった。

 

「でもこのシルヴィアお忍びの格好だけど大丈夫かな?」

 

「大丈夫だろ。スクープになったら私達にもインタビューがあるだろうからそん時に『これは間違いなくシルヴィアです』って言えばマスコミは信じるだろ」

 

実際ルサールカのメンバーはシルヴィアのお忍びの格好を知っている為写真に写っている女子は間違いなくシルヴィアだと断言出来る。

 

「確かに……それだったら信じて貰え……ん?」

 

「どうした?」

 

ある事に気が付いたミルシェにトゥーリアが質問をする。しかしミルシェは写真に食いついたままだ。そして……

 

 

 

 

 

「この男子……『影の魔術師』じゃない?」

 

「……は?」

 

そう言われたトゥーリアも写真を見てみる。するとトゥーリアもそれに気付いた。

 

レヴォルフ黒学院序列2位『影の魔術師』比企谷八幡はクインヴェールではかなり有名だ。理由としては去年の王竜星武祭の準決勝でクインヴェールの序列1位であるシルヴィアと互角の戦いを繰り広げていたからだ。どちらが勝ってもおかしくない試合だった事から去年の王竜星武祭の試合では1番の人気を博している試合でもある。

 

そんな事もありクインヴェールでは特に比企谷八幡の名が知られているが……

 

「ああ。間違いなく比企谷八幡だ!まさかこんな大物が出てくるなんて……」

 

「これ本当に一大スキャンダルになるよね?」

 

実際アスタリスクトップクラスの2人が恋仲なら間違いなく世界の話題になるだろう。

 

「なるに決まってんだろ!それより尾行するぞ!」

 

視線の先には未だシルヴィアに手を引っ張られている比企谷八幡の姿があった。

 

「当然!これならモニカ達にいい土産になるよ!」

 

そう言ってルサールカ2人は尾行を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで、初めは何処に行くんだ?」

 

暫く商業エリアを歩く中シルヴィに聞いてみるとシルヴィは携帯端末から写真を見せてくる。そこには小洒落たカフェの写真があった。

 

「初めはここ。ここのパフェはうちの学校で有名だから一度食べてみたかったの」

 

そう言ってくるので写真を見ると形の整った美しく、それでいて甘そうなパフェの写真があった。確かに美味そうだ。女子から人気が出るのもわかる。しかし……

 

「そんな店に俺が入って大丈夫か?」

 

男の俺が入ったら間違いなくヤバい絵面な気がする。何せクインヴェールの生徒にとって人気の店だし。

 

「大丈夫だと思うよ。八幡君私との試合でかなり評価高いし」

 

ああ。あの試合か。まあアレはかなり人気らしい。俺は見ると悔しさが蘇るから見ないけど。それより今はもう一つ問題がある。

 

「……ところでシルヴィ。気づいてるか?」

 

「うん。尾行されてるね」

 

背後から視線を感じる。殺気はないのでレヴォルフの奴らの俺に対する闇討ちじゃないだろう。となると……

 

「シルヴィに心当たりは?その姿だからないと思うが」

 

普段の歌姫の姿ならともかくその格好でシルヴィと見抜く奴は少ないだろう。

 

「うーん。一応心当たりはあるな。あの子達なら危険じゃないよ」

 

今の発言を聞く限りシルヴィは尾行している奴らを知っているようだ。とりあえず悪い奴じゃないのはわかった。

 

「だがぶっちゃけ鬱陶しいから撒こうぜ」

 

はっきり言ってさっきから視線を感じて鬱陶しい。害がないからこっちから仕掛けられないし。

 

「いいけどどうやって?」

 

そう言ってくるシルヴィ。しかし俺には絶対の自信がある。俺は少し先に見える路地を指差す。

 

「シルヴィ、あの路地に入るぞ。とりあえず路地に入るまで手を離さないでくれ。そうすりゃ撒ける」

 

「?」

 

シルヴィは頭に疑問符を浮かべているがそれを無視して歩き出す。

 

そして狭い路地に入ると同時に意識を集中して星振力を使用する。

 

 

 

 

 

「影よ」

 

そう呟くと俺の影が俺自身とシルヴィに纏わりつく。

 

「えっ?!八幡君?!」

 

シルヴィが驚く中、俺達は地面に引きずり込まれた。

 

体が全て地面に入るとそこは一面真っ黒な世界だった。しかしシルヴィがいるのは見える。

 

「八幡君?ここって……」

 

どうやらシルヴィは何が起こったか薄々気づいたようなので答えを出す。

 

「ここは俺の影の中だよ。お前も俺が影の中に入れる事を知ってるだろ?」

 

前回の王竜星武祭でも何度か使ったし。てかそれでシルヴィを攻めたし。

 

「それは知ってるけど私も入れるんだ」

 

「正確には俺に触れている存在のみ俺の影の中に入れるだな」

 

触れている状態の武器なども影の世界にしまえるし。

 

「とりあえずこの状態で店に行こうぜ。そうすりゃ気付かれないし」

 

一応外からは影が動いていると思われているが店や住宅地の影を伝っていけばバレないだろう。

 

そう思っている時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?!いないよ?!」

 

上から声が聞こえたので上の状態を見れるようにすると予想外の人物がいた。

 

「アレは……ルサールカのミルシェとトゥーリア?」

 

「あー、やっぱりあの子達か」

 

まさかの有名人かよ?!完全に予想外だったわ!

 

「まさか尾行に気づかれてたのか?!早く探すぞ!」

 

「うん!やっぱり写真1枚だけじゃ足りないしね」

 

写真だと?!よく見るとトゥーリアの手にはカメラがあるし。こいつら……シルヴィのスキャンダルを狙ってやがるのか?!

 

マズい。そんな事をしたら俺が後ろ指を指される。そんなのは絶対にゴメンだ。

 

そう思うと同時に俺は影から出る。すると2人はいきなり俺が現れた為に驚き出す。

 

「えぇぇぇぇ?!」

 

「ひ、比企谷八幡?!何で……?!」

 

良し、2人は驚いて冷静さを失ってる。今がチャンスだ。

 

俺はそのままトゥーリアのカメラを奪い取る。すると2人は再起動する。

 

「あ!か、返せ!」

 

そう叫んでトゥーリアが手を伸ばしてくるので俺はそれを避けて影の中に潜る。

 

「しまった!影に潜られた!」

 

「くっそー!出てこい!」

 

トゥーリアは影を踏んでいるが無駄だ。影の中にいる間はオーフェリアだろうと干渉出来ないからな。

 

息を吐きながらカメラを見るとそこにはシルヴィが俺の手を引っ張っている写真があった。

 

「あー、撮られちゃったんだ」

 

シルヴィは苦笑いしているが他人事じゃないからな?

 

「あいつらはスキャンダルを狙ってんのかよ?恐ろしいな……」

 

多分シルヴィに勝つ為だと思うが……せこ過ぎる。

 

俺は呆れながらカメラのデータを消して自分の手だけを影の外に出してカメラを返した。

 

「じゃあシルヴィ、このまま店に行くから案内頼む」

 

「あ、うん。じゃあ路地を出て左に曲がって」

 

そう言われたので俺は自身の影を他の影の中に紛れさせてこの場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後ろでは「やっぱり写真消されてる!!」とか「くっそー!こんな事なら先にモニカ達に送っときゃ良かったぜ!」って叫んでいるが気のせいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

影に潜りながら進む事10分……

 

俺達はようやく目的の店に着いたので店の裏にまわり影から出る。それと同時に体に纏わりついていた影は元の地面に戻る。

 

「いやー、八幡君のその力便利だね」

 

「いやいや、お前が言うなよ」

 

シルヴィの能力は歌を媒介にすることでイメージを様々に変化させることができる能力だ。治癒能力を除いてあらゆる事象をコントロールすることができる奴に言われたくない。

 

「そりゃ私も影を操る事は出来るけど八幡君に比べたら弱いし影の中に潜るのは無理だよ」

 

だろうな。そんなレベルまであらゆる事が出来ならオーフェリアに勝てるかもしれない……いや、治癒能力が出来ない以上それでも厳しいか。

 

それほどまでにオーフェリアは別次元の存在である。今の6学園の生徒でオーフェリアに勝てる可能性のある奴って界龍の万有天羅くらいだろう。あいつはあいつで次元が違うし。

 

「まあそうかもな。それより尾行は撒いたし入ろうぜ」

 

割と腹が減っているので何か口にしたい。

 

「あー、アレはごめんね。迷惑かけちゃった」

 

「実害がないから別に気にしてない」

 

実害があったらしばくけど。つーか何をもってスキャンダルを狙ってるんだ?

 

疑問に思いながらシルヴィと一緒に店に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はスペシャルパフェとバニラシェーキにしよっと。八幡君は?」

 

「んじゃ俺は……スペシャルパフェと……コーヒーで。後練乳ってありますか?」

 

店員に聞いてみる。

 

「練乳ですか?ありますよ」

 

「じゃ、それもお願いします」

 

「かしこまりました」

 

店員がそう言うとシルヴィが裾をつかんでくる。

 

「八幡君、何で練乳?」

 

「ん?コーヒーに練乳を入れるとMAXコーヒーに近い味になるんだよ」

 

その事を千葉ッシュという。

 

「八幡君本当に好きなんだ。私も今度飲んでみようかな」

 

「おう飲め飲め」

 

マッ缶を宣伝していると店員が頼んだ品物を運んできた。

 

「お待たせしました。スペシャルパフェ2つにバニラシェーキにコーヒーに練乳でございます。以上でよろしいでしょうか?」

 

「あ、はい」

 

「ありがとうございます。それと……」

 

そう言って俺の方をチラリと見てくるが……何だ?目の腐った奴がこんな店に入るなってか?

 

疑問に思っていると店員は何故か手帳を出してきて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レヴォルフ黒学院の比企谷八幡さんですよね?王竜星武祭を見てファンになったのでサインをいただけませんか?」

 

これは予想外だったな。まあサインは割と慣れているから構わないけど。

 

手帳にサインをした俺はシルヴィと共に空いている席に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの影の魔術師の比企谷八幡さんですよね?その……サイン貰えませんか?」

 

パフェを食べようと席に着こうとしたら星導館の女子生徒が手帳とペンを差し出してくる。またか……

 

俺は内心ため息を吐きながらもペンを受け取りサインを書く。

 

「ありがとうございます。次の王竜星武祭頑張ってください」

 

女生徒は頭を下げて離れていった。

 

「人気者だね八幡君」

 

向かいにいるシルヴィは笑っているが世界の歌姫であるお前には言われたくない。

 

「理解出来ないな。俺に人気があるとは考えにくい」

 

「そう?八幡君の戦闘スタイルは格好良いし、レヴォルフの生徒の中じゃ凄く礼儀正しいから他の学園でもファンは多いよ」

 

シルヴィはそう言って端末を見せてくると頭を抱えたくなった。

 

そこには俺のファンクラブの公式サイトが載っていた。マジか?俺が知らないって事は非公式みたいだが……会員数5300人って多過ぎだろ?!

 

そりゃシルヴィやガラードワースの『聖騎士』アーネスト・フェアクロフに比べたら微々たる数だけどこの数値は予想以上だ。

 

「うわー。見たくなかった」

 

「まあまあ。そう言えば何で八幡君はレヴォルフに入ったの?何ていうか……あんまりレヴォルフの生徒っぽくないし」

 

それについて否定しない。俺は制服を崩してないし授業には毎回出席してるしガラードワースとも揉めた事もないし、レヴォルフっぽくないだろう。

 

「ん?簡単な話だ。俺は入る学校をくじ引きで選んだからだ」

 

俺がそう返すとシルヴィはポカンとした顔を浮かべてくる。今まで何度も顔を合わせたがこいつのこんな顔は新鮮だ。

 

「え?ちょっと待って。くじ引き?」

 

「おう。女子校のクインヴェールと合わなそうなガラードワースを除いた4つからくじ引きをした結果レヴォルフに決まった」

 

俺は別に学校単位で競う星武祭のポイントなんざ興味ないしな。どこに行ってもそこまで変わらないだろう。

 

「……ぷっ。あははっ。くじ引きは予想外だったな。やっぱり八幡君は面白いね」

 

楽しそうにコロコロ笑うが……そこまで笑わなくていいだろ。

 

「……ったく。それより食おうぜ。アイスが溶ける」

 

「ふふっ。そうだね。いただきますっと」

 

そう言ってパクリとパフェを食べるが……甘いな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達はパフェを食べながら駄弁り始める。最も俺は話すのは得意ではないのでシルヴィが話題を振ってくるのが多い。

 

「……なるほどな。ルサールカは賑やかな連中って事は良くわかった」

 

何でもシルヴィを超えるべく色々やっているらしい。さっきのスキャンダル云々もその類だろう。

 

「まあね。それで良くペトラさんに怒られてるんだ。八幡君は学校ではどうなの?」

 

どうって言われても特にな……

 

「特に変わった生活は送ってないぞ。学校行って授業受けて、オーフェリアと飯食って、イレーネと喧嘩して、偶にイレーネの妹に夕飯誘われてるくらいだぞ?」

 

「……序列1位の孤毒の魔女とご飯食べて、3位の吸血暴姫と喧嘩って普通じゃないからね?」

 

「そうか?まあ半年近く過ごしてりゃ慣れるだろ」

 

俺と喧嘩出来るレヴォルフの生徒は5人くらいだからな。そん中で1番喧嘩するのがイレーネってだけだし。

 

「でも退屈はしてないんでしょ?」

 

「まあな。てか星武祭見れば退屈じゃないし」

 

アスタリスクに来た理由は総武中の文化祭で嫌気がさした事だけでなく星武祭を生で見たいってのもあるし。

 

「そうだね。そう言えばもう直ぐ鳳凰星武祭だね」

 

鳳凰星武祭は夏だからな。もう少ししたらエントリーが始まるだろう。しかし……

 

「今シーズンの鳳凰星武祭は興味が湧かないな」

 

「え?どうして?」

 

「だって前回優勝ペアは卒業したし、この前レヴォルフの新聞部の記事を見たら準優勝ペアの趙虎峰とセシリー・ウォンは獅鷲星武祭に鞍替えするらしいし」

 

前回の決勝戦は盛り上がってテンションが上がったがあの2組が出ないなら結構興味がなくなる。

 

「へー。レヴォルフって情報機関だけでなく普通の新聞部も凄いんだ」

 

「まあな。結構信憑性の高い記事が多いから学校では人気だぜ」

 

レヴォルフ黒学院の運営母体はソルネージュという統合企業財団で保有する諜報工作機関『黒猫機関』は秘匿性が最も高く優秀と評されている。

 

その為かレヴォルフのメディア系クラブはかなり信用出来る。生徒そのものは信用出来ないのはアレだが………

 

「そうなると獅鷲星武祭で界龍からは久しぶりに『黄龍』のチームが見れるかもしれないね」

 

『黄龍』は『万有天羅』が認めない限り使用出来ないチーム名だ。しかし現序列4位と5位の2人が獅鷲星武祭に出るならあり得るかもしれん。

 

「そうなると……万有天羅の1番弟子の武暁彗か2番弟子の雪ノ下陽乃が出てくるのか?」

 

「覇軍星君はともかく魔王は出てこないんじゃない?前回の王竜星武祭で来年は優勝するって言ってたし」

 

そういやベスト4のインタビューで俺の横でそう言ってたな。

 

「まあ俺としても王竜星武祭に出てもらわないと困る。あの人には借りがあるし」

 

「え?八幡君魔王と戦った事あるの?」

 

「いや決闘はした事ないがアスタリスクに来る前にちょっとな……」

 

あの人と関わった所為で中学では迷惑を被ったからな。出来るなら俺が出る王竜星武祭で叩き潰したい。そしてあの仮面を破壊して屈辱を与えたい。

 

「ふーん」

 

「ちなみにお前にも借りがあるから2年後に返済してやるよ」

 

俺がそう返すとシルヴィは不敵に笑ってくる。

 

「いやー、八幡君には悪いけどまた貸しを作ってあげる」

 

つまりまた王竜星武祭で俺に勝つと言っているのか?それは勘弁して欲しい。

 

「いやいや。俺はともかくお前は3回目の最後の星武祭これ以上貸しを作られたら返せない」

 

「返さなくてもいいよ」

 

「絶対に返してやるよ」

 

普段感情を露わにしない俺でも負けた時メチャクチャ悔しかったし。オーフェリアには勝てないかもしれないがシルヴィには勝っておきたい。

 

「まあそれは2年後に楽しみにしてるよ。ちなみに八幡君は3度目の星武祭も王竜星武祭にするの?」

 

「もちろん。俺ぼっちだから組む相手いないし」

 

「あ、あはは……」

 

いや苦笑いしてるが、レヴォルフにいる俺の知り合いってオーフェリアとイレーネとプリシラの3人だけだから5人必要な獅鷲星武祭には出れない。鳳凰星武祭はオーフェリアは王竜星武祭に出るし、イレーネは人と組まないだろうしプリシラは戦闘向きじゃないし。

 

だから消去法で王竜星武祭しかない。となると3度目の王竜星武祭で1番の敵は万有天羅だろう。

 

「あ、そうそう!忘れてたけどはいこれ!」

 

そう言ってシルヴィは箱を出してくる。箱を開けてみると黒い石のペンダントが入っていた。

 

「この前の海外ライブの時に見つけて八幡君に似合うと思って買ったんだ」

 

「わざわざ悪いな」

 

「いいよ別に。それより付けてみて」

 

シルヴィに促されたので箱からペンダントを取って首にかけてみる。ペンダントなんて初めて付けるからなぁ……

 

ペンダントを付けてシルヴィに見せてみると笑顔を見せてくる。

 

「うん!凄く似合ってる」

 

そうなのか?鏡がないからよくわからん。まあ世界の歌姫のお墨付きなら似合っているのだろう。

 

「似合ってるなら良かった……ん?お前クリーム付いてるぞ」

 

よく見りゃ少し顔にクリームが付いていたのでハンカチを出して拭く。よし、取れたな。

 

改めてシルヴィの顔を見るとポカンとしているが……

 

 

 

 

 

「どうしたんだ?」

 

俺が尋ねると再起動する。

 

「あ、うん。こんな事されたの子供の時以来だから懐かしくって」

 

そう言われて俺は焦り出す。世界の歌姫に何をやってんだ俺は?普通に問題ある気がするんだが……

 

「あー、悪かったな」

 

「ううん。別に気にしてないよ。ありがとう」

 

どうやら本当に怒ってないようだ。その事に安堵しながら俺達は再び食事を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カフェで駄弁る事3時間、折角なので昼食も食べようという話になって昼食を食べると既に2時を回っていた。そろそろ出るか。

 

「うーん。久しぶりにお喋り出来て楽しかったよ」

 

「そうか?俺は殆ど話をしてないからつまらなかったんじゃないか?」

 

「ううん。八幡君聞いたらちゃんと答えてくれたじゃん」

 

そりゃ2人だからな?2人でシカトとか最低だろ。

 

「……まあお前が楽しかったなら何よりだ」

 

「うん。また日本に帰ってきたら付き合ってよ」

 

「へいへい」

 

適当に返しながら店を出ると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメだ。さっきからシルヴィアも比企谷八幡も見つからないしこのカフェで少し休もうぜー」

 

「そうだね。ちょっと疲れちゃった」

 

店の入り口付近にルサールカのミルシェとトゥーリアが俺達が今いたカフェに向かっていた。

 

……え?

 

俺はいきなりの不意打ちで思考を停止してしまった。それと同時に向こうも俺とシルヴィを見て固まっていた。

 

こうして両者沈黙が続く。

 

 

 

 

そんな中真横から声が聞こえてくる。

 

「あー!見て!ルサールカに『影の魔術師』比企谷八幡だ!」

 

横を見るとクインヴェールの女子が叫んでいた。

 

 

 

 

 

それと同時に両者が動き出す。

 

「見つけた!カメラの準備しろ!」

 

「影よ!」

 

トゥーリアが懐からカメラを取り出そうとすると同時に俺は星辰力を消費して影を俺とシルヴィに纏わり付かせる。

 

そして再び影の中に潜り始める。体の半分が潜った時にトゥーリアはカメラを取り出してこっちに向けようとしてくる。間に合え……

 

 

 

 

 

体がドンドン影の中に入る中遂にトゥーリアはカメラを向ける。そして……

 

 

 

 

カシャ

 

そんな音が聞こえると同時に影の中に入ったが……どうなったんだ?

 

 

 

 

 

疑問に思いながら上を見てみると……

 

 

 

 

 

「ダメだ!2人の頭の天辺しか撮れてねぇ!」

 

「あー!惜しい!次からは何時でも撮れるように準備しないと!」

 

どうやらセーフの様だ。今のはマジで焦ったぜ。

 

「あー、びっくりしたね」

 

横を見るとシルヴィは苦笑している。本当に危なかったぜ。

 

「全く……バレたら俺とシルヴィが付き合ってると誤解される所だったぜ」

 

あいつらマジでしばき倒すぞ?

 

「まあまあ。それに私は八幡君が彼氏でも文句ないよ?」

 

シルヴィはコロコロ笑っているがそれは冗談だろう。いくら何でも釣り合ってなさ過ぎる。

 

そんな事を考えながら俺はシルヴィが示した次の店に影を進ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、楽しかった!今日はありがとう!」

 

クインヴェールの校門前でシルヴィは笑顔で礼を言ってくる。

 

あれから3時間、時刻は既に夕方になっている。あの後何度もミルシェ達と会って写真を撮られかけて大変だった。まあ結局スキャンダルになりそうな写真は撮られなかったので良しとしよう。

 

「まあ俺も結構楽しかったぜ」

 

「なら良かった。次会うのは鳳凰星武祭がある頃だと思うから一緒に見ようね」

 

えー、シルヴィと一緒に見たらマスコミが騒ぎそうなんだけど。

 

「ああ。見れたら見ようぜ」

 

「見れたらじゃなくて見れるようにするから。じゃあね!」

 

そう言ってシルヴィは学校に入って行った。あいつ……俺が断る前に逃げやがった。こりゃ鳳凰星武祭は一緒に見ることになりそうだ。

 

ため息を吐きながら俺は影に潜り自分の寮に帰って行った。

 

 

 

 

途中でミルシェとトゥーリアが悔しがっているのを視界に入れながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寮に帰った俺は疲れたのでベッドに倒れ込む。もう今日は疲れたから風呂に入って寝よう。

 

そう思いながらベッドの上で転がっていると電話が来た。誰だ?シルヴィか?

 

「もしもし」

 

すると……

 

『あ、お兄ちゃん?久しぶり』

 

画面を見ると最愛の妹の小町がいた。

 

「おう小町。久しぶりだな。どうした?」

 

『うん。お兄ちゃんの顔が見たくなったから連絡したの。今の小町的にポイント高くない』

 

「その一言がなければな。で、何か用か?」

 

まさかと思うが本当にこれだけじゃないよね?

 

『あ、実はうちの学校に戸塚さんが入学したから……』

 

「何だと?小町それ本当か?詳しく説明を頼む」

 

『うわ、お兄ちゃん相変わらずだね……』

 

何かドン引きしてるが知らん。どうせならレヴォルフに来てほしかった……いや、ダメだ。一緒にいたいのは山々だが戸塚をあんな屑の巣窟に入れる訳にはいかない!

 

『説明って言っても戸塚さんは星導館に入学したんだよ。後結衣さんや雪乃さんもだよ』

 

「え?マジで?」

 

これについては予想外だ。あいつらも星脈世代だったのかよ?

 

『うん。まあ2人はクインヴェールだけど。後結衣さんから聞いたけど千葉村に行ったメンバーは全員アスタリスクに入ったらしいよ』

 

千葉村……って事はあのリア充グループもかよ。戸塚や奉仕部の連中はともかくあいつらもかよ……マジで関わりたくないな。

 

「とりあえず話はわかった。わざわざありがとな」

 

『どういたしまして。結衣さん達お兄ちゃんに会いたがってたから今度暇な時会ってあげなよ』

 

「へいへい。それはわかったが俺は疲れたから寝る」

 

『へ?お兄ちゃんが休日に疲れる訳ないじゃん』

 

おーい。小町ちゃん?お兄ちゃんに対してそれはないでしょ?

 

そう思っていると何故か小町のテンションが上がる。

 

『もしかして女の子とデートでもしたの?!』

 

「あー、まあな」

 

あ、やべ。返すの面倒だから適当に返しちまった。一緒に出掛けたがデートではないな。

 

『嘘?!誰誰?!今度小町に紹介してよ!』

 

こいつテンション高過ぎだろ?こっちは疲れてるんだから勘弁してくれ……

 

まあどの道小町はシルヴィのファンだからいつか紹介するつもりだ。だから……

 

「わかったわかった。じゃあ鳳凰星武祭の時に会わせてやるよ」

 

『本当?!』

 

「ああ。それと俺は疲れてるから切るぞ」

 

『ほーい。またね』

 

そう言って電話が切れると疲れが出る。まさか電話だけでこんなに疲れるのか……

 

限界を感じたので立ち上がる。今日は風呂に入って8時前に寝よう。

 

 

 

 

 

俺は息を吐きながら風呂場に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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