学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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遂に比企谷八幡は因縁ある相手との戦いにひと段落をつける

深夜、アスタリスク中央区にある自然公園にて……

 

 

「ごめんね八幡君……私達が遅くて左腕を失う事になっちゃって」

 

俺の恋人の一人であるシルヴィは悲しそうな表情で俺と斬り落とされた俺の左腕を見ながらそう言ってくる。しかしそれでありながら銃剣型煌式武装フォールクヴァングを構えながら処刑刀改めマディアスに意識を向ける。

 

「八幡を支えると決めたのに……でも安心して。直ぐにマディアス・メサを潰すから」

 

もう一人の恋人であるオーフェリアは目に浮かぶ涙を拭くことなくマディアスを睨む。

 

対するマディアスは離れて場所にいる俺からでもわかるくらい焦りの色を出している。

 

「やれやれ……こうなったら退かせて貰う「逃がさないわ」……しまった……!」

 

マディアスは逃走をしようとするが、オーフェリアの方が一歩速い。腰にあるホルダーから『覇潰の血鎌』を取り出して起動する。そして辺りに紫色の光が見えたかと思えばマディアスの身体は宙に浮かぶ。重力を弱くして浮かばせると自由は効かなくなるからな。

 

しかし向こうも相当の実力者だし、確実に捕まえる。俺は襲う痛みに頭痛を感じながらも右腕から数本の影の触手を生み出してマディアスを捕らえる。

 

そしてオーフェリアがマディアスに手を向けて……

 

「……これで終わりよ。昔は世話になったけど……八幡の敵なら容赦はしないわ」

 

オーフェリアの手から瘴気が現れてマディアスの全身を包み込む。

 

「ぐうっ……!まさか昔の飼い犬に手を噛まれるとはね……!それも向こうの世界を見て全て壊れた飼い犬にとは……!」

 

向こうの世界?なんだそりゃ?

 

マディアスの言葉に疑問符を抱く中、マディアスは意識を失った。しかし油断は出来ないので俺は両手両足を影の触手で拘束した後、影の塊をマディアスの口の中に入れる。これで万が一逃げれてもマディアスの体内に入った影の塊が奴の動きを制限するだろう。

 

 

「……確かに私は全壊寸前までに壊れたわ。けど、八幡の優しさに触れて直す事が出来たわ」

 

マディアスの拘束を済ませるとオーフェリアは気絶をしているマディアスにそう口にする。向こうの世界とはよくわからんが聞かないでおこう。マディアスの話では、オーフェリアはその向こうの世界を見て壊れたらしいし、嫌な世界と判断出来る。大切な恋人に嫌な記憶を蘇らせる訳にはいかないからな。

 

そんな事を考えていると、後ろからドタバタした音が聞こえてきたので振り向くと……

 

 

「無事か馬鹿息子?!」

 

「済まない、到着が遅れた……こいつは!」

 

「おいおい……何だこの状況は?」

 

恋人2人以外に連絡したお袋とヘルガ・リンドヴァル警備隊長と釘バットを持ったジャージの女性からこちらにやって来た。格好や雰囲気から察するにレヴォルフのOG、お袋の舎弟あたりだろう。

 

ヘルガ隊長はオーフェリアの毒を食らって気絶しているマディアスを見て驚愕の表情を浮かべる。

 

「見ての通りですよ。処刑刀の正体はマディアス・メサです。それよりも治療院の中には向かってください。こいつの仲間が天霧と戦闘しているんで」

 

完全に封印が解除された天霧が負けるとは微塵も思ってないが、ヴァルダも規格外だからな。万が一の事もあるし、こちらの戦闘が終わった以上加勢に行くべきだろう。

 

「……っ!わかった。それでマディアス・メサは……」

 

「私とシルヴィアが見ておくわ」

 

オーフェリアがそう言ってくる。まあオーフェリアの毒を食らった挙句、俺の影を体内に入れたし大丈夫だとは思うが。

 

「では任せた。済まないが比企谷に谷津崎、協力して貰うぞ」

 

「はいはーい……って訳で匡子、行くぞー」

 

「は、はい!……にしても天霧の野郎はどんだけトラブルに巻き込まれるんだよ……担任として頭が痛ぇ……」

 

そんな会話をしながら3人は治療院に向かっていった。今の会話でわかったがお袋が連れてきたジャージの女性……谷津崎匡子って元レヴォルフの序列二位じゃねぇか。お袋とは割と年齢が離れているので中等部時代辺りにお袋の暴れっぷりを見て憧れたクチだろう。

 

何にせよ、王竜星武祭を二連覇したお袋とヘルガ隊長、獅鷲星武祭優勝チームのリーダーの谷津崎さんの3人が天霧に加勢すればヴァルダは終わりだろう。

 

そう思っていると……

 

「八幡君、腕は大丈夫?」

 

シルヴィが今にも泣きそうな表情のまま詰め寄ってくる。まあ胴体に『赤霞の魔剣』の破片が入るのを避けるためとはいえ左腕を失ったからな。

 

「少し……いや、メチャクチャ痛いが大丈夫だ」

 

これも星露との修行のおかげだろう。確かに痛いのは事実だが、星露に殴られた時にはこれに近い痛みを感じるし。

 

「じゃあ八幡……私の瘴気を当てて。今痛覚を麻痺する瘴気を出したから」

 

言いながらオーフェリアは瘴気を出してくるので、俺は鎧を解除して斬られた箇所に当てると……

 

「ぐっ……!」

 

最初に若干痺れたが、直ぐに痛みが無くなった。寧ろ全くなくて不気味に思えるくらいだ。

 

「随分と便利な毒を持ってるな……」

 

「この毒は本来感覚を奪うもの。だから今回なように少量ならともかく、大量に使用したら痛覚だけでなく視覚や触覚、聴覚も奪われる危険なものよ」

 

なるほどな……少量なら薬代わりになるが、過度の摂取は文字通り毒になるようだ。

 

「まあ何にせよ助かった。お前らが来なかったら結構危なかったしな」

 

最後の流星闘技、こちらも全力で迎え撃ったが結構危なかったのは事実だ。もしもオーフェリアとシルヴィが来なくても負けはなかったと思うが相当にダメージを受けていたのは否定出来ない。そう考えると2人が来てくれたのは本当に感謝しかない。

 

「当然だよ……八幡君が困ってたら助けるのが彼女の私達の仕事なんだから」

 

「……ごめんなさい。私達が遅い所為で八幡の左腕が……」

 

俺がそう口にするとオーフェリアとシルヴィが涙を流しながらも俺に詰め寄ってくる。

 

「謝る必要はない。俺は気にしてないし命が無事なら安いもんだ」

 

そう言って俺は未だ残っている右手で2人を引き寄せて強く抱きしめる。実際に2人に連絡を取らなかったら死んでいた可能性もある。それを考えると命は無事で、腕一本で処刑刀とヴァルダを捕まえれる計算となり安い買い物だ。

 

「でも良かった……無事で」

 

「うん。今回は間に合ったけど、次にこんな……ううん。次はこんな事になる前に駆けつけるから」

 

2人はそう言って抱き返してくる。右腕だけで2人を抱きしめるのはぶっちゃけ辛いが気にしない。今は2人の温もりを感じていたいのだから。

 

暫く3人で抱き合っているが、

 

「さて……そろそろ治療院に行くから離してくれ」

 

いつまでもこうしている訳にもいかん。オーフェリアが痛覚を麻痺させてくれたとはいえ、血を流し過ぎたし治療院に行って血の補充をしたい。ぶっちゃけ頭がクラクラしてきた。

 

「そうね……でもその前に……」

 

オーフェリアがそう言って抱擁を解くとシルヴィもそれに続く。しかし顔だけは離さずに寧ろ距離を詰めて……

 

 

 

 

 

「「死なずに済んで嬉しいわ(よ)、八幡(君)」」

 

ちゅっ……

 

2人が同時に俺の唇にキスを落としてくる。瞬間、俺は頭のクラクラを忘れて一瞬で幸せな気分になる。2人がいる場所に帰ってこれた事を自覚出来たからだろう。

 

2人は直ぐに離れて涙を浮かばせながらも笑みを浮かべてくる。

 

「ああ、俺もまたお前らと会えて良かったよ」

 

言いながら俺は立ち上がる。多少よろめきはしたが2人が直ぐに支えてくれたので問題ない。

 

そして2人は俺を支えながら治療院に向かおうとしたので、俺は影兵を1体生み出してマディアスを担ぎ上げるように指示を出す。

 

そして俺は2人に支えられながら治療院に向かった。治療院からは轟音が聞こえてくるが、俺達が治療院に入る頃には終わっているだろうしな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やった……!遂に……!遂に決定的瞬間を取れました〜!ストレス発散の為にカジノに行った帰りこんなラッキーが起こるなんて……早くネットにアップしないと!さぁて……明日以降が楽しみだな〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺がオーフェリアとシルヴィに支えられて治療院に入る。すると一際大きい轟音が聞こえたので若干足を早めて治療院の中庭に向かうと……

 

 

 

 

 

 

「ぐうっ……!」

 

「お〜お〜、お前弱いなぁ……ウルスラちゃんの肉体を使ってた時の方が強いんじゃね?」

 

「いやいや、姐さんが強過ぎるだけですからね?」

 

「油断はするなよ。星辰力は殆ど残ってないようだが、何をしてくるかは読めないからな」

 

既に戦闘は終わっていた。お袋がヴァルダの頭を踏みつけて、谷津崎さんがヴァルダの首元に釘バットを突きつけて、ヘルガ隊長がヴァルダの関節技をかけてヴァルダの動きを封じていた。やはり怪物3人が相手ではヴァルダも形無しだろう。

 

「あ、比企谷……え?腕は?!というかなんで実行委員長が?!」

 

一方、ヴァルダから少し離れた場所にいた天霧が顔に疲れと驚愕の色を乗せて俺を見てくる。

 

「左腕は無くなった。マディアスがいるかというとこいつが処刑刀だからだ」

 

「なっ……!」

 

俺が簡単に回答すると天霧の表情にある驚愕の色が濃くなる。まあ気持ちはわからんでもない。俺も天霧の立場なら同じようなリアクションをしているだろう。

 

「そんな事よりお前は無事か?」

 

「あ……う、うん。途中までは互角だったんだけど、3人が介入してからは一方的に……」

 

天霧がそう言ってお袋達を見る。どうやら天霧の口調や身体を見る限り特に大きい怪我はないようだ。

 

すると……

 

「さぁて……そろそろ締めにするか」

 

「があっ……!」

 

お袋がそう言って一度足を上げたかと思えば再度ヴァルダの顔面に踏みつけて、ヴァルダの首にあるネックレスを奪い取る。

 

するとネックレスから放たれていた黒い光が徐々に弱くなり、同時にヴァルダの身体から黒い色をした何かがネックレスのウルム=マナダイトと思われる宝石に吸収されていく。

 

アレは見た事がある。学園祭の時に俺が奴からネックレスを奪い取った時と同じ光景だ。

 

そして暫くすると黒い色はネックレスに全て吸収されて、ヴァルダはパタンと倒れて、見る限り動く気配はない。これでヴァルダの魂もネックレスに戻ったのだろう。

 

「ふぅ……終わりっと。疲れたー」

 

お袋は欠伸をしながら伸びをする。中庭を見る限りさっきまで派手な戦闘をしていたのだろうが、それをやった当事者とは思えない仕草だな……

 

「まさかこんな所で処刑刀を捕まえられるとはな……ともあれ今は治療が先だな。マディアス・メサは私が預かるから比企谷君と天霧君は院長の所に向かいたまえ」

 

まあ俺は治療の為に戻ってきたからな。天霧も軽くないダメージを受けているし妥当な判断だ。

 

「了解っす」

 

「とりあえずあたしはエンフィールド達に連絡を入れておくか……」

 

「んじゃ私はこいつを連れてくわ」

 

谷津崎さんは空間ウィンドウを開き通信を始め、お袋はヴァルダに乗っ取られていた少女を持ち上げる。見る限りボロボロの格好をした少女だが、大方どっかの貧民層の人間だろう。統合企業財体の人間なら幾らでも調達可能だし。

 

 

(これで処刑刀とヴァルダは捕まえた。後はディルクを押さえれば俺達の平和を崩す奴は居なくなる。まあディルクの奴はいるが対策は既に浮かんでるし問題ないだろう)

 

まあその為にはオーフェリアの協力が必要だが、その辺りは協力してくれるだろう。

 

そう思いながら俺は恋人2人に支えられながらお袋と天霧と共に治療院の中に入ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「全く……義手の定期検診が終わってから1時間もしないで左腕を失うとは思わなかったわい!」

 

「……すんません」

 

治療院の病室の一室にいて、俺は院長であるヤン・コルベルの説教をさせながら治療を受けている。既に切り口は治癒能力によって塞がれたので後は輸血をして義碗を作れば問題ない。

 

尚、天霧とヴァルダに乗っ取られていた少女は俺に比べたら負傷していないので治癒能力を受けていない。まあ治癒能力による治療を受けれるのは俺みたいにヤバい状態の人だけだからな。

 

「まあまあ、そんな怒ってばっかじゃ血管が切れるぞジジイ」

 

「ふん!親子揃って儂の手を煩わせおって……!」

 

お袋はカラカラ笑いながらそう言うと院長がお袋に怒鳴る。どうやらお袋は院長とも交流があるようだ……院長にとって悪い意味で。

 

「やれやれ……それで?俺は今日は入院すか?」

 

「……んんっ?!ああ、そんで明日明後日に検査して義碗を作るからの。直ぐに部屋を用意するわい」

 

院長が面倒くさそうにそう言ってから空間ウィンドウを操作する。やれやれ……星脈世代は基本的に入院する事は余りないのに1年で2回も入院するとはな……

 

内心ため息を吐きながら俺は治療室に入ってきたナースに連れられて病室に入る。

 

そしてベッドに入ると同伴したオーフェリアとシルヴィが話しかけてくる。

 

「とりあえず今はゆっくり休みなよ。命に別状はないとはいえ疲れてるでしょ?」

 

「……そうね。今日はもう面会時間ギリギリだから明日の朝に着替えを持ってくるわ」

 

「頼む」

 

「任せて。その代わり早く退院してね?」

 

「……八幡が居ないのは寂しいわ」

 

2人は寂しそうにそんな事を言ってくる。そういや前に入院した時も寂しい云々言っていたな。また2人に寂しい思いをさせるのか、と考えると罪悪感が生まれる。

 

「わかってる。可能な限り頑張って早く退院する」

 

俺はそう言いながら右手で2人を抱き寄せて……

 

ちゅっ……ちゅっ……

 

始めにオーフェリアに、続いてシルヴィにキスをする。2人が寂しそうな表情をする時は俺からキスをすれば、その顔を止めるのを知っているのは学習済みだ。案の定2人は一瞬だけ驚きの表情を浮かべても直ぐに幸せそうになり……

 

「「わかったわ(よ)。じゃあまた明日」」

 

ちゅっ……

 

同時に俺にキスをして病室から出て行った。俺は幸せな気分になりながら2人を見送ってから息を吐く。俺達の敵を排除出来た事に対する嬉しさを噛み締めながら。

 

(これで漸く平和が手に入るな……)

 

そう思いながら俺はやって来た睡魔に逆らわずにゆっくりと目を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、ネット上では……

 

 

 

『影の魔術師、戦律の魔女と孤毒の魔女の2人とキス?!』

 

『レヴォルフのNo.2、自学園のNo.1と世界の歌姫相手に二股?!』

 

1人の少女がネットにアップした3人がキスをしている画像や動画が出回り、ネットが炎上した。


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