学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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いよいよ獅鷲星武祭最終日が始まる

「んっ……んん〜」

 

窓から注がれる光によって目を覚ました俺は伸びをする。と言っても左腕は無いので右腕だけで。

 

今日は獅鷲星武祭最終日で俺と交流が深いチーム・赫夜の試合だ。本来なら会場に直接応援に行きたいが、腕を斬り落とされた為入院しているので行けない。

 

(残念だ……勝つにしろ負けるにしろ、直接見届けたかったんだがな……)

 

そう思いながら俺は息を吐いて壁にある時計を見ると7時前。面会時間も朝食の時間もまだまだ先だ。

 

(とりあえず若宮達に入院した事を連絡しとくか……)

 

そう思いながら俺は傍のテーブルにある端末を取り出そうとすると……

 

「なんだこりゃ?」

 

見れば大量の着信履歴があった。恋人のオーフェリアとシルヴィを始め、妹の小町やお袋、チーム・赫夜や挙句にルサールカやペトラさんからも着信が来ていた。

 

ここまで着信履歴があるなんておかしい。前に左手を斬り落とされた時もここまでは来なかったし。特にルサールカやペトラさんから連絡が来るのは完全に理解出来ない。

 

どうしたものかと悩んでいると再度着信が来たので見ればペトラさんからだった。この人が何度も連絡するなんて余程重要な事なのだろう。

 

そう思いながら俺は空間ウィンドウを開くと、見覚えのあるバイザーを付けた女性ーーーペトラさんが映る。しかし気の所為かいつもより緊迫した表情だ。

 

「もしもし。何度も連絡して、なんか用ですか?」

 

『ええ。ですがその様子だと事情を知らないみたいね』

 

「は?」

 

事情って何だ?俺の左腕を斬り落とされた事についてか?

 

『昨日貴方、処刑刀と戦ったでしょう?』

 

「え?あ、はい。その後にヘルガ隊長に引き渡しましたが」

 

何で知っているのかとか聞かない。クインヴェールの諜報機関の能力はレヴォルフと並んで高い事で有名だし。

 

そんな事を考えていると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『問題はその後です。貴方がシルヴィアとオーフェリア・ランドルーフェンの2人とキスをした画像がネットに出回っています』

 

ペトラさんが予想外の台詞を口にして来た。

 

「マジで?!」

 

思わずそう叫びながらも新しい空間ウィンドウを開いてネットに繋げてみると……

 

『影の魔術師、戦律の魔女と孤毒の魔女の2人とキス?!』

 

『レヴォルフのNo.2、自学園のNo.1と世界の歌姫相手に二股?!』

 

トップニュースにそんな見出しの記事が大量にあった。1番始めに目に入った記事を開いてみると……

 

「マジか……」

 

確かに俺がオーフェリアとシルヴィの2人とキスをしている画像があった。しかもタチの悪い事に捕まったマディアスや斬り落とされた俺の左腕は映っていない。マディアスが映っていれば銀河が自分らの評判が下がるのを防ぐ為に動画の削除に動いたのに……

 

「てか誰だよこれを撮ったの……?」

 

犯人がわかったら退院次第に潰す。漸く処刑刀とヴァルダを蹴散らしたのに、俺から平穏を奪ったのだ。絶対に許さん。

 

『そちらについてはこちらで調査中です。それよりもシルヴィアから話を聞きました。シルヴィアとオーフェリア・ランドルーフェンは貴方が左腕を失って心配したのかもしれないですが、今後はどんな状況だろうと細心の注意を払って行動してください』

 

ぐっ……確かにそうだ。マディアスを撃破したからかあの時の俺は周りの存在を見ていなかったのは否定出来ない。1番悪いのは写真を撮ってネットにアップした奴だが、安心して状況を失念した俺の行動にも問題はあるだろう。

 

てか……

 

「今後?その言い方だと、交際の許可はマジで出てるんすか?」

 

一応前にチーム・赫夜が準優勝以上の結果を出して、俺がW=Wに就職したら交際を認めると言われたが、正直半信半疑だったので改めて聴いてしまう。

 

『確かに3人の関係が公になったらW=Wからは損失が出るでしょう。しかし昨日の貴方の功績は大きいですから最高幹部からは反対意見はそこまで増えてない……というか減りましたよ』

 

「功績?処刑刀の逮捕ですか?」

 

『ええ。実は以前ベネトナーシュに金枝篇同盟ーーー処刑刀と絡んでいる組織について調査を頼んだ所全員消息不明となり、W=Wとしては金枝篇同盟を危険視していたのですよ』

 

金枝篇同盟?聞いた事はないが処刑刀が絡んでる時点でディルクも絡んでいるかもしれないな。

 

「だから処刑刀を倒した俺の功績を評価した、と?」

 

『加えて処刑刀の正体はマディアス・メサ。銀河の幹部が蝕武祭の専任闘技者である事はW=Wを始め、他の統合企業財体に知れ渡りました。これは銀河を叩くカードとしては破格のカードです』

 

なるほどな。今の世界には6つの統合企業財体が存在しているが6つ全て拮抗している。その拮抗を崩すには今回の件は極めて有効なカードだろう。

 

『それに……』

 

「それに?」

 

普段あらゆる事をハッキリと言うペトラさんが口籠るなんて珍しくて、思わず聞き返すと……

 

 

 

 

 

 

 

 

『先程その件に関してシルヴィアに連絡したら『八幡君と別れるなんて絶対に嫌。もしもペトラさんやW=W、世間が私達3人の関係を引き裂くなら3人で心中して邪魔の入らない天国で愛し合う』と返され、それだけは避けるべきと判断しました』

 

「…………」

 

マジですかシルヴィアさん?そこまで想ってくれているとは思わなかったな。

 

「そ、そうですか……」

 

『ええ。会見で煩く言われたらそう発言すると豪語しました。シルヴィアが死んだら世間は間違いなく我々W=Wを叩くでしょう。そうなったらW=Wも銀河同様他の統合企業財体に狙われるのでそれを避けるべく3人の交際については反対を止めました』

 

なるほどな。つまりシルヴィの俺とオーフェリアに対する愛の力が統合企業財体の圧力を上回ったと……ヤバい、考えていたら恥ずかしくなってきた。

 

『まあ後日会見はするでしょう。その時は貴方とオーフェリア・ランドルーフェンにも参加して貰いますが宜しいですね?』

 

ペトラさんがそう言ってくるが、拒否を許さない声音だ。

 

(まあ逆らうつもりはないけど)

 

面倒なのは山々だが、断ったら日常生活においてマスゴミが寄ってくるかもしれん。それだったら大規模な会見でハッキリ言った方がだろう。会見をしてもマスゴミは来るだろうが数はマシになるだろうし。

 

「わかりました。期日についてですが、退院後で宜しいですか?」

 

『こちらもそのつもりです。シルヴィアに聞いたら退院は5日後と聞きましたが合っていますね?』

 

「はい」

 

『こちらとしては早くて1週間後、どんなに遅くても2週間以内にしたいのですが』

 

「じゃあ間を取って10日後で」

 

『わかりました。10日後にスケジュールとして組んでおきます。この件については私は今から最高幹部と話し合うのでこれで』

 

「よろしくお願いします」

 

俺がそう言うとペトラさんの顔が空間ウィンドウから消えたので、俺は通話をしていた空間ウィンドウを閉じてネットが繋がっている空間ウィンドウを操作して掲示板を見ると……

 

 

 

 

 

『死ね比企谷八幡』

 

『シルヴィアちゃんは世界の宝、独り占めなど万死に値』

 

『二股クズ過ぎwww』

 

『闇討ちしてやる。50人くらいで行けば殺せる』

 

それはもう俺の悪口で一杯だった。まあ二股は問題だから否定が仕切れないのが辛い。

 

ついでに50人じゃ俺を殺すのは無理だと思うぞ。集める人間の質によるが、序列二位になった当初、前の序列二位のロドルフォの部下150人と戦って全員沈めたし。

 

しかしここまで悪口があるって事は記者会見は荒れるかもな。てか学内でも闇討ちがあるかもしれないし。

 

「ま、だからどうしたって話だけどな」

 

世間から文句を言われる?そんなもん百も承知で2人と付き合う道を選んだんだ。たとえ記者会見で何を言われようが、世間がいくら反対しようが2人と別れるつもりはない。

 

それにいざとなったらシルヴィが言ったように3人で心中して邪魔の入らない天国で愛し合うのも悪くないしな。

 

そんな事を考えながら俺は一息吐いて朝食の時間までノンビリと過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから1時間半後、朝食を食べ終えて電子書籍を読んでいると……

 

「八幡君、お見舞いに来たよ!」

 

「……着替えを持って来たわ」

 

面会時間の開始と同時にシルヴィとオーフェリアが病室に入ってくる。

 

「わざわざ悪いな」

 

「……いいえ。私達は八幡の彼女として当然の事をしただけよ」

 

「オーフェリアの言う通りだよ。それより八幡君、ペトラさんから連絡が来たよね?」

 

「ああ。10日後に会見だろ?」

 

「うん。反対意見は煩いだろうけど、3人で頑張ろうね」

 

「ああ」

 

「……そうね」

 

シルヴィはそう言ってくるがもちろんそのつもりだ。3人で幸せになるって決めた以上どんな障害も打ち破るつもりだ。

 

「まあ面倒なのは変わりないがな。ネットの反応を見たら暫くは平穏が崩れそうだ」

 

「……そうね。八幡の悪口ばかり……」

 

「全くだよ。確かに私達の関係は歪かもしれないけど、他人に迷惑をかけてないのに……」

 

2人もネットで俺の悪口を見たようで不満タラタラの表情を浮かべている。

 

「そんなプリプリすんな。俺は親しい人間に悪く言われなきゃそれで良い」

 

生憎と俺は赤の他人にどうこう言われた程度じゃ自分の在り方は変えない性格だしな。

 

「「八幡(君)がそう言うなら……」」

 

「良し、良い子だ」

 

「んっ……」

 

俺がオーフェリアの頭を撫でるとくすぐったいそうに身を捩る。たったそれだけの仕草なのに俺はオーフェリアにメロメロになってしまう。

 

「八幡君八幡君、私にも」

 

オーフェリアに癒されていると、シルヴィが可愛らしくおねだりをしてくる。何この子可愛過ぎだろ?

 

「はいはい、甘えん坊め」

 

「えへへ〜」

 

思わず苦笑しながらシルヴィの頭も撫でる。それによってシルヴィは満面の笑みを浮かべてくる。本当に可愛いなぁ……出来れば2人まとめて撫でたいが……今ほど左腕がない事を悔しいと思う事はないだろう。

 

「まあ処刑刀にヴァルダは蹴散らしたんだし、会見を乗り越えれば一段落つきそうだな」

 

「そうかもね。後は『悪辣の王』だけか……」

 

「あ、それなんだがオーフェリアに頼みがある」

 

「……私に?何かしら?」

 

「ああ。星武祭が終わってからでいいんだが、アイツを生徒会長の座から引きずり下ろしてくれ。アイツから可能な限り力を奪っておきたい」

 

レヴォルフの生徒会長は序列1位が指名した相手だ。オーフェリアがディルクの所有物だった時に奴を指名してそのままだったが、これを機にクビにしておきたい。

 

ぶっちゃけオーフェリアを自由にしてから直ぐにクビにしようか悩んでいたが、処刑刀やヴァルダと繋がっている状態でディルクをクビにして雲隠れされたら厄介だからクビにしなかった。

 

しかし今は処刑刀やヴァルダも捕まったしその心配はないと思い、俺はオーフェリアにそんな提案をしてみた。

 

「……わかったわ。じゃあ星武祭が終わったら理事長に八幡を新しい生徒会長にするように進言しておくわ」

 

「待てコラ。何故そこで俺を出す?」

 

確かにディルクをクビにしたいのは山々だが、後任として俺の名前を出してくるとは予想外だ。

 

「……だって私、レヴォルフで八幡以外の知り合いは居ないし、八幡の方が私より相応しいと思うから」

 

「まあ確かに六花園会議って結構腹の探り合いもあるし、オーフェリアより八幡君の方が向いてるかも」

 

ここでシルヴィもオーフェリアの弁護をする。いや、確かにオーフェリアって割と馬鹿正直だから腹の探り合いは向いてないかもしれないけどよ……

 

俺が返答に窮していると……

 

 

「八幡、私としては私自身が生徒会長になるより、副会長になって八幡を支えたいんだけど……ダメ?」

 

「ダメじゃない」

 

しまった。オーフェリアの上目遣いが可愛過ぎて思わず即答してしまった。やっぱオーフェリアは色々な意味で恐ろしいな。

 

内心後悔するも時すでに遅く……

 

「じゃあよろしく頼むわ……私も一生懸命八幡を支えるわ」

 

「決まりだね。八幡君と会議をするのも面白そう」

 

2人は満足そうにハイタッチをしていた。……もういいや、2人のそんな姿を見ていたら文句を言う気も失せた。ま、ディルクから権力を奪えるんだし、やるだけやるか……

 

「はいはい。わかりましたよ……未来の副会長にクインヴェールの会長さん」

 

「「んっ……ありがとう」」

 

言いながら2人を抱き寄せる。面倒な事は好きじゃないが2人がそれを望むなら俺はそれに応える以外の道はない。

 

そんな事を考えていると……

 

「「………」」

 

2人はツヤのある瞳で俺を見てくる。長い付き合いだからわかるがこれはキスをしろってジェスチャーだ。

 

まあ俺も2人とのキスは最高だから良いんだけど。

 

俺はそのまま2人の顔に近づく。すると2人は目を瞑って俺と同じ様に顔を寄せてくる。

 

そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼しまーす!比企谷君!腕の様子は………え?」

 

『あ』

 

唇を重ねる直前、若宮を戦闘にチーム・赫夜の5人が入ってくる。それによってこの部屋にいる8人は全員ポカンとした表情になる。

 

 

その時に俺の頭には2つの疑問か浮かんだ。

 

一つは、何故入院中にキスをしようとすると同じタイミングで人が入ってくるのか

 

そしてもう一つは、何故若宮達が介入した時は材木座の時と違って全く腹が立たないのだろうか

 

 

と、いう疑問だ。

 

まあとりあえず……

 

 

「あー、まあアレだ……ノックをしてくれ」

 

俺がそう言うとチーム・赫夜の5人は大小差はあれど顔を真っ赤にした。

 


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