クインヴェール専用観戦室にて……
『長らくお待たせいたしました!これより決勝戦が始まります!』
「よっしゃ!遂にか!」
「ここまで来たら優勝しろー!」
「モニカ達の仇を討ちなさいよー!」
「……また大金星を手に入れなさい」
「が、頑張ってください……!」
実況の声にルサールカのトゥーリアが大きい声を上げる。他のルサールカの4人も差はあれどテンションを上げている。
しかしそれも当然だろう。自分の所属する学園のチームが久しぶりの決勝進出なのだから。
「いよいよ決勝かー。普通に戦ったら負けるけど、向こうは刀藤ちゃん居ないしどうなるんだか」
八幡の母である涼子はいつものようにジャージ姿で日本酒を一気飲みしながらそう呟く。それを見たペトラは毎度のように注意をしようとしたが、毎度のようにスルーされると判断して止めた。
「両チーム共に負傷が多いですから何とも言えないですね。それより貴女は息子の方に行かなくて良いんですか?」
ペトラは既に八幡が入院した事を知っているので涼子に尋ねてみるも……
「あん?馬鹿言ってんじゃないよ。馬鹿息子の事だ。シルヴィアちゃんとオーフェリアちゃんとイチャイチャしてんだろうし、邪魔するのも野暮ってもんだろ?」
涼子はペトラの問いを一蹴する。そしてその言葉は的を射ている。現に3人は1時間以上ディープキスをして、甘え合いながら試合開始を待っているのだから。
「そうですか。まああの3人ならそうでしょうね……そして10日後の記者会見でも平然と対処するのが容易に想像出来ます」
「それは同感だなー」
涼子もペトラも理解している。あの3人が別れる事は何があってもあり得ない事を、世間がどう反対しようとも絶対に揺らがない事を。
寧ろペトラはマスコミが余計なことを言って3人(特にオーフェリア)がブチ切れないかを心配している。社会的な立場ならまだしも、戦闘力的な意味であの3人相手に対抗出来る人間は万有天羅以外にはいないというのがペトラの考えである。
「まあ下手に誤魔化すより開き直った方がいいですが」
「そりゃなぁ……つーかよペトラちゃん、例の写真をネットにアップしたのって誰だ?」
涼子は笑顔のままそう口にするが、瞳は一切笑ってないのをペトラは知っている。今、涼子は明らかに怒っている。その上、瞳には凶悪な殺意も混じっている事をペトラは気付いてしまった。
話すべきかと悩んだが、話さない場合力づくでも聞き出してくると判断したペトラはため息を吐きながら口を開ける。
「ガラードワースの一色いろはという生徒です。以前シルヴィアとオーフェリア・ランドルーフェンに詰め寄られている動画にて2人に詰め寄られていた女子ですよ」
ペトラにとっては忌々しい記憶である。あの事件の所為でペトラの胃に穴が出来かけて、以降は胃薬を常備するようになってしまった。
それを聞いた涼子は小さくうなずく。涼子も義理の娘が出てくる動画と見たし、シルヴィアとオーフェリアから事情も聞いている。
「あー、あいつね。要するに逆恨み?」
「恐らくは」
「ったく……漸く処刑刀の問題が終わったと思ったら……始末するか?」
「今の所は様子見ですね。今後の状況次第では……と言ったところです」
「了解了解……っと、そろそろ始まるだろうし今は試合を見ようぜペトラちゃん」
「ですからペトラちゃん呼びはやめてください」
2人はいつものやり取りをしながらステージを見始めた。
ーーー界龍第七学院黄辰殿、謁見の間にて……
『長らくお待たせいたしました!これより決勝戦が始まります!』
「ほっほっほっ、いよいよか。待ちわびたぞい」
玉座に座る界龍の序列一位范星露はワクワクしたように空間ウィンドウを見る。
「アタイも今から楽しみだねー。ま、どっちもボロボロだし長い試合にはならないでしょ」
星露の隣に立つ元序列一位のアレマ・セイヤーンも似たような表情をしながら試合を待ち望んでいる。
「そだねー。ま、私としては私達を倒したチーム・エンフィールドに勝って欲しいけど。ねぇ虎峰……ってまだこの状態?」
「……………」
準決勝でチーム・エンフィールドと戦ったチーム・黄龍のメンバーのセシリー・ウォンはチームメイトである趙虎峰に話しかけるも、虎峰は顔を真っ白に、それでありながら目と口から血を流していて明らかに不気味であった。
「趙師兄……よほど今朝のニュースが……」
虎峰の弟弟子らは虎峰を可哀想な眼差しで見る。今朝のニュースとは世界の歌姫であるシルヴィア・リューネハイムが比企谷八幡、オーフェリア・ランドルーフェンの3人でキスをしている事だ。
そのニュースを見た虎峰は口から吐血し、目から血涙を流しながら見間違いかと何度も何度もニュースを繰り返し読んだ。しかし何度も読んでも見間違いではなく、そのショックで虎峰の思考は停止したのであった。
「虎峰の事は放っておけい。こうなったら暫くは目を覚めんじゃろうしな。ほれ、もうじき試合が始まるぞ」
星露の言葉に虎峰を除いた星露の弟子は真剣な表情となり空間ウィンドウに視線を移して試合の開始を待ち始めた。
ガラードワース専用観戦室にて……
『長らくお待たせいたしました!これより決勝戦が始まります!』
「いよいよですわね」
「そうだね」
ガラードワース生徒会副会長のレティシア・ブランシャールと生徒会長にして序列一位、チーム・ランスロットのリーダーのアーネスト・フェアクロフは言葉を交わす。
「レティシアはどっちが勝つと思うかい?」
「正直な所判断はつき難いですが……可能ならソフィアさん達がクローディアを倒して欲しいですわ。私達チーム・ランスロットを打ち破ったのですから」
レティシアはクローディアに借りを返せない事に対して不満を抱きながらそう返すと、アーネストは苦笑を浮かべる。
「レティシアらしいね。それにしても決勝が始まってから閉会式まではこれ以上問題は起こって欲しくないな……」
「全くですわ。鳳凰星武祭の誘拐騒ぎといい、今シーズンはいささか問題が起こり過ぎですわ」
ブランシャールの愚痴にレティシア以外のガラードワース生徒会の4人は内心頷く。
獅鷲星武祭が始まってから八幡とシルヴィアとオーフェリアの関係にしろ、マディアス・メサの逮捕(こちらは情報規制がされていて、統合企業財体や学園の理事会や生徒会メンバーしか知らない)など色々な問題が起こっている。
特に前者ーー八幡とシルヴィアとオーフェリアの3人の関係については統合企業財体前々から知っていたが、関わるとリスクがあると放置していた。
しかしガラードワースの生徒……一色いろはが暴露した事により一転した。もしも関係が公開された事が原因でシルヴィアが引退などした場合、一色いろはを擁するガラードワースも『お前らが余計なことをしたせいでシルヴィアは引退したんだ!』と叩かれる可能性もあると上層部は危惧している。
「そうだね……と、言っても僕達に出来る事は余りない。出来るとしたら祈るくらいかな?」
一色に関することも上層部が判断することになっていてアーネストらでも口出しする権利を持っていない。星武祭が終わってから直ぐに状況が変わることはないが、10日後の記者会見の結果次第では大きく状況が変わるとアーネストは危惧している。
(まああの3人の行動は手に取るようにわかるけどね。間違いなく記者会見でも普段通りに対応するだろうな)
アーネストだけではない。3人の関係についてある程度知っている人は記者会見でも甘々な空気を出す可能性があると考えている。
アーネストは容易に想像出来る未来に苦笑を浮かべながらステージに意識を戻した。
一方……
(比企谷……結衣の気持ちを考えずに違う人とそれも2人の女子と付き合うなんて許されると思っているのか?!普段の言動にも問題があるというのに……王竜星武祭でお前を倒してその歪んだ根性を叩き直してやる……!)
苛立ちを露わにした表情を浮かべながらステージを見る男もいたのだった。
アルルカントアカデミー、『獅子派』専用ラボにて
『長らくお待たせいたしました!これより決勝戦が始まります!』
「いよいよであるなカミラ殿」
「そうだな。お前としては自分の開発した煌式武装を持つチーム・赫夜に勝って欲しいよな?」
「う……いや、その……済みませんでした」
獅子派の会長のカミラ・パレートと副会長の材木座義輝は雑務をこなしながらシリウスドームのステージを映す空間ウィンドウを見る。
「とはいえどちらもボロボロであるから全く勝敗が読めないのは何とも言えないな」
「うむ……しかし短期決戦になるのは間違いないのであるな」
材木座の上司であるカミラ・パレートは考えるようにステージを映す空間ウィンドウを見ると、材木座も頷いて答えるとある事を思い出してカミラに話しかける。
「そういえばカミラ殿、先程エルネスタ殿と連絡をしていたが何かあったのであるか?」
エルネスタはここ最近アスタリスクを留守にしている。カミラや材木座も仕事の都合でしょっちゅうアスタリスクの外部に行っているが、エルネスタのそれはカミラや材木座の比ではない。
「ん?仕事が中止になってもうすぐアスタリスクに帰るようだ。それとお前の相棒には感謝をしているようだ」
「八幡が?」
「ああ。どうやらエルネスタはマディアス・メサに仕事を頼まれていたようだが、奴が比企谷八幡に負けて捕まった事によって仕事が中止になったようで、もうすぐアスタリスクに帰るようだ」
カミラや材木座は既にマディアス・メサの正体も、既に捕まっていることも知っている。
「それはわかったが、何故中止になって感謝をするのであるか?」
「何でも報酬はエルネスタを逃がさない為か前払いしたらしい。それで仕事を半分くらい終わった中、マディアス・メサが捕まったから仕事は中止になった」
「つまり本来やるべき仕事の半分だけやった所で仕事が終わって、報酬も手に入ったから八幡に感謝をしている……なるほどな。ちなみにエルネスタ殿はマディアス・メサから何を報酬として渡されたのであるか?」
金銭ではない事は材木座でも理解出来ている。エルネスタはわざわざ星武祭の運営委員長からの仕事を引き受けなくても充分に稼いでいるのだから。
「それは知らない。あいつにしては珍しく教えられないと言っていたから」
「ほう?」
それは材木座にとっても興味深い返答であった。材木座はカミラともエルネスタともそれなりに交流を持っているが、材木座はカミラとエルネスタは仲の良い友人同士と見ている。そんなカミラに対して教えないと返すとは予想外であった。
「まあ詳しくは帰ってから聞けばいい。それよりももうすぐ始まるぞ」
「おお!そうであったな……それにしても相棒で思い出したが、八幡め。我より先に彼女を作るとは……リア充爆発しろ」
材木座がかませ犬のようにペッと唾を吐く仕草を見せるとカミラは思い切り呆れた表情になる。
「……お前こそ見合いの相手が大勢来ているだろう?見たところ美人も多いし受ければ彼女を通り越して妻が手に入るぞ」
獅子派の副会長である材木座は八幡と同様に中学時代と違って好待遇を受けている。高い技術力から統合企業財体や煌式武装メーカーから人気で、それらの幹部連中の娘を見合い相手として紹介されているくらいである。
カミラ本人も見合い相手として紹介されているが……
「いや……我、出来れば声優さんと結婚したい」
「はぁ……エルネスタといい、何故私の友人は天才でありながら残念なんだ……?」
「待てカミラ殿!我はエルネスタ殿程残念ではないぞ!」
「私からすれば50歩100歩だ!」
2人がギャーギャーと言い争う中、ステージに選手が入場し始めた。