世間からしたら星武祭は今の世界で最も有名な娯楽である。星脈世代同士による強力な煌式武装や能力、常人には出せない桁違いの体術のぶつかり合い。
それらは観客からすれば娯楽として大人気であり、言うまでもなく決勝に近づくにつれて戦いのレベルも上がり、否応無しに盛り上がる。
今、シリウスドームで行われているのは獅鷲星武祭決勝だ。決勝のテレビの視聴率は毎回95パーセントを超えるほどのものであり、観客席は必ずと言っていい程大歓声に包まれているのが基本だ。
しかし今回の試合は一際歓声が上がっている。
何故かというと、ステージにいる面々が普段の獅鷲星武祭決勝に比べて死にもの狂いの雰囲気を醸し出しているからだ。
「咲き誇れーーー呑竜の咬炎花!」
「女王の崩順列!」
ユリスが細剣を振るうと同時にニーナが手を振り下ろす。
すると一拍遅れて両者の間に2種類の魔方陣が展開されて、そこから巨大な炎の竜と巨大な大砲が現れる。
そして間髪入れずに炎の竜と巨大な大砲から放たれた光の砲弾がぶつかり合う。最初は拮抗していたが、徐々に光の砲弾が炎の竜を壊し始める。ニーナの合成技の破壊力は各学園のトップクラスの相手にも通用するレベルだ。
しかし……
「燃え盛れ!」
ユリスも負けていない。大声で叫けぶとユリスの6本の煌式遠隔誘導武装が炎の竜に取り囲むように配置される。
そして次の瞬間、炎の竜の大きさは3倍近くに跳ね上がり光の砲弾を逆に食い始める。ユリスの奥の手の1つで、煌式遠隔誘導武装を媒体に万応素と星辰力の固有結合パターンを同調させて威力を上げたのだ。
それによって光の砲弾は遂に食い破られたが、ニーナは特に焦っていない
(破られるのは予想の範囲……!それに今なら……!)
『クロエ!八幡の体術をお願い!』
『了解!』
ニーナはクローディアと戦うクロエの頭に直接頼み込むと、全身から力が漲る。何度も経験している漲りを感じたニーナは回り込むようにユリスの元に走る。
ニーナは、煌式遠隔誘導武装を能力の強化に使っている時のユリスは制御に意識を集中している事を、準決勝でユリスがチーム・黄龍のセシリー・ウォンと戦った記録を見て学習済みである。
そして炎の竜が光の砲弾を破壊すると同時に……
「たあっ!」
「ぐっ……!」
八幡の体術をトレースしたニーナの蹴りが放たれる。対するユリスは手に持つ『ノヴァ・スピーナ』で防ぐも、予想以上の威力に後ずさりしてしまう。
「八裂の葉剣!」
しかしニーナは止まらない。八幡の体術でバランスを崩したユリスに対して光の剣を振るう。ユリスも煌式遠隔誘導武装を引き戻そうとするが、ニーナの方が早くユリスの制服の袖を切り裂き、血を飛び散らせる。
「まだまだぁっ!」
「これ以上はさせん!」
更に追撃を仕掛けるニーナだが、漸く追いついたユリスの煌式遠隔誘導武装の内3本の煌式遠隔誘導武装がニーナの一撃を防ぐ。そして残り3本の煌式遠隔誘導武装がニーナに襲いかかるのでニーナは追撃をやめて後ろに下がる。しかし完全には避けれずにユリスと同じように血を流す。
「ふぅ……データに比べて随分と攻撃的だな『戦札の魔女』」
「だって……これが最後だから……」
ニーナの言う最後とは、決勝だから最後だという意味、この5人でする試合は最後だという意味の2種類の意味を持っていた。
どちらの意味でもニーナにとって負けられない。ニーナは家族が楽を出来るよう金を稼ぐ為に星武祭に参加した。決勝に進出した時点で学園からは大金を貰えるのでニーナの願いは実質叶っている。
しかし今のニーナは自分の為だけでなく美奈兎達チームメイトの為、協力してくれた人々の為に戦っている。自分の願いが実質的に叶っているとはいえ負けるという考えは微塵も浮かんでいない。
「そうか……だが、こちらも負けられん!咲き誇れーーー九輪の舞焔花!」
「それはこっちの台詞!王太子の城壁!」
互いが怒号を上げて再び能力をぶつけあった。
「ずどーん」
「はっ!」
所変わって後衛同士の対決も拮抗していた。紗夜のヴァルデンホルト改のホーミングブラスターを柚陽の精密な射撃が全て撃ち落とす。
本来なら柚陽の実力は紗夜の足元にも及ばない。それでも拮抗出来ているのはチーム戦だからだ。
紗夜の持つ煌式武装はどれも桁違いの破壊力を持っているが、攻撃範囲も広くチーム戦だと味方も巻き込んでしまう危険性がある煌式武装でもある。
その為紗夜は、現時点で自分が持つ最強の煌式武装であるヴァルデンホルトを改造して威力を落としたホーミングブラスターを導入して試合で使っているが、それだけなら柚陽も何とか食らいつけているのだ。
そんな中、柚陽は紗夜の援護射撃を防ぎながらもヴァルデンホルト改に意識を向けていた。
(前回のホーミングブラスターが放たれてから今回の砲撃までの時間は60秒……次の攻撃後がチャンスですね)
柚陽は試合前に八幡とクロエから紗夜の煌式武装の特徴について聞かされている。基本的に高威力だが、連射は出来ず1発毎に大量の星辰力を消費する煌式武装だと。
そして柚陽は攻撃に転ずる為にヴァルデンホルト改のチャージ時間を完璧に把握した。
(次のチャンスまで4人を守らないといけませんね……)
内心そう思いながら柚陽は紗夜に向けて4本の弓を同時に放つ。すると紗夜はヴァルデンホルト改の反動制御用のバーニアを移動用に変化して、ステージを滑るように動いて回避する。
そしてヴァルデンホルト改の腕部ユニットを解放してハンドガン型煌式武装を展開して移動しながらも、柚陽とユリスと戦闘しているニーナの2人に向けて発砲する。
対する柚陽は新たに矢を1本生み出して、ニーナに向けて放たれた光弾を撃ち落とすべく放ち、自分に向けて放たれた光弾に対しては弓を盾のようにかざして守りの体勢に入る。
すると……
「くっ!」
「何っ?!」
柚陽の手に衝撃が走ると同時にユリスの声が聞こえてきた。予想外の声に柚陽は手に走る痛みを堪えながらニーナとユリスの方を見れば、ユリスが仰け反っていて、
「はあっ!」
「かっ……!」
同時にニーナの蹴りがユリスの鳩尾にめり込んだ。
柚陽は直接見でないので知らないが、柚陽の放った矢が紗夜の光弾を破壊した後偶然にもユリスの肩に矢が当たり、予想外の一撃にユリスは仰け反ってしまったのだ。
それによってニーナの攻撃が決まった、それを見た柚陽はチャンスと見た。
(本来なら沙々宮さんが次にホーミングブラスターを撃ってから攻めるつもりでしたが、このチャンスを逃すわけにはいきませんね……)
だから柚陽は弓型煌式武装を待機状態にしてからサーベル型煌式武装を展開しながらクロエの頭に呼びかける。
『クロエさん、ソフィア先輩の技術のトレースをお願いします』
『了解』
同時に柚陽は自身の身体に何かが入り込むのを実感する。何度も経験した他人の技術だ。
それを確認した柚陽は全力でユリスとの距離を詰めにかかる。普段なら運動音痴の柚陽だが、ソフィアの技術をトレースしている時には関係ない。
対する紗夜もユリスを潰されたらマズイとヴァルデンホルト改を待機状態に戻して、ユリスの元に走り出すが柚陽の方が速い。
「はあっ!」
柚陽が掛け声と共にサーベルを振るう。対するユリスはニーナの蹴りによって体勢を崩しながらも煌式遠隔誘導武装で防御する。
しかしソフィアの剣技を使う柚陽はサーベルと煌式遠隔誘導武装がぶつかると直ぐにサーベルを引いて三連突きを放つ。
放たれた突きの内、2発は煌式遠隔誘導武装によって防がれたが……
「ぐうっ!」
最後の突きは防げずユリスの脇腹を穿つ。掠っただけだが僅かに肉を飛ばし、ユリスの脇腹からは血が流れ出す。
しかしニーナは一切の容赦を見せず、ユリスが校章を守るように掲げる『ノヴァ・スピーナ』を八幡の体術を使って手から弾き飛ばす。
「これで終わりです!」
防御の無くなったユリスの校章を柚陽のサーベルが穿こうとする。
しかし……
「させない……」
校章に届く直前に、柚陽のサーベルとユリスの校章の間に紗夜のアークヴァンデルス改が割り込み、サーベルの突きを防ぐ。そして紗夜はそのままアークヴァンデルス改をバットのように振るって柚陽を弾き飛ばす。
「あっ……!」
尻餅をついて地面に倒れる柚陽に対して、紗夜はアークヴァンデルス改の銃口を向ける。
それに対してニーナはヘルプに入ろうとするが……
「私は気にせず!」
柚陽の珍しい叫び声を聞き一瞬驚くも直ぐに切り替えて、地を這うように身を屈めて紗夜のアークヴァンデルス改の下を走る。狙いは紗夜。ユリスは体勢を立て直すべく距離を取っているし、ダメージから速く能力を使えないからと判断したからだ。
そしてニーナの拳が紗夜の校章に向けて放たれると同時に、紗夜が手に持つアークヴァンデルス改の引き金を引き……
『沙々宮紗夜、校章破損』
紗夜の校章が粉々に砕かれて……
『蓮城寺柚陽、意識消失』
紗夜のアークヴァンデルス改の一撃をモロに食らった柚陽はステージの壁まで吹き飛び意識を失った。
「……やられた。ユリス、後は任せた」
ニーナの頭上にいる紗夜は悔しそうな声を出して試合の邪魔にならぬようステージの端に行くべくニーナから距離を取る。
「……全くあいつは。この状態の私に随分な無茶を言う」
一方のユリスは手を脇腹に当てながら苦笑を浮かべている。脇腹からは血が流れているがユリスから放たれる戦意は微塵も衰えていなかった。
その事からニーナは八幡の体術を使った事によって生まれた痛みに悶えながらも、ユリスから目を逸らさない。手負いの獣は危険と言われているが、今のユリスはまさにそれだけ判断したからだ。
(でも私だって負けられない……!絶対に勝つと誓ったんだから……!)
ニーナは内心で自身を鼓舞しながらユリスに向かって突撃を仕掛けた。
『沙々宮紗夜、校章破損』
『蓮城寺柚陽、意識消失』
ステージの中央付近、美奈兎とソフィアと綾斗が戦っていると2人が脱落した事により3人の意識が一瞬だけ逸れる。3人が横を見れば、地面に倒れている柚陽と校章を破壊された故に邪魔にならないようステージの端に向かおうとする紗夜な目に入る。
それを見た美奈兎とソフィアは綾斗を、綾斗は美奈兎とソフィアを見ながら絶対に負けられないと改めて誓いながら戦闘を再開する。
「やぁっー!」
「そこっ!」
美奈兎とソフィアは再度綾斗との距離を詰める。『黒炉の魔剣』の取り回しの悪さを利用して綾斗の動きを制限する為である。
その為、2人より遥かに強い筈の綾斗は攻撃を凌ぐことは容易に出来ても反撃に転ずることが出来ずにいた。
このままだとマズいと綾斗は考える。自分がこの2人に負けることはないと思っているが、この状況が続けば間違いなく時間がかかるだろうから。
綾斗がチラッと横を見ればユリスとニーナが戦っているが、ユリスは脇腹に大ダメージを受けているのもあって、明らかにニーナがリードしている。
綾斗はこのまま自分が梃子摺っていればユリスがニーナに敗北してニーナがフリーになると考える。そうなると狙われるのはクローディア……
そこまで考えた綾斗はバックステップで美奈兎とソフィアから距離を取り『黒炉の魔剣』を待機状態にする。
(ま、マズい……!)
綾斗のやろうとしている事を理解した美奈兎とソフィアが焦る中、綾斗は腰からノーマルなブレード型煌式武装を起動して瞬時に距離を詰める。美奈兎とソフィアが徹底的に『黒炉の魔剣』対策をしてくるなら、『黒炉の魔剣』を使わず普通のブレードを使い、持ち前のスピードと手数で勝負すると判断した故だ。
そして間髪入れずに距離を詰めて、下段から斬り上げつつ、即座に手首を返して袈裟斬りを美奈兎に放つ。対する美奈兎は下段からの斬り上げは何とか右手に装備したナックル型煌式武装で防いだが、ナックル型煌式武装は壊れて、袈裟斬りは防げずに美奈兎の袖を切り裂く。
美奈兎が遅いのではなく、綾斗が速すぎるのだ。『黒炉の魔剣』を使っていた時に比べて威力は全く無いが、剣速と正確さは桁違いに上がっていて美奈兎の反応速度を上回っている。
「美奈兎さん!」
それを見たソフィアはサーベルを構えて神速の突きを放つ。狙いは綾斗の校章。圧倒的な速さによる突きで校章を狙えるのはソフィアの技術のレベルの高さを意味している。
しかし……
「はあっ!」
「なっ!」
綾斗は自身のブレードをソフィアのサーベルの横っ腹にぶつけて軌道を変える。
それによってソフィアのサーベルの切っ先は綾斗の校章から綾斗の胸に向けられるが……
「……っ!」
次の瞬間、ソフィアのサーベルを持った手の動きが鈍る。ソフィアの頭に血に染まった自分の手、顔を押さえ倒れる友人、駆け寄る兄ーーー生身の人を傷つけられなくなった原因が浮かんだからだ。
『ダークリパルサー』のようにトラウマがあっても戦えるようになったが、根本的なトラウマについて克服出来なかったのでソフィアのサーベルは綾斗の胸に当たる直前に止まって落としてしまった。
しかし……
「ソフィア先輩!」
美奈兎の声にソフィアはハッとした表情を浮かべながらも反射的に後ろに下がる。するとさっきまで校章のあった場所に綾斗のブレードが通り過ぎた。
(そうですわ……トラウマが蘇るのはまだしも、直ぐに立ち直らなければいけませんわね……)
そう思いながらもソフィアは追撃を仕掛け突撃をしてくる綾斗を見据えながら腰から『ダークリパルサー』を取り出して綾斗との距離を詰めにかかる。
『ダークリパルサー』を見た綾斗はハッとした表情を浮かべるも突撃を止めずにソフィアの元に走り出す。突撃している状態で急ブレーキをかけて避けるのは無理と判断したからだ。
そして綾斗はソフィアとの距離が2メートルを切ると
「天霧辰明流組討剣術ーーー"砥柄壬"!」
「ああっ!」
ブレードを右袈裟に斬り下ろす。ソフィアはそれを躱すも綾斗は直ぐに持ち手を変えて、ブレードの柄頭を『ダークリパルサー』を持つソフィアの腕に叩き込みソフィアの手を弾き上げる。
既に綾斗は『ダークリパルサー』の刀身は超音波で出来ていて防げないことを理解していた。だから超音波で出来ていない『ダークリパルサー』の柄もしくはソフィアの手を狙ったのだが、結果的に成功した。
しかし……
「こちらも負けられませんのよ……!」
ソフィアは弾き上げられた腕を強引に引き戻し綾斗に振り下ろす。無理に引き戻して腕からは悲鳴が上がるがソフィアをそれを無視して振り下ろす。
対する綾斗は引く事も考えたが……
「天霧辰明流剣術奥伝ーーー"罷牙蜂"!」
引いて『ダークリパルサー』を食らうのを避けるために攻めに出る。
綾斗の放つ神速の突きとソフィアの『ダークリパルサー』が交差して……
『ソフィア・フェアクロフ、校章破損』
「ぐっ……!」
綾斗のブレードがソフィアの校章を破壊して、ソフィアの『ダークリパルサー』が綾斗の肩を貫いた。
「後は任せましたよ美奈兎さん!」
校章を破壊されたソフィアはこれ以上の干渉が出来ないので、綾斗の肩を貫いた『ダークリパルサー』を待機状態にしながらそう叫ぶ。
「もちろん!」
美奈兎はそう言いながら綾斗に拳を放つ。対する綾斗はブレードを使って受け流すも、先程肩に刺さった『ダークリパルサー』から流された超音波によって生じた頭痛の所為でキレが落ちている。
綾斗にとって幸いだったのは美奈兎が昨日の試合の影響で満身創痍だという事と『ダークリパルサー』が刺さった場所が肩だという事。これが頭や頭に近い首だったらこれ以上の頭痛が綾斗を襲いマトモに対応出来なかっただろう。まさに綾斗にとっては幸運であった。
そして美奈兎にカウンターを仕掛け左のナックルも破壊する。破壊された美奈兎は焦る事なく後ろに跳んで……
『クロエ!ソフィア先輩の技術を!』
『了解!』
クロエの頭にそう念じると、力が入り込んでくる。同時にサーベルを取り出して綾斗に突っ込む。綾斗は迎撃するべくブレードを構えて、互いの武器をぶつけ合う。
すると2人の間に轟音とクレーターが生じて2人は弾くように後ろに跳ぶ。普段の2人ならともかく綾斗は頭痛に、美奈兎は昨日の試合の分も含めた激痛に苛まわれていて衝撃に耐えられなかった。
しかし2人は……
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「まだまだぁぁぁぁぁぁっ!」
叶えない願いを叶える為に身体に掛かる負荷を無視して怒号と共に突っ込んだ。
結果……
『若宮美奈兎、校章破損』
ステージの中央近くにて、クローディアと戦っているクロエの耳にそんな機械音声が入る。
(マズい……!天霧綾斗がフリーに!折角ここまで来たのに……!)
クロエは内心舌打ちをしながらクローディアを見る。現時点でクロエとクローディアの戦いはクロエが圧倒的に有利であった。
ソフィアの剣技に八幡と美奈兎の体術を駆使してクローディアを攻め立てた結果、クローディアは校章の破壊を防ぐべく『パン=ドラ』の未来予知のストックを全て使い果たした。
それによって『パン=ドラ』はただの双剣となってしまった。クロエも肉体に掛かる負荷で意識を飛ばしそうになってはいるがまだ耐えられるレベルであり、このまま続ければ勝ち目は十分にあると言える。
しかしそれはあくまでタイマンの話だ。綾斗がこの戦闘に介入すれば自分は負けるとクロエは考えている。綾斗はここから離れた場所にいる上、『ダークリパルサー』を受けたから来るまでに時間がかかるが……
(私がクローディア・エンフィールドを倒すより、天霧綾斗がこっちの方に来る方が早いに決まっている……これは、もう……)
クロエの頭に詰みという文字がよぎりそうになった時だった。
『ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルト、意識消失』
そんな機械音声が流れたのでクローディアから目を逸らすとニーナの蹴りがユリスの脇腹にめり込んでいた。
それによって両チーム共に残りの人数は2人となった。ニーナと綾斗は比較的万全で、クローディアは切り札の未来予知を失い、クロエは満身創痍。試合は後1分もしないで終わるだろう。
『ニーナ!20秒で良いから天霧綾斗の足止めをお願い!死んでも勝つわ!』
『わかった!』
ここが勝負所と判断したクロエはケリをつけるべく、ニーナにそう指示を出すとクロエは全身に走る激痛を無視してクローディアにサーベルを向けて走り出す。
綾斗が止めようと動くが……
「絶対に、行かせない……!」
その前にニーナが割って入る。クロエ同様満身創痍であるが力を振り絞って綾斗に突撃を仕掛ける。
それを確認したクロエは上段からサーベルを振るってクローディアの校章を狙う。対するクローディアは『パン=ドラ』をクロスして受け止める。『パン=ドラ』の未来予知のストックは無いが、それ抜きでもクローディアの剣技は冒頭の十二人に匹敵するゆえだ。
しかしクロエにとってそれは予想内である。クロエはサーベルから手を離し、八幡の体術をトレースしてクローディアに足払いをかける。
「ぐっ、ぐうっ……!」
それによってクロエの身体に反動がかかり左足の腱が切れる音が耳に入るが、クロエはそれを無視して蹴りを放つ。
転びはしなかったもののクローディアはバランスを崩した。それを確認したクロエは先程手から離したサーベルを空中にて右手でキャッチする。
しかし……
「それ以上は……!」
「あぁぁぁぁぁぁっ!」
クロエがサーベルの切っ先をクローディアに向ける直前、クローディアがバランスを崩しながらも『パン=ドラ』の一振りをクロエの右手に刺す。
そこからは大量の血が流れてクロエの頭に痛みが走りサーベルを落としてしまう。それによって今のクロエに隙は出来た。
「これで終わりです……!」
クローディアはそう言ってもう一振りの『パン=ドラ』をクロエの校章に向けて振るう。体勢を崩しながらも正確に校章を狙っている。クローディアの執念による結果だ。
しかし……
(まだよ……!まだ負けれない!美奈兎達が頑張ったのに私が足を引っ張る訳には……いかない!)
クロエの執念はそれを上回っていた。空いている左手を校章の前にかざし、『パン=ドラ』がクロエの左手にも刺さる。
「つか、まえたわよ……!」
しかしクロエの中には『パン=ドラ』が刺さる痛みより、校章が無事で嬉しい気持ちの方が上回っていた。ボロボロになりながらも笑みを浮かべて『パン=ドラ』を持つクローディアの両手を捕まえる。
「なっ?!」
予想を上回るクロエの執念にクローディアが絶句する中、クロエは右足を振り上げる。両手を封じられた以上足でしか攻め手がないからだ。
クローディアも慌てて足で防御しようとするも、クローディアが足を突き出す前にクロエの右足はクローディアの校章に向かう。
勝った、クロエがそう思いながら右足に力を入れると……
ブチッ……
クローディアの校章に爪先が当たると同時にクロエの右足から何かが切れる音が聞こえる。さっきも聞いた足の腱が切れる音だ。
クロエがそれを認識すると……
「あっ……」
クロエの身体から力が抜けて、足もずり落ちてしまった。
既にクロエの身体は限界をとっくに超えていたからだ。準決勝での疲れや後遺症、決勝が始まってからソフィア、美奈兎、八幡の技術の酷使、更にクローディアの『パン=ドラ』によって起こった大量の失血。
本来ならとっくに意識を失ってもおかしくない状態だったクロエの身体だ。寧ろよく保った方だが、遂に身体が本人の意思に反してしまった。
(お願い!勝ちがここまで来てるの……!今後一生歩けなくなっても良いから今だけは動いて私の足!)
クロエは内心叫びながらも足を振り上げようとするも、クロエの足は地面に落ちていく。
そして足が地面につくと、そのショック故かクロエの意識が急に朦朧とし始める。
(まだよ!美奈兎達の為にも、私の為にも……お願い、うご、い…………)
クロエは意識を覚まそうと奮起するも、効果が無くクロエを嘲笑うかのようにどんどん辺りが真っ暗になっていく。
そして……
『クロエ・フロックハート、意識消失』
『試合終了!勝者チーム・エンフィールド!』
クロエが涙を流しながら意識を失うと同時にシリウスドームに機械音声が流れて試合が終了したのだった。
一拍遅れて大歓声が沸き起こるもクロエの耳に入る事はなかった。