学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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決勝戦を終えて比企谷八幡達は……

『クロエ・フロックハート、意識消失』

 

『試合終了!勝者チーム・エンフィールド!』

 

「ふぅ……」

 

病室にて、俺は機械音声が流れるのを聞いてから大きく息を吐く。負けちまったか……

 

残念な気持ちになりながら空間ウィンドウを見ると、空間ウィンドウには地面に倒れ伏すフロックハートが映り、BGMとして大歓声が流れる。

 

『今!まさに!決勝戦に終止符が打たれました!256チームの頂点に立ったのはチーム・エンフィールドー!』

 

『両チーム死に物狂いで戦っているのが印象的でしたね。特に最後のフロックハート選手の足掻きには心底震えました』

 

実況と解説の声が流れる中、ステージに大量の救護班が入って若宮達チーム・赫夜の面々が運ばれるのを見た俺は空間ウィンドウを閉じる。

 

「負けちゃったか……」

 

「後一歩だったのに……」

 

見れば俺の恋人のシルヴィとオーフェリアも残念そうな表情を浮かべている。

 

オーフェリアの言う通り、本当に後一歩だった。リースフェルトと沙々宮を撃破して、完全に封印を解除した天霧相手に時間を稼ぎ、エンフィールドの校章を破壊する直前まで追い込めたのだ。それも準決勝で消耗している状態で。

 

見ていて俺もテンションが上がったし、側から見ても素晴らしい試合だった。それは俺だけでなく試合を見ていた人は全員同じ気持ちだろう。

 

しかし……

 

(勝てなかった以上、若宮達にとっては慰めにはならないよなぁ……)

 

第三者からすれば良い試合で満足しただろうが、当事者である若宮達からしたら悔しい極まりないだろう。願いを叶える後一歩の所で敗れたのだから。

 

今はまだ若宮達と会う事はないが、会ったらどう話して良いのかわからん。『良くやった』だの『良い試合だった』って言葉を言っても、『でも負けた』って返してくる可能性が高いし。とりあえずお疲れぐらいにしておこう。

 

「……とりあえず私は閉会式に出ないといけないからもう行くね」

 

シルヴィが残念そうな表情をしながらもそう言って立ち上がる。シルヴィは生徒会長だから表彰式と閉会式には出ないといけないから仕方ないだろう。

 

「わかった。じゃあまた後でな」

 

「……マスコミには気をつけて」

 

そうだった。決勝戦に夢中で失念していたが、俺達3人の関係は世間にバレたんだった。シルヴィがマスコミに捕まったら間違いなく面倒なことになるだろう。

 

「もちろん。閉会式が終わったらまた来るから」

 

シルヴィは小さく手を挙げてからそのまま病室を出て行った。それによって病室にてオーフェリアと2人きりになる。

 

普段ならイチャイチャする自信があるが、流石に今はそんな気になれない。

 

「………何というか、俺は戦ってないのに悔しいや」

 

ぶっちゃけ王竜星武祭でシルヴィに負けた時より悔しい。多分あの時は何となく参加したからで、今回は本気で勝たせようとしたチームが全力を尽くしても届かなかったからだろう。

 

するとオーフェリアが無事な俺の右手を握って優しい笑みを浮かべて俺を見てくる。

 

「……それは私もよ。八幡が退院したら美奈兎達の愚痴に付き合ってあげましょう。昔私が八幡がシルヴィアに負けた時に愚痴に付き合ってあげたように」

 

そういや俺もシルヴィに負けた後、昼休みにオーフェリアに愚痴ったな。まああの頃は恋人関係じゃなかったから『……貴方の運命がか弱かったからよ』って返されたけど。

 

それでもオーフェリアは俺の愚痴に最後まで付き合ってくれて、全部吐いた時は割とスッキリした。

 

(そう考えると、俺もあいつらの愚痴に付き合ってやるか。間違いなく言いたい事は山程あるだろうし)

 

一方的に負けたならともかく、後一歩のところで負けたなら悔しさは計り知れないだろう。とりあえずあいつらが退院したらとことん付き合ってやろう。

 

「そうだな。折角だしウチに呼んでお前の美味いグラタンを食わせてやろうぜ」

 

オーフェリアはグラタンは絶品だし、美味いもんを用意して少しでも鬱憤を晴らしてやるべきだと判断してそんな提案をしてみる。するとオーフェリアは小さく笑いながら頷く。

 

「任せて、腕によりをかけるから」

 

「おう……そういやもう直ぐ閉会式と表彰式だが、やっぱり副委員長が表彰すんのか?」

 

「でしょうね。というか美奈兎達は表彰式に出れないんじゃないかしら?」

 

言われてチーム・赫夜のメンバーを思い浮かべる。よく考えたら大半が俺や若宮、フェアクロフ先輩の能力をトレースしていて満身創痍だろう。

 

特にフロックハートなんて両手を『パン=ドラ』に刺されてるし。そう考えたらチーム・赫夜で表彰式に参加できるのって余り能力をトレースしていないフェアクロフ先輩だけじゃね?

 

そしてチーム・エンフィールドは刀藤は既に入院していて、リースフェルトは決勝で脇腹を穿かれ大ダメージを受けているから2人は出れない。

 

そうなると表彰式に参加するのはチーム・赫夜からはフェアクロフ先輩、チーム・エンフィールドからは天霧、エンフィールド、沙々宮と計4人か?普通獅鷲星武祭の表彰式には10人参加するのに、少ないな。

 

「まあそうかもな。とりあえず表彰式まで時間はあるし、オーフェリア」

 

「何?」

 

「林檎剥いてくれね?」

 

決勝戦を見たら思った以上に興奮して小腹が空いて、チーム・赫夜が差し入れてくれた林檎を食べなくなった。

 

俺がそう言うとオーフェリアはキョトンとした表情を浮かべるも……

 

「ふふっ……了解」

 

小さく笑みをこぼしてから林檎を剥いてくれた。そして剥いた林檎はウサギさんとなって俺の前に出てきたが、最近のオーフェリアは嫁力が高くてマジで幸せだ。

 

(早く結婚して幸せになりてぇな……まあ、世間は煩そうだけど)

 

そう思いながら俺は病室の窓から恋人が向かっているシリウスドームに視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻……

 

「あー……もう、本当に多いなー」

 

シルヴィアはげんなりとした表情を浮かべている。彼女の視界の先、ステージに繋がる通路には大量のマスコミが居る。表彰式に出席する前に一言貰おうという腹とシルヴィアは考えている。

 

(本来なら無視したいけど、あそこまで通路を塞いでいたら通るのが面倒だな……)

 

正直に言うとシルヴィアは今直ぐ回れ右してシリウスドームを出て八幡とオーフェリアの3人とイチャイチャしたいと考えているが、生徒会長故にそれは許されない。

 

(一言だけ答えてステージに逃げる方が良いかも。世間じゃ沢山のデマが流れているし払拭しておきたいし)

 

既に八幡とシルヴィアとオーフェリアの関係は世間に知られている。

 

しかしネットでは『八幡がオーフェリアの毒を利用してシルヴィアを洗脳した』だの『八幡がシルヴィアを強姦して弱みを握った』だの八幡の悪口で溢れかえっていて、シルヴィアからしたら不愉快極まりない。

 

だからマスコミの前で大々的に自分達3人の関係を話すのも悪くないとシルヴィアは考えていた。そうすれば明らかなデマは消せるだろうから。

 

(うん、やっぱり我慢出来ない。世間にバレてふざけたデマが流れて苛々しているし、会見前にも言っちゃお!)

 

既にペトラから好きにしろと言われている以上シルヴィアの考えに反対する者はいない。だからシルヴィアは一息吐いてステージの方に歩き出す。

 

すると向こうもシルヴィアに気づいたのか大量のフラッシュを起こし始める。

 

「シルヴィアさん!例の噂は真実なんですか?!」

 

「表彰式に出る前に一言お願いします!」

 

そんな声が聞こえてくる。対するシルヴィアは焦ることなく記者の前に立ち、ゆっくりと手を掲げ、押し留めるようなジェスチャーをする。

 

すると記者はシルヴィアの仕草に拍子抜けしながらも静かになる。声が聞こえなくなると同時にシルヴィアが口を開ける。

 

「私は今から表彰式に参加するので時間はありません。ですから質問は1つだけ答えて、他の質問は後日行われる会見で答えます。そうですね……では貴方が質問してください」

 

シルヴィアが指差したのは自身にとって見覚えのある男性。何度か取材を受けたが、品のない質問をしない記者だ。

 

「で、では恐縮ですが……シルヴィアさんは比企谷八幡と交際している。そして彼はオーフェリア・ランドルーフェンとも交際しているのは事実ですか?」

 

予想通りの質問だ。記者からすれば根本的な質問をするのは当然である。

 

そんなことを考えながらシルヴィアは一息吸ってから……

 

 

 

 

 

 

「はい。私が八幡君と付き合っている事も、八幡君がオーフェリアと付き合っている事も紛れもない事実です。そしては私はオーフェリアとも、オーフェリアは私とも付き合っています。私達は3人揃ってカップルであり、これについては何があっても変わることはないです」

 

記者の質問に正直に答えた。シルヴィアの発言が世界全体に流れて世界に大騒動を生み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

『はい。私が八幡君と付き合っている事も、八幡君がオーフェリアと付き合っている事も紛れもない事実です。そしては私はオーフェリアとも、オーフェリアは私とも付き合っています。私達は3人揃ってカップルであり、これについては何があっても変わることはないです』

 

 

「だーはっはっはっはっ!流石シルヴィアちゃん!私の義娘になる女はこうでないとな!」

 

「貴女は笑い過ぎです。それにしても好きにしろと言った私が言うのもアレですが、賽は投げられましたね……」

 

「良いじゃんかよ。遅かれ早かれバレるんだし、上の人間は認めてんだろ?それよりも一色いろはを始末する場合、私にやらせろよー?」

 

「……裏の人間でない貴女に任せるのはリスクが高過ぎますからね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はい。私が八幡君と付き合っている事も、八幡君がオーフェリアと付き合っている事も紛れもない事実です。そしては私はオーフェリアとも、オーフェリアは私とも付き合っています。私達は3人揃ってカップルであり、これについては何があっても変わることはないです』

 

「おーおー、凄いねー。こりゃ虎峰、認めるしか……ええっ?!虎峰?!」

 

「………………ぐすっ」

 

「血涙に混じって普通の涙も流してる……師父は既にシリウスドームに行ってるし、誰か何とかしてー!」

 

「そこはウォン師姉がなんとかするべきでは?」

 

「そうですね。趙師兄とは前シーズンの鳳凰星武祭以前からのパートナーですし」

 

「うわ、この双子そうそうに逃げ出したよ。あたしも面倒なんだけど〜」

 

「えぐっ……ひっぐっ……」

 

「う〜ん。ガチ泣きは予想外だったな〜」

 

 

 

 

 

 

『はい。私が八幡君と付き合っている事も、八幡君がオーフェリアと付き合っている事も紛れもない事実です。そしては私はオーフェリアとも、オーフェリアは私とも付き合っています。私達は3人揃ってカップルであり、これについては何があっても変わることはないです』

 

「おーおー、シルヴィアちゃんもやるねー」

 

「笑い事ではありませんわよケヴィン。今回の件を世間に公表したのはガラードワースの生徒。シルヴィア・リューネハイムの動き次第では我が学園にも損害が出るかもしれないのですよ?」

 

「でもよレティ。既に公表されちまった以上対応出来なくね?」

 

「ええ、本当にそうですわ。全く彼女は次から次へと……!パーシヴァル、予算が余っているなら胃薬を大量に追加するように申請しておいてくださいな」

 

「了解しました」

 

 

 

 

 

 

 

 

『はい。私が八幡君と付き合っている事も、八幡君がオーフェリアと付き合っている事も紛れもない事実です。そしては私はオーフェリアとも、オーフェリアは私とも付き合っています。私達は3人揃ってカップルであり、これについては何があっても変わることはないです』

 

「な、何ですかそれー?!どうせ騙されているに決まってますー!あの人が卑怯な所為で私は腫れ物扱いされてるって言うのに……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『はい。私が八幡君と付き合っている事も、八幡君がオーフェリアと付き合っている事も紛れもない事実です。そしては私はオーフェリアとも、オーフェリアは私とも付き合っています。私達は3人揃ってカップルであり、これについては何があっても変わることはないです』

 

「比企谷……!そんな歪んだ関係、俺は絶対に認めない……!お前がいるべき場所はそこじゃない事を王竜星武祭で負かせることで教えてやる……!」

 

 

 

 

 

 

 

『はい。私が八幡君と付き合っている事も、八幡君がオーフェリアと付き合っている事も紛れもない事実です。そしては私はオーフェリアとも、オーフェリアは私とも付き合っています。私達は3人揃ってカップルであり、これについては何があっても変わることはないです』

 

「ねぇ小町ちゃん!お兄さんは本当に2人と付き合ってるの?!」

 

「そうだよ……凄くイチャイチャしまくってて小町も大変なんだよ!」

 

「へー!」

 

「はぁ……今日でこの質問50回以上聞かれたよ……別に3人の関係に異論はないけど面倒だなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

『はい。私が八幡君と付き合っている事も、八幡君がオーフェリアと付き合っている事も紛れもない事実です。そしては私はオーフェリアとも、オーフェリアは私とも付き合っています。私達は3人揃ってカップルであり、これについては何があっても変わることはないです』

 

「遂に世間にバレたな」

 

「バレたわね」

 

病室にて俺はオーフェリアと一緒に空間ウィンドウに映るシルヴィを見る。シルヴィは一切動じることなく言い切った。しかも俺達3人の関係についてもハッキリと。

 

「ま、遅かれ早かれ10日後の会見でバラすつもりだけどな」

 

「そうね……でも私もシルヴィアと同じ気持ち。私達3人の関係は何があっても変わることはないわ」

 

オーフェリアは小さい声で、それでありながら力強く頷くが同感だ。俺は世間からなんて言われようとオーフェリアとシルヴィを愛する。会見でもその事をハッキリと言うつもりだ。

 

「そうだな……これから先面倒なことは山程あると思うが……」

 

そう言ってオーフェリアをチラッと見ると……

 

「……ええ、3人で乗り越えていきましょう」

 

俺の右手を握って優しい笑顔を見せてくる。この笑顔を守る為ならどんな障害も乗り越えていけるだろう。

 

俺は幸せな気分のままオーフェリアの手を握り返し、シルヴィが記者からの質問を切り上げてステージに向かう姿を目に焼き付けたのだった。


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