学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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オーフェリア・ランドルーフェンは比企谷八幡に少しだけ心を開いている

 

 

 

 

 

 

高等部に進学してから1ヶ月……

 

授業も特に問題なくこなしながらいつも通り飯を食べる。いつもの事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、その特待生ってどんな奴なんだ?」

 

昼休み、いつものベストプレイスで飯を食っていると妹から電話が来たので相手をしている。まだオーフェリアは来てないので堂々と電話しても問題ない。

 

何でも小町曰く、今日星導館に特待生が来たらしい。しかも生徒会長にして序列2位の『千見の盟主』クローディア・エンフィールドのスカウトらしいので興味がわいた。

 

『えっと……名前は天霧綾斗って人なんだけど、転校初日からリースフェルト先輩と決闘して押し倒してから胸を揉んだんだ』

 

……は?

 

「すまん小町。今は食事中なんだ。下らない話に付き合いたくない」

 

転校初日にセクハラする特待生なんて絶対に嫌だ。俺がエンフィールドなら間違いなく取り消しにする自信がある。

 

『いやいや本当だって!後で決闘の記録ネットで見てみなよ!』

 

小町の口振りからしてマジっぽいが……何やってんだその天霧って奴は?転校初日に胸を揉むって大物過ぎだろ?

 

……てかリースフェルト?

 

「おい小町。リースフェルトってお前んとこの5位だよな?」

 

『そうだよ。二つ名は『華焔の魔女』お兄ちゃん知り合い?』

 

「いや、詳しくはしらん」

 

俺が知ってるのはオーフェリアの昔馴染みって事くらいだ。リースフェルトがオーフェリアと揉めた末決闘して敗北したのを見ただけだ。その後にオーフェリアから昔の話を聞いた。

 

「まあいい。とりあえず決闘はしたんだろ?胸を揉む前の試合はどうだったんだ?」

 

重要なのはそこだ。

 

『うーん。回避能力は結構高かったし、流星闘技も悪くなかったけど……正直言って会長がわざわざスカウトする程じゃないと思う』

 

ふーん。だがあの会長がわざわざスカウトするんだ。何らかの理由がある筈だろう。一度会ったが中々強かな印象だったし。

 

「わかった。ありがとな」

 

『うん。あ!それと小町、戸塚さんと鳳凰星武祭に出るよ!』

 

ほう?鳳凰星武祭に出るのか。

 

「ん?でもお前以前は王竜星武祭に出るとか言ってなかったか?」

 

『小町が出るのはお兄ちゃんが出る王竜星武祭だよ。残った一つは何でもいいし』

 

「なるほどな。ところで戸塚ってどんな戦闘スタイルなんだ?」

 

中学時代を見る限り戦闘向きの性格じゃないし。

 

「戸塚さんは魔術師なんだけど盾を作り出す能力」

 

盾?つまり防御向けって事か?となると鳳凰星武祭での戦術は小町がガンガン攻めて戸塚が守るって感じか?

 

『そうか。まあ優勝は厳しいかもしれんが頑張れ』

 

「もちろん!少なくとも本戦出場はしたいよ!」

 

「……八幡?」

 

後ろから声がしたので振り向くとこのベストプレイスのもう1人の主が来た。

 

「おうオーフェリア。今日は遅かったな」

 

「授業が伸びたのよ」

 

ほーん。だからパンを一つしか買えなかったのか。

 

そう思っていると……

 

 

 

 

 

『え?ちょっとお兄ちゃん?!何でそこに『孤毒の魔女』がいるの?!』

 

「何でって…基本的に昼飯はオーフェリアと食ってんだよ」

 

『えぇーー!!』

 

騒ぐな。オーフェリアもガン見してて居た堪れないからね?

 

「まあ色々あるんだよ。もう切るぞ」

 

『ちょっと待って!2人の関係を聞かせーー』

 

面倒になり途中で電話を切る。ついでに端末の電源も切る。今日は夜まで電源は入れない。どうせ連絡してくる奴なんて殆どいないし。

 

そう思っていると視線を感じるので振り向くとオーフェリアがジーッと見てくる。

 

「今の八幡の妹?」

 

「まあな。世界で1番可愛い」

 

「……そう」

 

そう言ってオーフェリアはパンの袋を開けてパンを食べ始める。こいつ……質問しといてそれだけかよ?絶対俺よりコミュ障だろ?

 

まあそれはともかく……

 

「おいオーフェリア」

 

名前を呼んで俺が持っているパンの一つを差し出す。

 

「食えよ。たった一つじゃ腹減るだろ」

 

午後の授業もあるのにそれだけじゃ腹減るだろうし。

 

「別にいいわ」

 

「いいからやる。いらなかったら捨てろ」

 

「………」

 

オーフェリアは俺の事をいつものように悲しげな表情で見てから暫くして俺が渡したパンの袋を開けて食べ始める。何と言うか……最強の魔女なのに食べている所は可愛いな。

 

 

 

 

 

 

 

 

オーフェリアが食べ終わったので立ち上がる。いつもの事だ。早く食べ終わった方はもう片方を待ち食べ終わったのを確認して2人同時に立つ。

 

「じゃあオーフェリア。また明日」

 

挨拶をして自分の教室に向かおうとした時だった。

 

「八幡」

 

後ろから話しかけられる。いつもはそのまま去るので珍しいなと思いながら振り返る。

 

するとオーフェリアはいつもの表情のまま

 

 

 

 

 

「パン、ありがとう」

 

そう言ってきた。こいつに礼を言われたのは初めてだ。その事に驚きながらも俺は言うべき言葉を口にする。

 

「ああ。どうしたしまして」

 

オーフェリアはそれを聞くと頷いて自分の教室に戻って行ったので俺も反対方向に歩き出した。

 

オーフェリアに礼を言われた事に対して若干嬉しく思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それでお兄ちゃん!『孤毒の魔女』とはどんな関係なの?!もしかして鳳凰星武祭で紹介するのって彼女の事?』

 

寮に帰り端末の電源を入れると小町から大量の着信があった。余りの多さに呆れていると再び電話が来たので出ると第一声がそれだった。

 

「だから飯食うだけの関係だよ。後鳳凰星武祭で紹介するのはオーフェリアじゃない」

 

『え?!お兄ちゃん他にも女の子の知り合いがいるの?!』

 

何でそこまで信じられないんだよ?……まあ中学時代を知っているなら仕方ないか。

 

つーかこれだけの事でここまで驚くならシルヴィを紹介した時、驚き過ぎて小町の心臓が止まりそうで怖いんですけど。

 

「まあある程度はいるな」

 

『いやー、早く会ってみたいよ。もしかしたら『孤毒の魔女』や紹介してくれる人が小町のお義姉ちゃんになるかもしれないんだし』

 

待てコラ。それはつまりオーフェリアやシルヴィが俺の嫁になるって事か?

 

それ怖過ぎるからな?最強の魔女か世界の歌姫が妻とか絶対に逆らえないだろ。てかあんな美人の夫になるのは俺には無理だ。

 

「それはねーよ。つーか鳳凰星武祭の準備はどうなんだ?」

 

後1か月もしないでエントリーは締めきられるのでそろそろ練習を始めるべきだろう。

 

すると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、うん。それ何だけど実はさっき襲われたんだ」

 

小町がいきなりそう言ってきた。

 

……は?

 

襲われただと?小町が?

 

「誰に襲われた?今から殺し……いたぶりに行くから待ってろ」

 

『今殺しに行くって言わなかった?!』

 

「気のせいだ」

 

俺の妹を襲った以上そいつは生かしてはおけない。殺してくれと頼むまでいたぶり続けて全てに絶望してどうでもよくなった瞬間に殺してやるよ」

 

『ちょっとお兄ちゃん?!実際に怪我はしてないから大丈夫だよ。てゆーかお兄ちゃん怖過ぎるよ!!』

 

ん?口に出していたか?てか妹に怖過ぎるって言われるの結構キツイな。しかし……

 

「でも何で襲われたんだ?お前は俺と違って恨まれてないだろ?」

 

俺がレヴォルフに入学した当初は色々な連中に恨まれていたがアレは俺も暴れすぎたって理由もある。しかし比較的平和な星導館にいる小町が人に恨まれるとは考えにくい。俺星導館の連中と決闘した事ないから関係ないと思うし。

 

『それが最近星導館で鳳凰星武祭に参加する序列入りが襲われて鳳凰星武祭を棄権する事件が多発してるんだよ。お昼休みに話した決闘の時にも鳳凰星武祭に参加するつもりのリースフェルトさんも襲われたし』

 

つまり小町個人が狙われた訳でなく星導館は序列入りが狙われていると……

 

事情はある程度理解したが……何故だ?

 

確かに星導館は鳳凰星武祭に強い学校だ。しかし星導館はここ数年本当に弱く去年の順位は実質最下位だ。そんな学校をリスクを犯してまで潰しに行く理由がわからん。

 

「というか風紀委員や警備隊に報告はしないのか?」

 

『それが殆どの序列入りは自分でやり返す気満々だし、警備隊は余り学校に……ね?』

 

まあ自分の学校に頭の固い警備隊を入れたくない気持ちは良く分かる。しかしやり返すってのは理解に苦しむ。襲われて棄権する相手に勝てないだろう。己の力量も理解できんのか?

 

「事情はわかった。とりあえず怪我したら言え。情報を引き出して犯人に地獄を見せるから」

 

小町が怪我でもしてみろ。ディルクと取引して奴の手駒になってでも犯人の情報を引き出して殺してやる。

 

『大丈夫だって。心配性だなー。それより戸塚さんがお兄ちゃんに会いたいんだって。今度時間取れる?』

 

戸塚か。まあ久しぶりに会いたいな。俺の予定は……

 

「今週の土曜日の午前にレヴォルフで公式序列戦があるからその後か日曜日なら空いてるぞ」

 

公式序列戦で俺に挑むのはオーフェリアを除いた冒頭の十二の10人くらいだ。確か指名してきたのはイレーネと末席のモーリッツだったか?

 

イレーネは持っている純星煌式武装は強いが燃費が悪いので長期戦に持ち込めば負けはないし、モーリッツは雑魚だから問題ない。レヴォルフで俺をタイマンで倒せるのはオーフェリアだけだろう。

 

『ほいさっさー。じゃあ戸塚さんに連絡しとくね。公式序列戦頑張ってね』

 

「おう。そういやお前は公式序列戦どうすんだ?」

 

『小町?今回小町は冒頭の十二人からは挑まれてないよ。それで今回挑むのは4位のファンドーリンさんだよ』

 

『氷屑の魔術師』か。戦闘スタイルは氷で相手を止めたり、近距離や遠距離攻撃も出来る万能タイプ。記録を見る限り今の小町の実力なら運が味方をすれば勝てるレベルって所だ。

 

まあ才能だけなら小町が上だ。小町の奴、中等部1年で冒頭の十二人になったし。

 

「まあ厳しいかもしれんが頑張れよ」

 

『もちろん!小町の目標はお兄ちゃんに勝つ事なんだから絶対に勝つよ!』

 

そいつは楽しみだ。……が、俺も負ける訳にはいかない。アスタリスクに移ってから割と戦うのを好きになったからな。というかオーフェリア以外には負けたくない。

 

「じゃあ2年後を楽しみにしてる。またな」

 

そう言って電話を切る。時計を見ると時刻は7時を回っていた。かなり電話をしていたようだ。

 

「とりあえず……飯食うか」

 

俺は戸棚にあるインスタント食品を取り出しにキッチンに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから日は経ち……

 

 

 

 

 

土曜日、レヴォルフの公式序列戦が行われるステージはレヴォルフの生徒で賑わっている。そんな中、売り子や賭けの胴元が騒いでいるのが目に入る。

 

「相変わらずうちの学校のステージはうるせーな」

 

試合まで暇なので休憩場所に向かっている俺は一緒に歩いているオーフェリアに話しかける。

 

「そうね。でも慣れたわ」

 

オーフェリアはいつも通りの表情で返してくる。何年もレヴォルフにいるオーフェリアからすれば慣れるのも必然だろう。

 

「まあそうかもな。後昼飯まだだろ?これ食えよ」

 

そう言ってさっき買ったたこ焼きを差し出す。オーフェリアはまばたきしてから差し出したたこ焼きをパクリと食べる。相変わらず戦ってない時は可愛げのある奴だ。

 

「ところでオーフェリアは今日誰と戦うんだ?」

 

「確か序列16位と25位の2人ね。何故挑むのかしら?私の運命は誰にも覆せないのに……」

 

出たな。オーフェリアの口癖。俺も昔戦う前にそう言われて見事に負けたからな。そこらの奴が言ったらかっこつけに聞こえるがオーフェリアが言うと事実であるように思う。

 

「さあな。実際に戦わないと納得しない奴もいるんだよ」

 

いくら正しくても納得出来ない事もあるがそれと同じだろう。

 

「……そう」

 

そんな事を話していると休憩場所に着いたので中に入る。そこには何人か見た顔がいるが序列入りメンバーだろう。

 

入った瞬間、全員が恐れを帯びた表情で見て距離を取る。……ったくぼっちにこの目はキツイから勘弁してくれよ。

 

息を吐きながら暫くの間待っているとオーフェリアの端末が鳴りだした。どうやらもう直ぐオーフェリアの第一試合が始まるようだ。

 

「……じゃあ行くわ」

 

そう言って立ち上がる。

 

「頑張れよ」

 

適当に応援する。まあこいつに応援なんていらないだろうけど。

 

「んっ……」

 

オーフェリアは良くわからない返事をしてステージの方へ歩いて行った。それと同時にステージを見る。

 

 

 

 

 

5分くらいしてステージにオーフェリアが現れるとステージは騒がしくなる。しかし直ぐに静かになるだろう。

 

反対側のステージからも男子生徒がやってくる。オーフェリアは知り合いだから試合は見るが知り合いじゃなかったら間違いなく見ない。

 

理由は簡単。オーフェリアがレヴォルフで負ける事は絶対にないだろうから。

 

何せ俺の行きつけのカジノのオッズだとオーフェリアが勝つに賭け当たると1.00006倍になって帰ってくる。つまり10万円賭けても6円しか儲からない。

 

逆に対戦相手の男子生徒が勝つと100円が1億円近くになる。それでも殆どの連中がオーフェリアに賭ける。男子生徒に賭けるのは遊び半分の連中くらいだ。

 

 

そんな事を考えている中試合開始のブザーがなり男子生徒がオーフェリアに突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『試合終了!勝者オーフェリア・ランドルーフェン!』

 

会場はさっきまでの騒がしさはなくなり重い空気となっている。ステージでは対戦相手の男子生徒が意識を失っていて担架に乗せられていた。

 

オーフェリアはそれを一瞥してステージ入り口に戻って行った。相変わらず桁違いだな。

 

オーフェリアの強さに改めて驚いていると俺の端末が鳴り出したので俺も立ち上がりステージ控え室に向かって歩き出した。

 

控え室が見えてくると前からオーフェリアがやってきたので会釈をする。

 

「八幡」

 

するといきなりオーフェリアから話しかけてきた。飯の時以外でこいつから話しかけられるなんて珍しいな。

 

驚いている俺を無視して話しかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「八幡なら負けないだろうけど頑張って」

 

そう言って俺が返事をする前に去って行った。

 

さてさて。元々やる気はあるが……オーフェリアから応援された以上は全力で勝ちに行くか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

改めて気合いを入れた俺は歓声のシャワーを浴びながら対戦ステージに入った。

 

 

 

 

こうして比企谷八幡の高等部初の公式序列戦が始まった。


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