学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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こうして会見は幕を閉じる

『『ふざけるな!』』

 

『私が洗脳?ふざけた事を言いますね?私は自分の気持ちに従って、八幡君とオーフェリアと共に歩むと決めたんです!私達の事を何も知らないのに勝手な事を言わないでください!』

 

『それ以前に俺がオーフェリアを利用しただと?ふざけるな!オーフェリアは物じゃねぇんだよ!』

 

「おおっ?!」

 

星導館学園の生徒会室にて、会見を見ていた小町が驚きの声を出す。小町以外にこの場にいるチーム・エンフィールドの5人も声にはしてないものの、顔には驚愕の色が混じっていた。

 

「これは驚きました……シルヴィアが怒ったのもそうですが、比企谷君があそこまで感情を露わにするのは予想外でしたよ」

 

「小町もですよ。兄は基本的に怒りませんし、偶に怒っても割と静かに怒るんですよ。ですが今回のように感情を露わにするという事は完全にブチ切れてますね」

 

クローディアの呟きに小町が返事をする。実際のところ、小町も兄があそこまで感情を露わにして怒るのは見たことがない。

 

「確かに驚いたが……オーフェリアの為にあそこまで怒ってくれると嬉しいな。あいつの恋人が比企谷とシルヴィア・リューネハイムで本当に良かった」

 

「まあユリスならそう思っても仕方ないよね」

 

一方のユリスと綾斗は小さく苦笑を浮かべる。彼女はオーフェリアの友人として、オーフェリアの為に怒った八幡とシルヴィアには感謝していた。

 

「ま、今回は記者の質問にも問題があったし、そこまで咎められない……と、思う」

 

「そうだと良いですね」

 

紗夜と綺凛はこれ以上会見が荒れない事を祈りながら空間ウィンドウを眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ホテル・エルナトで会見に使われている一室。そこは今無言に包まれていた。先程まであった無数のフラッシュも今は焚かれていない。

 

理由は簡単、何故なら……

 

「……失礼しました。つい我慢が出来ずに」

 

「品のない言動をした事を謝罪します」

 

記者の目の前で頭を下げている2人が、つい先程まで部屋全体を包み込む程の怒気を生み出していたからだ。

 

比企谷八幡とシルヴィア・リューネハイム

 

今のアスタリスクで10本の指にはいる実力者である2人の怒気は記者達を黙らせるのに充分な効果があった。先程悪意のある質問をした記者は直接怒りを向けられて泡を吹いて気絶した。

 

その記者が気絶したからか、2人は落ち着きを取り戻して謝罪をしたが、記者達の間には恐怖心が生まれていた。ふざけた質問をしたら圧倒的な怒気を直接向けられると。

 

そこまで考えた記者は悪意のある質問をする事をやめた。何人かは会見前から悪意のある質問をしようと企んでいたが、2人の怒りをモロに受けてまで質問しようと考える人間は誰一人としていなかった。

 

こうして会見の続きが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……失礼しました。つい我慢が出来ずに」

 

「品のない言動をした事を謝罪します」

 

俺とシルヴィは謝罪をするべく頭を下げてから席に座る。いやー、まさか自分でもここまでブチ切れるとは思わなかった。

 

今は大分落ち着いているが、もしもふざけた質問をした記者が気絶しなかったら、まだ絶対に怒りを露わにして下手したら殺気を向けていたかもしれない。

 

しかしやっちまった……まあ今回は向こうの発言にも問題があったし、シルヴィもキレたから大丈夫……か?

 

「で、では質問がある方はいませんか?」

 

司会の男性の言葉によって漸く記者達は再起動する。しかし先程に比べて悪意のある視線は無くなっている。

 

すると1人の女性記者が手を挙げて、司会が先を促すような態度を取る。

 

「で、ではシルヴィアさんのプロデューサーであるペトラ・キヴィレフトさん、3人の交際についてはどう考えていますか?」

 

次にペトラさんか。まあプロデューサーにその質問をするのは当然だ。しかしペトラさんは俺と違ってこういった場所での戦い方を熟知しているし大丈夫だろう。

 

「3人の関係を知った当初は反対していましたが、今はシルヴィアの好きにさせています。彼ーーー比企谷八幡は先の獅鷲星武祭で準優勝したチーム・赫夜を導いた人でもありますし、私も3人のやり取りをそれなりに見ていますが、無理に3人の仲を引き裂いたりしたらシルヴィアが壊れる可能性があるので干渉するつもりはありません」

 

その言葉に先程の騒めきに比べたら小さいものの、騒めきが生じる。

 

実際ペトラさんは剣呑な雰囲気を出しながら暗に『3人の関係に茶々を入れてシルヴィアを壊したら許さない』って言ってるし。

 

「そうですか……ちなみに比企谷さんがチーム・赫夜を鍛えたのも、交際に関係しているのですか?」

 

「いえ。彼がチーム・赫夜を鍛えたのはプライベートであって、私ひいてはW=Wが強制した訳ではありません」

 

間違っちゃいない。まあ俺達3人の関係が世間にバレても交際を続けて良い条件はチーム・赫夜が準優勝以上の結果を出すことだったがな。

 

しかし俺は打算的な考えで若宮達に協力したつもりはない。当初はシルヴィに協力要請されたから何となく協力をしていた。しかし時が経つにつれてあいつらが強くなるのが楽しくなってきたから一層協力したのであって、交際云々の話は計算に入れていなかったのは間違いない。

 

これで事前に対策した質問は大分無くなってきたな。後はシルヴィの今後くらいだろう。

 

そう思っていると若干苦虫を噛み潰した表情の男性が手を挙げる。顔を見る限り悪意のある質問をしようとしてが、その前に出来ない空気を作り上がって苛々しているのだろう。

 

「……ではシルヴィアさんに質問ですが、3人の関係が露わになった事により引退する事も考えていますか?」

 

その質問に空気が一段と重くなる。記者から、そして世間からしたら1番気になる質問がきた。世界の歌姫の引退、それは間違いなく歴史的な事件として後世に語り継がれるだろう。

 

そしてその原因が俺であるということも間違いなく語り継がれるだろう。まさかこんなタイミングで(悪い意味で)歴史に名を残す事になるとはな……

 

それに対してシルヴィは……

 

「いえ、私としては少なくとも来シーズンの王竜星武祭が終わるまでは引退するつもりはありません。ですが……」

 

一息吐き……

 

 

 

 

 

 

「もしも、世間が『アイドルが恋愛するな』と私から八幡君とオーフェリアを引き離そうとするなら……私はその時点で引退します。私にとって1番大切なのは3人で過ごす時間ですから」

 

あーあ、言っちまったよ。賽は投げられたな……

 

ま、シルヴィが本気なら俺もとことん付き合ってやるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もしも、世間が『アイドルが恋愛するな』と私から八幡君とオーフェリアを引き離すなら……私はその時点で引退します。私にとって1番大切なのは3人で過ごす時間ですから』

 

「ぐぅえっへへへへ……もう小町ポイント天元突破じゃん。ぐふふ……」

 

「お前の発言の予想外さも天元突破しているからな?」

 

 

 

 

 

『もしも、世間が『アイドルが恋愛するな』と私から八幡君とオーフェリアを引き離すなら……私はその時点で引退します。私にとって1番大切なのは3人で過ごす時間ですから』

 

「はっはっはっ、やるねーシルヴィアちゃん。自分に素直に生きる……私の義娘はそうでなきゃね」

 

「笑い事じゃないですよ!私達はシルヴィアさんを超えるのを目標にしてるのに……世間の奴ら、絶対に3人の邪魔すんなー!」

 

「というかあのバカップルの邪魔をしたら怖いから止めろー!」

 

「そうよそうよー!間違いなく面倒な事になるに決まってんじゃない!」

 

「……下手したらアスタリスクが崩壊しそうね」

 

「完全に否定できない所が怖いですね、あはは……」

 

 

 

 

 

 

『もしも、世間が『アイドルが恋愛するな』と私から八幡君とオーフェリアを引き離すなら……私はその時点で引退します。私にとって1番大切なのは3人で過ごす時間ですから』

 

「な、何ですかそれー?!こっちはあの卑怯者の所為で酷い目に遭ってるのに……!」

 

 

 

 

 

 

『もしも、世間が『アイドルが恋愛するな』と私から八幡君とオーフェリアを引き離すなら……私はその時点で引退します。私にとって1番大切なのは3人で過ごす時間ですから』

 

「な、何だよそれ?!」

 

「やっぱり比企谷八幡が脅してるのよ!」

 

「そうに決まってるよ!これだからレヴォルフの人間は……!」

 

「葉山君!王竜星武祭で比企谷八幡を倒してよ!そしてシルヴィアさんやあの男に騙されているチーム・ランスロットの人を救ってあげて!」

 

「もちろん。秩序の守護者たるガラードワースの一員として、あの3人の在り方は認められないしね」

 

「流石葉山君!頼りにしてるぜ!」

 

「葉山君頑張れー!」

 

『HA・YA・TO!フゥ!HA・YA・TO!フゥ!』

 

 

 

 

 

 

『もしも、世間が『アイドルが恋愛するな』と私から八幡君とオーフェリアを引き離すなら……私はその時点で引退します。私にとって1番大切なのは3人で過ごす時間ですから』

 

「…………」

 

「あー、虎峰が前の発言で意識を失ってて良かった。でなきゃ今の発言でショック死したかもね……」

 

 

 

 

 

 

 

シルヴィの発言は会見場を圧倒した。爆弾発言をしたい以上騒めきが生じるのが普通だが、シルヴィの声音から本気である事が伝わったのか誰もが喋る事が出来ずにいた。

 

しかしマジで引退する可能性を示唆しちゃったな……確かにこれなら世間は俺達の関係を引き裂こうとはしないだろう。

 

しかしこれはこれで面倒な予感がする。一部の過激なシルヴィのファンが俺を襲ってきたりしそうだ。勿論別れるつもりはないので全員蹴散らすつもりだが、予想よりも厄介な気がするな。

 

「……他に質問はありますか?」

 

司会の男性が記者達にそう尋ねるも、誰もが答えずにいた。

 

まあ妥当だな。

 

何故二股をかけたか、それに対してどう思っているか、プロデューサーは反対しているかどうか、今後についてなど重要な質問は粗方終わったし、ここで悪意のある質問をする程記者も馬鹿じゃないだろう。

 

場合によってはオーフェリアがブチ切れる可能性もあるんだ。そしてオーフェリアのブチ切れは俺やシルヴィのブチ切れが可愛く見えるくらいヤバイからな。

 

暫くの間記者が絶句している。どうやら暫く再起動する事はなさそうだ。

 

「し、質問がないのなら、ここで今回の記者会見を終了致します。応答者の皆様は退室して下さい」

 

司会の人が上擦った声を出しながら退室を促すので俺達は立ち上がり、未だに呆然とする可能性記者に一礼しながら会見に使われていた部屋を後にした。

 

後になって知ったが、記者達は俺達が退室してから2分ほど呆然していたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く……まさか、オーフェリア・ランドルーフェンじゃなくて、貴方とシルヴィアが怒るとは思いませんでしたよ」

 

ペトラさんがため息を吐きながらそう言ってくる。会見会場から出た俺達は最初にいた控え室に戻ったが、部屋に入ると同時にペトラさんに怒られた。

 

「ごめんペトラさん。でもアレは我慢出来なくて……」

 

シルヴィは不満そうな表情を浮かべているが、俺もアレは我慢出来なかった。俺は幾らdisられても気にしないが、オーフェリアとシルヴィの侮辱だけは絶対に許さない。

 

「……まあ、今回は向こうの発言が明らかに問題でしたから、これ以上は言いませんが、今後は理性で怒りを抑えてくださいね」

 

「「はい」」

 

まあそれはそうだ。あの場で怒るより、会見の後に訴訟したり猫を使って始末した方が合理的だっただろうし。

 

「なら良いです。私は次の仕事があるのでもう行きますが、貴方達がホテルから出る時は必ず影に潜って出るように」

 

ペトラさんはそう言って控え室から出ていった。影に潜って出るって……

 

(まあ変装をして出たら、ホテルの外にいる記者や野次馬にバレる可能性もあるし妥当だな)

 

そんな事を考えている時だった。

 

「……八幡、シルヴィア。さっきは私の為に怒ってくれてありがとう」

 

オーフェリアが気恥ずかしそうに礼を言ってくる。それを見た俺とシルヴィは互いに顔を見合わせるも……

 

「あっ……」

 

そのまま2人でオーフェリアを抱きしめる。

 

「気にしないで。私も八幡君もオーフェリアの恋人として当たり前のことをしただけだから」

 

「そうそう。人の恋人を物みたいな言い方をする奴の言動に我慢出来なかっただけだ。俺はお前の事を一度も物だとは思ってないからな?」

 

オーフェリアは俺にとって物なんかじゃない。大切な、本当に大切な可愛い女の子だ。だからお前も気にするな

 

「んっ……」

 

俺とシルヴィはオーフェリアを強く抱きしめるとオーフェリアも顔を赤くしながらそっと抱き返してくる。それによって俺達は3人で抱き合う体勢となり幸せな気分になる。

 

ここまで来たらもっと幸せになりたい。そう思いながら顔を上げると、オーフェリアとシルヴィも同じように顔を上げていた。そして艶のある瞳で俺を見てくる。

 

(どうやら考えている事は同じみたいだな……)

 

俺が内心苦笑しながらも2人の顔に近付き……

 

 

 

 

ちゅっ……

 

会見前と同じように3人で唇を重ねる。2人の唇の気持ち良さ、これを上回るものは存在しないと断言出来る。

 

俺は一生、2人の唇を手放すつもりはない。もう俺にとって2人は半身のように大切な存在なのだから。

 

そう思いながら俺達はただただお互いを求めてキスを続けた。今日でまた俺達の幸せを邪魔する障害が一つ消えた。まだ邪魔な存在はあるがいつか必ず全て障害を取り払うつもりだ。

 

しかし今は……

 

 

「んっ……好き、大好きっ……」

 

「んんっ……ずっと、一緒だよ……ちゅっ……」

 

2人とのキスを楽しませて貰うとしよう


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