六花園会議
それはアスタリスクにある六つの学園、星導館学園、クインヴェール女学園、レヴォルフ黒学院、アルルカント・アカデミー、界龍第七学院、聖ガラードワース学園の生徒会長が1ヶ月に一度アスタリスクの中央区にある高級ホテル、ホテル・エルナトで行われる会議である。
生徒会役員が会議の内容を知る事は珍しくないが、それは会長から聞かされた場合であって、会議参加出来るのは各校の生徒会長のみだ。それ以外の人は生徒会役員や統合企業財体の幹部ですら入ることは許可されていない。
まあ参加する6人が変わる事当然の事であり、新しい年度になる時や星武祭が終わった時に会長が変わるパターンだ。
しかし同時期に2人も変わる事は長い六花園会議の歴史の中、一度も無かったが……
「あのカスや……ディルク・エーベルヴァインに変わって会長になった比企谷だ。以後よろしく」
「アーネスト・フェアクロフに変わりまして生徒会長に就任したエリオット・フォースターです。若輩者ですが宜しくお願いします」
今回、初めて同時期に会長が2人変化した。レヴォルフではディルクから俺に、ガラードワースではフェアクロフさんからエリオット・フォースターに変わったのだ。
「ふふっ、アーネストが変わるのは前に聞いていたので知っていましたが、比企谷君がなるとは思いませんでしたよ」
星導館の生徒会長のエンフィールドは楽しそうにコロコロ笑う。しかし言っている事は間違っていない。
ガラードワースの場合序列1位が生徒会長になる。そして前の1位のフェアクロフさんは今シーズンの獅鷲星武祭が終わったら引退する事は比較的有名だった。
だから統合企業財体E=Pを創設したフォースター一族の嫡男であるエリオット・フォースターが後を継ぐ事は不思議ではない。獅鷲星武祭が終わって初めての序列戦でフォースターがフェアクロフさんを倒して序列1位となって会長に就任した。
まあ試合を見る限り、フェアクロフさんが譲ったのは丸分かりだったけど。言っちゃアレだが、全力のフェアクロフさんが相手じゃフォースターは100回やって100回負けるだろう。
まあそれはともかく、譲って貰った形とはいえフォースターはフェアクロフさんを倒して会長に就任した。その辺りは既定路線であったので特に問題ない。
しかし俺の場合は……
「まぁな。俺もやる気はなかったが、ディルクから会長の座を奪う為にオーフェリアに違う奴を指名しろって言ったら、俺を指名してきたんだよ」
レヴォルフの生徒会長は序列1位が指名した相手だ。少し前まではディルクが生徒会長だったが神出鬼没なマディアス・メサとヴァルダが捕まった以上、奴を泳がす必要はないと判断して、奴から権力を奪う為オーフェリアに違う人間を指名しろと頼み、俺を指定して今に至るって感じだ。
「なるほど……まあディルク・エーベルヴァインが生徒会長でないならこちらも有難い話です」
「何だ?あのカスより俺の方が与し易いと?」
「いえ。あの男は割と星導館を目の敵にしていたので星導館と敵対していない貴方なら有難いと思っただけです」
なるほどな……ディルクは星導館、というか天霧を危険視して色々やってきたからな。天霧に恋するエンフィールドからしたらディルクは不倶戴天の怨敵だろう。
「まあ私としては八幡君と一緒で嬉しいけどね♡」
すると左隣に座る恋人のシルヴィが俺の腕に抱きついて、それはもう良い笑顔で抱きついてくる。
「いきなり抱きつくな、全く……」
そう言いながらもシルヴィの頭を撫でるとシルヴィはふにゃりと表情を緩める。
「だって八幡君が近くにいるんだもん。えへへー」
ちくしょう……前々からわかっていたが可愛過ぎだろ俺の彼女?
「あらあら、相変わらずラブラブですね」
「レティシア先輩が2人のイチャイチャには気をつけろとは言っていた理由が漸くわかったよ……」
「ほっほっほっ、人前でも平然と甘い会話をしてくれるわ。虎峰が見たら発狂しそうじゃのう」
「あの……それ以前にもう開始時間なんですけど」
そこまで考えているとエンフィールドとフォースター、界龍の生徒会長の星露と、アルルカントの生徒会長の左近がそんな事を呟きながら俺とシルヴィを見てくる。
言われて時計を見れば左近の言う通り開始時間を過ぎていた。
「悪い悪い……って、訳でシルヴィ離れてくれ」
俺がそう言うとシルヴィは不満タラタラの表情になる。この甘えん坊め。
「えー、もうちょっとだけ甘えて「帰ったら思いっ切り甘えて良いから」じゃあ帰ったら夕飯までずっとキスしてね?」
「……了解した」
帰ったら3時間以上キスをするのか。今日はもう1人の恋人のオーフェリアは若宮達チーム・赫夜と遊びに行ってるし、久しぶりにシルヴィと2人きりでキスをするようだ。
「もう普通に人前でもキスの約束をするんですね」
「だってもう世間にはバレてるし」
エンフィールドの苦笑にシルヴィが満面の笑みで答える。会見以降、シルヴィはテレビに出るときも平然と俺とオーフェリアに対して大好きと言うほど吹っ切れている。かくいう俺も街中で普通に2人とキスをする位には吹っ切れた。
「それより会議をしようぜ。てか会議って何をやるんだ?」
俺はディルクと仲が悪いから具体的な内容は知らない。
「会議の内容は学園祭の前には各学園の出し物関係、星武祭が近くなれば会場の準備やレギュレーションの調整、後は観客のトラブル対策とかですね」
俺の疑問に左近が答える。そういやアルルカントは昨年の鳳凰星武祭で代理出場という形で擬形体を出したが、その時は左近が手を回したのだろう。そう考えるとこの会議は割と重要なものと判断出来る。
「なるほどな。ちなみに星武祭が終わったばかりの今回は何を話すんだ?」
「そうですね……学園祭の議題は年が明けてから本題に入りますから、今回は他愛のない雑談をしながら学園祭に備えて軽いビジョンの説明、あたりですかね?」
「まあ星武祭が終わって最初の会議は大体そうだよね。あ、そういえばクローディアは優勝おめでとう」
「ふふっ、ありがとうございます。まあ決勝戦は本当に危なかったですけど」
言いながら俺を見てくる。まあ俺が若宮達チーム・赫夜を鍛えたのは有名だからな。そしてこれは知られてないが星露も鍛えたのだ。環境は間違いなくチーム・赫夜が1番恵まれていただろう
「あー、クロエは本当にあと一歩だったからね」
「儂は見ていて本当に楽しかったぞ。奇石とはいえ石のチームが玉の集いしチームを打ち破ったり、後一歩まで追い詰める……これだからこの街は堪らんのじゃよ」
星露は楽しそうに笑ってそう言ってくるが、俺も同感だ。若宮達は光る物はあるが玉か石なら石だ。にもかかわらずチーム・ランスロットを撃破してチーム・エンフィールドを追い詰めた。
負けたのは残念だったが見ていて素晴らしい試合だった。長い獅鷲星武祭でアレ程の試合は数える程しかないだろう。
だからこそ悔しい気持ちがある。この気持ちは暫く晴れないだろう。
「お前は本当に楽しそうだな」
「当然じゃ。儂が求めるものは強き者である。才があろうと無かろうが儂を滾らせる者は大歓迎じゃよ。その点で言えば次の王竜星武祭は楽しみで儂も参加したいくらいじゃよ」
星露の言葉で辺りの空気が変わる。王竜星武祭、最初の星武祭で3つの星武祭の中で最も盛り上がる星武祭だ。
「そういえば比企谷さん」
「何だ左近?」
「風の噂で聞いたのですけど、『孤毒の魔女』が次の王竜星武祭に出ないというのは本当なんですか?」
「ん?ああ、ディルクの所有物じゃなくなったアイツは叶えたい願いはないから出ないらしい。ま、あのアイツが出なくても王竜星武祭は荒れると思うぞ」
「そう、ですよね」
今シーズンの王竜星武祭は間違いなく歴代最大規模の王竜星武祭になると確信がある。
二連覇しているオーフェリアが出ない事で優勝の確率が上がると、王竜星武祭以外の星武祭に絞っている強者も王竜星武祭に参加する可能性がある。
また数十年ぶり、史上2人目のグランドスラムを成し遂げようとする天霧やリースフェルトを筆頭に各学園からは腕利きの猛者がゴロゴロ出てくるだろう
しかし……
「そういやフォースターよ。お前んところで王竜星武祭に出る奴で強い奴はいるか?」
ガラードワースは基本的に獅鷲星武祭に絞っているので、王竜星武祭に参加する選手の情報は掴みにくい。だから聞いてみるも……
「それで僕が馬鹿正直に答えるとでも?」
「思ってないけど、ダメ元で」
やはり答えてくれないか。ケチな奴め。
「では比企谷君のいるレヴォルフは比企谷君以外で誰が出てくるんですか?」
エンフィールドがニコニコしながら聞いてくる。
「教えてやっても良いが俺が答えた人数と同じ数だけお前も教えろ」
「あらあら。構いませんが早速王竜星武祭に備えて情報戦ですか?」
「まあそのつもりだ。言っとくが天霧とリースフェルトと小町は入れるなよ?」
可能なら星導館から出る人間も調べておきたいからな。
「あ、じゃあ私も参加しよっかな?」
「くくくっ、ならば儂も参加させて貰うとしようか。学園の長が言うなら信憑性はあるからのう」
するとシルヴィと星露もノリノリで参加してくる。となると後は……
「で、では僕も……」
左近も参加するようだ。これで後1人だ。俺達5人は残りの1人を見る。
「な、何ですかその目は?」
「いや?空気読めなんて思ってないから気にすんな」
「それ絶対に思ってますよね?!わかりましたよ参加しますよ!」
よし、フォースターも参加が決まった。ガラードワースの王竜星武祭に関する情報は少ないからな。手に入れておきたい。
「決まりですね。では何人発表しますか?」
「3人あたりで良いだろ?」
1人2人じゃ参考にはならないし、4人5人だと多過ぎる。
「私はそれで良いよ」
シルヴィが頷き他の面々も頷く。そして一息吐いて……
「「「「「「俺(私)(儂)(こちら)(僕)(ウチ)の学園から出る予定なのは………」」」」」」
それから2時間後……
「思ったより平和だったな」
初めての六花園会議を終え、俺はシルヴィと共に自宅に入る。今日は初めに軽い情報戦をやった後は、軽い予算の話や他学園との合同作業の軽い打ち合わせなどをやって終わった。
「まあ今の時期はね。学園祭や星武祭直前は忙しいよ。それよりも初めの情報戦はやって良かったよ」
「だな。まさかガラードワースからは俺が叩き潰したい2人が出てくるんらしいしな」
さっきの情報戦を思い出す。フォースターはガラードワースから出る生徒として、序列34位の葉山、40位の一色に、46位の三浦の名前を出してきた。
これは明らかに本命を隠しているのが丸わかりの回答だが、それを責めるつもりはない。情報戦では重要な情報を隠すのは定石だ。俺もオーフェリアを除いてレヴォルフ最強候補の1人であるロドルフォの名前を出してないし、シルヴィも雪ノ下や由比ヶ浜と中堅クラスの人間の名前を出していたし。
しかしフォースターの出した3人の内の2人ーーー葉山と一色は俺が叩き潰したい人間だ。
特に一色、奴は俺達のキスシーンを撮って散々迷惑をかけてきた人間だ。もしも当たったら失格にならない程度に嬲ることも視野に入れている。
「あの野郎には散々迷惑をかけられたからな。当たったら全力ーーーそれこそ影神の終焉神装を使うつもりだ」
「いやそこは修羅鎧か夜叉衣にしなよ?終焉神装はやり過ぎだからね?」
ですよねー。星露と渡り合える終焉神装を一色程度の人間に使ったら死ぬ可能性は充分にあるしやめておこう。
「まあなんにせよ俺の前に立つなら全力で叩き潰すだけだ。今回は何としても優勝しないとな」
何せシルヴィは最後の星武祭だからな。ここで負けたらリベンジが出来なくなる。
「それはこっちのセリフだよ。八幡君には負けないからね?」
シルヴィは可愛らしくウィンクをしながらそう言ってくる。可愛いが譲るつもりはなさそうだ。
(まあハナから譲って貰うつもりはないけどな)
全力のシルヴィに勝たなきゃ意味ないし。アスタリスクに来てから俺も大分この街に染まってきたようだ。
「ああ。当たったら負けないから。俺のライバルさん」
「そうだね。でも今はライバルじゃなくて……恋人だよ」
ちゅっ……
するとシルヴィは俺の唇にキスをして、部屋に小さなリップ音か響く。
「随分いきなりだな……」
俺がそう口にするとシルヴィがジト目で俺を見てくる。え?今俺なんかしたか?
「八幡君、さっきした約束忘れたの?」
「約束?」
「帰ったら夕飯までキスをする約束」
「あ、アレか」
ヤバい、ど忘れしてた。内心冷や汗をかくなか、シルヴィはジト目で俺を見て俺の首に腕を絡めてくる。
「忘れてたんだ?」
「……済まん。許してくれ」
「……夕飯までじゃなくて寝るまでに変更するなら許してあげる」
寝るまでだと?つまり今3時だから9時間近くキスをしろと?マジで?
しかしシルヴィを見ると目がマジだった。これは断れないな……
「わかったよ、寝るまでキスしてやるよ」
俺がそう口にすると、シルヴィは直ぐに喜びを露わにして顔を近づけて……
「んっ……ちゅっ……」
再度キスをしてくる。このキス魔め、どんだけキスが好きなんだよ?
内心苦笑をしながらも俺もシルヴィにキスを返す。こうしてる時点で俺もキス魔になってきてるなぁ……
結局俺達はマジで寝るまでキスを続けたが、夕食後は帰ってきたオーフェリアも入れて3人でキスをした。その時に3人で座っていたソファーには若干唾液が溢れてしまったが、仕方ないだろう。