学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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比企谷八幡は生徒会の仕事が無くとも割と忙しい

「撃ぇーっ!」

 

板張りが広がる空間にて、金髪の少女の甲高い声が聞こえる。同時に彼女の周囲の空間が歪むようにして拳大の砲弾が12発生まれて即座に俺の方に向かってくる。

 

俺は即座に足に星辰力を込めて横に思い切り跳んで砲弾の攻撃範囲から逃れ……

 

「そらっ」

 

俺が砲弾を回避した隙を突いて接近戦を仕掛けてこようとする少女に蹴りを放つ。

 

「くっ……やっぱり一筋縄ではいきませんの……!」

 

少女はマスケット銃型煌式武装で俺の蹴りを防ぎ直撃は避けれたが、衝撃を全て殺すことは出来ずに後ろに飛ぶ。俺はその隙を突こうと再度足に星辰力を込めて前に踏み込もうとする。

 

が……

 

「白幕の崩弾!……からの紅烈の崩弾!」

 

白い砲弾が彼女の足元に放たれて、白い煙を噴き出して身を隠す。そしてそれから数秒して万応素が騒めいたかと思えば、5メートルを超える巨大な紅の砲弾が俺に向かってくる。

 

煙幕を張って身を隠してから、高威力の一撃……彼女の能力からしたら理想の戦術だ。

 

が、まだ甘い。

 

「影の鞭軍」

 

俺は背中に星辰力を込めて背中から8本の影の鞭を生み出し……

 

「よっと」

 

『ダークリパルサー』を4本取り出して宙に投げつけて、4本の影の鞭に『ダークリパルサー』を掴ませる。

 

そして……

 

「行けっ!」

 

8本の影の鞭を放つ。内『ダークリパルサー』を持ってない鞭4本は紅の砲弾から俺を守るように放ち、『ダークリパルサー』を持った鞭は白い煙に身を隠す少女に向けて放った。

 

すると……

 

「ちっ……」

 

俺の前方で影の鞭と紅の砲弾がぶつかり爆発が生じて、爆風によって俺の右手を少しだけ焦がす。どうやらあの紅の砲弾は予想以上の威力があるようだ。

 

しかし……

 

「ぐぅぅ……!な、何ですのこれ?!」

 

少女のいる白い煙の中から苦しそうな声が聞こえてくる。右手に熱を感じながら声のした方向を見れば、煙が晴れて腹に『ダークリパルサー』を刺されている少女がいた。

 

『ダークリパルサー』は殺傷力はないが超音波によって相手に頭痛を与える煌式武装。既に少女はマトモに動くことは出来ないだろう。

 

そう思いながら俺は彼女に近づき……

 

 

 

「詰みだ。頭痛が治り次第反省会な?」

 

首に『ダークリパルサー』を突きつけてそう呟いた。

 

 

 

 

 

「きぃぃぃぃぃぃっ!悔しいですの悔しいですの!悔しいですの!」

 

それから15分後、俺と戦っていた少女ーーークインヴェール女学園序列35位ヴァイオレット・ワインバーグは悔しそうに地団駄を踏む。

 

俺は今界龍の序列1位の星露が作り上げた私塾『魎山泊』のアシスタントとして、俺と同じ能力者のワインバーグの指導をしている。

 

何故アシスタントをしているかというと、星露には処刑刀ひいてはマディアスとの戦いに備えて鍛えて貰ったという大きい借りがあるからだ。

 

俺を強くしてくれたのは感謝しているから、アシスタントをする事に対して面倒だとは思うが拒否するつもりはない。

 

しかしだからといって界龍とレヴォルフの生徒会長が他校の生徒を鍛えるって普通に問題じゃね?一応魎山泊に行く時は統合企業財体に悟られないように影に潜って来ているがバレたら絶対に面倒だ。

 

閑話休題……

 

俺の仕事は2つある。

 

1つは星露が確立させた能力者のスタイルを実戦で伸ばす事

 

もう1つは星露と戦って奴を楽しませる事

 

後者に至ってはアシスタント関係ないが気にしないでおく。

 

そんな訳で俺は今、前者の方の仕事ーーーワインバーグの面倒を見ているが、奴の悔しがりっぷりを見て頭痛を感じる。こいつマジでお嬢様のおの字もないな……

 

「うるせえぞハンバーグ。文句言ってる暇があるなら反省会やるぞ。もう頭痛は治ってるんだろ?」

 

「ワインバーグですわ!」

 

「お前が大人しくなったらやめてやるよ。ワインハンバーグ」

 

「ですから!……ああもう!わかりましたわよ!頭痛は治ってますから反省会をやりますわよ!」

 

何でこいつはここまで高飛車なんだよ。相撲部屋的な意味で可愛がってやろうか?

 

「へいへい。んじゃ先ずは総評から行くぞ。魎山泊に入ったばかりだから未熟だが、基本的な戦闘スタイルーーー至近距離からでも能力を使うのは間違っちゃいない」

 

少し前のワインバーグが遠距離に特化した戦い方で接近戦に弱かった。しかしまだ殆ど習ってないとはいえ、星露の鍛錬を受けたのでそれなりに形にはなっている。このまま行けば次の王竜星武祭には立派な武器になるだろう。

 

「だからお前のやる事は攻め手をとにかく増やせ」

 

「攻め手とはどちらですの?体術?それとも私自身の能力?」

 

「両方だが、前者は星露との戦いで自然と身につくだろうから、後者を中心にだ。お前の能力は俺や星導館のリースフェルト、ガラードワースのブランシャールみたいなバランスタイプではなくて、攻撃特化だから攻め手の数が強さに直結する」

 

ワインバーグの能力は万応素から銃弾や砲弾を作る能力だ。破壊力なら申し分ないが、防御力を高めたり機動力を上げたりする事は出来ないと、まさに攻撃特化の能力。

 

そんな奴が中途半端に防御性や機動性に直結する技を身につけても焼け石に水だ。それならいっそ全てを攻撃に注ぎ込んだ方が合理的だ。

 

「だからお前はとにかく沢山の種類の弾丸を作れるようになれ」

 

言いながら俺は空間ウィンドウを開いてワインバーグに投げ渡す。

 

「何ですのこれは?」

 

「PMCなどで使われている様々な種類の銃器の映像データだ。暇さえあればそれを見とけ。んじゃ10分後にもう1試合な」

 

短いかもしれないが、星露からは普通に容赦しないでやれと言われてるからな。多少厳しくはさせて貰う。

 

「比企谷先生並みにスパルタですわね……」

 

「あん?お袋ってそんなにスパルタなのか?」

 

クインヴェールの教師に就任して直ぐにクインヴェールの序列者をぶちのめしたのは知っているが、お袋の教育方針は余り聞かない。

 

「スパルタですわよ!獅鷲星武祭に備えた訓練では何度も吐かされましたわ!!」

 

お袋ェ……女子相手にゲロを吐かせるって……

 

「しかも桁違いに強過ぎますのよ!今日なんて授業で私に加えて美奈兎と雪乃、結衣の4人がかりで挑んで傷一つ付けられませんでしたのよ!!」

 

そんな事を言いながら空間ウィンドウを開いて渡してきたので見てみれば……

 

「うわぁ……」

 

圧巻の一言だった。若宮が拳を、雪ノ下が氷の槍を持って近接戦を仕掛けても軽々と受け流していた。しかもカップ酒を飲みながら。

 

流れを変えるべく後方にいるワインバーグと由比ヶ浜は砲弾と爆発する犬を放ったら、即座にカップ酒を飲み干してから容器を投げ捨て、若宮と雪ノ下の襟首を掴んだかと思えば砲弾と犬に投げつけて同士討ち。

 

2人が倒れた事によって呆気に取られたワインバーグと由比ヶ浜に蹴りを放って試合終了。

 

今更だがウチのお袋強過ぎだろ?そしてクインヴェールの生徒はそんなお袋に鍛えられている……ヤバイな。今シーズンの総合順位はレヴォルフがビリになるかも。

 

獅鷲星武祭が終わった時点での総合順位は1位が星導館、2位が界龍、3位がガラードワース、4位がアルルカント、5位がクインヴェールでビリがレヴォルフだ。

 

ここまで予想内だ。レヴォルフは鳳凰星武祭と獅鷲星武祭に弱いからな。

 

だからレヴォルフは毎回王竜星武祭に賭けているが、クインヴェールが予想以上に強くなったら順位を上げるのが難しくなる。

 

(まあいっか。レヴォルフもクインヴェール程じゃないがビリをとった事があるし)

 

そう思いながらスポーツドリンクを飲んでいると……

 

「どうじゃ八幡。此奴の状況は?」

 

今俺とワインバーグのいる異空間を作り出した張本人にして、魎山泊の創始者の星露がこの空間に入ってきた。

 

「ぼちぼちだな。てかお前今日は妙に遅かったな」

 

いつもなら俺とワインバーグの戦いを見ていてその後に俺と戦うが、今回は俺とワインバーグが戦っている時は居なかった。

 

「うむ。新しく目を付けた者に声をかけてきたのじゃよ」

 

その言葉に俺とワインバーグが息を呑む。新しく目を付けた者という事は壁を越えた者を倒せる可能性のある人間ということ事になる。

 

「誰ですのそれは?」

 

ワインバーグが星露に尋ねるが、気になるのも仕方ないだろう。基本的に魎山泊にいる面々は皆王竜星武祭を目指している者だし。

 

「秘密じゃ。まあ王竜星武祭が始まれば嫌でもわかる。それより八幡よ。早速だが儂と戦おうぞ」

 

星露はキラキラした目を向けてそう言ってくる。どんだけこいつは戦いに飢えてるんだよ?

 

「やるのは構わないが、お前今日の序列戦で大暴れしてたじゃねぇか」

 

今日は界龍の公式序列戦があったのだが、星露は挑んできた全ての挑戦者(星露の門下生でない序列入り)を秒殺していた。暁彗あたりなら戦えると思うが、あいつは獅鷲星武祭が終わってから武者修行の旅に出たらしい。

 

「何を言っておる。あの程度で儂が滾るわけないであろう。ここ最近儂の1番の楽しみはお主との戦いじゃ……破っ!」

 

次の瞬間、星露は俺に蹴りを放ってくるので、俺は星辰力を手に纏い星露の蹴りを受け止める。しかし完全に防ぐことは出来ずに後ろに吹き飛ぶ。

 

(上等だコラ。今日こそ金星貰うぞ……纏え、影狼修羅鎧)

 

そう思いながらも俺は自身の身体に黒く分厚い鎧を纏い……

 

「呑めーーー影神の終焉神装」

 

即座にその鎧を凝縮して悪魔のような翼を背中に生やす。俺の最強の技は、既に星露との鍛錬で短時間なら後遺症なく使用出来るし、以前星露と戦った時にワインバーグの前で使ったらワインバーグの目も気にする必要はない。

 

俺は近くにある柱を蹴飛ばしその勢いで星露の元に向かいながら、背中の翼に星辰力を込めて加速する。

 

流星の如き速さで星露との距離を詰めると……

 

「くくくっ……!週に一度の戦いじゃ!全力でいかせて貰うぞ」

 

オーフェリアとは異なる絶対的な圧力を生み出しながら迎え撃つ構えを見せてくる。

 

そして……

 

「おらっ!」

 

「破っ!」

 

互いの拳が互いの顔面に当たり、互いは反発するかのように吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2時間後……

 

「くそっ……今日も勝てなかった」

 

俺は今アスタリスクの中央区にあるショッピングモールにいる。何でショッピングモールにいるかというと、チーム・赫夜とやるクリスマスパーティーに備えてプレゼントを買う為だ。

 

しかし女子の好きなもんなんて中々決められないな……

 

着いて早々どうすれば……と、悩んでいる時だった。

 

「あら?八幡さんではありませんの?」

 

後ろからそんな声が聞こえたので振り向くと知った顔がいた。

 

「フェアクロフ先輩、お久しぶりです」

 

噂をすればなんとやら、チーム・赫夜のメンバーのフェアクロフ先輩がいた。俺が生徒会長になってからは直接は合ってないが、偶にメールをするくらいには交流がある。

 

「そうですわね……って、ボロボロじゃないですね。またラッキースケベをしてシルヴィアとオーフェリアにやられたのですの?」

 

「違います。星露と戦った結果こうなりました」

 

てか俺が怪我した理由として真っ先に思い浮かんだのが、ラッキースケベによる制裁かよ?

 

「ああ……」

 

若干ショックになる中、フェアクロフ先輩は納得したように頷く。実際俺は星露と戦ってボロボロだ。

 

影神の終焉神装を使ってる時は何とか星露に食らいつけていたが、時間切れになった瞬間、鳩尾に星露の拳が叩き込まれて負けた。よって今回も俺が黒星であり、残念極まりない。

 

「まあそんな訳で俺の怪我の原因は戦闘による負傷です。てかフェアクロフ先輩は何でショッピングモールに?」

 

「はい。例のクリスマスパーティーのプレゼントを買いに。もしかして八幡さんも?」

 

「はいそうです」

 

「でしたらお願いがありますの。私、こういったものには疎いので付き合って貰ってもよろしくて?」

 

まあ、確かにフェアクロフ先輩は貴族の人間だから疎いかもしれないし、協力したいのは山々だ。

 

「でも大丈夫なんすか?一緒にプレゼントを探したら買う物がわかるじゃないすか?」

 

「そうですわね……あ!では気に入った物があったら、肩を叩きましょう。叩かれた方は店を出て待つというのはどうですの?」

 

……まあ、それなら問題ないが俺もこういったものに疎いからなぁ……

 

どうしたものかと悩んでいると……

 

「ダメ……ですの?」

 

フェアクロフ先輩がションボリした雰囲気になりながらも上目遣いで俺を見てくる。その顔は反則なんでやめて下さい。

 

「わかりましたよ、お付き合いします」

 

俺がそう口にするとフェアクロフ先輩はパアッと輝くような笑みを浮かべてくる。

 

「ありがとうございます。やはり八幡さんに頼って正解でしたわ。さ、参りましょう」

 

フェアクロフ先輩はそう言って歩き出すので俺はそれに続く。

 

(っと、その前にオーフェリアとシルヴィにメールを打たないと)

 

一応彼女じゃない女子と買い物をするからな。

 

俺が『ちょっとフェアクロフと会って買い物に付き合う事になったんだが良いか?』とメールに記して2人の端末に送信すると……

 

『いいよ。ただしラッキースケベはしないでね』

 

『わかったわ。ただしラッキースケベはしないで』

 

 

暫くしてから2人からそんなメールが来た。どんだけ疑われてんだよ?

 

内心釈然としない状態で俺はフェアクロフ先輩の後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、八幡君にメールを送ったし行こうか」

 

「そうね。それにしてもわざわざ買い物に付き合ってくれてありがとう」

 

「別に良いって。私も久しぶりにショッピングモールに行きたかったし」

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ユリスさん」

 

「ん?小町か、奇遇だな」

 

「そうですね……って、やっぱりお互いボロボロですね」

 

「全くだ。力が強くなる自覚はあるが、『万有天羅』の訓練は厳しいものだな……」

 

「そうですね。小町は食品を買いに来たんですけどユリスさんは?」

 

「私は生活必需品を少々な」

 

「あ、じゃあ一緒に行きませんか?」

 

「別に構わないぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「葉山君、やっぱりクリスマスパーティーの装飾を一番最初に買いに行こうよ」

 

「いやいや、先にケーキの予約だろ?」

 

「始めにバラバラになってプレゼントを買う方が良いんじゃない?」

 

「ははっ……落ち着きなよ。皆仲良くしないとね」

 

「あ、ごめんね。修行していて疲れた葉山君に気をつかっちゃって」

 

「そのくらいなら大丈夫だよ。疲れているのは俺の訓練に付き合ってくれている皆もだろ?それより早く行こうぜ」

 

 

 


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