学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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比企谷八幡は頭を痛め、ガラードワースの生徒らは比企谷八幡を否定して、エリオット・フォースターは……

嫌な予感しかしねぇ……

 

俺は純粋にそう思った。視界の先には俺の可愛い可愛い妹の小町とオーフェリアの1番の親友のリースフェルトがいた。

 

それだけなら問題ない。呼びかけてから軽い雑談をして別れるって感じで済むだろう。

 

しかし2人と一緒にいる……否、向かい合っている面々が厄介だ。

 

(何故、あいつらが居るんだよ……)

 

そこには葉山率いるガラードワースの面々がいて、小町とリースフェルトの2人と向かい合っている。様子を見る限り葉山達が突っかかり、小町とリースフェルトが流している感じだ。

 

(2人の実力からすれば問題なく対処出来ると思うが、暫く面倒な状況が続きそうだな……仕方ない。怠いが介入する)

 

そう判断するとオーフェリアとシルヴィとフェアクロフ先輩も俺を見て小さく頷く。それを確認した俺も小さく頷き歩き出す。

 

「おーい、小町ちゃん。これどういう状況?」

 

そう言いながら俺が近寄ると全員がこちらに振り向いてきて……

 

「あ、お兄ちゃん。シルヴィアさんとオーフェリアさんもお久しぶりです」

 

小町が嫌そうな顔を消して笑顔で手を振ってくる。対称的にガラードワースの面々(特に葉山)は嫌そうな顔や驚愕した顔を見せてくる。大方俺やシルヴィを見たからだろう。

 

そんな事を考えていると小町はマジマジとフェアクロフ先輩を見る。どうしたんだいきなり?

 

疑問に思っていると小町が俺の方に目を向けて……

 

「え?お兄ちゃんもしかしてソフィア・フェアクロフさんも彼女にしたの?」

 

まあ第三者からしたら俺は3人を連れているように見えるだろうな。

 

「ち、ちちち違いますわ!私は八幡さんの彼女ではありませんわ!……あ!強い言い方で否定しましたが、べ、別に嫌って訳じゃないですけど……!」

 

フェアクロフさんは真っ赤になって小町に詰め寄るも、その後に俺を見て謝ってくる。別に俺は強く否定されても気にしないから謝らなくて良いのに……普段はポンコツだが、律儀な人だ。

 

そんな事を考えていると……

 

「ほうほう……」

 

小町は興味深そうに頷き……

 

「「………八幡(君)」」

 

オーフェリアとシルヴィはジト目で俺を見てくる。なんだその顔は?俺が何かしたか?

 

唯一の第三者であるリースフェルトにヘルプの視線を向けるも……

 

「……(プイッ)」

 

引き攣った笑みを浮かべてからそっぽを向く。今わかった、この場に俺の味方はいない。

 

(とりあえずこの状況をなんとかしないと俺の胃が死ぬ)

 

「そういや小町、話を戻すけど俺達が来る前に何があったんだ?」

 

あからさまに話を逸らしているが気にしないでおこう。俺が自分の中でそう結論づけていると小町がハッとした表情になって口を開ける。

 

「それがね、リースフェルトさんと買い物してたらそこの葉虫……じゃなくてガラードワースの生徒に『お兄さんが卑怯な事をしないように注意してあげて』とか言ってきたから、適当にあしらってたの」

 

小町がそう言うと、葉山とその取り巻きが不愉快そうに小町を睨む、小町は特に気にしてない素振りを見せている。リースフェルトを見れば小さく頷いているので事実なのだろう。

 

同時に俺の横にいるオーフェリアとシルヴィとフェアクロフ先輩が不愉快そうに目を細めているので手で制する。俺に関する事だから3人には関わって欲しくない。

 

3人が納得いかなそうな表情を浮かべるも小さく頷いたので俺は葉山と向き合う。

 

「おい葉虫……じゃなくて葉山。テメェ、人の妹に明らかなデマを吹き込んでんじゃねぇよ」

 

「俺は葉山だよ。わざと名前を間違えるなんて人としてどうかと思うぞ」

 

葉山は不愉快そうに鼻を鳴らす。明らかにガラードワースの生徒がする顔じゃねぇな。いくら取り巻きが葉山の後ろにいて葉山の顔が見えないからってその顔はやめておいた方が良いぞ?

 

「はっ、わざとヒキタニ呼びしてた奴に言われたくねぇよ……まあそれは良いや。それよりも話を戻すが人の妹に明らかなデマを吹き込んでんじゃねぇよ」

 

てかこんな葉虫が小町に近寄ってる時点で論外だ。今すぐにでも消毒してやりたい。

 

「デマ?俺は思った事を言っただけだよ。チーム・赫夜程度のチームが会長のチームに勝つなんてズルをしたかマグレに決まってる。そのチーム・赫夜が比企谷と絡んでいるならズルをしたとしか思えないな」

 

「何ですって!」

 

「君さぁ……!」

 

「どの口が……!」

 

「落ち着いてください」

 

チームを馬鹿にされたフェアクロフ先輩と恋人のシルヴィとオーフェリアが怒りを露わにして詰め寄ろうとするので手で制する。隣では小町が同じように詰め寄ろうとするとリースフェルトが止めていた。

 

良いぞ、こんな所で暴れたりしたらこっちの負けだ。向こうが口で攻めるならこっちも口で攻めるべきだ。

 

「「「でもっ!」」」

 

「良いから……まあ葉山の言う通り、チーム・赫夜がチーム・ランスロットに勝てたのはマグレに近いだろうな」

 

これについては事実だ。チーム・赫夜がチーム・ランスロットともう一度戦ったら十中八九負けるだろう。奇策に奇策を重ね、持てる力を全て出し尽くして勝ったのだから。

 

「だがよ……絶対王者相手にマグレ勝ち出来る可能性を持つチームはな、血反吐を吐く程一生懸命鍛えたチームだけだ。少なくとも小細工をしてないチーム・赫夜相手に何も出来ずに負けたチーム・ヴィクトリーみたいなカスチームじゃ無理だろうな」

 

これについても事実だ。獅鷲星武祭は大物食いが起こりやすい星武祭だが、大物食いを起こすにはある程度以上の努力が必要だ。その点で言えばチーム・赫夜は大物食いを起こせるレベルの努力はしたと断言出来る。

 

すると……

 

「何だと?!撤回しろ!」

 

「そうよ!葉山君のチームがカスな訳無い!アンタの方がカスじゃない!」

 

取り巻きがブーイングを浴びせてくる。それはもう目立つくらいに。こいつら本当にガラードワースの生徒か?葉山に盲信し過ぎだろ?

 

「事実だろうが。少なくとも予選1回戦で負けるようなカスチームのお山の大将が若宮達を侮辱する権利は「比企谷、少し黙れよ」……いきなりだな、葉山」

 

俺が話していると葉山が俺の胸ぐらを掴んでくる。こいつ煽りまくる癖に煽られると弱いな……

 

「てか葉山よ。痛いから離せ」

 

その気になれば力づくで引き離せるが暴力を振るったらこっちも同罪だからな。

 

「だったら撤回しろ!優美子達……俺のチームはカスなんかじゃない!」

 

「あー、はいはい。わかりましたよ撤回します。チーム・ヴィクトリーは強いです。はい撤回したら離せ」

 

「ふざけるな!真面目に撤回しろ!」

 

次の瞬間、葉山に顔面を殴られる。予想外の一撃だったので俺は碌に防御出来ずに後ろにある壁に叩きつけられる。しかも葉山の奴、拳に星辰力を込めたからか、威力があって歯が一本取れてしまった。

 

「お兄ちゃん!」

 

「……殺すわ」

 

「待て小町にオーフェリア!純星煌式武装を抜くな!」

 

身体を起こしながら前を見ると、葉山の後ろで小町が『冥王の覇銃』を、オーフェリアが『覇潰の血鎌』を取り出そうとしてリースフェルトに止められていた。まあショッピングモールで純星煌式武装をぶっ放したら間違いなく問題行為だろう。

 

「落ち着けお前ら。俺は気にしてない」

 

俺は2人の手にある待機状態の純星煌式武装を奪い取る。

 

「「でもっ!」」

 

「いいから落ち着け(ここでお前らが暴力を振るえば、お前らも裁かれる。……が、お前らが動かなかったら葉山だけが裁かれる)」

 

こっちが何もしなかったら悪いのは向こうだ。何せ向こうから先に喧嘩を売って、こっちが言い返したら胸ぐらを掴んだり殴ったりしてきたんだ。今回は完全に向こうに非がある。

 

それを聞いた小町とオーフェリアは渋々ながら頷く。とりあえず理解はしてくれて何よりだ。

 

内心安堵しながらも俺は葉山を見る。対する葉山は未だに俺の事を睨んでいるが気にしない。

 

「おい葉山。お前さっき真面目に撤回しろと言ったな。だったら王竜星武祭で俺に1発攻撃を当ててみろ。そしたら撤回してやるよ」

 

「1発攻撃を当ててみろ?ふざけるな、俺はお前に勝つ……!それでお前が間違っている事を教えてやる」

 

「俺が間違っているだと?」

 

「ああ、そうだ。お前の態度や言動、女性2人と付き合うなどふざけた神経、お前の在り方全てが間違っている事を証明してやる」

 

いや、わざとヒキタニ呼びしたり直ぐに暴力に走るヤツに言われたくないんだが。

 

しかしそこは突っ込まないでおく。俺の後ろにいる5人が大小差はあれど怒りを露わにしているし。

 

「ならやってみろ。ま、お前じゃ無理だろうがな……行くぞ」

 

今のところ、次の王竜星武祭に出るとわかっている人間で俺を倒せる可能性を持つ人間はそれなりにいるが、その中に葉山の名前はない。

 

魎山泊で努力しているならともかく、葉山には魎山泊に参加している人特有の傷がないし、葉山は魎山泊の人間じゃないだろう。

 

 

(ならば恐れる必要はない。寧ろ危険なのは小町とリースフェルトだな)

 

2人の身体には大量の生傷がある。俺はクインヴェールのワインバーグとガラードワースのノエル・メスメルの面倒を見ていてその際に大量の生傷がある事を知っているから、小町とリースフェルトが魎山泊の人間であることが容易に想像出来たし。

 

そんな事を考えながら俺は5人を連れて、葉山達から距離をとった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、もう!あの葉虫、本当にムカつくなぁ!」

 

「全くですわ!美奈兎さん達を見下すだけでなく、暴力に走るなんて……許せませんわ!」

 

ショッピングモールを出ると小町とフェアクロフ先輩が地団駄を踏んで怒りを露わにする。怒ってくれるのは嬉しいが女子のする言動じゃねぇな……

 

「というか比企谷は何をやって『友情剣』と仲違いしているんだ?正直言ってお前と奴の接点がわからん」

 

リースフェルトが聞いてくる。まあ普通レヴォルフとガラードワースの生徒が交流を持つなんて珍しいからな。

 

「……あの男、八幡と同じ中学出身なの。その時からわざとヒキタニ呼びして八幡を見下してたのよ」

 

「なるほどな……しかしあそこまで敵意を向けるか?」

 

「色々あったんだよ色々。にしても今日は悪かったな。俺関係でお前らにも不愉快な気分を味あわせちまって」

 

小町とリースフェルトは葉山の言動にとばっちりを食らったのだ。俺にも責任がない訳じゃない。

 

「不愉快な気分になったのは事実だが、私はお前の事をどうこう思っていない。戦いにおいて性格は悪いとは思うが、外道ではないだろう」

 

「そいつはどうも。もしも今後あいつが突っかかってきたら連絡してくれ。俺が責任を持ってしまつ……注意しておく」

 

「今始末と言おうとしなかったか?」

 

「気の所為だ。それよりお前らはこれからどうすんだ?俺は気分が削がれたから帰る」

 

今からクリスマスプレゼントを買うのは怠い。イブまでまだ日にちがあるし、無理に今日買わなくても大丈夫だろう。

 

「そうだな……私も興が削がれたし帰るとしよう」

 

「私とオーフェリアも帰るかな。ちょっとムカムカするし」

 

「……そうね」

 

どうやら3人とも興が削がれたようだ。なら方針は決まったし……

 

「小町、フェアクロフ先輩。今日は白けたし帰りましょう」

 

未だに地団駄を踏む2人に話しかける。すると小町とフェアクロフ先輩がギュルンと首を回して口を開ける。

 

「八幡さん!もしも王竜星武祭であの男と当たったら再起不能になるまで叩き潰してくださいまし!」

 

「じゃあもしも小町があの葉虫と当たったらペナルティを貰うギリギリまで痛めつけるね!」

 

2人は俺にキスをしかねないくらいまで顔を寄せてそう言ってくる。どうやら2人の中で葉山は敵と認識したようだ。まあどの道俺もそのつもりだ。

 

「わ、わかったよ。それより夜も遅いし帰りましょう」

 

言いながら影に星辰力を込めて竜を三体生み出す。

 

「んじゃ小町とリースフェルトは一番右、フェアクロフ先輩は真ん中の竜に乗ってください。自身らの通う学園の校門に向かうように指示をしましたので」

 

「相変わらず便利ですわね。ではお言葉に甘えて」

 

フェアクロフ先輩がそう言ってから一礼して竜に乗ると、竜は一度雄叫びを上げてからクインヴェールの方向に飛んで行った。

 

「じゃあユリスさん。小町達も帰りましょうか」

 

「ああ。わざわざ済まんな」

 

2人がそう言ってから竜に乗る。すると竜が雄叫びを上げる。

 

「気にすんな。それより魎山泊の修行で疲れた身体を癒しな」

 

俺がそう言うと同時に竜は翼を広げて空へと飛んで行った。最後に小町とリースフェルトの顔にあった驚きの色が印象的だった。

 

「やっぱりあの2人も魎山泊の人間かよ……」

 

俺がため息混じりに愚痴るとシルヴィもゲンナリしたようにため息を吐く。

 

「それは厄介だね……でも小町ちゃんはともかく、何でリースフェルトさんも入ってるんだろ?」

 

それは俺も同感だ。魎山泊の生徒は玉石混交でいうと玉に近い石もしくは石に近い玉で、それでありながら壁を越えた人間に勝てる可能性のある人間だ。玉の中でもレベルが高い方にいるリースフェルトは魎山泊の対象ではない。

 

となると……

 

「多分星露の気紛れだろ」

 

それ以外考えられない。あの戦闘狂の考えは全く読めないし。

 

「そうかもね。それより帰ろっか」

 

「だな。ところでよ、帰ったら甘えても良いか?」

 

葉山との絡みによって生まれたストレスを解消したい。ストレス発散には2人と甘え合いをするのが一番だ。

 

俺の頼みに対して2人は……

 

「「もちろん、好きなだけ甘えて」」

 

ちゅっ……

 

笑顔を浮かべ2人同時にキスをしてくる。周囲に人がいるにもかかわらず。周囲からはキャーキャー声が聞こえてくるが、今更だ。会見以降俺達は外でもガンガンキスをしているし。

 

「ありがとな……続きは帰ってからしようぜ」

 

2人とのキスによって葉山に対するストレスは殆ど消えた俺は2人の手を引っ張り竜に乗る。同時に竜が雄叫びを上げて空へ舞い上がるので2人を抱き寄せる。早く帰って2人との時間を堪能するか。

 

俺はアスタリスクの夜の空に浮かぶ月を見上げながらそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、聖ガラードワース学園生徒会室にて……

 

「失礼しますわ。エリオット、調子は……エリオット?!」

 

ガラードワースの前副会長のレティシア・ブランシャールは新生徒会長のエリオット・フォースターの様子を見に生徒会室に来たが、当のエリオットは机に突っ伏していた。机の傍にはレティシアが残した胃薬と水の入ったコップがあった。

 

「エリオット?!どうしましたの?!」

 

予想外の光景にレティシアは驚きながらもエリオットに近寄る。するとエリオットは腹ーーー胃がある箇所を手で押さえながら起き上がる。

 

「レティシア先輩……これを」

 

エリオットは空間ウィンドウをレティシアに投げ渡すと、再度机に突っ伏した。レティシアは訝しげな表情を浮かべながらも空間ウィンドウを見ると……

 

 

 

 

 

 

 

 

『ガラードワースの『友情剣』、公共の場でレヴォルフの生徒会長を殴り飛ばす?!』

 

そんな見出しのニュースが映っていた。

 

「ぐうっ……!」

 

次の瞬間、レティシアの胃に再度穴が開いて、レティシアは地面な倒れ伏してしまった。

 

 

それから15分後、今のガラードワースの副会長のノエルが生徒会室に入ったら驚き悲鳴を上げたのは言うまでもないだろう。

 

 

 


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