……マジで頭が痛くなってきた。肉体的な疲れではなくて精神的な疲れが原因で。ここまで痛くなるのは滅多にない。生徒会長の仕事をしてもここまでは疲れないだろう。
何故こんな風に頭が痛くなっているのかというと……
(何で新年早々にこいつらと会うんだよ……)
正月のショッピングモールの二階にて、俺は可愛い妹の小町と恋人2人のオーフェリアとシルヴィと一緒に買い物に来ていて三階に上がろうとしたら、俺と相反する存在である『友情剣』葉山隼人及びその取り巻きと鉢合わせしてしまった。
初めは向こうもポカンとした表情を浮かべるも直ぐに俺に対して憎悪に塗れた、ガラードワースの生徒らしくない視線を向けてくる。
対して俺の横にいる3人も明らかに不機嫌になりまさに一触即発の雰囲気だ。
周りにいる人は距離を取るが当然の判断だ。何せ世界の歌姫と世界最強の魔女が不機嫌なのだから。
とはいえ俺はどうこうするつもりはない。葉山達に対して思うところがない訳ではないが関わりたくないのは紛れも無い事実なのだから。
そう判断した俺は横で不機嫌な表情になっている3人に話しかける。
「さてお前ら。さっさと三階に行って福袋を買ってパフェを食べに行くぞ」
関わらないのが最善の道だ。奴らと関わっても百害どころか億害あって一利なしだ。
「そうだねー。朝はお餅だけで少し足りませんでしたし、早く買ってパフェを食べよう。ね?シルヴィアお義姉ちゃんにオーフェリアお義姉ちゃん?」
「うん、福袋が売られるまで時間がないし急ごっか」
「……私はパフェよりクレープを食べたいわ」
どうやら3人も関わるのを避けたいようで俺の言葉に乗ってくる。良し、じゃあ後はこのままこの場を離れ「待て比企谷」……空気読めよ三下。
「何だよ。こっちは忙しいからまた今度にしろ」
「どうせ大した用事じゃないだろ?それよりも聞きたいことがある」
あー、こりゃ話を聞くまで離さない気だな。半殺しにしてやりたいがそれをやったらこっちが咎められるからやらないけど。
「ちっ……わぁったよ。小町、オーフェリア、シルヴィ、先行ってろ」
こいつの話す事なんて十中八九ふざけた内容だ。3人に聞かせたらストレスが溜まるだけだろうし先に行かせた方が良い。
「……嫌よ。私は残るわ」
オーフェリアが即座に断る。
「大丈夫だって。お前が心配することはない」
「それで前に殴られたじゃん!小町も残る!」
「私も残る!」
すると小町とシルヴィも頷いてオーフェリアに賛成する。気持ちは嬉しいがこれ以上こいつらを葉山の近くに居させたくない。
「……頼む。先に行ってくれ」
「でも八幡に何かあったら……!」
俺が懇願するも、それでも尚、オーフェリアは引き下がらない。仕方ないか……
だから俺はオーフェリアを抱き寄せて……
「んっ……!」
『なっ!』
そっとキスをする。それによって葉山と取り巻きが呆気に取られた表情を浮かべも気にせずオーフェリアにキスをする。
10秒くらいしてからキスを止めてオーフェリアの耳に顔を寄せる。
「大丈夫だって。いざとなったら反撃するし、少しくらい信じてくれよ」
一応星露との鍛錬で最盛期のオーフェリアにならともかく、力を制御してある今のオーフェリアになら勝てる可能性があるくらいには強くなった自負がある。
「……わかったわ」
俺が頼むとオーフェリアは頬を染めながら小さく頷く。
「良い子だ……悪いけどお前らもオーフェリアと行ってくれないか?」
オーフェリアの頭を撫でながらシルヴィと小町に頼み込む。可能なら少しでも早くガラードワースの面々から離してやりたい。
「……わかった。ただし!」
シルヴィは一呼吸置いてから俺に近寄り……
ちゅっ……
キスを落とす。辺りからは歓声が上がるが気にしないでおく。俺達3人の関係が世間に公表されてから2ヶ月ちょい、既に堂々とデートしたりキスをして周囲から注目を浴びているし。
「絶対に無事に帰ってきてね」
見る男全てを惚れさせるであろう笑顔を見せてくる。まあ俺以外の相手には見せないと思いたいが。
「当たり前だ。そもそも俺があいつらに遅れを取ると?」
葉山達の人数は20人弱だが、見る限り序列入り出来る人間はいても冒頭の十二人入り出来る人間は1人もいない。これなら影狼修羅鎧抜きでも勝てるだろう。
「思ってないけど念の為。それじゃあ小町ちゃんも行こっか?」
「そうですね。わかりました……おい葉虫。もしもお兄ちゃんに危害を加えたら二度と剣を持てない身体にするので」
小町が軽く殺気を出しながら葉山を睨むと、葉山はビクッとしながら後退りするが、それに気付くと不愉快そうに小町を睨む。あの程度の殺気でビビるのに俺に勝つとか言ったのかよ。言っちゃアレだが、お前じゃ小町にも瞬殺されるだろう。
そんな事を考えていると3人がエスカレーターで上がって行った。3人が見えなくなったので口を開ける。
「で?何の用だ?こっちも暇じゃないから早めに済ませろ」
俺がそう言うと葉山は不愉快そうに鼻を鳴らしてから口を開ける。
「比企谷、いい加減他人を騙す卑怯な真似は止めたらどうだ?」
「は?」
こいつは何を言っているんだ?他人を騙す卑怯な真似を止めろだと?確かに俺も他人を騙す事はあるが、無闇に人を貶めたりはしてない。
少なくとも葉山が俺を悪と断ずる資格はないだろう。
「何の話だ?てか誰を騙したって言うんだよ?」
「決まっているだろう。ウチの生徒会長やシルヴィアさんをだよ」
は?フォースターとシルヴィを騙す?俺が?
「理解に苦しむな。そう思う根拠を説明してみろ」
「以前お前が俺達をカス呼ばわりした時だ。あの後に俺は会長に呼ばれて序列を奪われた。どう考えてもお前が裏で何かしたに決まっている」
こいつは何を言っているんだよ?マジで理解不能だ
「んなわけないだろ。そもそもお前がショッピングモールで俺に暴力を振るったお前が一番悪いだろうが」
あの事件はガラードワースに小さくない被害を与えた。何せ相手が折り合いの悪いとはいえ、レヴォルフーーー他校の生徒をショッピングモールで殴ったのだ。寧ろ罰としては緩い方だろう。
「暴力?アレは当然の行為だ。お前が俺達をカス呼ばわりしたから殴ったので、そこに正義はある」
「若宮達チーム・赫夜を卑怯者呼ばわりしておいて、どの口が言っているんだよ」
「俺は何も間違ったことを言っていない。あんな半人前のチームが卑怯な手を使わずにチーム・ランスロットを倒せる訳がない。皆もそう思うだろう?」
『そうだそうだ!』
『会長達が負けるなんてあり得ないわ!』
『この卑怯者が!』
葉山が後ろにいる取り巻きに確認を取ると、取り巻き共は俺に罵声を浴びせてくる。
(ヤバい、結構イライラしてきた……)
自分達は悪くない、お前らは悪だ、と言う葉山とそれに便乗する取り巻き……今すぐブチ殺してやりたい。
内心ため息を吐いている時だった。
「それにシルヴィアさんもだ。お前は記者会見で怒ったが、アレも実際は『孤毒の魔女』を利用した事実を指摘されたから誤魔化すつもり「葉山」……ひっ!」
そこまで聞いた俺は葉山の距離を瞬時に詰めて葉山の頸動脈に指を突きつける。すると葉山はさっきまでの威勢は無くなり、顔を青くする。
「別にお前が俺をどう思おうと自由だがな、次に俺がオーフェリアを利用だの下らない事を言ってみろ……殺すぞ?」
「うっ……あぁぁぁぁっ……」
本気の殺意を出すと葉山はガクガク震えながら尻餅をついて倒れ込む。アレだけ大口を叩いておいてこれかよ。しかもこれで俺に勝つって……もう笑うしかねぇよ。
興醒めだ。もうここにいる理由はないし、シルヴィ達と合流するか。
「テメェらもだ。もしもまた同じような事を言って俺を怒らせてみろ。死より苦しい地獄を教えてやるよ」
『ひいっ!』
最後に葉山の取り巻き共にも殺気を出しながら警告する。それによって全員が大小差はあれどビビりだす。一部の女子なんて泡を吹いて気絶したが、知った事じゃない。
もしもこいつらが王竜星武祭に出るなら本当の地獄を、自分らがどれだけぬるま湯に居たのか身体に刻み込むつもりだ。
そんな事を考えながら俺はビビる雑魚共を放置してシルヴィ達のいる三階に行くべくエスカレーターに乗った。
(くそッ……俺が恐怖を感じる?ありえない、俺よりも弱い比企谷相手に怖がるなんてあり得ない……!きっとこれも何か卑怯な手を使ったに違いない……!つくづくふざけた奴だ。人として恥ずかしくないのか?!)
「あ、お兄ちゃんお帰り」
三階に着くと直ぐに3人を見つけた。小町の手には新しい福袋があるので入手に成功したのだろう。良かった良かった。
「八幡君大丈夫だった?その顔を見ると大体予想はつくけど何を言われたの?」
「……暴力は振るわれてない?」
「大丈夫だ。今回もムカついたのは事実だが、軽く殺気を出しながら警告したらビビって黙ったし」
あの程度でビビる癖に俺に勝つ気とは笑っちまう。葉山の身体を見る限り多少鍛えているのはわかるが、少し努力すれば誰でもなれる程の領域だ。
アレなら前回の王竜星武祭の時の俺でも瞬殺出来るだろう。あの時よりも強くなっている今なら言わずもがなだ。
「なら良いけど……お兄ちゃん、多分あの葉虫、また文句を言ってくると思うから気をつけなよ」
小町がそう言えばオーフェリアとシルヴィもコクコク頷くが同感だ。アレだけ自己中な考えを持っているのだ。今はビビっていても暫くすれば俺が卑怯な手を使ったとか喚くのが容易に想像出来る。
(マジで面倒だな……いっそ王竜星武祭で優勝したら葉山を豚箱にブチ込むように……いや、流石にそれは勿体無いな)
葉山がウザいのは事実だが、あんな奴に関する事で星武祭の優勝特典を使うのは金をドブに捨てるようなものだ。
やっぱりアイツは星武祭で叩き潰した方が良いな。イカサマと思えないやり方で。
「わかってる。それよりも福袋を買えたならパフェを食べようぜ」
元々食べる予定だったが、葉山達との邂逅でストレスが溜まったので一層食べたくなった。ストレス発散には甘いものを食べるのが一番だからな。
「あいあいさー!じゃあ行こうか!」
俺の考えを理解したからか、小町は早足で目的の店に向かう。俺も小町に付いていこうとしたらオーフェリアとシルヴィが俺の両腕に抱きついてくる。
「とりあえず八幡君が無事で良かったよ」
「……甘い物を食べてイライラを無くしましょう」
あぁ……2人の笑顔を見ると癒される。これを見れば帰ってきたという気持ちが湧き上がる。
「ああ。思い切り食べようぜ」
俺は2人の手を強く握ってゆっくり、それでありながら確実に前へと踏み出した。
絶対にこの手を離さないと強く、誰よりも強く思いながら。
「はい八幡君、あーん」
「あーん」
それから20分後、シルヴィが笑顔でパフェを差し出してくるので口を開けるとパフェが口に入り口に甘みが広がる。
「八幡八幡、あーん」
するとオーフェリアがクレープをシルヴィと同じように差し出してくる。本当にこいつら可愛過ぎか?
「あーん」
口を開けるとクレープが口に入る。そしてストロベリーと生クリームの味が広がる。
うん、ただでさえ美味いスィーツが2人のあーんによって一段と美味くなっているな。
「うわー、相変わらずバカップルだなー3人は」
一方の小町は目を腐らせながら俺達を見てくる。しかし言わせて貰いたい。俺はともかく、オーフェリアとシルヴィがこれでもかなり自重している。いつもなら口移しをしたり、飯を食う場所が個室なら膝の上に乗ってきたりするし、いつもに比べたら全然大人しいくらいだ。
そんな事を考えていると……
「小町ちゃん小町ちゃん」
「え?何ですかシルヴィ「あーん」んっ!」
シルヴィが小町の口にパフェを入れる。対する小町は驚きながらもパフェを口にする。
小町が喉がコクンと鳴らすとシルヴィがクスクスと小さく笑いながら口を開ける。
「どう?美味しい?」
「あ……は、はい」
「そっか。なら良かった」
シルヴィが小さくはにかむと小町は頬を染めて少しだけ俯く。わかるぞ小町、シルヴィのはにかむ姿は老若男女問わず魅了するからな。今は俺も慣れたが付き合う前や付き合ってばかりの頃はドキドキしまくっていたし。
(ああ……こんな光景を見ていればストレスは徐々に無くなってくるな……)
さっきまでは葉山の所為でメチャクチャストレスが溜まっていたが、最愛の恋人2人と可愛い可愛い妹の3人と一緒に甘いものを食べてからか、今の俺は殆どストレスが無くなっている。
(これであいつらと会わなかったら文句無しで最高の新年だったんだが、まあ悔やんでも仕方ないから)
そう思いながら俺は自身の頼んだパフェを3人に食べさせる。すると3人も同じように食べさせ合いをした。全部食べるのに10分以上かかったが、これはこれで悪くないひと時だったと思ったのだった。
その後小町は友達と合流したので、俺はオーフェリアとシルヴィと一緒に街を歩きながらデートした。
その時は特に知り合いとも会う事がなかったので、平和な新年デートを満喫出来たのは言うまでもないだろう。
そしてその夜にガラードワースの生徒会室にて、エリオット・フォースターの胃に穴が開いて吐血したのも言うまでもないだろう。