学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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比企谷八幡は何だかんだ面倒見が良い

「影の刃群」

 

「行って!」

 

 

板張りが広がる空間にて、俺と緑髪の少女ーーー聖ガラードワース学園序列7位『聖茨の魔女』ノエル・メスメルの声が響くと互いの足元から大量の影の刃と大量の茨が生まれてぶつかり合う。

 

すると次の瞬間、影の刃は茨を次々に斬るが、メスメルの足元からはそれを上回る量の茨が現れて影の刃に絡みつき、お返しとばかりに影の刃を次々と破壊する。

 

(こいつ……どうやら年末年始も鍛錬していたな……)

 

俺は星露の作った私塾、魎山泊でアシスタントをやっていて能力者に実戦訓練を積ませる仕事をしていて、メスメルもその一人である。

 

最後に戦ったのは2週間前だが、その時に比べて茨の再生速度と威力が増している。こいつコソ練してたな。

 

俺が再度影の刃を出すとメスメルも負けじと茨を生み出してくる。このままじゃイタチごっこだ。

 

(さあどうする?このままじゃ負けるぞ)

 

今の状況は拮抗しているが星辰力ではこっちが遥かに多い。茨の再生速度が俺の影の刃の生産速度が同じである以上、この状況が続けば俺が勝つ。向こうも冒頭の十二人である以上、何かしら手を打ってくるだろう。

 

すると……

 

「薙ぎ払って!」

 

正面にいるメスメルがそう叫ぶと茨の蔦が絡み合って巨大な鞭となる。そして鞭がしなりを上げて振るわれると影の刃が次々と破壊されていく。

 

(茨を凝縮して破壊力を上げたのか……面白い)

 

そう思いながら全身に星辰力を込める。こうなった以上、影の刃だけで戦っていたら負けるのは時間の問題だ。たとえ訓練とはいえ勝ちを譲るつもりは毛頭ない。

 

だから俺は……

 

「纏えーーー影狼修羅鎧」

 

全身に狼を模した巨大な鎧を纏わせる。魎山泊では壁を超えた者達相手に勝てる可能性を見出す場所。そしてこれを纏った時の俺は壁を超えた者と星露に言われている。

 

別に鎧を纏わなくても勝ち目はあるが、今のメスメルがどれだけやれるか興味を持ったので少し本気を出す方針にした。

 

鎧を纏うと同時に茨の鞭が影の刃を全て破壊して、再度しなりを上げて俺に襲いかかる。

 

「おおっ……」

 

そして鞭が俺の鳩尾に叩き込まれると、腹に僅かながら衝撃が走り、少しだけ後ろに後退する。

 

「良い攻撃だ。だか……まだまだ足りないな」

 

言いながら鎧にぶつかってから引き戻そうとする茨の鞭を捕まえて……

 

ブチィッ!

 

 

そのまま力づくで引きちぎる。茨を掴んだ事で鎧の腕の部分に小さな穴が沢山出来るが直ぐに再生する。

 

「嘘っ……」

 

それを見たメスメルは呆然と立ち尽くすが、戦闘中にそれは悪手だ。どうやら能力の向上はしてもメンタルトレーニングは余りしてないようだ。

 

そんな隙を逃すはずもなく、俺は足に星辰力を込めてメスメルとの距離を詰めにかかる。するとメスメルはハッとした表情になり足元から茨を出す。しかし、

 

「残念ながら一歩遅いなぁ」

 

茨が増殖する前に茨の発生源を全力で踏みつける。次の瞬間、足元から衝撃波が走り……

 

 

 

「きゃぁぁぁっ!」

 

その衝撃にメスメルが吹き飛ぶ。直に食らった訳ではないのでダメージは小さいが、体勢を崩しているのでさっき以上に隙だらけだ。

 

俺は更に一方踏み出して、メスメルに拳を突きつける。これが星武祭なら殴り飛ばしているが、鍛錬の途中に後遺症が残る可能性のある一撃を放つつもりはない。

 

「そこまでじゃ。八幡は鎧を解除せい」

 

すると今まで無言で俺達の試合を見ていた魎山泊の塾長の星露がそう言ったので俺は鎧を解除した。

 

 

 

 

 

 

「くくくっ。新年最初の魎山泊じゃが、中々良かったのう」

 

模擬戦を済ませて一息吐くと星露は楽しそうに笑いながら、オーフェリアが作ってくれたレモンの蜂蜜漬けを食べる。これはガチで美味くて、俺や星露だけでなく俺が鍛えているワインバーグとメスメルからも好評だ。

 

「そいつは良かった。と言っても色々反省する点はあるがな」

 

「あ、あぅぅ……」

 

俺がそう呟くとメスメルは小さい身体を縮こまらせながら俯く。今更だがこいつ、小町や若宮とは違ったタイプ妹属性があるな。

 

「うむ。八幡の影狼修羅鎧によって現時点でノエルの最強の技を防がれた際、ノエルは動きを止めたがそれは駄目じゃ。壁を超えた者達は僅かな隙を容易く突くことが可能じゃからのう」

 

「は、はい……」

 

星露の指摘にメスメルは小さく頷く。まあ戦闘、特に格上との相手との戦いにおいて隙を見せるのは厳禁だ。寧ろこちらが相手の隙を探して突かないといけないのに、相手に隙を見せちゃ勝率は著しく下がるだろう。

 

「ま、その辺りは実戦経験を積むしかないだろ?」

 

「うむ。そういう訳で今から『pipipi』……なんじゃ空気の読まぬ連中じゃ」

 

星露がなにかを言おうとしたが、その前に端末が鳴り出して、星露は明らかに面倒そうな表情を浮かべる。

 

「どうした?なんか用事か?」

 

「上から呼び出しを受けて少々な。居留守を使いたいのは山々じゃが、そうはいかん」

 

上とは十中八九統合企業財体辺りだろう。星露の立場ならスルーしても大丈夫だが、何かしらの理由があって参加するのだろう

 

「そういう訳で儂は今から界龍に戻るので今日はここまでじゃ。ノエルがもう少し自主練を続けたいなら八幡に頼むと良い。ではのう」

 

星露はそう言うと俺達の目の前から消える。普通ならあり得ない現象だが、星露なら何でもありとわかっているので気にしない。

 

(しっかし今日は星露との戦いがなくて良かったな)

 

俺が参加する魎山泊の流れは……

 

①星露がメスメル(ワインバーグ)と戦う

 

②反省会

 

③俺がメスメル(ワインバーグ)と戦って反省会で学んだ事を試すなどして経験を積ませる

 

④反省会

 

って感じだ。

 

しかしその後に俺は本気の星露に戦いを挑まれて戦うことになる。本気の星露との戦いは間違いなく俺の糧になっているだろう。

 

しかし奴の一撃は全て途轍もない破壊力があり、戦いが終わると全身に激痛がやってきて地獄で、ぶっちゃけキツ過ぎる。偶に逃げたいと思ってしまう位に。

 

「(まあ今日はやらないし、その分メスメルの鍛錬に付き合うか)……んでどうする?今日は時間に余裕があるがもう一戦やるか?」

 

メスメルは星露との鍛錬で多少ダメージを受けているが、さっきの試合で俺は影狼修羅鎧による一撃をメスメルに直接は当てていないので戦えるだろう。

 

「じゃ、じゃあ後一戦お願い、します……」

 

身を縮こまらせながらもヤル気に満ちた表情でそう言ってくる。

 

「わかった。じゃあレモンを食ったらやるぞ」

 

「は、はい。それと……比企谷さんに謝りたいことがあるのですが、良いですか?」

 

「は?謝りたいこと?」

 

メスメルに謝られるなんて意味がわからん。俺別にメスメルに迷惑をかけられた記憶もないし、何を言ってんだ?

 

「えっと……年末年始にウチの学園の葉山さんのグループが……」

 

「あー、アレな。その件なら既にお前んとこの会長と手打ちにしたから問題ねぇよ」

 

年末では葉山が俺を殴ったのでフォースターが俺に詫びをして、年始には俺が葉山グループに殺気を飛ばしたので俺がフォースターに詫びを入れた。それによってこの二件は手打ちにしたのでメスメルが謝罪をする必要はない。

 

「いえ、私も生徒会の人間ですから謝る義務はあります」

 

「頭の固い奴だな……ガラードワースの人間がレヴォルフの人間に謝るなんて前代未聞だろ?」

 

「それを言ったらレヴォルフの人間がガラードワースの人間に謝る方が前代未聞ですからね?」

 

あー、まあ柄の悪いレヴォルフの人間がガラードワースに謝る方があり得ない事だろう。しかし俺は葉山グループはともかく、ガラードワースそのものに敵対意識を抱いている訳ではない。頭が固い連中が多いとは思っていても悪感情は抱いてないしな。

 

「まあそうかもな。それよりそっちは大丈夫なのか?フォースターの奴、葉山の序列を剥奪したから揉めてるんじゃね?」

 

「……はい。私はお兄ちゃ……んんっ!会長の判断は間違ってないと思いますが、葉山さんのグループは納得してないようで校内で反対運動を起こしていて……」

 

うわぁっ……そりゃ生徒会のメンバーからしたら面倒極まりないな。大衆の意見って数が揃うと面倒な事になるし。

 

てかメスメルの奴、フォースターの事をお兄ちゃん呼びしようとして慌てて訂正したな。誤魔化したつもりだが顔が真っ赤だ。

 

しかしフォースターをお兄ちゃん呼びか。これはメスメルが勝手に呼んでいるのか、フォースターがメスメルにお兄ちゃん呼びをするように頼んだのか?

 

後者ならフォースターの奴、中々良い趣味をしてるな。メスメルって小さくて甘えん坊属性を持った小動物系女子だし、そんな女子にお兄ちゃん呼びを……ん?!

 

ーーーじゃあ三上、俺が勝ったら今後はお兄ちゃんと呼んでくれーーー

 

ーーーえぇぇぇぇっ?!ーーー

 

 

するといきなり不思議な光景が浮かぶ。

 

(何だこりゃ?俺が知らない可愛い女子にお兄ちゃん呼びを頼む光景が浮かんだだと?)

 

その時の俺の格好はレヴォルフの制服ではなくジャージに近い服装をしていたが、あんな服を俺は持っていない。

 

てか三上って誰だよ?俺の知り合いに三上って女子は居ないぞ。しかし三上の服装は総武の制服だが、中学の時の知り合いか?

 

そこまで考えているといきなり肩に何かが触る感触がしたので顔を上げると……

 

「あの、比企谷さん……いきなり黙って大丈夫ですか?」

 

「ん?いやすまん。少しボケっとしてた」

 

とりあえずさっき頭に浮かんだ事は忘れよう。なんだが知らないが忘れないと、俺が妹属性を持った女子にお兄ちゃん呼びをするように頼んでしまうかもしれない。そんな事をしたら問答無用でオーフェリアとシルヴィにぶっ殺される。

 

「それで反対運動ってそんなにヤバいのか?」

 

「そうですね……その、言い難いですけど、比企谷さんってガラードワースでは最悪の評価で……あ!いや、私は比企谷さんは優しいと思いますよ……!私を強くしてくれたり、相談に乗ってくれますし……!」

 

メスメルは慌てながらそう言ってくるが俺は……

 

「気にすんな。ガラードワースの大半の生徒からしたら当然の反応だ」

 

俺の事を挙げるとするなら……

 

①ガラードワースと折り合いが悪いレヴォルフの生徒会長

 

②世界の歌姫と付き合っていて、それでありながら二股をかけている男

 

③ガラードワースの前生徒会メンバーとそれなりに良好な関係を築いている男

 

④ガラードワースの代表のチーム・ランスロットとチーム・トリスタンを倒したチーム・赫夜の指導員

 

こんなところだろう。

 

ガラードワースの人からしたら不倶戴天の怨敵と思われても仕方ないくらいだ。フェアクロフさんとかのファンに刺されないか心配だ。

 

「で、ガラードワースでメチャクチャ俺が嫌われてるから、葉山はそれを利用して反対運動のメンバーを増やしている、と?」

 

俺がそう尋ねるとメスメルは小さく頷く。葉山の奴、世間で嫌われている俺の存在を使って自分のグループの勢力を拡大して、序列を取り戻す算段か?

 

だとしたら中々面白い手段だ。世間の意見ってのは案外馬鹿に出来ないからな。もしかしたら上手く行くかもしれないだろう。

 

しかし俺からしたら馬鹿の一言だ。そんな事をしている暇があるなら修行の一つをしろよ。俺に勝つとか言っといて自分のグループの拡大……葉山の奴、本気で俺より強いと思ってるな。俺に殺気を向けられてビビった奴がそんな余裕を持つとは、呆れを通し越して哀れすぎるわ。

 

ともあれ……

 

「そうか。じゃあ俺もそいつらと会わないように注意しておく。今までの経験上、会うと互いに面倒な事になるからな」

 

「……すみません。比企谷さんは卑怯な事をしていないのに……ですが気をつけてくださいね」

 

メスメルがそう言ってくる。普通に考えたらガラードワースの生徒が闇討ちをしてくるとは考え難いが、葉山の前例があるから可能性はゼロではない。

 

「ああ。俺にしろフォースターにしろ生徒会長になったばかりだし、これ以上の面倒は避けたいからな」

 

単にディルクから権力を奪うために生徒会長になった俺はともかく、フォースターは学園の為、そして将来統合企業財体に入る為に生徒会長になった。しかし会長に就任したばかりに余計な問題に関わるのは本来の仕事に差し障るだろう。

 

「はい……ただでさえお兄ち……会長はフェアクロフ先輩と比べられて大変だから……」

 

「だろうな。てかメスメルよ、もうお前がフォースターをお兄ちゃん呼びするのはわかったから取り繕わなくても良いぞ?」

 

「ふぇっ?!」

 

いや、そんな風に驚かれても……寧ろ今までのやり取りで誤魔化せると思っているのか?

 

「……まあ良い。とりあえず今後は奴らとの接触は避けるようにする……というわけでそろそろ休憩は終わりだな」

 

話していたら時間は大分経っている。休憩時間としては多過ぎだろう。

 

「っ……は、はい」

 

メスメルもそれを理解したのか立ち上がってから握り拳を作り、ヤル気に満ちた表情を浮かべる。

 

新年に迷惑をかけた詫びとして今日くらいはトコトン付き合ってやるつもりだ。

 

そう思いながら俺は距離をとって、自身の影に星辰力を込めて影の刃を生み出すと、メスメルも同じように足元から大量の茨を生み出して俺に放ってきた。

 

互いの攻撃がぶつかり周囲に衝撃が走り出すと俺は距離を詰めてメスメルに蹴りを放つ。

 

さてさて……しっかりと反応してくれよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後俺はメスメルと計4回戦った。結果は俺の全勝だが、最後の一戦は影狼修羅鎧を纏った俺にある程度対処出来たので悪くない結果だろう。

 

 

しかし3戦目では勝敗が決まった後に俺が茨に躓いてメスメルを押し倒して床ドンをしてしまった。

 

それに対してメスメルは顔を赤くしながらも許してくれたが、家に帰ると何故かオーフェリアとシルヴィにラッキースケベをした事がバレた。

 

その夜、二人には干からびるまで搾り取られたが、何故二人は俺に関することでは勘が良いのだろうか?

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