学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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なんだかんだ比企谷八幡はチョコを貰う(中編)

2月14日バレンタイン。男にとっても女にとっても勝負の日であるだろう。

 

男はチョコを貰えるかどうかを、女は意中の彼にチョコを渡せるかなど様々な思いがある。まあ俺は恋人2人から貰えるからそこまで重要なイベントではないけど。

 

しかし渡してくれる女子がいるなら放置する訳にはいかない。

 

 

 

 

「思ったよりワインバーグと話してしまった。待ち合わせの時間には間に合うとは思うがギリギリだな……」

 

俺は影の竜に乗ってアスタリスク上空を飛んでいる。行き先は可愛い可愛い妹が通う星導館学園。妹がチョコをくれると言うので向かっているのだが、その前に俺にチョコをくれたワインバーグと少し話し過ぎたので時間はギリギリだ。

 

(まあ話すと言っても殆どワインバーグの愚痴を聞いていただけどな……っと、もう着いたか)

 

そんな事を考えているといつのまにか星導館の近くに着いていたので、下を見ると校門の前にアホ毛を生やした可愛い可愛い妹と薔薇色の美しい髪を持つ王女様ーーーリースフェルトがこちらを見上げているのが見えた。

 

同時に俺は影の竜を消して地面に飛び降りる。普通の人間なら死ぬが星脈世代の人間なら問題なく飛び降りれる高さだ。

 

重量に従って地面に向かった俺は、足が地面に着く直前に星辰力を込めて……

 

「よっと」

 

轟音を生み出しながら地面に着地する。その際に足元の舗装された道路が若干壊れたが気にしない。アスタリスクでは街中でも決闘が割と盛んで道路が壊れるなんて日常茶飯事だし。

 

「いやー、お兄ちゃん目立つのは嫌いとか言っといて随分とダイナミックな登場だねー」

 

そんな事を考えていると、小町とリースフェルトが呆れた表情でこちらに寄ってくる。

 

「したくてした訳じゃねぇよ。お前らと会おうとしたら知り合いに捕まって遅刻しそうだったから飛ばして来たんだよ。つーかオーフェリアとシルヴィの2人と付き合ってるのがバレた時点で目立たないようにするのは諦めたわ」

 

今俺は冗談抜きで世界で最も有名な人間だと思う。それこそ世界の歌姫と呼ばれるシルヴィよりも。何せそのシルヴィと世界最強の魔女であるオーフェリア相手に二股をかけているのだから。

 

もちろん悪い意味でだがな。これで良い意味として有名ならこの世界は間違いなく世紀末だ。

 

「まあそれもそっか。それよりも、はいチョコレート」

 

小町が可愛らしくラッピングしたチョコレートを渡してくる。

 

「サンキュー、愛してるぜ小町」

 

「小町はそうでもないけどありがとう」

 

酷え……そこは嘘でも愛してるって返して欲しかった。

 

「どんな返しだ……まあ良い。私からも……ほら」

 

リースフェルトが呆れた表情を浮かべながらチョコレートを渡してくる。

 

「サンキューな。お前のチョコは美味いから楽しみだぜ」

 

去年のバレンタインでもリースフェルトから貰ったが、去年貰ったチョコの中ではトップクラスの味だったし。

 

「いや……お前にはオーフェリアやフローラ、孤児院の件など沢山の恩があるからな。このくらい安いものだ」

 

「またそれか……前にも言ったがそれは俺がやりたいから、俺の目的の為にやったんで礼を言われることじゃねぇよ」

 

「ならばこう言わせて貰おう。チョコを渡すのは私がやりたいからやったのだ」

 

勝気な笑みを浮かべながらそう言ってくる。そう言われたら返せないなぁ……

 

「はいよ。じゃあそうしておく」

 

言いながらチョコをカバンに仕舞おうとするが、その前に突風が吹いて前に貰ったチョコがカバンから飛び出す。俺が慌てて掴んでカバンに仕舞うと小町が興奮しながら詰め寄ってくる。

 

「お兄ちゃんお兄ちゃん!随分チョコが見えたけど誰から貰ったの?!」

 

目をキラキラしながらそんな質問をするな。正直余り答えたくないが今の小町は聞いてくれなそうだし、答えるか。

 

「生徒会の女子3人とチーム・赫夜の5人、後は魎山泊で俺が指導している女子が1人、計9人から貰ったな」

 

それに加えて今小町とリースフェルトから2個貰い、帰ったら恋人2人から貰えるので最低でも13個貰えるのは絶対だ。

 

「ほうほう……随分とモテモテですなー」

 

「魎山泊……やはり私以外にも能力者がいるのか?」

 

2人が全く違う言葉を口にする。てか小町の口調が親父口調でムカつく……

 

「まあな。そういやリースフェルトは星露の奴から俺との実戦訓練の話を聞いてないのか?」

 

俺の仕事は能力者の生徒に実戦経験を積ませること。リースフェルトも能力者である以上、星露から俺の話を聞いていてもおかしくないだろう。

 

「聞いてはいたが、断らせて貰った。……あ、いや、お前の教えが優秀なのは獅鷲星武祭前の訓練で知ってはいるが、切り札を晒したくないのでな」

 

「ほう……そこまで言うには相当な切り札を持っているのだろうな」

 

「ああ。当たりさえすれば万全の状態のオーフェリアでも倒せる自信がある」

 

リースフェルトの言葉からは強い自信がある。俺の直感では恐らくこれは嘘ではないと思う。

 

「へー……じゃあ王竜星武祭でユリス先輩と当たったら使われる前に仕留めないといけないですね」

 

「やってみろ。そう簡単に勝利を譲るつもりはない」

 

小町とリースフェルトが不敵な笑みを浮かべながらプレッシャーを出している。互いに魎山泊に参加している者同士色々あるのだろう。

 

だがそうは行かない。優勝するのは俺だ。昔ならともかく、今の俺は星露に毒されて大分戦闘狂になっている。

 

小町にしろリースフェルトにしろ、シルヴィが相手でも譲るつもりはないし、もしもオーフェリアが出る場合でも全力で勝ちに行くつもりだ。

 

そこまで考えている時だった。

 

 

pipipi……

 

俺のポケットから端末が鳴り出す。またか、今日は何度も来るな。電話の相手を確認するべく、端末を取り出すと『ノエル・メスメル』と表示されている。

 

それを確認した俺は目の前にいる2人に話しかける。

 

「悪い。電話をするから影に潜る」

 

言いながら自身の肉体を影に入れる。馬鹿正直に電話に出たらメスメルも魎山泊の人間とバレて、星露に対する義理を欠くからな。

 

「もしもし?」

 

『あ、比企谷さん。こんにちわ』

 

空間ウィンドウに映るメスメルは電話越しにもかかわらず丁寧に頭を下げてくる。

 

「(ちょっと気は弱いが本当に良い子なんだよなぁ……)ああ、こんにちわ。それで今日はどうしたんだ?」

 

だから俺も思わず挨拶を返す。

 

何事にも公平なフェアクロフさんもガラードワースの鑑だが、礼儀正しいメスメルも負けていないと思う。だから俺もつい鍛錬以外の事でも気にかけてしまうんだよなぁ……

 

(つーか葉山とかはメスメルの爪の垢を煎じて飲めよ、マジで)

 

てか葉山グループはレヴォルフでも通用すると思う。フェアクロフさんを崇拝するのは自由だが、若宮達に理不尽な言いがかりをつけないで欲しい。

 

閑話休題……

 

ガラードワースの一部の人間に毒づいていると空間ウィンドウに映るメスメルが頬を染めてから口を開ける。

 

「じ、実は私……日頃私の面倒を見てくれる比企谷さんに、バレンタインチョコを作ったのですけど……渡す時間はあるでしょうか?」

 

なにこの子、可愛過ぎだろ?こんな子にお兄ちゃん呼びされているフォースターが羨ましい。次の六花園会議で弄り倒してやろうっと。

 

「時間は問題ないが、場所はガラードワースから離れた場所にしてくれ」

 

今の俺はガラードワースの大半の人に嫌われているからな。小町やリースフェルトの時みたいに校門前に集合したら間違いなくイチャモンをつけられるだろうし、学園におけるメスメルの評価も下がるだろうし、可能ならガラードワース学園から離れた場所でチョコを受け取りたいのが本音だ。

 

『は、はい。では30分後に中央区のシリウスドーム前でどうですか?』

 

シリウスドームか。レヴォルフとガラードワースのちょうど真ん中にある場所を選んだろう。しかし……

 

「悪いが俺は今星導館の前にいるからプロキオンドーム前にしないか」

 

プロキオンドームは星導館とガラードワースの真ん中にあるステージだ。今日のプロキオンドームでは公式序列戦やライブとかもないので、人もそこまでいないだろう。

 

『わ、わかりました。では30分後にプロキオンドームの第1ゲート付近にあるラウンジでどうですか?』

 

「それなら構わない。じゃあまたな」

 

『は、はい。失礼します』

 

メスメルは最後に一礼してから通話を切る。最後まで礼儀正しい奴だなぁ……

 

そんな事を考えながら地上に戻ると、小町とリースフェルトが不思議そうな表情を浮かべて見ていた。

 

「お兄ちゃん、今の電話誰から?わざわざ影に潜って電話をするって怪しいよ?」

 

まあ普通に考えたらそうだよな。

 

「あー……実は魎山泊の人間から来たんだよ。そしつの身元をバレないように影に潜ったんで、危険な相手じゃないからな?」

 

「そうなんだ……あ!今日電話したって事はもしかしてバレンタイン関係?!」

 

「……まあそんな所だ」

 

「ヒャッハー!お兄ちゃんモテモテェェェェッ!小町ポイントカンス痛ったぁぁぁぁぁぁっ!舌っ!舌噛んだっ!痛いよお兄ちゃんっ!」

 

小町の奴、狂喜乱舞したかと思えば舌を噛んで悶絶し始めた。我が妹ながら残念過ぎる……

 

「……とりあえず保健室に行ってこい。リースフェルト、済まんが引率を頼む」

 

「……わかった。ほら、行くぞ」

 

「うぅぅぅ……」

 

思いっきり呆れた表情を浮かべるリースフェルトが小町を連れて星導館の学内に入って行った。マジで不憫過ぎるな……

 

 

そんな事を考えながら俺は2人が見えなくなるまで見送った。そして2人が見えなくなると同時に星導館とガラードワースの真ん中にあるプロキオンドームに向かって走り出す。プロキオンドームは走って10分ちょいなので影の竜を使わなくても大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

 

それから15分後、プロキオンドームに着いた俺は第1ゲートに入りラウンジに向かう。するとそこには待ち合わせの約束をしたメスメルと……

 

 

「何でブランシャ……オカンもここにいるんだ?」

 

そこにはガラードワースの前副会長のレティシア・ブランシャールことオカンがいた。

 

「何故本名を言おうとしてオカンに変えたのですの?!久々に会いましたが、私をからかうのは止めてくださいまし!」

 

するとオカンが顔を真っ赤にしながらキレて、テーブルを叩く。

 

「落ち着けよオカ……ブランシャール。そんなに怒っちゃメスメルがビビってるぞ」

 

見ればメスメルはビビった表情を浮かべている。

 

「誰のせいだと思っていますの?!」

 

「え?俺だろ」

 

「〜〜〜っ!」

 

ブランシャールが真っ赤になって震えだす。やはりこいつもからかい甲斐があるな。

 

「悪かったよ。で?話を戻すが何でお前もいるんだ?」

 

メスメルがいるのは当然だが、ブランシャールがいるのは完全に予想外だ。

 

「そこで直ぐに本題に戻すのは腹立たしいですわね……!まあ良いですわ。話を戻しますと比企谷八幡、貴方は魎山泊とかいう私塾でノエルを鍛えていますのね?」

 

「あん?それについては事実だが、もう魎山泊についてバレたのか?」

 

「ええ。しかしそれはウチだけでなく他の学園もでしょう。……まあ万有天羅だけでなく貴方も指導員の人というのを知る人は殆ど居ないでしょうけど」

 

「だろうな。で?何で俺が指導員ってわかったんだ?」

 

メスメルがバラしたとは思えないし、寧ろ俺の立場をどうやって知ったか気になってしょうがない。

 

「ええ。実は先週、食堂で昼食をとろうとしたら、ノエルが居たので話しかけようとしたら、ノエルが自分と貴方と戦っている記録を見ていたので事情を聞いたら……って感じですわ」

 

「メスメルェ……飯を食うときにも学ぼうとする心意気は認めるが、場所を選べ」

 

俺とそれなりに交流のあるブランシャールだったから良かったが、俺に敵意を抱くクラスメイトとかだったらマズイ事になっていたぞ。

 

とかお前はドジっ子属性も持ってんのかよ?つくづく思うが色々な意味で凄い奴だ。

 

「あぅぅ……ご、ごめんなさいっ」

 

呆れながらメスメルを注意すると、身を縮こまらせながら謝ってくる。その姿は小さな子供が謝るように見えて怒る気力を失わらせてくる。

 

「……まあ良い。それでオカンシャールはそれの確認に来たのか?」

 

「何ですのその呼び方は?!」

 

あん?オカンとブランシャールを合わせただけだ。

 

「気にすんな。それと俺は星露に恩義があるから協力しているだけで、メスメルを潰すつもりも利用するつもりも手を出すつもりもないから安心しろ」

 

「気にしますわよ!……まあ、貴方がなにかを企んでいるとは思わないですので、その辺りは信頼してますわ」

 

「そりゃどうも。んじゃそろそろ本題に戻ろうぜ。これ以上話を脱線していたらオカンシャールを弄りたくなる」

 

「張っ倒しますわよ!オカンシャール呼びは止めてくださいまし!」

 

真っ赤になって詰め寄ってくる。いかん、少々からかい過ぎたようだ。これ以上はやめておくか。

 

「わかったよ。止めるから離れろブランシャール」

 

そう言いながらブランシャールを座らせてメスメルを見る。するとメスメルが顔を真っ赤にしながらもカバンからチョコを出して……

 

「ど、どうぞ……いつも私を鍛えたり、相談に乗ってくれて、あ、ありがとうございましゅっ!」

 

………最後に噛んだ。

 

 

「うぅ……」

 

そして真っ赤なって俯く。マジでこいつは癒しだな。ガラードワースの大半の人間は嫌いだが、メスメルを見ているとその間は負の感情が出てこない。

 

からかいたいのは山々だが、ブランシャールと違って泣いてしまう可能性があるので止めておこう。

 

「……どういたしまして。チョコはありがたくいただく」

 

それだけ言ってチョコをカバンにしまう。するとオカンシャール改めブランシャールも鞄に手を入れて俺にチョコを渡してくる。

 

「え?お前もくれんのか?」

 

「ノエルーーー私の後任を鍛えてくれたり、ソフィアさんも貴方にはお世話になっているようですから……言っておきますが義理ですので!」

 

言いながら突きつけるようにチョコを渡してくる。んなもんハッキリ言わなくてもわかるからな?

 

「わかってるよ。とりあえずありがとな」

 

なんにせよチョコを貰ったので礼をするべきだろう。感謝感謝。

 

その時だった。

 

 

 

 

pipipi……

 

俺のポケットにある端末が鳴り出す。またか……これで何度目だ?またチョコ関係だろうな。

 

そう思いながら端末を取り出すと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『fromオーフェリア 八幡、私とシルヴィアのチョコの準備が出来たわから仕事が終わり次第帰ってきて。それと玄関に着いたら鍵を使わないでインターフォンを使って』

 

オーフェリアからそんなメールがやってきた。瞬間、俺の中に圧倒的な喜びの感情が生まれてくる。

 

 

 

 

 

 

 

(そうか。いよいよか……)

 

鏡を見ているわけではないのでこの時の俺がどんな表情を浮かべているのかはわからないが、俺の中には心の底から笑っているという確信があった。

 

 


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