学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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比企谷八幡は学園祭に備えて動く

「……という感じで今年は去年と違って合同企画はないので、学園同士ではそこまで細かい連絡は必要としないでしょう」

 

アスタリスク中央区にあるホテル・エルナト。そこの最上階にて俺は進行役であるガラードワースの生徒会長のエリオット・フォースターの話を聞いている。

 

今俺は1ヶ月に一度ある六花園会議に参加している。議題は来月に行われる学園祭についての打ち合わせである。とはいえ今フォースターが言ったように今回は去年のグラン・コロッセオみたいに合同企画はないのでそこまで綿密な打ち合わせはない。

 

「ですが、昨年はシリウスドームで刃傷沙汰が起こったこともあるので警備隊の数を増やしています。皆様が学園から派遣する風紀委員には警備隊と綿密に連絡を徹底するようお願いします」

 

フォースターがそこまで言うと、この場にいる俺以外の5人の生徒会長が俺をガン見してくる。

 

「おい。いくら刃傷沙汰に巻き込まれたとはいえ、見世物じゃないんだしそんなに見るな」

 

5人の気持ちはわからんでもない。ただでさえ学園祭中にシリウスドームで刃傷沙汰が起こるなんて前代未聞だってのに、事件に巻き込まれた張本人ーーー俺がこの場にいるのだし。

 

しかしだからと言ってガン見されるのは趣味じゃない。まあそんな趣味を持つ奴がいるとは思えないが。

 

「あっ、失礼しました……それで本題に戻しますと、警備隊からも各学園での警備の強化を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

それから30分後…….

 

「……では今回の六花園会議はこれで終わりたいと思いますが、質問はありますか?」

 

フォースターが確認するが、全員手を挙げないので今回はこれで終わりだ。同時に全員が立ち上がり出口にと向かう。

 

「八幡君、会議も終わったしご飯食べに行こうよ?」

 

すると恋人のシルヴィが俺に抱きつきながら言ってくる。外食か……今日もう1人の恋人のオーフェリアは小町と遊びに行っていて家に帰っても飯は無いし……

 

「わかった。良いぞ」

 

偶にはシルヴィと2人で食うのも悪くないだろう。

 

「えへへー、ありがとう。八幡君大好き……」

 

シルヴィは幸せオーラを撒き散らしながら俺に甘えてくる。俺もお前に甘えられて幸せだが、他の会長4人がガン見しているから甘え過ぎはやめてくれ。てかフォースターに至っては胃薬を飲んでいるし。

 

(前にメスメルから聞いたが、マジでヤバそうだな……)

 

今のガラードワースでは生徒の3割近くが葉山グループ……俺を否定するグループらしく、そのグループの俺の否定運動でフォースターの胃がヤバいとメスメルから聞いた。

 

しかもこの前は俺がプロキオンドームでメスメルとブランシャールにホワイトデーのお返しを渡した所を葉山グループの人間に偶然見られたらしく、一時期はガラードワースで騒動が起こりフォースターの胃に穴が開いたらしい。

 

(マジで済まん。胃に穴が開いた理由は間違いなく俺と葉山だ)

 

フォースターの胃に穴を作るような行為をしているのは葉山だが、その原因は俺に対する逆恨み。俺もフォースターの胃痛の要因の一つだろう。

 

「(会議が終わってからメスメルのお兄ちゃんネタで弄ろうと思ったがやめたほうが良いな)……はいはい。そんじゃ飯を食いに行こうぜ」

 

言いながら俺はシルヴィを連れて早歩きで屋上庭園を後にする。やれやれ……俺もフォースターに比べたら大したことはないが胃薬を買っとくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にしても今年は平和だが、面倒だな……」

 

ホテル・エルナトの近くにある中華料理店にて、俺は北京ダックを食いながら思わず愚痴る。

 

「クインヴェールの生徒会は学園祭で仕事は殆どないから面倒ではないけど、1日しか八幡君とオーフェリアと遊べないなんて寂しいな……」

 

向かいに座るシルヴィは麻婆豆腐を食べながら寂しそうに呟く。シルヴィの言う通り、今年の俺とオーフェリアは生徒会の人間だ。レヴォルフの生徒会はクインヴェールの生徒会と違ってお飾りではないので、それなりに仕事がある。

 

まあガラードワースとか星導館に比べたらマシなので1日だけオーフェリアとシルヴィの2人とデートする時間は作れたけど。

 

「それは言っても仕方ない事だ。チーム・赫夜辺りを誘ったらどうだ?」

 

「うーん……じゃあ3日ある内の1日はそうしようかな。残り2日の内、1日は八幡君とオーフェリアとデート。残りの1日は……あ!じゃあレヴォルフの生徒会室に遊びに行こうかな?」

 

とんでもない事を言ってきたよ。普通他所の学園の生徒を生徒会室に入れる訳ない……

 

(いや、去年俺とオーフェリアとシルヴィはガラードワースの生徒会室でお茶を飲んだな)

 

葉山と一色の件について謝罪しに来たが、生徒会室に入れたのは予想外だったな。

 

「それは別に構わないが、仕事をやっているからつまらないぞ?」

 

「そうだよね……はぁ」

 

シルヴィは寂しそうにため息を吐くが、こればかりは仕方ない。仕方ないが……何とかしてやりたいな。

 

「じゃあシルヴィ、学園祭最終日にある後夜祭のダンスパーティで一緒に踊らないか?」

 

アスタリスク中央区にあるホテルでは、学園祭最終日に後夜祭がありダンスパーティもある。去年は左手首を切り落とされて参加出来なかったけど。

 

しかし今年は平和だろうし、生徒会長の俺がお偉いさんに挨拶をする為に後夜祭に参加するのは問題ないだろう。その後にシルヴィとオーフェリアと一緒に踊ったとしても違和感は無いはずだ。

 

「え?……あ、うん。もちろん良いよ。去年は一緒に踊れなかったし」

 

するとシルヴィは笑顔になって俺の提案を受ける。ああ、本当に可愛いなぁ……

 

しかしダンスか……誘っといてアレだがダンスの経験は全くない。小学校の時にフォークダンスをやったが、俺と組んだ女子が「別に手を繋がなくて良いよね?」とか言って、俺はエアオクラホマミキサーをやったし。

 

そんな事を考えている時だった。

 

「……八幡にシルヴィア?」

 

「あ、本当だ。奇遇だね」

 

そんな声が聞こえてきたので振り向くと、もう1人の恋人のオーフェリアと可愛い妹の小町がいた。アスタリスクには飯屋が無数にあるが、まさか偶然会うとは完全に予想外だ。

 

俺とシルヴィが驚いていると、オーフェリアが店員さんに話しかけて、こちらに向かってくる。

 

「一緒の席でも良いかしら?」

 

「もちろん」

 

可愛い恋人と可愛い妹が追加されるのだ。普通にOKだ。寧ろOK以外の返事なんてあり得ないまでである。

 

俺がそう返すと2人は礼を言って椅子に座って料理を注文する。

 

「そういえばお兄ちゃん。今日は六花園会議だったみたいだけど、何を話したの?」

 

「ん?学園祭に備えた話。基本的には学園外の組織……警備隊や六花施政庁との繋がりについての確認とかだな。今年は合同企画はないし、学園同士のトラブルは幾らかマシになるだろうから一般客とのトラブルに対する注意とかもあったな」

 

「ふーん。ところでお兄ちゃんは学園祭でデート出来るの?」

 

「1日だけな。ちなみにデートするなら何処が良いと思う?」

 

「うーん……小町は彼氏がいないからわからないや。とりあえずガラードワースに行く時は変装をした方が良いよ。お兄ちゃんガラードワースに凄く嫌われてるし」

 

それが小町の意見か。てか俺がガラードワースの生徒に嫌われているのは星導館でも有名なのか?

 

「じゃあクインヴェールでまたミスコンに参加し「それだけは勘弁してくれ」あはは……流石に冗談だよ」

 

シルヴィが笑いながらとんでもない提案をしてくるので慌てて止める。あんな黒歴史を再度生み出すなんて絶対に嫌だ。去年はギリギリバレなかったが、またバレない保証はないのだから。

 

「まあ小町としてもそれは止めて欲しいですね。ただでさえ学校でお兄ちゃんに関する質問をされまくっているのに、これ以上質問の嵐に巻き込まれるのは勘弁して欲しいです」

 

小町が目を腐らせながらそう言ってくる。やはり俺の妹だけあって、俺達3人に関する質問はされているようだ。俺達3人の関係については否定するつもりはないが、少々申し訳なく思ってしまうな。

 

「元々出るつもりはないから安心しろ。つーか小町はどこか行きたいのはあるのか?」

 

「小町は界龍のバトルイベントには出るかな?今の小町の実力がどれくらいか確かめたいし、場合によっては商品も貰えるし」

 

「バトルイベント……八幡が武暁彗と、私が雪ノ下陽乃と戦ったイベントね」

 

「お前の場合は戦いじゃなくて蹂躙だったけどな」

 

俺はともかく、オーフェリアのアレは戦いではない。一方的な蹂躙以外の何物でもない。

 

「あはは……あ、でも美奈兎ちゃんも腕試しをするつもり満々だったし見てみたいな」

 

「そういや俺が見ている魎山泊の生徒も出る事を考えていたな」

 

特にワインバーグ。自分がどこまで通用するか試してみたいとか言っていたな。

 

「そうなんだ。ところでお兄ちゃんは出るの?」

 

「微妙だな……」

 

星露と戦う場合影神の終焉神装を出さないといけないから嫌で、星露を除いたら一番強い暁彗は武者修行に出ていてアスタリスクに居ないし、全てが謎めいている梅小路は秘術関係でイベントには参加しない。

 

となると俺とやり合えるのは雪ノ下陽乃ぐらいだが、オーフェリアの一件もあるし、界龍の上層部が却下する可能性が高い。

 

「まあなるようになれだな。そもそも界龍に行くとは限らないし。ちなみにオーフェリアとシルヴィはどの学園に行きたい?」

 

「「八幡(君)と一緒ならどこでも良いわ(な)」」

 

「……ありがとな」

 

ちくしょう、可愛過ぎる。今すぐ結婚したい。

 

「うわー、相変わらずバカップルだな……だったらお兄ちゃん、クジ引きで決めたら?編入先もクジ引きで決めたんだし」

 

「クジ引きねぇ……」

 

今更だがクジ引きで編入先を決めるなんてふざけた話だ。しかしそのふざけた方法でレヴォルフに行く事になって良かった。レヴォルフ以外の学園だったらシルヴィはともかく、オーフェリアと仲良くなることも無かったのだから。

 

「ま、クジ引きにするか。1日アレが2つの学園を回れるから2回やるが、オーフェリア達もそれで良いか?」

 

俺が確認を取ると2人は頷くので、俺は端末を取り出して空間ウィンドウを開き、ルーレットアプリを開く。

 

そこにはレヴォルフ、アルルカント、界龍、星導館の名前が表示されたルーレットーーーアスタリスクに来る前に使ったルーレットが残っていた。

 

そこにガラードワースとクインヴェールの名前を追加する。そしてスタートボタンを押すと矢印が物凄い速度で回転する。

 

「じゃあ小町、ストップボタンを押してくれ」

 

「小町が?別に良いけどなんで?」

 

「この中で第三者なのはお前だし」

 

俺がそう言うと小町は一息吐いてストップボタンを押す。すると矢印は徐々に遅くなっていき……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後……

 

「ふむ……イレーネ、カジノの方に予算について、オーフェリアは飲食店の方に食品の仕入れについての確認を頼む。それとイレーネ、激しくは揉めるなよ。出来るだけ穏便に済ませろよ」

 

 

既に空が真っ暗になる中、レヴォルフ黒学院の生徒会室にて俺は役員のオーフェリアとイレーネに指示を出す。

 

六花園会議が終わっても仕事は山程あるので嫌々ながらも仕事に勤しんでいる。社畜って辛いです……

 

「……わかったわ」

 

するとオーフェリアは小さく頷いて生徒会室を後にするが、イレーネは俺に詰め寄ってくる。

 

「おい八幡!なんで私が揉めること前提なんだよ?!」

 

「そりゃ毎回揉めてるからだろうが。お前この前歓楽街の違法カジノを暴れて潰したじゃねぇか。後始末をした俺の身になれ」

 

「お姉ちゃん!またそんな危ない事をして……!八幡さんに迷惑をかけちゃダメだよ!」

 

「あ、いや、それはだな……八幡ェ……プリシラがいる前で言うんじゃねぇよ……!」

 

「そこで俺を睨むな」

 

「お姉ちゃん?」

 

「い、いや……」

 

「さっさと行け。終わってからは今日のノルマはまだまだ残ってるぞ」

 

風紀委員の手配だの外部機関との連絡だのやるべきことはある。早いうちに終わらせないと帰りが遅くなる。

 

「ぐっ……了解っ……!」

 

イレーネは苦い顔をしながらも俺の意見に従って生徒会室を後にする。

 

「次にプリシラと樫丸は部活連の所に行って各クラブの出し物の概要を聞いてきてくれ。護衛は用意する」

 

言いながら俺は自身の影に星辰力を込めて……

 

 

「起きて我が傀儡となれーーー影兵」

 

同時に影からの2体の黒い人形が湧き出る。影兵は出した数が多い程個々の強さが弱くなる。

 

少し前なら2体生み出すと1体1体の実力は冒頭の十二人手前クラスの実力だったが、星露との激しい鍛錬をして以降、2体生み出すと1体1体の実力は冒頭の十二人中堅クラスの実力を持っている。

 

1体だけ生み出した場合、冒頭の十二人上位クラスで、先月の公式序列戦では10位のボニファーツ・プライセと9位のロスヴィータ・ディーツェを普通に蹴散らしたくらいだ。護衛としては申し分ないだろう。

 

「んじゃ任せたぞ」

 

「は、はい」

 

「わかりました」

 

影兵が2人の横につくと2人は頷き、生徒会室を出て行った。それを見送った俺は電子書類を片付けながら机の中にある黒い電話端末を取り出す。

 

これは俺の物であって俺の物ではない。レヴォルフ黒学院の生徒会長だけが使用を許される電話だ。

 

それを手に持った俺は目的の番号を打ち込む。

 

『どのようなご用件で?』

 

すると感情の篭ってない女の声が聞こえてくる。しかし俺は気にしない。もう慣れたから。

 

「学園祭期間中はディルクの監視に猫の追加を頼む」

 

即座に本題に入る。学園祭期間中は外部からの人間も多い。今のところディルクは大人しいが学園祭を利用して外部の味方と接触する可能性がある。俺としてはそれを避ける事を最優先としている。

 

『かしこまりました。金目と銀目を1人ずつで宜しいですか?』

 

「問題ない。ディルクが少しでも変な動きをしたら始末するように徹底しろ」

 

『了解しました』

 

返事を貰うと通話が終わったので端末を机の中にしまう。既にディルクには2人の猫に見張らせて、更に2人の計4人の猫に見張らせている。

 

加えて全員には妙な事をしたら即座に始末するように指示をしているので奴も無闇には動けないだろう。少なくとも俺が卒業して生徒会長を辞めるまでは。

 

端末をしまった俺は再度電子書類を作成する。早く終わらせて愛しい恋人とイチャイチャする為に。

 

 

 

その後俺は数時間かけて仕事を終わらせてオーフェリアと2人で自宅に帰った。そしたらシルヴィが俺達を労ったので俺達は遠慮なくシルヴィに甘える幸せな時間を過ごしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして月日は矢のように早く流れ、学園祭当日となった。


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