界龍第七学院の中心にあるメインステージ、その特別観覧席にて……
「し、師父!新たに申請が2件来ました!」
「おっ、今度は誰じゃ?」
界龍の序列1位『万有天羅』范星露がステージにて、同学園の序列3位の雪ノ下陽乃がアルルカントの生徒を一方的に攻めているのを観ながら、観覧席に入ってきた係員に話しかける。
「まずはウォン師姉にガラードワースの序列7位『聖茨の魔女』ノエル・メスメルが申請をしました!」
「ほう!」
それを聞いた星露は楽しそうな声を出す。ノエルは星露が作り上げた私塾魎山泊のメンバーである。
今星露が見ている界龍の星露の門下生と戦うイベントでは、殆ど魎山泊のメンバーが星露の門下生に戦いを挑み星露を、そして観客を大いに盛り上がている。
よって星露からすればまた面白い試合が観れる事を意味しているのだ。
「おっ、今年に入ってから冒頭の十二人に挑まれるのは初めてだね。さっきのヴィオレットと同じように面白い試合になるといいなぁ」
係員の言葉に序列5位『雷戟千花』セシリー・ウォンは楽しそうな表情を浮かべて伸びをする。
「それで?もう一件は誰じゃ?」
「はっ……それが趙師兄なのですが……」
係員が途端にしどろもどろな口調になる。するとそれを聞いた序列6位『天苛武葬』趙虎峰が訝しげな表情を浮かべる。
「僕ですか?その様子だと予想外の人物のようですが誰なのですか?」
虎峰が尋ねると、係員は冷や汗をかきながらも……
「そ、それが……レヴォルフ黒学院序列2位……大師兄を倒した比企谷八幡、です……」
「なっ?!」
『ええっ?!』
そう答えると当事者の虎峰を皮切りに、星露の門下生の間に驚きの感情が生まれだす。
唯一驚きの感情を浮かべていない星露も意外そうな表情を浮かべていた。
「八幡が?これはまた予想外じゃのう」
「ですよねー。虎峰、比企谷八幡となんかあった?もしかしてシルヴィア・リューネハイム関係で以前揉めたの?」
八幡とシルヴィアとオーフェリアの3人の関係が公表された時に虎峰が壊れた事をセシリーは知っている。よって彼女はその事が関係していると踏んだ故で虎峰に話しかけるも、虎峰は首を横に振る。
「い、いえ。彼と拳を交えたいとは思ってますが、会見以降は一度も彼と会ってないですね」
シルヴィアとの関係について詳しく尋ねたいとは思ってはいたが八幡と交流のない虎峰だった。
「しかしそうなると何故彼は趙師兄を?」
「こう言ってはなんですが、彼と趙師兄の間にはかなりの差があるかと」
そう呟くのは序列9位と10位の黎兄妹だ。2人の発言は虎峰の後輩としては悪い言い方ではあるが、虎峰を含めこの部屋にいる人間はそれを侮辱とは思わなかった。
暁彗を打ち破り、星露と殴り合える八幡の存在は、星露の弟子からしたら文字通り次元の違う存在である。
「もしかして双子みたいに嬲る趣味があるとかかなー?」
「いや、八幡は基本的にものぐさで生産性のない事はしないじゃろう。虎峰に挑むのも何か意味がある筈じゃ」
セシリーの言葉に対して星露が一蹴する。基本的に八幡はメリットのない事はしない。
「まあ良い。理由は知らんが虎峰よ、折角の機会であろうし受けてみると良いじゃろう」
星露がそう口にすると……
「はっ!この試合を是非とも糧にしてきます!」
八幡に対して色々な意味で対抗心を燃やす虎峰は強い口調で返事をした。
受付を済ませた俺はオーフェリアとシルヴィと別れて、界龍に入って直ぐ偶然会ったメスメルと控え室に向かったのだが……
「それでですの!後一歩!後一歩のところで校章を破壊出来たのにトラップに嵌って負けてしまいましたの!悔しいですの納得いきませんの意義ありですのー!」
途中、先にこのイベントでセシリー・ウォンに挑んで敗北したワインバーグと鉢合わせして延々と愚痴を聞かされている。
正面ではワインバーグが紅茶をヤケ飲みしていて、メスメルはどうしたら良いのかオドオドしている。
本来なら俺1人がワインバーグの愚痴に付き合う予定だったのが、ワインバーグは俺と一緒に歩いていたメスメルを直ぐに自分と同じく魎山泊の人間と判断して捕まえた感じだ。
つまりメスメルはぶっちゃけるととばっちりを食らったのだ。マジで済まんメスメルよ。さっきシルヴィとオーフェリアに対しても弁護して貰ったのに。
「わかったよ。てか悔しいならヤケ飲みなんてしてないで記録を見直せよ。その方が生産的「そんなど正論は今は聞きたくないですの!それと学園祭が終わってから一層厳しく指導をお願いしますの!」……へいへい」
あー、暫くこの状態が続くだろうな。しかしさり気なく学園祭以降の話をしている限りある程度冷静さは残っているのだろう。あくまで僅かだと思うが。
そんな事を考えながら俺も紅茶を飲んでいると……
「比企谷選手、次出番ですので入場ゲートに案内します。付いてきてください」
界龍の制服を着たスタッフが控え室に入ってきてそう言ってくる。
「わかった。今直ぐ行く。んじゃお前ら、また後でな」
椅子から立ち上がりワインバーグとメスメルにそう告げる。
「は、はい……頑張ってください……」
「私達に指導をしているのですから負けたら許しませんの!」
そんな風に激励を受けるが、今回は体術のみで戦う予定だから勝てるかどうか微妙だ。てか今回の目的は勝つ事じゃないし。まあ恋人2人や弟子2人に勝てと言われた以上全力でやるけど。
「まあやるだけやる。じゃあな」
そう言って控え室を後にする。
「こちらをどうぞ。試合の時に使用される擬似校章です」
「どうも」
俺は胸から双剣がマークされた校章を外して龍がマークされている校章を取り付ける。
そして廊下を歩くと、時間が経つにつれて歓声が大きくなってくる。ステージに近づいている証拠だ。
暫く歩いていると、目の前に開いている巨大な門が目に入る。去年も目にしたステージのゲートだ。
そしてその真下では界龍の生徒がアルルカントの生徒と戦っている。今の所は拮抗している。
様子を見る限り界龍の方はそこまで強くないし、アルルカントの生徒も魎山泊のメンバーじゃないのが丸わかりだ。観客は盛り上がっているようだが、俺からしたらどうにもそそられないのが本音だ。
「去年も参加したからわかると思いますが説明をさせていただきます。実況が比企谷選手の名前を告げたら、比企谷選手はゲートをくぐってステージに降りてください。何かご質問はありますか?」
「特に問題ないな」
制限時間がある以外は普通の決闘と同じルールだし。
「そうですか。では自分は失礼します。ご武運を」
そう言ってスタッフの人は去って行った。スタッフを見送ると歓声が上がったのでステージを見ると界龍の生徒が倒れていて、アルルカントの生徒が喜んでいた。どうやら挑戦者が勝ったようだ。
そして2人がステージを後にすると実況の声が聞こえてくる。
『次の試合にまいります!先ずは東ゲート!今年一番の有名人!前シーズンの王竜星武祭ベスト4!六学園中最も過酷と言われるレヴォルフの序列争いで不動の2位に立ち続ける男!世界の歌姫と世界最強の魔女を彼女に持ち街中でディープキスをぶちかます世界最強のバカップルトリオの1人!『影の魔術師』比企谷八幡選手!』
実況の声が俺の名前を呼ぶのでゲートを潜りステージに降り立つ。それと同時にスポットライトが俺の身体に集中して、俺の名前を呼ぶ歓声が高まる。
(てか実況の奴……試合が終わったらガチでブチ殺す)
街中でディープキスをしたのは否定しないが、ハッキリと言うな。殆どシルヴィとオーフェリアからやってきて、俺は殆ど自分からやってないし。
『そしてそして!西ゲートからは我らが界龍の序列6位!前シーズンの鳳凰星武祭準優勝にして、先の獅鷲星武祭ベスト4!『天苛武葬』趙虎峰選手!』
同時に向かい側から可愛らしい男の娘、趙虎峰がステージにやってくる。改めて見ると戸塚と同じように本当に男か疑ってしまう。普通にそこらの女子よりかわ……っ!
すると急に殺気を感じる。
(この殺気……まさか!)
思わず観客席を見ると………視界の先に満面の笑みを浮かべながらもドス黒いオーラを放つオーフェリアとシルヴィがいた。ヤバい……試合より試合後の方が怖いんですけど……
そこまで考えている時だった。
「比企谷八幡、試合前ですが少しよろしいですか?」
向かい側にいた虎峰が話しかけながらもこちらにやってくる。とりあえずシルヴィとオーフェリアの件については後回しにしよう。今は弁明出来ないし。
「何だ?試合前だし手短に済ませろ」
「ええ。何故僕を指名したのですか?大師兄を倒し、師父とマトモに戦える貴方からすれば僕など雑魚でしょうに」
まあ予想通りの質問だな。
「今回お前に挑んだ目的は星辰力の細かな調整を学ぶ為だ。その場合お前のソレがお手本として最適と思ったから指名した」
「魎山泊で師父から習ってないのですか?」
「生憎俺は魎山泊の生徒じゃない。星露と戦ってはいるが殆ど殴り合いだ。実戦能力を高める事は出来ても技術そのものは余り高められない」
「なるほど……話はわかりました。僕としても一度シルヴィアさんの恋人の貴方とは戦いたかったですから」
言うなり虎峰は強気の姿勢を見せながら構えを取る。その構えには一切の淀みがなく、虎峰が一流の拳士である事を如実に表している。
「何だ?お前もシルヴィと別れろって文句のあるクチか?」
その事については文句は言わん。ファンの気持ちもわからんでもないからな。ま、別れるつもりはないけどな。
「……いえ。感情的には納得してないですが、シルヴィアさんのファンとして、彼女が幸せならどうこう言うつもりはありません」
……随分と潔い奴だな。ハッキリと納得していないと言われても全然苛立たない。葉山の時は殺意すら抱いた……いや、あの葉虫と一緒にするのは虎峰に失礼だな。
「ですからしっかりと見せて貰いますよ。師父に本気を出させ、シルヴィアさんをあそこまで惚れさせた貴方の実力を」
「そうかい……気合の入っているところ悪いが、今回俺は能力を使わずに体術のみで戦うからな」
言いながら俺も構えを取る。今回は勝ち負けより技術を学ぶことが優先だからな。
俺がそう返すと虎峰は一瞬だけ目を細めるも……
「何を以ってそう判断したのか知りませんが、貴方が体術のみで戦うなら力づくで能力を引き出してみせます」
構えを崩さずにそう言ってくる。同時に僅かにプレッシャーが強くなる。星露に比べたら微弱なものであるが、能力を使わずに挑む場合とてつもなく強い殺気と錯覚してしまう。
互いに睨み合っていると……
『試合開始!』
試合開始を告げるゴングが鳴り響いた。
次の瞬間、虎峰は瞬時に距離を詰めて掌底を放ってくる。同時に俺は右手でそれを受け流すも……
「破っ!」
次の瞬間には右手を引いていて、俺の脇腹目掛けて蹴りを放つ。咄嗟に脇腹に星辰力を込めて防御するも、衝撃だけは相殺出来ずに後ずさる。
お返しとばかりに俺も蹴りを虎峰の顎目掛けて放つ。すると虎峰は身を屈めて回避する。ならばと思い、踵落としをすると直ぐに横に飛んで、かかと落としは空振りする。
(速い……!)
俺が戦慄する中、虎峰は一度バックステップをしてから瞬時に距離を詰めてくる。
同時に俺は虎峰の星辰力が常に脚部で練りこまれている事を理解する。針の穴を通すような星辰力のコントロール技術、それが虎峰が星露に匹敵する速さを出せる要因だろう。
(つーか、星露は星辰力関係無しでこの速度なんだよな……)
試合中にもかかわらず、ついあのバトルジャンキーの規格外さに呆れてしまう。
そんな中、虎峰は神速の上段蹴りを放ってくるので俺は迎え撃つべく、身を屈めて回避して同時にアッパーを放つ。
しかし……
「甘いっ!」
虎峰は空中で全身に星辰力を張り巡らせて、コマのように回転しながら横にずれて俺のアッパーを回避する。
そして……
「そこっ!」
そのまま地面に向かいながらも俺の意識を刈ろうとしているのか首に蹴りを放ってくる。
これは食らったら負ける。そう判断した俺は腕を出して首を守る体勢となるが……
「ぐっ……!」
予想以上の破壊力に思わず吹き飛んでしまう。同時に観客席からは歓声が上がる。
(ちっ、やっぱり能力抜きだと勝ち目が薄いな……だが、少しの攻防でこいつの技術の概要は理解出来た)
後はこれを王竜星武祭までにモノにする事。かなりキツイと思うが絶対に成し遂げるつもりだ。そうと決まりゃ、早速試してみるか……
そう思いながら俺は虎峰と同様に脚部にて星辰力を練り出して……
「はあっ!」
そのまま虎峰の元に向かった。なんとしてもこの技術を会得する為に。
「まさか本当に能力抜きで戦うとは思いませんでしたの……」
「は、八幡さん、頑張ってください……!」
「……結構押されてるわね」
「……そうだね。八幡君は勝ち負けは最優先ではないって言ってたけど勝って欲しいな……」
「ええ……頑張って、八幡」
現時点での強さを知りたいと感想やメールが来たので書きます。
なお、時期は獅鷲星武祭があった年の年末とします
星露≧力を封じたオーフェリア≧八幡≧シルヴィア≧綾斗≧暁彗=ロドルフォ≧陽乃>ネイトネフェル>>>>(圧倒的な壁)>>>ユリス=紗夜≧リムシィ=アルディ>美奈兎≧ノエル≧小町=ヴァイオレット≧イレーネ=雪乃>プリシラ≧由比ヶ浜>葉山≧三浦>一色
って感じです。ちなみにこれは単純な実力であって相性は考えていないです