「良し……今の所順調だな……」
「そうだね。徐々にノエルちゃんの茨が広がってるしね」
「……領域型の能力を打ち破るには圧倒的な力を使わない無理」
界龍のメインステージの観客席にて、俺は恋人2人と一緒に、俺の弟子にしてガラードワース序列7位『聖茨の魔女』ノエル・メスメルと界龍序列5位『雷戟千花』セシリー・ウォンが激突している。
勝負は今の所拮抗しているが、それはメスメルの有利を意味している。
何故ならメスメルの能力はオーフェリアの言ったように領域型能力で時間が経てば経つほど自分に有利な状況を作れるのだ。ステージを見れば全体の3割近くがメスメルの茨に侵食されている。
あの茨がある場所がメスメルのテリトリーで、あそこに一度入れば大幅に不利になるだろう。あの領域内では俺も影狼修羅鎧以上の技を使わなければ脱出は困難だし。
しかし……
『急急如律令、勅!』
向こうも冒頭の十二人だけあってバカではない。これ以上茨が広がるとマズイと判断したのか新しい呪符を取り出してそう叫ぶと、セシリーの前から巨大な雷の虎が生まれて、ステージに広がるメスメルの茨に向けて突撃を仕掛ける。
同時にメスメルが展開した茨は焼け焦げる。もちろんメスメルの力によって新しい茨が生まれるも、茨の再生速度より虎の攻撃能力が上回っている。
そしてステージの3割近く侵食していた茨も徐々に減っていき、2割近くとなっている。
(さて、どうするメスメル?この状況に対して何も出来ないなら王竜星武祭で壁を超えた面々に勝つなんて夢のまた夢だぞ)
勝てとは言わない。現時点ではセシリーの方が格上だから。
しかしだからと言って何もしないのは論外だ。能力者である以上、常に考え続けないといけない。格上を相手にしている時なら尚更、考える事を放棄するのは能力者としてあってはならない事だから。
そう思いながらメスメルを見ると、メスメルは新しい動きを見せる。まだ残っている茨ーーーステージの1割5分近く侵食している茨を雷の虎に破壊される前に自身の周囲に集めだ。
(何をするつもりだ?)
俺が疑問符を浮かべるなか、メスメルは自分自身と足元にある茨に星辰力を纏わせて、同時に大量の茨がメスメル自身に絡みつく。それによってメスメルは大量の茨に包み込まる。ステージには巨大な茨の球体が生まれて、メスメルはその中に包まれていて見えない。
そして……
『ま、纏えーーー聖狼修羅鎧……!』
そんな声が聞こえると茨の球体は凝縮し始める。それによって徐々に球体の大きさは小さくなり、それでありながら形が徐々に変わっていく。
その姿は狼を模した西洋風の茨の鎧だった。大量の茨を凝縮させて攻撃力と防御力を高める鎧だろう。
てか……
「これ完全に八幡君の影狼修羅鎧がモデルだよね……」
シルヴィの言う通り、メスメルの纏う鎧は俺の影狼修羅鎧と瓜二つだ。違うのは色と鎧の材料くらいだろう。
てかメスメルェ……俺の技をアレンジするのは構わないが、鎧の名前は変えろ!
何だよ聖狼修羅鎧って!普通にモデルが俺の影狼修羅鎧とバレるだろうが!下手したら俺とメスメルに繋がりがあるって疑われるぞ!てかガラードワースの生徒が修羅鎧なんて名前をつけるなよ!
もしもメスメルと俺に繋がりがあると疑われたらどうなるかって?決まってるだろ、葉山率いるガラードワースの俺否定集団が絶対に喚いて騒動が起こり、生徒会長のフォースターの胃に穴が開くだろうが!
(ヤバい、頭が痛くなってきた)
俺はステージにて鎧を纏ったメスメルがセシリーの雷の虎を殴り飛ばすのを見ながらフォースターに同情した。
同時刻、聖ガラードワース学園の生徒会室……
「ノエル……せめて技の名前は変えてくれ。間違いなく一部の生徒が騒ぎだす……」
八幡に同情されているガラードワースの生徒会長のエリオットは手を胃に当てながらため息を吐く。手元には水の入ったコップと胃薬がある。
ノエルが界龍のイベントに参加する事を知っていたエリオットは空間ウィンドウを見て応援していた。尚、エリオットとしては直接応援に行きたかったが、仕事が多過ぎて断念した。
そして試合を見ていたらノエルは大量の茨を鎧の姿に変えて自身に纏わせた。それだけなら問題ない。自身の能力で自身に鎧を纏わせる能力者は普通にいるから。
問題は名前についてだ。ノエルは自身の新技を聖茨修羅鎧と言っていたが、明らかに八幡の影狼修羅鎧をモデルにしているのが丸わかりである。
それがエリオットの頭と胃を痛める。エリオット自身少し前までは八幡を嫌っていたが、今は特に嫌っていない。大半のレヴォルフの生徒と違って話が通じるし、こちらが喧嘩腰にならなければ普通の人間であるだから。
しかしそれを知ってるのはエリオットを始め、前期のチーム・ランスロットの5人やノエルと極めて少なくて、ガラードワースの大半は八幡を嫌っている。
ガラードワースの3割を占める葉山グループの面々は八幡を声高に否定している。それはもう更にグループのメンバーを増やそうと毎日。
残り7割は葉山グループに比べて声高に否定する訳ではないが、殆どが八幡に対して良い感情を持ってないのも事実。八幡が鍛えたチームが、自身らの通う学園の2トップチームのチーム・ランスロットとチーム・トリスタンを撃破したのだから。
そんな彼の技にそっくりの技をノエルが使えば……
「絶対に騒ぎが起きそうだ……うぅ、胃が痛い」
エリオットは更に胃薬を飲む。あの技が八幡の技をモデルにしたのは少しでも腕がある人間ならすぐに見抜くだろう。そしてその事は直ぐに広まって『八幡はノエルを毒して何かを企んでいる』みたいなデマが流れるとエリオットは考えている。
「もう嫌だ……今直ぐ会長を辞めたい……」
既に何度か葉山を始めとした葉山グループのメインメンバーを学園を排斥しようかと悩んだが、葉山達は倫理的に問題な行為をしているが犯罪行為をしている訳ではないので断念した。ここで排斥なんかしたら余計な噂が立つし、葉山グループの面々が敵になる可能性が高い故に。
エリオットがそう思う中、空間ウィンドウでは茨の鎧を纏ったノエルがセシリーの雷の星仙術を次々に殴り飛ばして距離を詰めにかかる。セシリーも雷を飛ばすも、茨を数本吹き飛ばすだけでノエルの足は止まらない。
正確に言うとノエルの身体にも雷を受けているが、セシリーの雷が茨に当たった瞬間、ノエルは茨に星辰力を込めて防御力を更にあげて、雷の威力を減らしている。そして茨を通してノエルに当たる頃には殆ど威力を殺されていて、星脈世代のノエルには実質的に無傷となっている。
しかしノエルが勝っているかと言ったら微妙である。腕を上げたとはいえノエルの格闘戦の実力はまだセシリーには遠く及ばず、ノエルの放つ拳は1発もセシリーに当たっていない。
ノエルの攻撃はセシリーに当たらず、セシリーの攻撃はノエルに効かず、暫く互いが躍起になって攻撃を放っていると……
ビィィィィィィッ
『タイムアップ!試合結果、引き分け!』
試合終了のブザーが鳴りだした。それを聞いたエリオットは安堵の息を吐きながら空間ウィンドウを閉じて息を吐く。
「『雷戟千花』と引き分けか。魎山泊の修行は相当凄いようだが……とりあえずノエルが帰ったら技の名前については注意をしとかいとな。後頭痛薬も買っておくか」
エリオットはそう言ってから本来やっていた電子書類の作成を再開したのだった。左手を胃がある場所に当てながら。
所変わって界龍のメインステージの控え室……
「……って、訳でメスメルよ。技の名前を変えろ。仮に名前とイメージが定着しているなら変えなくても良いが、もしもガラードワースで俺との関係を聞かれてもとにかくしらを切れ。出ないとフォースターの胃が死ぬからな?」
俺は恋人2人を連れながらメスメルに注意をしている。
「は、はい……もう名前は私の頭の中で定着しちゃったのでなるべく口に出さないようにします…….」
するとメスメルは自分の身体を小さく縮こませる。顔を見ると小さい子供が怯えているように見えて、これ以上怒れない。怒ったら泣きそうたし。
「わかった……とはいえお疲れさん。あの鎧は初めて見たが、ちゃんと自主練はしていて何よりだ」
試合の結果については格上相手に引き分けだから文句は言わない。課題があるとすれば近接戦闘の技術をあげる事だろう。結局セシリーに攻撃を当てれなかったし。
「は、はい!ありがとうございます……!」
するとメスメルは咄嗟に可愛らしくはにかむ。この子表情豊かで可愛いな痛ぇ!
いきなり脇腹に痛みを感じたので左右を見るとオーフェリアとシルヴィが絶対零度の眼差しで俺を見ながらつねっていた。毎回わかるが何で俺の考える事がわかるんだよ?
「ど、どういたしまして……それよりお前は今から界龍を回るのか、それとも他所を回るのか?」
「いえ。生徒会の仕事があるのでガラードワースに帰ります。今回の試合も無理言って時間を作って貰ったので」
「そうか。大変だろうが頑張れよ」
「は、はい。じゃあ私は帰りますがまた来週、よろしくお願いします!」
「ああ。最後にもう一度言っておくが、ガラードワースで俺に関して質問をされたらしらを切っとけよ」
「はい、気をつけます……」
メスメルは小さく頭を下げてから控え室を出て行った。ガラードワースの生徒会が忙しいのは知っていたが真面目な奴め。俺がメスメルの立場だったら試合の後に少しだけあそんでるぞ。
すると……
「八幡君、ノエルちゃん相手に鼻の下を伸ばし過ぎだからね?」
「……八幡のバカ」
どうやら俺はまだまだ解放される事はなさそうだ。
その後、俺は控え室にて2人の怒りが収まるまでキスをされまくった。
本来なら1時間くらいされると思っていたが20分くらいしていたら控え室に虎峰が入っていて、目や鼻や耳に、口から血を流して倒れてそれどころじゃなくなって中断したのだった。
そんな感じでカオスな空気のまま、俺達のデートは幕を下ろした。
同時刻……
「ふぅ……やっと学園に戻れたし、お兄ちゃん達の手伝いを「メスメルさん!」……ふぇ?!」
ノエルがガラードワースに戻ると高等部の制服を着た男子が近寄ってくる。その後ろには大勢の男女が。
「さっきの試合を見たけど、アレって比企谷八幡の技を真似たんだろ?もしかしてあの最低な男から習ったの?」
彼ははさも当然のように八幡を悪く言う。ノエルは理解した。彼は八幡を否定する葉山グループのメンバーだと。
同時にノエルは彼の言葉を聞き、珍しく怒りの感情を抱く。本当な自分の師匠を悪く言うなと言いたいノエルだが、自分が魎山泊の事を言ってエリオットや八幡に余計な仕事を増やしたくないノエルは一度深呼吸をして怒りを無理矢理抑え込む。
「いえ。八幡さんの記録は見ましたが、習ってはないです」
メスメルはそう口にする。既に八幡からホワイトデーのお返しを貰った事から、自分と八幡には繋がりがある事はガラードワースでも有名である。その時にはノエルは魎山泊の名前は出さずにナンパされた時に助けて貰った、と嘘を吐いて誤魔化した。
だから今回も八幡と殆ど接点がないように嘘を吐く。ノエル自身、自分と八幡の関係を知られても構わないが、自分の発言で第三者に面倒事を与える事が嫌なので誤魔化す事にした。
すると……
「なら良かったよ。あの男が君を鍛えたりした場合、君を利用してレヴォルフらしくガラードワースから色々と奪うだろ「八幡さんはそんな事をしません!」……え?」
先輩の暴言にノエルは思わず叫んでしまった。それに対して彼や背後にいるメンバーは絶句してしまう。
「確かに八幡さんはレヴォルフの人間ですが、理由もなく人に暴力を振るったり暴言を吐いたりはしないです!八幡さんの事を何も知らないのに八幡さんを悪く言うのは止めてください!」
普段は自分の意見を言わないノエルだが、尊敬する人をここまで悪く言われてスルーする事は出来なかった。
「い、いや。俺はメスメルさんがあの屑に巻き込まれないよう親切心で言っているんで……」
「結構です!八幡さんは屑なんかじゃなくお人好しな人です!葉山さんの言った事は全てデマです!」
ノエルはそう言って葉山グループに対して背を向けて生徒会室のある校舎に向けて走り去っていった。
葉山グループのメンバーは暫くの間呆然としたが、やがて動きだす。
そこには2つの動きがあった。
「普通に考えてメスメルさんがあんな最低男を弁護する訳がない」
「じゃあやっぱりあいつがメスメルさんを洗脳して……」
「どこまで最低なんだよ……皆、王竜星武祭では葉山君と一緒に比企谷八幡を倒して化けの皮を剥いでやろう!」
『おー!』
1つは八幡がノエルを洗脳していると判断して王竜星武祭で彼に裁きを与えようと決意する動きが。
「……どうみる?」
「私、ノエルちゃんのクラスメイトだけど彼女があそこまで本気の感情を出したのは初めて見たよ」
「じゃあノエルちゃんの言う通り葉山君の話はデマ……?」
もう1つは葉山の言葉に対して怪しみだす動きが生まれていた
2つの動きが後にどのような運命を引き起こすかは神のみぞ知る……