学園祭3日目
今日は学園祭の最終日だ。その為か観客にしろ出し物をやっている生徒も一段と思い出作りをする為か盛り上がっている。
……しかし、まあ……
「プリシラ、この書類の確認をして、その後に職員室に提出してくれ。イレーネは部活連に行って後夜祭の、オーフェリアと樫丸は実行委員と合流して見回りと閉会式の打ち合わせをしてくれ」
「はい」
「へーい」
「……わかったわ」
「は、はい!」
仕事がある俺達レヴォルフの生徒会執行部には一切関係がないけどな。俺は電子書類を片付けながら思わずため息を吐く。
レヴォルフは星導館やガラードワースに比べたらマシだが、割と統合企業財体から学園の運営について任されている。こういう時を考えるとアルルカントやクインヴェールが羨ましい。両学園の生徒会は殆どお飾りで忙しくないし。
4人が出て行くと、必然的に俺1人となる。少し前の俺なら1人を好んでいたが、アスタリスクに来てから色々とクセの強い人間と会いまくったからか、少し寂しく感じてしまっている。
(やれやれ……戦闘能力は格段に強くなったが、こういう精神的な部分は時として弱くなったなぁ……)
まあ王竜星武祭は個人戦だからその辺りは大きな問題にならないから良いけど。
そこまで考えていると机の上に置いてある俺自身の端末が鳴り出したので見るとシルヴィから電話が来ていた。
「もしもし、どうかしたかシルヴィ?」
『あ、八幡君。例の後夜祭についてなんだけど、まだ集合時間や場所を決めてなかったから時間があるなら決めない?』
例の後夜祭とはアスタリスクの中央区にあるホテルで行われるダンスパーティーの事だ。レヴォルフでも後夜祭はあるが、基本的に一般開放以降は他校の入れず、レヴォルフの生徒だけで行われている。
一方中央区で行われる後夜祭は全ての学園の生徒が参加出来る祭だ。
統合企業財体のお偉いさんも出てくるので、挨拶という建前で参加するつもりだ。そうすれば自学園の学園祭の後始末を確実に後日に回す事も出来るし。その上恋人2人ともデートが出来るのだ。まさに一石二鳥だ。
「別に構わないぞ。ただ現地集合は混雑して難しいだろうから無しな?」
『あ、そうなんだ。じゃあ一般開放が終わったらレヴォルフの校門にいるね』
「わかった。じゃあまた後で」
そう言って通話を切って空間ウィンドウを閉じる。ダンスパーティーでは美味い飯も出るらしいからな。一般開放が終わるまでに仕事を終わらせて楽しみたいものだ。昨日ーーー学園祭2日目は仕事一色でクソ退屈だったからな。
(まあ、夜にオーフェリアとシルヴィを抱いてストレスは一切無くなったけど)
昨日3人で過ごした熱い夜を思い出していると……
pipipi……
レヴォルフの生徒会専用の端末が鳴り出した事によって中断された。何だ?誰だか知らないが人が昨日の情事について思い出しているのに邪魔をするとは良い度胸じゃねぇか。
「もしもし」
『運営委員から報告、西ホールにて歓楽街から来校したと思われる連中がイカサマをしたと言って大暴れしています。ただし救援求む』
繋げると静かな女子の声が聞こえてくる。ったく、昨日は南ホールでも似たような事件があったのに……相変わらずこの学園は騒動に愛されてるな。
俺は内心舌打ちをしながら立ち上がる。荒事に向いているオーフェリアもイレーネも今は居ないので俺がやらないといけない。さて、俺に面倒事を増やしたんだ。死より恐ろしい地獄を見せてやるよ。
俺は窓から飛び降りてそのまま一直線に西ホールに向かったのだった。
その十分後、カジノで暴れていたマフィアは全員磔にしておいたが問題ないだろう。磔にした場所は一般客の来ない校舎裏だし。
それから数時間後……
『これより一般開放は終了いたします。ご来校ありがとうございました』
校内に向けてそんなアナウンスが流れる。同時に生徒会室の空気も弛緩したものに変わる。
「ふぅ……漸く終わったぜ」
「お疲れ様お姉ちゃん。今日はお姉ちゃんの好きなものを作るね」
「つ、疲れましたぁ……」
「……八幡、お疲れ様」
まだ後片付けなどの仕事はあるが基本的な仕事は終了したし、一般開放の時間が終わった以上、外部の客とのトラブルもないし比較的マシな状況だろう。
「ああ、お疲れ。とりあえずまだ仕事は残ってるが、今日やらなくて良い仕事だし、お前らも上がっていいぞ」
残りの仕事は今日じゃなくて明日明後日の土日にやっても問題ない仕事だ。今日やらなくちゃいけない仕事は早いうちに済ませたのでもう休んで良いだろう。
「おっ、そいつはありがてぇな。仕事漬けでうんざりしてたんだよなー」
イレーネが満足そうに伸びをしながらそう言うと……
「……貴女、さっきカジノで遊んでいたじゃない」
「なっ!テメェオーフェリア見てたのかよ?!」
「……ええ。実行委員の方に顔を出した帰りに」
「バラしてんじゃねぇよ?!」
オーフェリアが無表情のまま暴露した。ほう……こいつ俺がクソつまらない書類作業をしている時に遊んでいるとは良い度胸じゃねぇか。マジで羨まし……けしからん。てか俺も誘え……冗談だ。
「お姉ちゃん!八幡さん達が一生懸命仕事をしていたのに遊んでたの?!」
「い、いやプリシラ……仕事帰りについ、倍額貰えるキャンペーンが始まって我慢出来ずに「そこで我慢する!」うぅ……」
案の定プリシラはイレーネを論破する。こうなったらプリシラは止められないな……
「じゃ、じゃあ私は失礼します!お疲れ様でした!」
プリシラのお説教にビビりだした樫丸は足早に生徒会室から出て行った。賢明な判断だ。ここにいたらプリシラの説教後、イレーネの八つ当たりを受けるかもしれないからな。
「さて……シルヴィを待たせる訳にはいかないし、俺達も行くか」
「……そうね」
「あ!ちょっと待て!頼むから助けて「お姉ちゃん!」は、はい!」
俺とオーフェリアは背後からイレーネの悲鳴を聞きながら樫丸同様に生徒会室を後にしたのだった。
そして校門に向かうと、恋人の1人のシルヴィが立っていた。
「あ、八幡にオーフェリア、お疲れ様」
言うなりシルヴィが俺とオーフェリアに抱きついて労ってくる。たったそれだけの事なのに俺は一瞬で幸せな気分となる。さっきまでは疲労困憊だったにもかかわらず。
「おう。そっちは楽しかったか?」
「2人が居なかったら微妙かな。だから今から後夜祭は楽しもうね」
言いながらシルヴィは抱きしめる力を強めるので俺とオーフェリアも手を動かして3人で抱き合う体勢となる。やはり俺達は3人揃ってこその俺達だ。この関係を崩すつもりはないし、崩そうとする奴がいるならブチ殺してやるつもりだ。
それから20分後……
「うおっ、来たのは初めてだが中々賑わってるじゃねぇか」
「私も何度か来たけど、色々な人と交流出来て楽しいよ」
「……まあレヴォルフの生徒は私と八幡くらいだろうけど」
アスタリスク中央区の後夜祭会場に着いた俺は思わず感嘆の声を上げる。巨大なホールには明らかに高級そうな料理が置かれていて、中央では数十組のペアがダンスをしていた。男女ペアだけでなく、男同士、女同士でも踊っていた。
てか小町がチーム・ランスロットのケヴィンさんと踊ってるし……一応ダンスパーティーだから踊ることについては文句は言わないが、それ以上の事をしようとするなら息の根を止めないといけないだろう。
他にも知った顔は何人かいる。
天霧がエンフィールドと踊っていて、エンフィールドが天霧に密着すると、リースフェルトを始めとした天霧ラヴァーズが嫉妬していたり……
若宮が元気よくフロックハートと踊っていて、フロックハートが若宮の踊り方を注意してきたり……
ソフィア・フェアクロフ先輩が真っ赤になりながら兄のアーネスト・フェアクロフさんと踊っていて……
材木座が下手な動きでアルルカントの制服を着た擬形体のリムシィと踊ったり……
と、まあ中々カオスな空気を醸し出していた。特に最後、材木座お前、踊る相手がいないから擬形体に手を出したとかじゃないよな?
そう思ったが、俺の視界では材木座がリムシィとのダンスが終えて、擬形体の生みの親のエルネスタ・キューネと踊っていたので違うだろう。
しかも……
(うわ、葉山も居るし)
ガラードワースの制服を着た葉山が三浦と踊っているし。見ればオーフェリアとシルヴィも嫌そうな表情をしている。
流石にこんな場所で吹っかけてはこないだろうが、君子危うきに近寄らずだ。
「とりあえず夜飯を食おうぜ。腹が減って仕方ない」
ここは出来るだけ距離を取るべきだろう。葉山を抜きにしても仕事漬けで昼から何も食ってないし。いくら昼にシルヴィの愛妻弁当を食って幸せな気分が残っているとはいえ空腹については我慢出来ない。
「そうだね。じゃあ少しだけ食べよっか」
言いながらシルヴィが歩き出して離れた場所にある席を確保した。俺達は荷物を置いて料理を取りに向かう。無料で食えるし食えるだけ食っとかないとな。
「あら、比企谷君達も来ていたのですね」
暫く高級料理に舌鼓をうっているとそんな声が聞こえたので顔を上げると料理を持ったエンフィールドがニコニコしていた。
「まあな。学園祭2日目と3日目は仕事漬けだったから3人で楽しみたかったんだよ」
「でしょうね。私も仕事漬けで疲れましたが、綾斗と踊ったら一瞬で疲れが吹き飛びましたよ」
「……それは当然の事。好きな人と過ごす時間は疲れを吹き飛ばす」
「まったくもってその通りですね」
「じゃあ私は恋人である八幡君とオーフェリアの疲れを吹き飛ばす為一生懸命頑張るね」
女子3人はそんな風に言ってくるが、顔が熱くなってくる。オーフェリアとシルヴィに好きって言葉は何度も言われているがさりげない会話で言われると結構恥ずかしい。
ちょうど持っている料理が少なくなってきたし、逃げるか。
「そりゃどうも。俺は料理が少なくなったか取りに行ってくる」
そう言って席を立ち、料理のある場所に向かう。その際に3人は笑いながら俺を見ていた。あたかも俺が恥ずかしくなったから逃げた、と理解しているかのように。
それを見た俺は更に顔が熱くなるのを自覚しながら料理を見渡す。顔の熱を冷ます為、冷たくもしくはサッパリした料理を食べるか。
そう判断してサラダを取ろうとしたら、使おうとしたトングを取られたので思わず顔を上げると……
「あ……比企谷も来てたんだ」
そこにいたのはハーレム王の天霧だった。すると天霧は俺を見た瞬間に顔を曇らせる。何だその顔は?腐った目をした俺を見てテンションが下がったのか?
「まあな。お前はエンフィールド達とのダンスの合間の休憩か?」
「あ、うん。連続で踊って疲れちゃったから」
「そうか……ところで俺になんか後ろめたいことでもあるの?」
俺がそう尋ねると天霧が軽く目を見開く。ビンゴだ。今の反応は何かしらあるのだろう。
「やっぱ何かあるんだな。もしかして俺がお前に迷惑をかけたか?」
「あ、いやそうじゃなくて……ちょっと悩みがあってね?」
悩み?天霧が持つ悩みなんて姉ちゃんが意識を戻した時点でないと………あ。
「もしかしてアレか?エンフィールド達4人から告白されて返事に悩んでるとか?」
「ぶっ……!い、いきなり何を……!それ以前に俺が告白されたのは4人じゃなくて3人だから!」
「そうなのか?てか3人ってエンフィールドと沙々宮、あと1人は誰だよ?」
リースフェルトか刀藤か?
それとも……
「まさかとは思うが小町か……?」
もしそうなら今日が天霧の命日だ。ダンスパーティーで踊るくらいなら百歩譲ってギリギリ、本当にギリギリ我慢するが、小町に手を出したら生かしちゃおけない。
天霧は俺の殺意に気圧されながらも首を横に振る。
「違う違う!小町ちゃんじゃなくて綺凛ちゃん!」
刀藤か……小町じゃないなら良いな。
「で?3人に告白されて返事に悩んでると?だったら3人の告白を受け入れろよ。そうすりゃお前も3人を振らずに済むし、3人もお前と付き合えてwin-winじゃねぇか」
俺は2人の告白の内、どちらか一方を切り捨てずに両方を受け入れた。その結果毎日が幸せである。天霧も3人の告白を受け入れたら振られる人間は居らず誰も傷つかずに済む。
え?複数の女子と付き合うのは問題かだって?知るか、世間が何と言おうと当事者達が納得してりゃ良いんだよ。しかも俺という前例があるので天霧はそこまで叩かれないだろう。
「いや、比企谷みたいに簡単には割り切れない……って!そうじゃなくて!悩みは別の事だよ」
なんだ違うのか?天霧みたいなヘタレの悩みなんて告白の返事くらいかと思ったぜ。てかリースフェルトは告白してないのかよ?ツンデレは二次元でしか通用しないから早めに素直になった方が良いからな?
「まあいい。そんで悩みはなんだよ?」
俺の顔を見るなり憂鬱そうな顔をしたんだ、俺にとっても面倒な話だとは思うが……
「実は『大博士』に関することなんだけど……」
うん、それだけで面倒、もしくは厄介な話と理解しました、まる