学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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こうして3人の関係は更に一歩進む

8月8日

 

それは俺の誕生日である。普段の俺ならいつもと変わらない日だが、今年は違う。今日俺は境界を越えて新しい世界へと踏み出す事が出来るのだ。

 

そんな俺が誕生日に何をしているかというと……

 

「ほらほら、さっさと攻めてこいよ。格上相手に受け身になってどうすんだー?」

 

「くぅぅぅっ!言われなくても!撃ぇー!」

 

女子と白兵戦をやってます。

 

脚部に星辰力を込めて加速力を爆発的に高めながらワインバーグと距離を詰めると、ワインバーグは悔しそうにしながらも自身の周囲から12発の砲弾を生み出して放ってくる。

 

対して俺は義手に星辰力を注ぐ。すると義手は本来の大きさの3倍となり埋め込まれた2つのマナダイトが光り輝くので……

 

「よっ!」

 

光が最高潮に輝いた瞬間に突きを放ち、そこから放たれた衝撃波がワインバーグの放つ砲弾を全て木っ端微塵にした。

 

「ええっ!なんですのその義手?!」

 

ワインバーグが驚きの色が浮かんだ表情を浮かべる。

 

これは義手に埋め込まれたマナダイトを強引に連結させて出力を上げて流星闘技を放ったのだ。

 

マナダイト多重連結させて出力を上げる方式をロボス遷移方式と呼ぶ。星導館の沙々宮の持つ巨大な煌式武装も同じシステムを導入している。

 

破壊力については純星煌式武装に匹敵するが出力が安定し難い上に、一回の攻撃ごとにインターバルが必要であると中々ピーキーなシステムだ。

 

10年前に否定された技術だが、俺はそれを気にしないで義手に取り入れた。理由はもちろん王竜星武祭に備えてだ。

 

今シーズンの王竜星武祭はまだ始まっていないにもかかわらず史上最高の王竜星武祭になると言われていて、参加する選手も桁違いでオーフェリアが出なくても優勝するのは厳しい。

 

加えて俺の切り札は肉体に掛かる負荷が大きい技が殆どだ。星武祭中には治癒能力者による治療を受けれない以上、肉体に負荷の掛からない攻め手を用意する必要がある。

 

そこで俺は義手にロボス遷移方式を取り入れる選択をした。結果俺の義手は純星煌式武装に匹敵するものとなり攻め手が増えたのだ。

 

しかも義手だから壊れても治癒能力者による治療は受けないで済む。壊れ易いのが欠点だが、レヴォルフの装備局に頼んで大量の義手のスペアを作るように頼んであるから問題ないだろう。

 

ちなみに運営委員に問い合わせたら義手型の煌式武装という事で許可は下りた。その際にオーフェリアの毒を仕込むのは却下されたが致し方ない。複数で挑む鳳凰星武祭や獅鷲星武祭ならともかく、個人戦の王竜星武祭で他人の能力を使うのは明らかに問題行為だし、世間からも叩かれそうだし。

閑話休題……

 

そんな訳でロボス遷移方式を取り入れた義手による流星闘技は純星煌式武装に匹敵する破壊力を持ち、ワインバーグの放った砲弾を全て破壊したのだ。

 

しかし今は戦闘中なので馬鹿正直に話すわけにはいかない。俺は拡大した義手を元のサイズに戻してからワインバーグに突っ込む。一度流星闘技を使用した以上暫くの間義手による流星闘技は使えないので体術で攻めるのみだ。

 

「くぅぅぅっ!量滅の崩弾!」

 

ワインバーグがそう叫ぶと、俺の前方に1発の砲弾が現れる。しかし現れると同時に砲弾はパカリと割れてそこから100を超える小さな砲弾が生まれる。

 

(榴散弾か……上等だ)

 

そう思いながらも俺は右手に星辰力を注ぎ……

 

「ふんっ!」

 

「撃ぇー!」

 

流星闘技を使って衝撃波を放つ。義手と違ってマナダイトはないので威力はさっきの流星闘技より弱い。

 

そして俺の衝撃波とワインバーグの放った無数の砲弾とぶつかり合う。大半の砲弾は相殺される。しかし相殺されなかった砲弾はこっちに向かうので……

 

「よっと」

 

持ち前の体術を駆使して回避する。それと同時に俺は脚部に星辰力を込めてワインバーグとの距離を詰めにかかる。この距離なら俺の方が速い。

 

と、その時だった。

 

「かかりましたわね!紅烈の崩弾!」

 

次の瞬間、ワインバーグが手に持つマスケット銃を天に掲げると俺達の間に真紅の巨大な砲弾が生まれて……

 

「ぐぅぅぅぅっ!」

 

即座に爆発する。その衝撃と爆風によって俺は後ろに吹き飛ぶ。咄嗟に星辰力を防御に回したのでダメージはそこまでないが、制服はボロボロになった。

 

(しかしあの野郎、自分も近くにいる中であんな破壊力のある砲弾を使うなんて……っ!)

 

そこまで考えているとワインバーグのいる方向から万応素が荒れ狂うのを感じたので顔を上げると先程の大量の榴散弾が俺に襲いかかる。

 

「ちっ!影の刃軍!」

 

慌てて影の刃で迎え撃つも、全て防ぐのは不可能で俺に襲ってくる。

 

仕方なく急いで足に星辰力を込めて地面を蹴って榴散弾の攻撃範囲から逃れた時だった。

 

「予想通り……ですの!」

 

爆風の中からワインバーグが出てきて、空中にいる事でマトモに動けない俺の校章を拳で破壊した。

 

それによって模擬戦終了のブザーが鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふーん。勝利の後のパフェは最高ですの〜!」

 

所変わってアスタリスク中央区にあるショッピングモールの中のカフェにて、俺はワインバーグと一緒におやつのパフェを食ってるがドヤ顔がウザい。

 

ちなみに今日は魎山泊がある日ではなく、所用で街を歩いていたら偶然ワインバーグ会って、模擬戦に誘われた。

 

そんでアスタリスク中央区にあるトレーニングステージで模擬戦をやって俺が負けて今に至るのだが……

 

「浮かれるのは鎧を使った俺に勝ってからにしろ」

 

負けたのは事実だが今回は鎧抜きで戦った。本気ならまだ負けないだろう。

 

「言われなくてもそのつもりですの!王竜星武祭まで半年以上ありますし、それまでに絶対に強くなってみせますの!」

 

ワインバーグは高らかに宣言するが、王竜星武祭が開催される頃には間違いなく強くなるだろう。

 

ワインバーグの序列は35位。しかしこれは公式序列戦で格上に挑んでないからであって単純な実力ならクインヴェールでも10本の指に入っていると俺は考えている。

 

ワインバーグだけじゃない、若宮やイレーネやメスメルなど魎山泊にいる面々は序列は高くなくても実力なら学園屈指となっている。

 

(しっかし星露の奴、各学園の面々をここまで強くするとは予想外だ。ダークホースが沢山現れて王竜星武祭は間違いなく盛り上がるな……)

 

しかし界龍に不満を抱かせてまでする事か?今の界龍は相当荒れているみたいだし。

 

(まあそれは星露の問題だな……それよりも俺だ)

 

俺もまだまだ足りない部分はあるし、優勝を目指す以上後半年でその足りない部分を補わないといけない。

 

そう思いながら俺はパフェを食べるのを再開した。甘い物を食べて前向きにならないといけないからな。

 

その後パフェを食べ終えた俺達は30分くらいミーティングをして解散となった。

 

「では八幡さん、また3日後によろしくお願いしますの」

 

そう言ってワインバーグは去っていった。それを確認した俺は立ち上がりとある店に向かう。本来俺はその店に行く予定だったのだが、ワインバーグと偶然会って後回しにしたのだが、ワインバーグが帰った以上本来の目的を果たすつもりだ。

 

そして俺は目的の店に着いて……

 

「すみません。以前に当店で予約をした比企谷ですけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

1時間後……

 

夏の夕焼けがアスタリスクを照らす中、用事を済ませた俺は自宅に帰宅する。

 

鍵を取り出してドアを開けて中に入る。そして靴を脱いでリビングに向かうと……

 

「「八幡(君)、誕生日おめでとう」」

 

ちゅっ……

 

恋人のオーフェリアとシルヴィが俺に駆け寄ってきて唇を重ねてくる。同時に溜まっていた疲れは全て取れる。やはり2人の唇には魔法が宿っているのかもしれないな。

 

「ありがとう2人とも。愛してる」

 

ちゅっ……

 

言いながら俺は2人にキスを返す。3人でするキスは俺達を幸せにするのだから可能ならずっと味わいたいくらいだ。

 

「私も愛してるよ」

 

「……今日は八幡の為に腕によりをかけて作ったわ」

 

2人は俺にキスをしながらテーブルを指し示してくる。そこにはオーフェリアのグラタンを始めとした俺の好物がズラリと並んでいた。俺の為にここまでしてくれると彼氏としては嬉しく思う。

 

「それは嬉しいな。じゃあ早速貰って良いか?」

 

「もちろん。さあ座って座って」

 

2人に促されて席に着くとオーフェリアが早速グラタンをスプーンですくって……

 

「八幡、あーん」

 

スプーンを突き出してあーんをしてくる。既に何千どころか何万もあーんをされた俺からしたら恥じらいは一切無いので……

 

「あーん」

 

そのまま口を開けてグラタンを食べる。すると口の中に熱とチーズの旨味が同時にやってきてくる。それをゆっくり味わってから飲み込む。

 

「ありがとうオーフェリア。凄く美味かった」

 

あーんの補助効果もあって最高の一言だった。やっぱり料理には愛情だろう。一口食べただけで物凄く伝わってきたし。

 

「……なら良かったわ」

 

オーフェリアは小さくはにかむ。普段は割と無表情のオーフェリアのはにかみは破壊力があり過ぎる。これを見てドキドキしない男はいないだろう。

 

「八幡君八幡君」

 

するとオーフェリアと反対側に座っているシルヴィが肩を叩いてくるので振り向くと……

 

「あーん」

 

フォークに刺したチキンを突き出してくる。

 

「あーん」

 

だから俺はオーフェリアの時と同じように口を開けてチキンを口にする。

 

「どう?私が焼いたんだけど……美味しいかな?」

 

「最高」

 

「そっか……ふふっ」

 

不安の混じったようなシルヴィの問いに即座に返事をするとシルヴィは途端に嬉しそうな表情を浮かべてくる。

 

(やっぱり2人の笑顔は可愛いな……)

 

今まで様々な女子の笑顔を見てきたが、彼女だからかオーフェリアとシルヴィの笑顔は群を抜いていると思う。見るだけで何でも出来ると思えるほどに。

 

それから20分、俺は2人にあーんをされ続けながら2人の手料理を口にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ八幡君。私達からのプレゼント、受け取って」

 

夕飯を食べてケーキを食べ終えると、オーフェリアとシルヴィがプレゼントを渡してくる。どうやらバラバラではなく、2人が選んだプレゼントなのだろう。

 

受け取った俺は箱に付いてあるリボンを取って開けると……

 

「おおっ……綺麗だな」

 

驚きの感情が生まれてくる。

 

入っていたのはロケットペンダントだった。銀色のそれはとても美しくかなり高級である事がわかる。

 

しかし1番驚いたのは既に写真が入っていた事。そこにはディスティニーランドに行った際に撮った、白亜の城をバックに俺が2人にキスをされている写真だった。

 

「店員さんに頼んで入れて貰ったんだけど、どうかな?」

 

「……違う写真が良かったかしら?」

 

言いながらオーフェリアとシルヴィは俺が今貰った同じロケットペンダントを見せてくる。どうやら3人お揃いにしたかったようだ。

 

俺としては大歓迎だ。3人で同じ物を持つなんて実に良いと思うし。

 

そう思いながら俺は無言でロケットペンダントを首にかける。すると首に若干の重みが感じるが気持ちの良い重みである。

 

「あ……うん、やっぱり似合ってるよ」

 

「……3人でお揃い」

 

2人は幸せそうに笑ってくる。たったこれだけの事で笑ってくれるなんて嬉しい。可能ならこれからずっと、こんなさり気ないやり取りでも幸せを感じる日々を過ごしたい。

 

そう考えた俺は、今日の為に俺が用意した物を渡す決心をした。

 

「ありがとな……実は俺からもお前らに渡したい物があるから受け取ってくれないか?」

 

「え?八幡君が私達に?」

 

「……八幡の誕生日に物を貰うなんて思わなかったわ」

 

2人がキョトンとする中、俺はポケットから小さい、それでありながら高級そうな箱を取り出して2人に見えるように開ける。

 

「えっ?!八幡君?!」

 

「それは……」

 

2人が驚きの表情を浮かべる。箱の中にあるのはルビーが埋め込まれた3つの銀色の指輪だからだろう。

 

「今日、俺は18歳になったから結婚が出来る。こういったことは早過ぎるかもしれないが……」

 

一度深呼吸をして……

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前らが好きだ。アスタリスクを卒業したら俺と……結婚してくれ」

 

指輪の入った箱を2人に突きつける。同時に顔が熱くなる。好きだとか将来云々については何度も話したが、指輪を渡してのプロポーズは初めてなので恥ずかしい。

 

俺が内心悶々としていると、2人は目尻に涙を浮かばせながらも笑みを見せて……

 

「不束者ですがよろしくお願いします……!」

 

「……私達を幸せにしてね」

 

俺のプロポーズを受け入れてくれた。同時に俺の中で嬉しさが込み上がみ、感極まって2人を抱き寄せる。

 

「わかってる……絶対に俺の全てを賭けて幸せにしてみせる」

 

これは2人と付き合った時から決めていた事だ。2人の告白を受け入れた以上2人を幸せにする義務があるのだから。

 

「ありがとう……ねえ八幡君、指輪……付けて欲しいな」

 

「……私も」

 

「わかった」

 

言いながら2人から離れてから、俺は1番左の指輪を取りオーフェリアの左手を掴む。既に2人の指のサイズは2人が寝ている時に測ったから問題ない筈だ。

 

そう思いながらオーフェリアの左手の薬指に指輪をはめるとピッタリと合った。

 

「わあっ……!」

 

するとオーフェリアは珍しくハッキリと喜びの色を露わにして自分の左手を眺める。そこまで喜んで貰えたなら男冥利に尽きるな。

 

そう思いながら俺は箱の中で1番右にある指輪を取り、今度はシルヴィの左手を掴み、薬指に指輪をはめる。

 

「ふふっ……八幡からの指輪……」

 

シルヴィはニヤニヤしながら指輪を眺める。シルヴィがそんな表情をするのを初めて見るので意外である。

 

(が、まあ喜んでくれて何よりだ)

 

これで重いとか言われたらショック死している自信がある。冗談抜きで。

 

そんなことを考えていると……

 

「「じゃあ最後に……」」

 

恋人2人が箱に残っている指輪を取り俺の左手の薬指にはめてくる。それによって俺達3人の左手の薬指には同じ指輪がはめられた。

 

そして俺達はゆっくりと顔を寄せ合い……

 

「「「愛してる(よ)(わ)」」」

 

ちゅっ……

 

3人で抱き合いながら唇を重ねた。もう俺達の関係は不滅だ。何があっても壊すつもりはないし、壊そうとするものは全て排除するつもりだ。

 

 

 

そう思いながら俺達はキスをし続けた。今はただこうしていたい。ただ3人で幸せを感じ続けたかった。

 

 

気が付けば朝になっていた。今まで何時間もキスをした事はあるが12時間以上したのは初めてだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数ヶ月が経過した。

 

俺がシルヴィとオーフェリアに正式にプロポーズしてから色々あった。

 

いつものように3人でイチャイチャしたり、ワインバーグとメスメルを鍛えたり、星露と殴り合ったり、街に出たら偶然会った葉山と揉めて殴られたり、クリスマスに聖夜の夜を性夜の夜にしたり、大晦日にイチャイチャして年が明けてから2人を抱いたり、正月に明治神宮に向かったり、など色々な事があった。

 

思い出すと懐かしい事ばかりだが、今日から2週間は思い出に耽っている事はないだろう。

 

理由は簡単、これから始まるイベントに集中しないと足元を掬われるからだ。

 

 

そう、世界で最も盛り上がると言われているイベントーーー王竜星武祭に集中しないといけない。

 

遂に3年ぶりに行われる王竜星武祭の幕が開く。


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