学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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比企谷八幡の公式序列戦が始まる(後編)

 

 

 

「纏えーーー影狼修羅鎧」

 

俺がそう呟くと周囲に存在している影から水音に近い音が聞こえ始める。

 

それを認知すると同時に俺の顔に奇妙な感触が襲いかかり、視界が少し狭くなる。そしてその感触は徐々に首や胴体、足にも伝わる。

 

体全身に伝わると奇妙な感触はなくなり、その代わりに若干の重みを感じるようになった。どうやら装備を完了したようだ。

 

さて、やるか。

 

そう判断すると俺は影の中から地上に上がった。

 

 

 

 

 

 

 

地上に上がるとイレーネは俺を見て目を見開き、観客席からは騒めきが聞こえてくる。

 

「……でたな。2ヶ月前のオーフェリアとの序列戦の時以来に見たな」

 

イレーネは目を細め憎々しげに、それでありながら若干の恐れを帯びた声でそう言ってくる。最後に使ったのはそん時か。

 

「そうだな。悪いが一気に決めさせてもらうぞ」

 

「……相変わらず凄まじい雰囲気の鎧だな」

 

イレーネが指し示しているのは俺が纏っている鎧だろう。現在俺は顔の部分は狼を模した兜をかぶっていて、全身は西洋風の黒い鎧に包まれている。影で出来ているが外見は硬そうな鎧である。

 

俺は息を吐くと同時に突っ込む。それによって若干鎧から影の揺らめきが生じている。

 

「ちいっ!十重壊!」

 

イレーネは叫びながら『覇潰の血鎌』を振るって自身の周囲に黒い重力球を浮かばせて俺目掛けて放つ。対して俺は避ける素振りを見せずに突っ込む。それによって複数の重力球は俺の鎧にぶつかる。

 

普通なら重力球は縮小して効果を発揮するが、今回は縮小する前に全ての重力球は鎧に飲み込まれた。

 

それと同時に鎧から鈍い音が響き渡り重力球を取り込んだ腹辺りに振動が走り吐き気を促してくる。影の中で重力が蠢いているのだろう。

 

 

だが……

 

「無駄だ。俺の星辰力を大量に込めたこの鎧を纏っている時は大したダメージにならん」

 

俺の切り札の一つ、影狼修羅鎧。

 

俺の総星辰力の約半分を注ぎ込んで作られる影の鎧。効果はシンプル、ありとあらゆる攻撃を鎧が飲み込んで俺の体に与えるダメージを減らす。

 

ただダメージ減少量が桁違いで純星煌式武装である『覇潰の血鎌』の重力球を数発食らってもゲロ吐きそうになる程度の痛みで済むレベルで重力によるダメージは殆どゼロだ。

 

消費星辰力が大きい為使う事は滅多にないが普通に使ったら多分冒頭の十二人以外では傷一つ付けられないだろう。

 

俺は特に痛みを感じる事なくイレーネに近寄り拳を放つ。わざわざ煌式武装を使うまでもない。鎧の一撃は並の流星闘技を上回る破壊力だ。

 

「ぐううっ!」

 

イレーネは咄嗟に『覇潰の血鎌』を盾にして俺の拳を受け止めて後ろに跳ぶ。それによって壁にぶつかるが俺の中では手応えを感じない。

 

(……後ろに跳んで衝撃を和らげたか。相変わらず体術も一級品だな)

 

あの技術は俺も会得しようと努力しているが中々上手くいっていないからな。勉強しておこう。

 

「ってーな……ふざけた威力してやがる。全然衝撃を殺せなかったぜ」

 

煙の中からイレーネが首をコキコキしながら出てきた。見ると制服は汚れていて口からは血が出ていたのでダメージは小さくないだろう。

 

一気にケリをつけるべきだろう。そう判断した俺は再度突っ込む。後1発決めれば勝ちだろう。

 

対してイレーネはよろめきながらも『覇潰の血鎌』を構える。

 

「確かにその鎧は強い。だがこれならどうだ?」

 

イレーネの中で『覇潰の血鎌』が嗤っているように震えだす。それと同時にイレーネが一振りすると紫色の光が地面を走る。それはかなりの広範囲だ。

 

『覇潰の血鎌』は重力球を放つ攻撃と範囲指定型の重力操作の攻撃がある。今イレーネが放ったのは後者だろう。

 

しかしこの技には欠点がある。範囲指定の為発動までに若干のタイムラグが存在している。つまり同じ場所に留まらずに動き続ければその効果を受けないで済む。

 

大抵の連中は実力が追いつかず捕まるだろうが俺には特に問題なくこなせる。

 

対象座標の範囲から逃れて拳を叩き込む。それで俺の勝ちだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう思った時だった。

 

「……あ?」

 

いきなり浮遊感に襲われたかと思ったら身体がふわりと浮き上がっていた。

 

試しに腕を動かしてみるが空を切り身体は回転するだけだ。ヤバい、何も出来ない。

 

焦っているとイレーネは笑いながら話しかけてくる。

 

「残念だったな八幡。こいつを見せるのは初めてだが厄介だろ?重力を重くするのは燃費が高いが、弱い場合はそうでもねぇんだよ」

 

なるほどな。だから広範囲を指定出来た訳か。

 

「それにさっき面白い事言ってたな?重力球をくらった時に大したダメージにならないって」

 

「それがどうした?」

 

「って事は少しはダメージがあったんだろ?重力球を10発くらって大したダメージじゃないってのは流石だが……その10倍以上ならどうだ?」

 

イレーネがそう言うと『覇潰の血鎌』のウルム=マナダイトが紫色の光を強める。てか10倍以上だと?!

 

「ーー万重壊!」

 

イレーネがそう言って『覇潰の血鎌』を振ると『覇潰の血鎌』周囲から小型の重力球が大量に現れる。その数は軽く100を超えるだろう。

 

(……ヤバい。どうする?マジで負けるかもしれん)

 

何とかして重力から逃れようとするもバタバタするだけで逃げられん。そう思っているとイレーネはがくりと膝を折った。

 

「ぐうっ……大分使い過ぎだな。これで決めねぇと……!」

 

その顔は苦しそうだ。『覇潰の血鎌』は能力の代償として所有者の血液を要求する。使い手の身体を変質させて外部から血液を摂取できるようにしているが、今回は回復役がいない為これ以上は能力を使えないだろう。

 

つまりこの攻撃を凌げれば俺の勝ちだ。とはいえ凌げるかは微妙だが。

 

そう思う中、イレーネは『覇潰の血鎌』を振り上げる。ヤバいヤバい!

 

「終わりだ!これで序列2位はあたしの者だ!」

 

イレーネはそう叫び『覇潰の血鎌』を振り下ろす。それと同時に無数の重力球が俺に向かって飛んでくる。全部くらったらいくら影狼修羅鎧でもマズイかもしれん。

 

慌てながら辺りを見渡すと地面が見え、地表に俺の影がうつっていたのが目に入る。

 

瞬間、一つの案が浮かんだ。もうこれしかない。

 

 

「影よ!」

 

そう叫ぶと俺の影が地面から一直線に伸びて俺の足に絡む。

 

「なっ?!」

 

イレーネが驚く中、影は俺を無理やり地面に引っ張り始める。影を使って影の中に逃げればいい話だ。

 

しかし考えつくのが一足遅かった。影の中に潜るまで何発かくらうだろう。もっと早く考えついてれば……

 

内心舌打ちをしていると腹に何発もの衝撃が走る。影の鎧の中に入った重力球が影の中で暴れているのだろう。

 

それが何度も襲いかかり吐き気を引き起こす。早く影の中に……!!

 

ドプッ……

 

幾重にも襲いかかる衝撃を耐えながら、何とか影の中に入る事に成功した。

 

影の中に入ると同時に上から爆音がしたので見ると重力球が俺がいる場所に降り注いでいた。アレをくらったら星脈世代でもヤバいだろう。

 

しかし影の中にいる俺はセーフだ。この中にいる間はオーフェリアやシルヴィでも干渉出来ないからな。

 

そう思っていると爆音が止んだので上を見ると重力球は全て無くなっていてステージには限界寸前のイレーネがいた。

 

それを確認して影の中から出るとイレーネは引き攣った笑みを浮かべている。

 

「……ったくてめぇの能力は……『戦律の魔女』とは違った意味で万能だな」

 

息を切らしながらそう言ってくる。いやいや、確かに俺の能力はわりと優秀だがシルヴィに比べたら万能じゃないぞ?

 

「まあ影に干渉は出来ないからな。……それでどうする?俺も大分星辰力を失ったがお前の負けだと思うが」

 

「ちっ……分かりきってる事言ってんじゃねぇよ。あたしの負けだよ」

 

イレーネは舌打ちをしながら校章に手を当てて降参の意を示した。

 

 

 

『試合終了!勝者比企谷八幡!』

 

それと同時にアナウンスが流れて歓声が上がる。

 

余りの煩さに若干苛立ちながらイレーネに近寄り引っ張り起こす。

 

「おらよ。肩貸すぞ」

 

「悪りーな。医務室まで頼む」

 

「へいへい」

 

適当に返事をしながらイレーネに合わせてゆっくり歩き出す。歓声のシャワーが続く中ステージのゲートに歩を進めた。

 

 

こうして俺の高等部初の公式序列戦は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

医務室に着いたと同時にイレーネは輸血パックを取って一気に飲み始める。本当に吸血鬼みたいだな……

 

「よしっ。これで支障なく動けるな」

 

「そいつは良かったな」

 

「まあな。にしてもてめぇの影の中に逃げるアレは反則じみてるだろ!」

 

「それについては俺もそう思っているな」

 

「本当に厄介だぜ。……にしても今回も負けちまったか」

 

イレーネは頭をガリガリかきながら悔しそうな表情を見せてくる。

 

「悪いな。2位の座は結構気に入ってんだよ。そう簡単に渡さねーよ」

 

するとイレーネがニヤニヤしてくる。いきなりどうしたんだ?

 

「けっ。仲の良い『孤毒の魔女』と並んでいるのは楽しそうだな」

 

……何か含みのある言い方だな。結構イラってきた。

 

「おいイレーネ。その言い方だと俺とオーフェリアが恋人みたいじゃねぇか」

 

「ん?違うのか?学校の裏サイトとかにはお前とあいつが恋人って書かれてるぞ」

 

はぁ?!

 

俺は自分の端末を操作してレヴォルフの裏サイトに行ってみる。

 

するとそこには『序列1位と2位の愛の絆』とか『孤毒の魔女、自身の毒で影の魔術師を虜にする?!』とか表示されていた。

 

「よしわかった。裏サイトの管理人見つけてぶっ殺す」

 

前者はまだしも後者の記事はガチで苛ついた。オーフェリアは恋愛に興味ないだろうし、そんな事をする人間じゃないのは知っている。

 

「ん?て事は恋仲じゃ……」

 

「違うからな」

 

「まあ八幡にそんな甲斐性あるわけねーよな。レヴォルフでオーフェリアと会話してるから誤解されたんだろ」

 

まああり得るかもしれん。オーフェリアと話す男子なんて俺とディルクくらいだし。

 

「まあそうかもな。それより俺は約束があるからもう行くがいいか?」

 

「ああ。運んでくれてありがとな」

 

「どういたしまして」

 

イレーネの礼を受けながら俺は医務室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

医務室を出て廊下を歩いているとオーフェリアが歩いてきた。となると今から試合なのだろう。

 

「……八幡。序盤油断した?」

 

オーフェリアがいつもの表情でそう聞いてくる。どうやらお見通しのようだ。

 

「まあな。少し油断した」

 

「八幡が油断なんて珍しいわね。まあ八幡が負けるとは思ってなかったけど」

 

「何だ。随分評価してくれてるな」

 

「ええ。レヴォルフで八幡を倒せるのは私だけだから」

 

ぐっ……それについては否定が出来ない。できはしないが……はっきり言われると若干ヘコむ。

 

「うっせぇ。いつか勝ってやるよ」

 

「それは無理ね。八幡の運命じゃ私の運命は覆せない」

 

断言するな。マジでヘコむ。

 

「へいへい。とりあえず試合頑張れよ。応援してる」

 

まあオーフェリアが負けるとは微塵も思ってないが。

 

「……そう。ありがとう」

 

オーフェリアは一瞬目を見開いてからそのままステージに向かって歩き出した。

 

それを見送った俺は先程までいた休憩場所に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『試合終了!勝者オーフェリア・ランドルーフェン!』

 

……うん。予想通りだ。対戦相手の男子に合掌。

 

両手を合わせていると端末が鳴り出したので見ると小町からメールが来ていた。

 

見ると集合時間を過ぎている事に対する文句のメールだった。やべ……

 

時計を見ると10分過ぎていた。となると集合場所に着く頃には30分くらい遅れるな。

 

俺は小町に謝罪のメールを送りながらステージを後にした。

 

 

 

 

 

 

久々に小町や戸塚に会う事を楽しみにしながら。

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