学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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比企谷八幡は己の試合を省みて、強者の試合を見る

「……ったく、あいつらはどれだけ質問をすれば気が済むんだよ……?」

 

1回戦を突破した俺がステージを後にすると即座に取材陣に捕まってインタビューを受けさせられた。

 

質問についても大会での目標だの、ライバルは誰かだの、今大会に向けてどんな努力をしたのか、みたいな質問なら文句はないが……

 

(オーフェリアとシルヴィに関する質問が多過ぎだろ……)

 

2人とはいつ結婚するだの、新婚旅行は何処にするのだとか王竜星武祭関係ないだろ?

 

そんな事を考えながら控え室に向かっていると……

 

(何だありゃ?随分と珍しい組み合わせだな)

 

視界の先にはリースフェルトと材木座が雑談している光景が見えた。

 

両者共に俺の知り合いで、今日シリウスドームで試合を行うが、あの2人がどういう関係なのかサッパリわからん。

 

予想外の光景にポカンとしていると、材木座の方が俺に気付き……

 

「おお八幡よ!直で会うのは久しぶりであるな!」

 

暑苦しい巨体で近付いてくる。そういやこいつに会うのは久しぶりだ。昔は義手の調整云々で割と会っていたけど。

 

「そうだな。確かに久しぶりだな」

 

「うむ。ちなみに先程の試合は見事であったぞ。葉山隼人が八幡に背を向けて逃げだした時は、我とエルネスタ殿、笑い過ぎて涙が出てしまったわ」

 

まあ側から見たら葉山の逃走っぷりは滑稽に見えるだろう。

 

「そりゃどうも。ちなみに何でお前がリースフェルトといるんだ?どんな接点だよ?」

 

「それは私の『ノヴァ・スピーナ』をこいつが作ったからだ。以降メンテナンス繋がりで何度か会っているのだ」

 

すると材木座同様こちらにやって来たリースフェルトが説明をしてくる。そういやアルルカントは2年半前にサイラス・ノーマンの事件で手打ちとして煌式武装の共同開発を提案したんだったな。

 

「なるほどな……てかお前、他校の生徒を強くし過ぎだろ?」

 

リースフェルトにしろチーム・赫夜にしろ、材木座の作った煌式武装を使っているし。

 

「チーム・赫夜を準優勝まで鍛えた貴様に言われたくないわ!それに貴様がチーム・赫夜に『ダークリパルサー』を渡した所為で我、上司に凄く怒られたんだぞ!」

 

途端に材木座が凄い剣幕で詰め寄ってくる。確か俺を通してとはいえ、アルルカントの材木座がクインヴェールの生徒に煌式武装を、それもチーム・ランスロットを倒すきっかけとなるような凄い煌式武装を渡すのは、アルルカントからしたらアレだろう。

 

(というか俺、ヴァイオレットとノエルにも『ダークリパルサー』を渡したんだけど……)

 

うん、これは胸の内に仕舞っておこう。バレたら面倒そうだし。

 

「あ〜……済まん」

 

「全くだ。よって今回の王竜星武祭で結果を出さないと我、ヤバイのだ」

 

「だから王竜星武祭に出たのか?」

 

「いや、元々出る予定ではあった。単に出る理由が増えたのだ……っと、もう時間だ」

 

確かに俺の試合が終わって大分時間が経っている。思いの外取材に時間を食ったようだ。

 

「そうか……まあアルディなら余裕だろ」

 

「当然である。対戦相手のあの女、総武中時代は女王気取りで威張り散らしていたが、アスタリスクでは有象無象の一人である事を教えてやるわ!」

 

「ん?『獄炎槌』はお前達と同じ中学だったのか?」

 

「まあな。と言ってもそこまで接点はないけど」

 

「お前といい、『魔王』といい……随分と総武中からアスタリスクに来ているな」

 

材木座、というかアルディの1回戦の相手はガラードワースの序列21位『獄炎槌』三浦優美子。中学時代葉山と並びクラスの女王として君臨していた女だ。

 

まあ幾らリア充でもアスタリスクでは強さが全て。友達が多くいようと強くなきゃ価値はないのだから、中学時代の功績も意味がないだろう。

 

「さて、そろそろ時間だから我は控え室に戻るが……」

 

そう言って材木座は俺とリースフェルトを指差して……

 

「宣言しておこう!優勝するのは我とアルディ殿である!」

 

高らかにそう宣言して去って行った。中学時代の材木座ならタダのカッコ付けと断じていたが、今の奴から凄い気迫を感じる。どうやら奴も俺同様にアスタリスクに来て大きく変化したのだろう。

 

「ふっ……面白い。鳳凰星武祭では綾斗に任せ切りだったからな。本戦で当たったら丸焼きにしてやる」

 

「随分と血気盛んなことで……」

 

一方のリースフェルトも不敵に笑っている。全くどいつもこいつも熱くなり過ぎだろ?本当、今回の王竜星武祭は強者が集いまくりだな。

 

「生憎と私は負けず嫌いなのでな。それと比企谷にも言っておく。お前には何度も世話になったが……もしも当たったら負けないからな?」

 

「こっちのセリフだ。叶える願いは同じだが、俺もシルヴィに挑みたいし負けるつもりはない」

 

勿論優勝したい気持ちはあるがそれ以上にシルヴィに挑み、そして勝ちたい。

 

リースフェルトが笑っているのを見ると俺も思わず笑ってしまう。昔の俺なら強い奴と戦うのなんて真っ平御免であったが、今の俺の中にはリースフェルトにしろアルディにしろ戦ってみたいという気持ちが混じっている。

 

これは絶対に星露の影響だろうな。奴の戦闘狂気質に感染して俺自身も戦闘に興味を持つようになったに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから15分後……

 

「ただいま」

 

リースフェルトと10分程雑談した俺は、自分の控え室に戻ると……

 

「おかえり八幡君」

 

「……1回戦突破おめでとう」

 

「お、お疲れ様でした……」

 

恋人のオーフェリアとシルヴィ、妹属性満載で俺の心のオアシスのノエルが出迎えてくれる。ああ、3人の顔を見ただけでさっきまで溜まっていたストレスが無くなっていく……

 

「ああ。葉山との試合よりも取材陣との戦いに疲れたよ……」

 

「あー、さっき見たけど私達の関係についても聞かれてたね……」

 

「……2回戦は4日後だし問題はないわよ。あの葉虫との試合も無傷で勝ったのだから」

 

オーフェリアは黒い笑みを浮かべながらそう言ってくる。どんだけお前は葉山が嫌いなんだよ?いや、俺も嫌いだけどさ。

 

「あ、あの八幡さん……」

 

そんな考えながら空間ウィンドウに映るクインヴェールと界龍の生徒の試合を見ようとしていると、ノエルがおずおずと手を挙げて俺に話しかけてくる。

 

「どうした?」

 

「は、はい。さっきの葉山先輩との試合なんですけど……ああいうのは良くないと思います……」

 

「と言うと?」

 

「その……5分間攻撃をしなかったり、試合中にコーヒーを飲んだりとかです」

 

「つまりノエルは舐めプをするなと?」

 

「は、はい。八幡さんが葉山先輩を嫌ったり恨みを持つのは、理不尽に罵倒されたり、殴られたりしていますから仕方ないと思います。ですが……星武祭で明らかに相手を見下した試合をするのは良くないと思います……」

 

ノエルはモジモジしながらもそう言ってくる。ノエルはマトモなガラードワースの生徒。舐めプとかは許容出来ないのだろう。

 

そう考えると俺も少しやり過ぎたかもしれない。葉山程度の相手に一少々大人気なかった気がする。おちょくるより瞬殺した方が良かったかもしれない。

 

見ればオーフェリアも少しだけ恥ずかしそうに目を逸らしていた。恐らくノエルの純真さに自分の考えが子供っぽいと思ったのだろう。

 

「……そうだな。次の試合からは舐めプをしない。約束する」

 

てか葉山だから舐めプしただけで次からは一切舐めプするつもりはないけどな。

 

「わ、わかりました……では」

 

するとノエルはおずおずと俺に小指を見せてくる。

 

「な、何だ?何を求めてるんだ?」

 

「え……?日本では約束する時に指切りというものをすると聞いたのですが……」

 

ああ、指切りね。確かに指切りでは小指を使うな。指切りなんて最近やってないから失念していたな。

 

「まあ良いが……ほれ」

 

俺も小指を差し出すと、ノエルは嬉しそうに小指を絡めてくる。

 

「「あっ」」

 

するとオーフェリアとシルヴィが素っ頓狂な声を出すので何事かと聞いてみようとするが、その前にノエルが手を動かして……

 

「ゆ、ゆ〜びきりげんまん。嘘吐いたら針千本飲ーます、指切った」

 

可愛らしく指切りげんまんをしてくる。そして指を切ると笑顔を俺に向けてくる。

 

「じゃあ八幡さん、約束を守ってくださいね」

 

「任せろ」

 

そんな風に頼まれたら約束を守らないとな。まあ元々葉山以外には舐めプをするつもりはないが。

 

「「………」」

 

「な、何だよ?」

 

そこまで考えているとオーフェリアとシルヴィが何かを探るかのように俺とノエルを見ていた。

 

「いや……私達の危惧している事になるかもって思っただけだよ」

 

「は?どういうことだ?」

 

「……何でもないわ。それより試合を見ましょう。それと……今夜は搾り取るから」

 

はい?!ちょっと待て!物凄い段階を飛ばさなかった?マジで意味がわからん。

 

疑問に思っているも、俺以外の3人は空間ウィンドウを見ているので、一先ず俺も試合を見る事にした。

 

『さあ!次の試合に参りましょう!お次は今シーズンの鳳凰星武祭準優勝をしたアルルカントの擬形体のアルディ選手とガラードワースの序列21位『獄炎槌』三浦優美子選手の試合です!』

 

『アルディ選手は鳳凰星武祭の時は『彫刻派』代表のエルネスタ・キューネ選手の代理でしたが、今大会では『獅子派』の新しい会長である材木座義輝選手の代理として出場している事から、使用する煌式武装も変化するだろう』

 

実況と解説の声が聞こえる中、ステージにアルディと三浦が向かい合う。見れば三浦は機嫌が悪そうだが、葉山が負けたからだろう。

 

「さて……材木座の事だ。またぶっ飛んだ煌式武装を用意したんだろうな」

 

「だよね……防御障壁も加わると絶対に厄介だよ……」

 

何せ今シーズンの獅鷲星武祭ではチーム・ランスロットを撃破するキッカケを作った煌式武装も開発したのだ。

 

今シーズンの鳳凰星武祭と獅鷲星武祭で本戦に上がったアルルカントの生徒の大半は材木座が作った煌式武装を使ってるし、技術者としては正真正銘の天才だろう。

 

「あの……その口振りだとお知り合いなのですか?」

 

「アスタリスクに来る前に同じ中学だったんだよ」

 

「そ、そうですか……葉山先輩や三浦先輩といい、八幡さんの中学の生徒って結構アスタリスクに来てますね」

 

否定はしない。しかしあいつらは来ないで欲しかった。特に葉山と一色。あいつらの所為でかなりストレスが溜まったし。

 

そうこうしている間にも、両者が開始地点に向かい各々の煌式武装を展開する。三浦は自身と同じくらいの大きさのハンマー型煌式武装を展開する。

 

対するアルディも煌式武装を展開するが……

 

「赤い……?」

 

アルディの煌式武装は全身真っ赤のハンマーだった。鳳凰星武祭の時は真っ黒なハンマーだった筈だが……

 

(ただ色を変えた訳ではないし……何なんだ?)

 

疑問に思う中、開始時間が迫っていき……

 

『Gブロック1回戦第2試合、試合開始!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「Gブロック1回戦第2試合、試合開始!」

 

試合開始を告げると同時に三浦は全身から怒りを撒き散らしながらハンマーを構えて走り出す。

 

(こんな人形さっさと壊して本戦に上がってやるし!ズルして隼人を倒したヒキオをぶっ潰さないといけないんだから!)

 

葉山グループの主要メンバーである三浦は八幡と葉山の試合を見て、八幡が卑怯な手を使ったと思っている。だから自分が八幡を倒して、茫然自失となっている葉山を助けようと考えている。

 

そんな三浦がアルディとの距離を10メートルまで縮めた時だった。

 

アルディはいきなり右手を三浦に向けて突きつけ、自身の前方に巨大な防御障壁を展開した。

 

『ここでアルディ選手、鳳凰星武祭で沢山の選手を苦しめた防御障壁を展開!しかし何故この距離で展開したのでしょうか?私の見立てですと早過ぎるのですが……』

 

『恐らくアルディ選手の持つハンマーが関係しているのだろう。見る限りハンマーの先端部分から火花が見える』

 

解説の声を聞いた三浦がアルディのハンマーを見ると、本当にハンマーの先端から赤い火花が飛んでいた。

 

それに対して三浦は若干気圧されるも……

 

(ふん!この距離ならハンマーも届かないし、防御障壁を使う意味はないし!)

 

そう思いながらアルディの後ろに回り込もうとする。真っ向から防御障壁とやり合うつもりはない。

 

その時だった。アルディが身体を動かして回り込もうとする三浦の方を向く。同時に先程アルディが展開した防御障壁もそれに合わせて、アルディと三浦の間まで移動した。

 

そして……

 

「むぅんっ!」

 

アルディが低い声を出しながらハンマーを防御障壁に向かって振るう。するとハンマーの先端が防御障壁に当たる直前に、ハンマーの先端から生まれた火花が防御障壁に当たり……

 

「行くが良い!」

 

次の瞬間、防御障壁が圧倒的な速度で三浦の元に飛んで行った。対する三浦は予想外の光景を目にしたからか足を止めていて……

 

「っ……がぁぁぁぁぁぁっ!」

 

防御障壁を叩きつけられて、そのままステージの壁まで吹き飛ばされて頭から壁にぶつかる。

 

そして三浦がぶつかったことによってステージの壁に巨大な穴が出来ると同時に……

 

『三浦優美子、意識消失』

 

『試合終了!勝者、材木座義輝!』

 

試合終了のブザーが鳴り、アルディの2回戦進出が決まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『試合終了!勝者、材木座義輝!』

 

「おーおー、将軍ちゃんも中々面白い煌式武装を開発したねー」

 

アルルカント専用の観覧席にてエルネスタ・キューネはカラカラ笑いながら隣に座っている材木座を褒める。現在観覧席にはエルネスタと材木座以外存在しない。カミラはリムシィの最終チェックという理由で、レナティはエルネスタが試合がある明後日まで秘密にしておきたい理由でアルルカントのラボにいる。

 

「ほう?我の開発した『マグネット』の効果を理解したか?」

 

「いや名前で丸分かりだからね?……あのハンマーを振るうとアルディの防御障壁と反発する作用の力が生まれて、防御障壁を反発作用で吹き飛ばして相手にぶつける……本当にマグネットだね」

 

エルネスタの指摘通り『マグネット』は反発作用を利用して防御障壁を相手に飛ばすための煌式武装である。『マグネット』を防御障壁に振るうと、『マグネット』を振るう力によって防御障壁の飛ぶスピードは変化する。

 

加えてアルディの防御障壁はアルディの動力源となっているウルム=マナダイトから生まれた物であるので、実質的に純星煌式武装のようなものだ。純星煌式武装の力を高速で相手にぶつける、敵からしたら恐怖でしかないだろう。

 

しかしエルネスタが驚いているのはそこではない。真に驚いているのは『マグネット』を作り上げた材木座の腕前についてだ。

 

『マグネット』の能力はシンプルだが、作るのは大変難しい。

 

何故なら防御障壁ーーーつまりはウルム=マナダイトを完璧に理解しないと、防御障壁と反発する性質を持つ『マグネット』を作れないからだ。

 

ウルム=マナダイトは現在の落星工学技術でもその殆どが謎に包まれているが、材木座はアルディの動力源だけとはいえ、ウルム=マナダイトを完璧に理解したのだ。アルルカントで異常と称されているエルネスタからしても異常と思ってしまう。

 

(しかも将軍ちゃんの余裕から察するにまだまだ秘策はあるだろうな〜。何で将軍ちゃんって普段は駄目人間なのに、煌式武装が絡むと天才になるんだろ?)

 

エルネスタはそう思いながら材木座を見ていると、材木座も視線に気付いたのか訝しげな表情を浮かべる。

 

「何であるか?さっきらからジロジロと?」

 

「ん〜?何で将軍ちゃんは煌式武装が絡むと凄いのに普段は駄目人間だろうと思っただけにゃ〜」

 

「貴様に言われたくないわ!このボッチめが!」

 

「将軍ちゃんに言われたくないよ!将軍ちゃんアルルカントに1人も友達がいないじゃん!」

 

「はっ!我がアルルカントに友達がいないのは事実であるが、友達がいないから擬形体を作った貴様よりかはマシだわ!」

 

「だ・か・ら!それが目的で擬形体を作ったって言うのは止めてくれないかなぁ!ボッチ将軍っ!」

 

「何だと?!ボッチなのは貴様もだろうが、カミラ殿に迷惑をかけまくりの引き篭もりが!」

 

「将軍ちゃんの方がカミラに迷惑をかけてるでしょ?!」

 

 

カミラからすればどっちもどっちである。

 

2人は口喧嘩を始めるも、直ぐに取っ組み合いに変わる。アスタリスクに来る前の材木座なら女子に触れるなんて無理であったが、入学当初にエルネスタがからかいまくった事によって耐性がついたので問題なく取っ組み合いを出来ている。

 

 

結果2人は何時間も喧嘩していて、気がつけば初日の試合は全て終了していたのは別の話である。


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