『試合終了!勝者、材木座義輝!』
空間ウィンドウには材木座の代理として出場しているアルディが高らかにハンマーを掲げて勝利のポーズを見せている。
「まさか防御障壁を飛ばすとは思わなかったぜ……」
「私も予想外だよ。アレを食らったら身体強化した私でもキツいかも」
「そ、そうですね。それにアルディさんの防御障壁は動力源のウルム=マナダイトの能力と聞いています。実質純星煌式武装の防御障壁を飛ばす技術を持っている以上、他にも凄い煌式武装を持ってそうですね」
そんなアルディを見ながら俺達はさっきの試合の感想を述べているが、鳳凰星武祭の時に比べて格段に強くなっている。序列21位の三浦を瞬殺したのだから。
「……でしょうね。それにしてもあの男、それだけの才能があるのだから小説家は諦めれば良いのに……読み手としては面倒だわ」
オーフェリアがため息を吐きながら材木座に対する愚痴を吐く。それについてはマジで同感だ。
「え?材木座さんは技術者だけでなく小説家でもあるんですか?」
「まだ作家志望だ。と言っても書く小説はつまらない以外の感想が出てこない小説だがな」
「そ、そうなんですか……?」
ノエルの問いに俺達3人が頷く。大体俺か持ってるラノベの一部をパクってるし。
「まあそれは良い。それよりもお前の試合も近いし、そろそろ自分の控え室に戻っておけ」
既にシリウスドームで行われる初日の試合は半分以上終わっている。ノエルの試合も後20分もしないで始まるだろうから、そろそろ俺の控え室から帰った方が良いだろう。
「あ、そうですね……わかりました。今日は私に付き合ってくれてありがとうございました」
言いながらノエルは俺達にペコリと頭を下げる。流石欧州の貴族の人間だけあって綺麗な所作だ。やはりガラードワースにいるマトモな生徒は罵倒してくる葉山グループと違って礼儀正しいようだ。
「どういたしまして。じゃあまたな」
俺がそう言うとノエルは小さく礼をしてから控え室の出口に向かい……
「八幡さん!」
「どうした?」
「そ、その……私、頑張りますのでしっかり見ててください……!」
最後にそう言ってから出て行った。しっかり見ててだと?見るに決まってるだろ?ノエルは俺の可愛い弟子だし、ノエル自身も優勝出来る可能性を持っている以上、しっかりと対策はしておきたいし。
そんな事を考えているといきなり制服の裾を引っ張られたので左右を見るとオーフェリアとシルヴィがジト目を向けてきた。
「なんだよ?」
「「……別に」」
俺の質問に対して2人は一言だけそう言ってくるが、視線と行動を見る限り何かしら不満を持っているようにしか見えないんだが……
「……八幡君」
「何だよ?」
「今夜、搾り取るからね?」
「何でだよ?!いや、まあ……オーフェリアにも搾り取られる予定だったし良いけどよ……」
「だって八幡君、ノエルちゃんと仲良くし過ぎなんだもん……」
「……ノエルだけじゃないわ。美奈兎達とも仲が良いし……八幡の彼女は私とシルヴィアだけなのに」
「は?い、いや、確かに仲良くはしてると思うが、俺はノエルの事は妹みたいだと思ってるし、向こうも異性としては見てないだろ?」
それはチーム・赫夜のメンバーもノエルと同じだと思っている。向こうは俺を異性としては見てないだろう。
「「………」」
俺が反論するも2人はジト目を向けたままだ。全く納得してくれていないのが丸分かりだ。こりゃ今夜は干からびるまで搾り取られるな……
そう思っている間にも試合は進んでいき……
『続いての試合に参りましょう!先ずは東ゲート!栄光ある聖ガラードワースの銀翼騎士団の1人!ガラードワース序列7位『聖茨の魔女』ノエル・メスメル選手ー!』
実況の声が流れると同時にノエルが東ゲートから元気良く走ってくるのが見える。
『銀翼騎士団のメンバーは基本的に獅鷲星武祭に出ますからね。正直驚きました』
『加えてメスメル選手は後方支援タイプの能力者だ。彼女がどう戦うか見ものだな』
確かに獅鷲星武祭の頃のノエルは後方支援タイプだった。
しかし魎山泊の修行で後方支援タイプだけでなく、俺の影狼修羅鎧を模した聖狼修羅鎧を会得してバリバリの近接格闘タイプにもなった。
そしてその鎧を纏ったノエルは二回、影狼修羅鎧を纏った俺を倒しているくらいだし。
(しかもアイツ、絶対にまだ秘策を隠してるだろうからな……)
魎山泊でノエルと戦った際に俺に見せた最高の技は聖狼修羅鎧だが、俺の勘だとまだ手を隠している。おそらく王竜星武祭本番で俺やシルヴィ、壁を超えた人間との戦いに備えてだと思うが、今のノエルは危険だ。
(やれやれ……ヴァイオレットもそうだが、少し強くし過ぎたか?)
少なくともノエルとヴァイオレットは自分の所属する学園の序列1位に勝てる可能性はあると思う。流石に序列1位をキープするのは厳しいとは思うが1位になれる可能性は充分にあるだろう。
そうこうしている間にもノエルの対戦相手がステージに立つ。対戦相手は星導館の序列40位。普通にノエルの勝ちだろう。データを見る限り魎山泊のメンバーじゃないようだし。
そして……
『Oブロック1回戦第1試合、試合開始!』
アナウンスが流れると同時にノエルの足元から茨が猛烈な勢いで生えて、対戦相手に襲いかかる。
『試合開始早々メスメル選手の先制攻撃ー!ステージに茨が侵食を始める!』
『去年の獅鷲星武祭の頃と比べて展開速度が桁違いに上がっているな。これならサポートだけでなく立派な武器にもなるだろう』
ヘルガ隊長の言う通り、ノエルの能力は一年前に比べて展開速度、強度、規模に侵食範囲が桁違いに伸びている。あの茨の侵食に対抗出来るのは壁を超えた者か純星煌式武装を所有している人間くらいだろう。
星導館の生徒も剣を振って茨を斬ろうとするも、茨の強度が剣を上回り、そのまま茨は対戦相手の腕を飲み込んだ。それによって腕の自由が奪われて、間髪入れずに星導館の生徒の両手両足にも茨が絡みつき身動きが取れなくなっている。
(これは決まったな……俺自身も何度も経験している能力だが、相変わらずえげつないな……)
そう思いながら空間ウィンドウを見ればノエルが杖型煌式武装を持って、一瞬で距離を詰めてそのまま校章を破壊した。
『試合終了!勝者、ノエル・メスメル!』
試合終了の合図が鳴ると、ノエルは能力を解除して嬉しそうに握り拳を作る。戦い方はえげつないのに可愛いなおい。
「あらら……八幡君強くし過ぎでしょ?」
シルヴィが呆れたように言ってくるが否定はしない。自分で言うのもアレだがやり過ぎたな。しかもノエル以外にも魎山泊のメンバーはいるし、今年の王竜星武祭は一ミリも油断出来ないな。
そう思いながら俺はノエルがステージから退場するのを眺めながらため息を吐いたのだった。
その後も試合は続いた。その中で有力候補はというと……
リースフェルトはいつものように敵を丸焼きにして、沙々宮が持ち前の巨大な煌式武装で敵を吹き飛ばしたり、若宮が持ち前のスピードを活かして敵の顎にアッパーをして1発KOしたり、レスター・マクフェイルが圧倒的なパワーで敵を5秒で沈めたり、プリシラが高い防御で相手の攻撃を受け切りカウンターで倒したり、雪ノ下が敵を氷の像に変えたり……
そんな感じで有力候補は特に問題なく勝ち上がり、王竜星武祭初日は幕を下ろした。
試合は終わり各学園では様々な動きが生じていた。
「はっはー!美奈兎ちゃんも雪乃ちゃんも勝利か!このまま本戦に上がってくれたら私の給料が更に増えるぜー」
クインヴェールの理事長室にて教師の涼子は満足そうに酒を飲む。向かい側では仕事を終えたペトラが呆れながら涼子と同じように酒を飲んでいる。
「……貴女の場合もう充分に稼いでるでしょうに。まあ結果次第では昇給しますけど」
「さっすが統合企業財体の幹部だけあってペトラちゃんは話がわかるなー。教頭なんて事ある毎に私の事をレヴォルフの不良呼ばわりしてお前にやる給料はないとかほざくんだよ〜」
「まあレヴォルフの人間は基本的に嫌われますから」
実際涼子は他の教師からは割と嫌われているし、生徒の中でも嫌っている人は少なくない。
それでもクビにならないのは、高位序列者の生徒が涼子を慕っていたり、シルヴィアの義理の母だったり、クインヴェール全体の実力を大きく上げるという実績を出しているからだ。クインヴェールの中で星武祭に関して涼子を上回る実績を出している教師は1人もいない程に。
「まあ嫌われてるのは慣れてるけどな。それにしても今年の王竜星武祭は初日から大盛り上がりだな。私も参加したいぜ」
「貴女が参加したら更に荒れるでしょうね。まあ初日から盛り上がるのも当然でしょう。貴女の息子と天霧綾斗が圧倒的な力を見せたのですから」
ペトラの指摘通り、開幕試合を務め敵を5秒で仕留めた綾斗と、冒頭の十二人一歩手前の実力者相手に5分間攻撃をしないというハンデを与えたにもかかわらず、コーヒーを飲みながらも無傷の勝利をした八幡……ネットのニュースでは2人の記事が1番目立っている。
「ま、私の息子ならそんぐらいやらないとな。てかあの葉虫に負けてたら親子の縁を切ってたぜ」
涼子は酒瓶を掴み一気飲みしながら理事長室にある窓からガラードワースがある方角を眺めた。
「くそっ!くそくそくそくそくそ!くそぉっ!」
同時刻、聖ガラードワース学園の男子寮のある一室にて葉山隼人は髪をかきながら悔しさを露わにしていた。辺りにある家具は壊れたり倒れたりしていて、壁の一部には穴が生まれていた。
「あり得ない!ガラードワースを救う力を持つ俺が負けるなんてあり得ない!」
葉山はそう叫ぶも結果は覆らない。既に負けは決まっているのだから
「誰よりも努力したのに……何の努力もしていない比企谷に負けるなんてなにかの間違いに決まっている!くそっ!」
言いながら葉山は再度壁を殴りつけて穴を開けた。自身が誰よりも努力した天才で、八幡は卑怯な事しか出来ない屑と未だに思いながら。
「しかもあいつら……俺は悪くないのに逃げて……!」
王竜星武祭が始まる前は学園全体の4割近くを占めていた葉山グループだが、その内の9割が離脱した。理由としては簡単、アレだけ大口を叩いたにもかかわらず八幡に負けたからだ。
それだけならまだしも、5分間のハンデを与えられ、コーヒーを飲んでいる相手に対して何も出来ず、挙句に八幡に対して背中を向けて逃げた事は、幻滅する理由として充分である。
三浦を始めとした一部の人間は未だに八幡を卑怯呼ばわりしているが、学園全体から見れば葉山の評価は著しく下がっているのは紛れもない事実である。
余談だが、元から葉山グループに属していない人間の殆どは、八幡の事を嫌っていても八幡の実力を認めていたので葉山が勝つとは微塵も考えていなかった。しかし予想以上の葉山の無様な試合を見て葉山に対して呆れの感情を抱きながらガラードワースの品位が下がると嘆いているのだった。
閑話休題……
「クソッ……俺はガラードワースを救わなくちゃいけないのに……!こうなったらどんな手を使ってでも比企谷を倒さないといけない!星武祭中だが、正義は俺にあるし……」
葉山は目に執念の炎を宿しながらガラードワースを救うべく思考を開始したのだった。
同時刻、聖ガラードワース学園の女子寮では
「ノエル、1回戦突破おめでとう」
「あ、ありがとうございます……」
ガラードワース元序列2位のレティシア・ブランシャールがルームメイトのノエルに賞賛の言葉を送ると、ノエルは恥ずかしそうにしながらも小さく頷く。
「去年に比べて天と地ほどの差がついていますし……頑張ってくださいまし」
「もちろんです……ただ、八幡さんや天霧さんの試合を見ると不安になってしまいますね……」
「まああの2人は文字通り桁違いでしたからそう思っても仕方ないでしょう。比企谷八幡の試合は問題のある試合でしたけど」
レティシアは今日の試合を思い返す。八幡の試合は5分間何もしないというハンデを与えたり、試合中にコーヒーを飲むなど完全に相手を見下した試合だった。
レティシア個人としては問題を起こして自分の胃に穴を開ける原因を作る葉山の事は好きではないし、八幡が葉山を嫌う気持ちは理解しているが、相手を貶める試合をするのはやり過ぎと考えている。
「あ、それなら大丈夫です。八幡さんはもうあんな試合をしないと私と指切りしてくれましたから」
「指切り?確か日本で約束をする時にする儀式でしたわよね?」
「はい。実は今日八幡さんの試合の後にああいうのは良くないって言ったら、次からはしないと指切りをしました」
「そ、そうなんですの?」
「はい。その前にも八幡さんに頭を撫でて貰って、それが凄く気持ち良くて……」
ノエルは楽しそうな表情で今日の出来事、というより八幡の事を語る。それを聞いたレティシアはとある考えを抱く。
(この子、相当比企谷八幡に懐いていますわね。ソフィアさんも凄く懐いていますし、相当の女誑しですわね……)
ふとレティシアの頭に八幡が左右に2人の妻を、そして後ろに八幡と交流の深い十人近くの女子を愛人として侍らせて、全員とキスをする光景が浮かんだ。その中にはレティシアと交流の深いソフィアやノエルもいて恥ずかしそうに八幡とキスをしていた。
(いやいや、流石にそれはない……ですわよね?)
レティシアは頭に疑問符を浮かばせながらも、暫くの間ノエルの話を聞き続けたのだった。
同時刻、アルルカントアカデミー『獅子派』専用ラボでは……
「馬鹿かお前達は!」
ゴツンッ ゴツンッ
「「痛ぁぁぁぁぁぁっ!」」
『獅子派』前代表のカミラ・パレートの拳骨が現『獅子派』代表の材木座義輝と『彫刻派』代表のエルネスタ・キューネの頭に振り下ろされて、材木座とエルネスタは頭に手を当てて悶絶しながら床を転がる。
「喧嘩をしていて試合を殆ど見てない、挙句にドームを閉める為の見回りをする警備員に止められるまで喧嘩を止めないなんて本当に馬鹿か?!」
改めてカミラが2人に怒鳴ると2人は起きながら言い訳を始める。
「待てカミラ殿!エルネスタ殿と喧嘩したのは事実だが、優勝候補筆頭の八幡と天霧殿の試合はちゃんと見たのである!」
「そ、そうだよ〜。今日シリウスドームで試合をした選手の中でレナティに勝てる可能性が2人は見たんだしセーフだよね?」
「言い訳をするな!どんな相手だろうと警戒するのは当然だ。昨年の獅鷲星武祭でクインヴェールのチーム・赫夜が絶対王者のチーム・ランスロットを倒したのを忘れたか?!」
カミラがそう口にするとエルネスタが口を開ける。
「ちょっと〜?将軍ちゃんがチーム・赫夜にチーム・ランスロットを倒す鍵となった『ダークリパルサー』を渡した所為でこっちにもとばっちりが来たじゃん!」
「待てい!我はチーム・赫夜に渡したつもりはない!八幡が理由を教えずに作れと要求したのが悪い!」
「ぷっ……言い訳なんて男らしくないな〜剣豪将軍(笑)」
「その呼び方はやめい!擬形体以外友達のいないこの電波ぼっち!」
「なんですとぉっ〜!」
「いい加減に……しろ!」
ゴツンッ ゴツンッ
「「痛ぁぁぁぁぁぁっ!」」
再度カミラの拳骨が火を噴いて、材木座とエルネスタ再度床に倒れてのたうち回ったのだった。
そこには天才研究者としての威厳は全く無かった。
同時刻、比企谷八幡、オーフェリア・ランドルーフェン、シルヴィア・リューネハイムの家では……
「さあ八幡君、今日は寝かせないからね?」
「……女誑しの八幡が干からびるまで搾り取ってあげるわ」
俺、比企谷八幡はベッドの上にて下着一枚姿で恋人であるオーフェリアとシルヴィに押し倒されている。2人は既に身に何も纏っておらずヤる気満々のようだ。
長い付き合いからわかるが、これは逆らえないな。
「わかったよ、好きにしろ」
半ば諦めながら2人に身を委ねると……
「「八幡(君)の馬鹿……」」
ちゅっ……
言いながら俺の下着をずり下ろしながら同時にキスをしてきた。ダメだ……やっぱり2人には逆らえん。
気が付いた時には朝になっていて、俺の腰は痛くて、俺の両隣には一糸纏わぬ姿で幸せそうに寝ているオーフェリアとシルヴィがいたのだっな。