学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

244 / 324
王竜星武祭2日目、比企谷小町が動き出す

王竜星武祭2日目、俺は今恋人2人、オーフェリアとシルヴィを連れてカノープスドームの中を歩いている。何故メインステージであるシリウスドームでないかと言うと、理由は簡単。今日の場合シリウスドームで行われる試合よりカノープスドームで行われる試合を見たいからだ。

 

 

それにしても……

 

「ダメだ……頭と腰が痛過ぎる……」

 

思わずそう愚痴ってしまう。昨日恋人2人に搾り取られまくった際に腰を激しく動かした上、深夜3時まで続いたので結果としてコンディションは最悪である。まあ俺は既に1回戦を突破してるし、シルヴィの1回戦は明後日なので星武祭には影響がないだろう。

 

「ご、ごめん……つい、夢中になっちゃって……」

 

「……少しやり過ぎたわ」

 

両隣にいるオーフェリアとシルヴィはバツの悪そうな表情を浮かべながら謝ってくる。いや、別に怒っているわけじゃないんだがな……

 

そんな事を考えていると……

 

「あ!お兄ちゃん!オーフェリアさんにシルヴィアさんも!」

 

後ろから元気な声が聞こえたので振り向くと……

 

「……おいロドルフォ、何でテメェが小町と一緒にいるんだよ?」

 

可愛い妹とその隣に俺の前に序列2位の座にいた『砕星の魔術師』ロドルフォ・ゾッポがいた。

 

2人がカノープスドームにいるのはおかしくない。元々俺は今日カノープスドームに来たのは、可愛い妹である小町の試合とウチの学園のエースであるロドルフォの試合があるからだ。

 

しかし2人が並んでいるのは予想外だった。まさかとは思うがロドルフォの奴、俺の妹をナンパしたのか?だとしたら生徒会長の立場など無視して再起不能になるまで叩き潰してやる」

 

「おいおい、んな殺気を出しながら怖え事言うなって。一応俺、お前の妹を助けてやったんだし」

 

どうやら口に出していたようだ。しかし助けてやった?

 

「どういう事だ?」

 

「それがさ、さっき小町カノープスドームに行こうとしたら途中でレヴォルフの生徒にナンパされたの。それで無視して行こうとしたらその人腕を掴んできたの」

 

「何だと?そいつ今何処にいる?今すぐ殺すからそいつの特徴を教えろ」

 

人の妹にナンパするだけじゃ飽き足らず、ボディタッチをしただと?そんな万死に値する行為をする奴がいるとはな……猫を使って始末してやる。

 

「いやいや、殺さなくて良いからね。そんで小町が振り払おうとしたら、ロドルフォさんがそのナンパしてきた人の顔面を爆発させて助けてくれたの」

 

あー、なるほどね。確かにそれならロドルフォが小町を助けたと言っても納得だろう。

 

しかし1つだけ不満がある。

 

「おいロドルフォ、小町を助けてくれたのは感謝するが、顔面じゃ生温い。次からは心臓を爆発させろ」

 

ロドルフォは一定範囲内の星辰力へ干渉する事が出来る。

 

それは範囲内なら他人の星辰力へ干渉する事も出来て、界龍の拳士が得意とする拳や脚に星辰力を込めて攻撃力を高める技もロドルフォの前では阻害されるし、相手の星辰力に干渉して暴発させる事も出来る。

 

さっき小町を助けた時はナンパ男の顔面にある星辰力を暴発させたようだが、ロドルフォがその気になれば心臓や首を爆発させて殺すことも可能である。

 

「いやいや、歓楽街でマフィア同士の抗争をしてる時ならともかく、街中で心臓爆発はやらねぇからな?」

 

「だろうな。冗談で言ってみた」

 

殆ど毎日マフィア同士の抗争がある歓楽街や再開発エリアならともかく、中心街それも星武祭期間中に心臓爆発なんてやったら幾らロドルフォでもブタ箱行きになるだろう。

 

そしてそうなったらロドルフォの所属する学園の生徒会長である俺にもとばっちりが来そうだし。それは面倒だ。

 

「歓楽街なら殺すんですね……」

 

小町は引き攣った笑みを浮かべながらそう言ってくる。レヴォルフの生徒でマフィアに所属している人間は大抵殺しをやっている。

 

特にロドルフォはその中でもかなり殺している方だ。基本的には気さくな人間だが裏世界の敵に対しては一切の容赦を見せない悪鬼羅刹だろう。

 

レヴォルフの生徒である俺やオーフェリアや、汚い裏世界に対してそれなりに詳しいシルヴィならともかく、小町には刺激の強い話だろう。

 

「……私としては余り殺しをして欲しくないのだけど。偶に生徒会にも報告が入って仕事が面倒なの……」

 

オーフェリアがため息を吐きながらロドルフォをジト目で見る。レヴォルフの生徒会ではマフィア関係の仕事もあるが、その仕事をするのは荒事に慣れている俺とオーフェリアとイレーネだからオーフェリアにとっては仕事を増やしたくないのだろう。

 

ちなみにプリシラと樫丸には刺激が強過ぎると判断してマフィア関係の仕事は一切やらせていない。

 

そんなオーフェリアに対してロドルフォは笑いながら一蹴する。

 

「仕方ねぇだろ。向こうが殺そうとしてくるんだし。お前だって八幡を本気で殺そうとする奴が居たら殺すだろ?それと同じだよ」

 

「……なるほど。なら仕方ないわね」

 

「なるほどじゃねぇよ!俺の為に怒ってくれるのはありがたいが殺しはするな!」

 

ったく、こいつは……!そこまで想ってくれるのは嬉しいが、少々愛が重い気がする。

 

「はっはー!相変わらずのバカップルだな!てか八幡よ、テメェ随分と眠そうだが、昨夜はお楽しみだっただろ?何回戦までヤったんだ?」

 

「ほほう……予想はしてたけどやっぱりかぁ……葉虫を倒した記念で夜の営みをしたの?お兄ちゃんが野獣になったの?仔ウサギみたいに怯える2人を食べちゃったの?」

 

ロドルフォと小町が途端にニヤニヤした表情で揶揄してくる。ヤバい、半端なくウザい。今すぐ2人を殴りたい。

 

(ついでにロドルフォに小町よ。昨夜は6回戦まで突入して、野獣になったのは俺じゃなくてオーフェリアとシルヴィだからな?)

 

まあ馬鹿正直に言うとこの2人が調子に乗るのは一目瞭然だから口にしないけど。

 

一方のオーフェリアとシルヴィは真っ赤になって俯く。お前ら昨日アレだけ搾り取ったのに他人にからかわれると弱いのかよ?

 

呆れていると

 

pipipi……

 

「おっと、もうすぐ俺の試合の時間だな。んじゃぁな!どうせお前ら生徒会専用ブースで見るだろうが、人が来ないからってあんま盛るなよ?」

 

ロドルフォは楽しそうに笑いながら俺達に背を向けて去って行った。誰が盛るか!幾ら人が来ない生徒会専用ブースでも、そこまでチャレンジャーじゃないからな?てか今の俺は干からびてるし。

 

「それじゃあ小町もそろそろ行こうかな」

 

すると小町はそんな事を言ってくるが腑に落ちない点がある。

 

「もう行くのか?お前の試合はまだ先だと思っていたが」

 

「あー……そうじゃなくて、1人で静かな控え室に行って……あのクソ女をどうやって潰すか考えないといけないから」

 

小町は最後の部分を話す時に目を冷たくしながらそう言ってくる。そういや小町の対戦相手はアレだったな……

 

ため息を吐きながら端末を見ると……

 

Tブロック1回戦第1試合

比企谷小町VS一色いろは

 

と、表示されている。

 

一色いろは。ガラードワースの序列30位で『魅惑槍』という二つ名持ち。

 

男を誑かす槍使いだからそう呼ばれているらしいが、今の奴にその名前は相応しくないだろう。以前ノエルから一色の情報を聞いたが、以前オーフェリアとシルヴィを怒らせた動画がネットにアップされて以降孤立しているらしいし。

 

そして俺を貶める為に俺達3人のキスシーンの写真をネットにアップした人間でもある。

 

当初はガチで殺したかったが、時が経つにつれてバカらしくなったので殺意は消えた。今の俺は奴に対して好意も敵意もない。完全に興味がないのだ。

 

しかし小町にとっては未だに気に入らないのだろう。明らかに殺る気が見える。

 

「……わかってると思うが殺すなよ?」

 

滅多にないが、一応星武祭では事故によって死傷者出る事もある。悪意が無かったらまだ救われる可能性はあるが、悪意を持ってやった場合は間違いなく咎められるだろう。

 

小町が一色を恨むのに関してはどうこう言うつもりはないが、その辺りの線引きについては理解しないといけないので確認をする。

 

「わかってるよ。小町も悪目立ちしたくないし、適当にいたぶるだけにしておくよ。じゃあまたね」

 

言いながら小町も去って行った。様子を見る限り大丈夫そうだな。

 

まあどのみち小町の勝ちは確定だろう。一色の戦闘データを見たが、そこそこ優秀程度であるがそれだけだ。才能なら小町の方が数段上だし、努力の量も魎山泊に参加して居た小町の方が数段上。

 

加えて小町は純星煌式武装を持ってるし、間違いなく小町が勝つだろう。

 

「さて、んじゃ俺達も行こうぜ」

 

「あ……う、うん。そうだね」

 

「……早く行きましょう。大分人が集まっているし」

 

俺がそう言うとさっきまで顔を赤くしていた2人は漸く再起動して、俺の腕に抱きついてくる。こいつら本当に甘えん坊だな。

 

(ま、そんな甘えん坊な2人を心から愛してるけどな)

 

内心苦笑しながらも俺は2人の手を優しく握ってからレヴォルフの生徒会専用ブースに向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

それから20分後……

 

『試合終了!勝者、ロドルフォ・ゾッポ!』

 

レヴォルフの生徒会専用ブースにて、俺はステージ上にいるロドルフォが界龍の星露の弟子の子墨を爆発させて勝利するのを目にして息を吐く。

 

「ふぅ……序盤に仙具を使われた時は若干焦ったが、勝って良かった」

 

試合の流れはこうだ。

 

①ロドルフォの対戦相手の子墨は星露から貰った仙具を使って主導権を握ろうとする

 

②ロドルフォがそれをぶっ壊す

 

③子墨、予備のハンドガン型煌式武装を起動して攻撃

 

④ロドルフォ、巨大煌式遠隔誘導武装を起動してハンドガンを破壊

 

⑤子墨、武器を失ったので拳に星辰力を込めてロドルフォを殴る

 

⑥ロドルフォ、自身の星辰力に干渉する能力を使って子墨の拳にある星辰力を霧散させる

 

⑦子墨、殴るもノーダメージ

 

⑧子墨、暫くの間殴り続けるもロドルフォには効かずに遂にバテる

 

⑨ロドルフォが子墨の全身に漲る星辰力に干渉して、子墨の全身を爆発させて試合終了

 

……って感じだ。序盤は若干焦ったがロドルフォの勝利で終わった。

 

ウチのエースが1回戦早々で負けてみろ。今シーズンのレヴォルフの総合順位がビリになっちまうのは殆ど確定的だ。だから負けないで良かった。

 

「しっかしロドルフォの野郎、巨大な煌式遠隔誘導武装を武器にするようになってやがったとは……マジで面倒だな」

 

ロドルフォは俺に負けて序列外になってから1度も公式序列戦に出てないので古いデータしかなかったが、最新技術の煌式遠隔誘導武装を使用している以上、データは全くないと言っても良いだろう。色々な意味で当たりたくない相手だな。

 

てか俺が言うのもアレだが、試合中に遊び過ぎだろ?仙具をぶっ壊した時点で距離を詰めて全身爆破を使えばもっと早く勝てたのに、あの快楽主義者が……

 

「加えて星辰力に干渉する能力に高い身体能力ーーーレヴォルフの高位序列者って規格外の人が多くない?」

 

言いながらシルヴィは俺とオーフェリアをチラ見してくる。そこで俺達を見ないでくれませんかねぇ?

 

「安心しろ。その規格外の人を倒したり、ある程度戦えたお前も普通に規格外だから」

 

前回の王竜星武祭でシルヴィは俺を倒し、オーフェリア相手にある程度戦えた。普通に規格外の人間だろう。てか星露もシルヴィの事を壁を越えた人間と評していたし。

 

閑話休題……

 

「それよりもロドルフォの試合が終わった以上、もう直ぐ小町だな」

 

そう言いながらステージを見ると既にロドルフォと子墨は退場していて次の試合が始まっている。

 

「そうだね。まあ小町ちゃんは3回戦で当たるだろう結衣ちゃん以外には負けないでしょう」

 

言いながらシルヴィは空間ウィンドウを開くとトーナメント表が表示されている。Tブロックで小町を除いて1番強いのは由比ヶ浜だろう。クインヴェールの序列15位で鳳凰星武祭で小町を負かした。

 

試合のデータを見てみたが、爆発する犬を生み出す能力に加えて身体技術が鳳凰星武祭に比べて格段に上がっている。

 

間違いなくお袋の影響だろうが、Tブロックで小町を倒せるとしたら由比ヶ浜くらいだろう。

 

「まあ結局、今回の王竜星武祭は予選でも厳しい戦いがあるって事だ。……俺んところにも厄介そうな奴がいるし」

 

言いながら俺は自分の名前があるCブロックを見て、黒騎士という名前を指差す。ガラードワースの生徒なのだが、色々な意味で不気味な人間なのだ。

 

第1に見た目、マスクで口元を隠しているし、髪の色は多種多様の色が混じっていてカラフルなのだ。レヴォルフの学生ならまだしもガラードワースの生徒でこれはあり得ない。秩序と正義の意味を履き違えている葉山グループの人間ですらマトモな格好をしているのだから。

 

第2に名前。トーナメント表には黒騎士と書いてある。星武祭のエントリーは学籍通りに登録される。つまり黒騎士は普段から黒騎士と名乗っているという事だ。普通はあり得ない。

 

そして第3に戦闘データが一切ないのだ。記録を調べた所、戦闘記録がただの1試合もないのだ。ハッキリ言って異常としか思えない。

 

以前予選のトーナメント表が発表されてからノエルに聞いてみたら、申し訳なさそうにしながら教えられないと言ってきた。それはつまり学園上層部、つなわちガラードワースの運営母体である統合企業財体『E=P』も絡んでいる可能性もあるという事を意味する。

 

データが全くない上、統合企業財体が絡んである可能性のある人間。ハッキリ言って不気味極まりない。予選ブロックでも当たり外れはあるが、俺は間違いなくハズレの方だろう。

 

そこまで考えている時だった。

 

『さぁて!次の試合も盛り上がるだろうよっ!星導館の序列4位、世界で最も有名なバカップルの男を兄に持つ『神速銃士』比企谷小町のご登場だぁー!』

 

実況のクリスティ・ボードアンのそんな声が聞こえたので、考えるのを中断してステージを見ると可愛い妹がステージに降りていた。

 

さて、妹の初陣だし、目玉をかっぽじってよく見ておかないとな……


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。