学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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本戦に出場する為、皆全力を尽くす

王竜星武祭7日目ーーー今日は一日かけて3回戦をやって64人から32人に振るい落とされる。

 

また残った32人は9日目から始まる本戦に出場する権利を得る。本戦に出れば例え1回も勝てなくても学園から相当な量の賞金や高待遇な生活を約束されるので必然的に皆やる気を出している。

 

そんな訳で本戦にかける選手達の情熱が観客にも伝わり、各ドームでは大きな盛り上がりを見せていた。

 

 

プロキオンドームでは……

 

 

「行けー!」

 

「ああもう!本当に鬱陶しいですね!」

 

ピンク髪の女子ーーークインヴェール女学院序列15位『爆犬の魔女』由比ヶ浜結衣が自身の周囲から大量の犬を生み出して対峙する女子ーーー星導館学園序列4位『神速銃士』比企谷小町に飛ばす。

 

小町は迎え撃つべく両手にもつハンドガン型煌式武装の引き金を引いて、犬の眉間を寸分違わず撃ち抜く。同時に犬が膨らんで爆発するので小町は下がる。

 

2人は2年半ぶりに激突していて今の所は拮抗している。単純な実力なら小町の方が数段上だが、由比ヶ浜の爆犬が虎視眈々と小町の校章を狙っているので攻めあぐねている状態となっている。幾ら小町の方が強くても校章が破壊されたら負けである以上迂闊に攻めることは出来ない。

 

一方の由比ヶ浜は若干の焦りを感じていた。今のところ自分より圧倒的に強い小町相手に戦えているが、由比ヶ浜は常に能力を使用している為、かなりの星辰力を消費している。

 

このまま今の状況が続けば由比ヶ浜の星辰力が切れるまでは戦えるが、星辰力が切れた瞬間即座に由比ヶ浜の負けに繋がってしまう。

 

だから必然的に由比ヶ浜は勝つために作戦を変更した。

 

「行け行けー!」

 

言いながら新たに10匹の犬を生み出して小町に飛ばす。対する小町は再度引き金を引こうとしたが……

 

「それー!」

 

その直前に由比ヶ浜が叫び、それと同時に全ての犬が爆発する。それによって爆風が大量に生まれて小町の視界から由比ヶ浜が見えなくなる。

 

(これは……爆風で視界を遮って犬を飛ばすつもりですかね……?)

 

幾ら小町でも見えない標的を撃つのは無理である。シンプルだが有効な作戦である。

 

だから後ろに下がろうとすると……

 

「たぁっ!」

 

由比ヶ浜が爆風の中から地を這うように身体を低くしながら小町との距離を詰めて蹴りを放ってくる。対する小町はハンドガンで蹴りを防ぎ直撃は避けたが、衝撃だけは打ち消せずに後ろに飛ぶ。

 

しかし由比ヶ浜は容赦しない。更に8匹の犬を生み出して小町に飛ばしてから自分自身も遅れて小町との距離を詰めにかかる。

 

「わわっ!お母さん強くし過ぎでしょ……」

 

小町は思わずそう愚痴ってしまう。能力の規模や威力は当然ながら、体術のレベルの向上や、能力と体術による複合戦闘技術の向上などを見ると、明らかに小町の母である涼子の指導の良さが伺える。

 

(仕方ない……本戦まで隠したかったけど出し惜しみは厳禁だし……)

 

言いながら小町は腰にある4つのホルスターの蓋を開ける。するとそこには待機状態の4つの煌式武装があるので全て起動する。同時に腰に重みが発生するが小町はそれを無視して……

 

「はっ!」

 

両手にある二丁のハンドガンを空中に投げて、腰にあるホルスターから一丁の巨大な銃を取り出し由比ヶ浜に向けて放つ。すると銃口からは30近くの弾丸が現れる。所謂散弾銃というヤツだ。

 

「おっとぉ!」

 

由比ヶ浜はそう言ってジャンプをする。由比ヶ浜は散弾銃の攻撃から逃れられたが、由比ヶ浜の生み出した爆犬は全て破壊される。

 

同時に小町は散弾銃をホルスターにしまってから、足に星辰力を込めて……

 

「たぁっ!」

 

叫び声と共に地面を蹴って飛び上がり、空中にて未だに宙に浮いている二丁のハンドガンを掴み、そのまま引き金を引いて由比ヶ浜目掛けて発砲する。

 

由比ヶ浜は驚きながらも空中で爆犬を生み出すも、まさか小町が空中に銃を取りに行くとは思わなかったようで反応は若干遅く……

 

「わあっ!」

 

何発かモロに食らって地面に落とされる。校章は無事だが小町からしたらダメージは軽くないように見える。

 

しかし小町は一切油断しない。自身の母親に鍛えられた人間がこの程度で折れる筈はないのだから。実際に地面にいる由比ヶ浜はこちらを見上げて爆犬を作ろうとしている。

 

確実に仕留める、そう判断した小町は……

 

「行くよーーー『迅雷装』」

 

腕に装備している黄色の石ーーーウルム=マナダイトが埋まっているブレスレットーーー純星煌式武装『迅雷装』を起動する。

 

すると小町の全身から電磁波のようなものが現れて、背中には小さい翼が4枚生える。

 

しかし翼があるにも関わらず、小町は重力に従って落ちている。それに対して小町は焦っていない。小町は既に知っているからだ。この翼の本質は空を飛ぶ事ではないという事を。

 

そう思いながら小町は由比ヶ浜を見据えて……

 

(ルートはこれで良いね。じゃあ……えいっ!)

 

小町が内心そう叫ぶと、背中に生えた4枚の翼が光り輝いたかと思えば一直線で由比ヶ浜の元に滑空攻撃を仕掛ける。その速さはまさに圧倒的の一言である。

 

しかし……

 

「まだまだぁっ!」

 

対する由比ヶ浜は毎日涼子にしばかれているので、小町の移動速度を見切っている。由比ヶ浜はそれを確認すると自身の能力を使用して、通り道となる場所に犬を設置する。能力の使用の速さや相手の軌道を読む実力、由比ヶ浜の実力の高さを物語っている。

 

しかし……

 

「たあっ!」

 

「ええっ!」

 

小町と犬がぶつかる直前に小町の身体は急上昇して、それによって犬の突撃は空を切った。

 

由比ヶ浜が驚く中、急上昇した小町の身体は速度を落とさずに即座に真下に急下降する。足場のない空中にもかかわらず平然と。

 

そしてそのまま由比ヶ浜との距離を詰める。それによって由比ヶ浜は能力を発動しようとするが、小町の方が一歩早く……

 

 

「貰いました!」

 

「うわあっ!」

 

そのまま由比ヶ浜の校章に蹴りを放つ。蹴りをモロに食らった由比ヶ浜はバラバラとなった校章が空に舞う中、背中から地面にぶつかる。

 

『由比ヶ浜結衣、校章破損』

 

『試合終了!勝者、比企谷小町!』

 

機械音声が小町の勝利を告げると観客席は一層盛り上がる。本戦出場が決まったのだから当然のことである。

 

小町は内心喜びながらも由比ヶ浜に近寄り手を差し出す。

 

「すみません結衣さん。最後の蹴り、少し強過ぎましたか?」

 

「ううん!大丈夫だよ!涼子先生の蹴りに比べたら全然!」

 

「いや、お母さんの蹴りと比べられても困るんですけど……」

 

「たはは……それにしても小町ちゃんの新しい純星煌式武装は凄いね。データで予習しても完全に反応し切れなかったし」

 

「まあ小町の今のバトルスタイルにはピッタリですから」

 

言いながら小町は腕に付けてある『迅雷装』に触れる。『迅雷装』の能力は発動前に移動コースを設定して、発動するとそのコースを高速移動する事を可能にする純星煌式武装である。さっき小町がやったようにコースによっては能力者でなくても簡単に空中で方向転換する事も可能である。

 

能力だけ見ればそこまで強力な純星煌式武装ではない。高速と言っても壁を越えた人間には見切れる速さだ。

 

しかし使い手によっては強力な純星煌式武装となり、小町のように体術を極めた人間が使えば、使用者は『体術のみによる高速移動』と『迅雷装を使った高速移動』の両方を兼ね備えた強力な存在と化す。

 

しかし代償は大きく、代償は水分で、10分使うと脱水症状一歩手前の状態になってしまう程なので短期決戦に特化した純星煌式武装である。今回は由比ヶ浜の能力が校章を破壊するのに向いている能力だったので使用したが、そうでなかったら小町は使っていなかった。

 

「そうかもね。あーあ、後一歩で本戦に上がれたのに……小町ちゃん!優勝目指して頑張ってね」

 

「はい!」

 

小町は由比ヶ浜の差し出した手を握って握手をする。小町の目標は兄を超えること、そして優勝することである。それは険しい道であるが諦める訳にはいかない。

 

小町は改めて決心しながら由比ヶ浜との握手を解いてゲートに向かって歩き出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻……

 

「小町は勝利したか……んでプリシラはシルヴィに負けたか」

 

俺は今シリウスドームにある自分の控え室にて、他のドームの試合を見ている。プロキオンドームでは小町が由比ヶ浜を撃破して、シルヴィがカウンターでプリシラの校章を破壊して本戦出場を決めている。

 

他にも天霧やロドルフォや暁彗など壁を越えた人間は余裕で本戦出場を決めているし、ノエルや若宮、レスター・マクフェイルのような魎山泊の人間も本戦出場を決めた。プリシラは残念ながら予選落ちだが、相手がシルヴィだし運が悪かったとしか言えない。

 

(まあシルヴィ相手にあそこまで保てたんだし将来性は高いな)

 

さっきまでシルヴィとプリシラの試合を見たが、プリシラは身体強化されたシルヴィの攻撃をギリギリながらも凌いだのだ。2年半前、鳳凰星武祭に参加した頃は『覇潰の血鎌』の補給役でしかなかった。それを考えればプリシラの伸びは高い方だろう。

 

そこまで考えていると……

 

『試合終了!勝者、ヴァイオレット・ワインバーグ!』

 

控え室にある備え付けのテレビからそんな声が聞こえたので顔を上げると、ヴァイオレットがドヤ顔をしながらガッツポーズを取っているのが目に入る。

 

(ヴァイオレットは勝ったか。まあ当然だな。そんでヴァイオレットの試合が終わったという事は次は俺か)

 

シリウスドームで行われる3回戦の予定ではヴァイオレットの次に俺の試合がある。

 

対戦相手はガラードワースの黒騎士という男。王竜星武祭以前のデータが全くない不気味な存在だ。

 

その上、1回戦では複数の銃型煌式武装を使った派手な戦い方をして、2回戦は槍型煌式武装で相手を秒殺するなど武器もバトルスタイルも全然違うという異質な存在だ。1回戦と2回戦のデータを見る限り俺より格下なのは間違いないがどうにも嫌な予感がする。

 

(だが、まあ……負けるつもりはないがな)

 

優勝を目指す以上負けるつもりはない。仮に奥の手を持っているならそれを使う前に倒せばいい話だ。

 

そう思いながら俺はテレビの電源切って、控え室を後にする。そして出場ゲートに向かって早歩きで向かっていると先程本戦出場を決めたヴァイオレットが前方からやってくる。

 

「よう。本戦出場おめでとさん」

 

「ふふん!当然ですの!」

 

俺がそう言って話しかけるとヴァイオレットはドヤ顔を浮かべてそう返してくる。相変わらず自信満々のようだ。

 

しかしそれも一瞬で引き締めた表情に変わる。

 

「ですが、本戦からはそう上手くはいかないでしょう。壁を越えた人達とぶつかる可能性があるのですから」

 

予選の3回戦までは基本的に有力選手同士がぶつからないが、本戦の4回戦からは有力選手しかいないので激しい戦いとなる。それなりに期待されている選手がいきなり序列1位と当たって瞬殺されるなんてザラにある事だし。

 

「それについては明日の抽選会でシルヴィが当たりを引くように祈ってろ」

 

星武祭は予選を1週間(1回戦に4日、2回戦に2日、3回戦に1日)かけて行い、8日目に抽選会を行い、9日目に4回戦、10日目に5回戦、11日目は調整日により休みで、12日目に準々決勝、13日目に準決勝、14日目に決勝と2週間かけて行われている。

 

今は7日目なので明日、選手にとって重要な抽選会が行われる。その抽選会は生徒会長がやり、クインヴェールに所属するヴァイオレットのクジはシルヴィが引くのだ。早い話、ヴァイオレットの星武祭に関する運命はシルヴィに託されたのだ。

 

「そうですわね。初っ端から貴方や天霧様、『覇軍星君』などに当たりたくありませんの」

 

「それは俺も同感だ」

 

初戦は運だけで勝ち上がってきた雑魚とやりたい。大体星武祭の本戦では毎回1人や2人、そんな雑魚が出てくるし。

 

「……っと。俺はもう時間だから行く。またな」

 

「ええ。相手は得体の知れない男ですが、私の師匠である以上負けることは許されませんの!」

 

言いながらヴァイオレットはビシッと俺に指差してくる。そう言って激励するのはありがたいが、俺を師匠というなら指差すな。アイアンクローをぶちかますぞ。まあ以前やったら泣かせちまったからやらないけど。

 

「はいはい。初めからそのつもりだ」

 

「なら良いですの!頑張ってくださいですの!」

 

「はいよ」

 

言いながらヴァイオレットの頭をポンと叩いてから、ヴァイオレットの横を通り過ぎてゲートに向かう。

 

 

 

 

『会場の皆様、お待たせしました!これよりCブロック3回戦、レヴォルフ黒学院の比企谷選手とガラードワースの黒騎士選手の試合を始めます』

 

さて、後一戦勝てば本戦だし……頑張りますか


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