学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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予選最大の戦い 比企谷八幡VS黒騎士(前編)

『さあいよいよCブロック最後の試合です!最初にステージに立ったのはこれまでの2試合で能力を使わずに圧倒した、レヴォルフ黒学院序列2位『影の魔術師』比企谷八幡選手です!』

 

そんな声が聞こえるなか、俺がステージに立つと歓声が沸き起こる。この試合でCブロックの本戦出場者が決まるから妥当と言えば妥当である。

 

『その比企谷選手と対峙するのは、全くデータが存在しない、使う武器もバトルスタイルも不明なガラードワース所属の黒騎士選手!今回も予想外の戦い方をするのか?!』

 

すると俺の目の前に黒騎士と呼ばれている男がやってくる。

 

(やっぱり直で見ると不気味だなおい)

 

髪の毛は多種多様な色が絡み合っていて、口には黒いマスクを装備していて、どう見てもガラードワースの生徒の姿ではない。

 

そんな事を考えていると黒騎士は煌式武装の発動体を取り出して起動するも……

 

『おおっと!今回の黒騎士選手は剣を使うようだ!』

 

『毎回違う武器を使うようだが、それが黒騎士選手の戦い方なのか?』

 

実況と解説の声が聞こえてくる。解説のヘルガ隊長の言う通り黒騎士は毎回違う武器を使っている。1回戦は銃型煌式武装を、2回戦では槍型煌式武装を使っていて、今はオードソックスなブロートソード型煌式武装を使っている。1回戦と2回戦を見る限り銃や槍の使い方の使い方は一流の一言だ。おそらく剣の腕も高いのだろう。

 

だからこそ腑に落ちない。それだけの才能があるなら一つの武器に絞って鍛錬した方が合理的だろう。そうすればこいつも壁を越えた人になれる可能性もあるのに。見る限り黒騎士は違うだろう。

 

まあ対戦相手の俺としてはありがたい話だからどうでも良いけど。

 

そう思いながら俺は開始地点に向かうと、黒騎士も同じように開始地点に向かう。しかし黒騎士は剣を構える素振りを一切見せずやる気があるように見えない。

 

(マジでなんなんだコイツは?一回戦の時は苛烈に攻めまくっていたが、今のコイツからは戦意が殆ど感じないんだが……)

 

そう思っている間にも時間は過ぎて……

 

『Cブロック3回戦、試合開始!』

 

遂に試合開始が告げられる。同時に俺は脚部に星辰力を込めて加速をしようとするが……

 

(は?)

 

黒騎士の奴、全く構えを変えずにぼんやりとこちらを見ている。身体を見ても星辰力を込めているようには見えないし、明らかに舐めているようにしか思えない。

 

しかしこうして睨み合っても意味はなく、寧ろ血気盛んな観客からブーイングを食らいそうだし動くか。

 

俺は一息吐くと、地面を蹴って瞬時に黒騎士との距離を詰めにかかる。

 

『おおっと比企谷選手!開始と同時に黒騎士選手の元に向かう!これは速い!』

 

『星辰力のコントロール技術を上手く取り入れているな。この技術を取り入れている界龍の拳士は多いが、比企谷選手を止められる拳士は界龍でもそう多くないだろう』

 

星露との鍛錬で生身の速度ならアスタリスクトップクラスの自負がある。2回戦と同じようにこれで終わらせる。

 

そう思いながら俺は黒騎士との距離を2メートルまで縮めると、右手に星辰力を込めて高速の突きを放つ。すると黒騎士は手に持つ剣でそれを受け流して袈裟斬りを放ってくる。正確に俺の校章を狙った一撃だ。

 

しかし……

 

「甘い」

 

俺はバックステップで袈裟斬りを回避して間髪入れずに左足を使った回し蹴りを黒騎士の脇腹に叩き込む。

 

すると黒騎士は後ろに跳ぶが手応えは全く感じなかった。おそらく直撃する直前に後ろに跳んでダメージを受け流したのだろう。今の体術といい、こちらの突きに対する受け流しといい、黒騎士は間違いなく一流だ。冒頭の十二人の中でも上位に入る程の実力なのは確実だ。

 

しかしそれだけだ。奴を見る限りヤル気も意思も全く感じない。意思の感じない人間の一撃など脅威に感じない。

 

そう思いながら再度脚部に星辰力を込めて、黒騎士との距離を詰めてラッシュを仕掛ける。それによって何発か黒騎士の身体に当たる。速度を重視した連撃なので一発一発の威力は低いが、暫く続けていれば倒せるだろう。

 

そう思った時だった。

 

「やれやれ……やはり貴方が相手ならこうなりますか。まあどうなろうとも知った事じゃありませんが」

 

初めて黒騎士が俺に話しかけたかと思えば、突如俺と黒騎士の周囲から黒い泥のような液体が大量に現れる。

 

(なんかヤバそうな色をしてるが……毒か?)

 

だとしたらマズい、そう判断した俺は黒騎士から距離を取る。毒についてはオーフェリアの毒を食らいまくって耐性がついているのは否定しないが、だからと言って馬鹿正直に食らう義理もない。

 

黒騎士と5メートル以上離れてみると、黒い液体は俺の方に向かってくることもなく、黒騎士の身体に纏わり始める。見れば黒騎士は俯くように立っていて、その間にも黒い泥は見る間に黒騎士の全身に纏わりつき……

 

『ここで黒騎士選手、全身に黒い鎧を纏ったぁっー!黒騎士選手は比企谷選手と同じように魔術師のようだ!』

 

実況の言うように黒騎士は真っ黒な西洋甲冑を纏っている。頭部の兜からは二本の角が生えていて悪魔のような風貌でもある。

 

(なるほどな……だから黒騎士って呼ばれているのか。この姿なら納得だ。しかしどうにも腑に落ちねぇな)

 

鎧を作ることは別に普通だ。俺やノエルは影や茨を使って鎧を作るし、黒騎士と同じ学園のガラードワースの序列11位の『鎧装の魔術師』ドロテオ・レムスは様々な鎧を作る能力を持つ魔術師だし。

 

妙なのは鎧を作る際に黒騎士の星辰力が何重にも重なっているように感じたのだ。まるで複数の人が鎧を作っているかのように。

 

こんな奇妙な感覚は初めてだが、今は後回しだ。何故かと言うと……

 

「グオオオオオオオオオ!」

 

目の前にいる敵さんが考える時間を与えてくれるとは思えないからだ。黒騎士は理性など全く感じられい獣のような雄叫びをあげると、手に持つブロートソード型煌式武装に先程の黒い泥を纏わせて巨大な剣を作り出す。

 

どうやら鎧を纏うと武器を変えるようだ。まあ巨大な剣なら細かい動きをしにくいからスピードタイプの俺にとってはありがたい話だが。

 

そう思いながら俺は鎧を破壊すべく黒騎士に向かって突っ込んだ。

 

 

 

 

『グオオオオオオオオオ!』

 

「遂に出たか……!出来ればアレが出る前に比企谷さんが倒して欲しかったけど……」

 

「お兄ちゃん、どういう事?あの黒騎士さんって何者なの?」

 

カノープスドームにあるガラードワース生徒会専用の観戦席にて、エリオットは嘆き、ノエルは頭に疑問符を浮かばせる。

 

エリオットは生徒会長故に多忙ではあるが、今日は比較的仕事が少なかったのでカノープスドームまでノエルの応援に向かった。そしてノエルが勝利した後に合流してシリウスドームにて行われている八幡と黒騎士の試合を見て今に至る。

 

ノエルは生徒会のメンバーだが、黒騎士については殆ど知らない。知っているのは上層部が半ば無理やり出場させた人間という事くらいだ。

 

しかしエリオットの反応を見る限り相当危険な人間と理解したので思わず質問をしてしまった。

 

それに対してエリオットはチラッとノエルを見てからため息を吐きながら口を開ける。

 

「………黒騎士はガラードワースの上層部育てていた多重人格の魔術師なんだよ。その数は全部で12人いる」

 

「12?!つまり十二重人格って事?!」

 

エリオットの言葉にノエルは驚きを露わにする。二重人格や三重人格などは聞いた事ばあるが十二重人格は前代未聞である。

 

「ああ。しかも十二人全てが魔術師としての素養があって、普段は一日毎に人格変わる」

 

「じゃあ今までの試合で使う武器が違ったのは……」

 

「その時の人格が得意とする武器を使っていたって事だ。そして危険な状態になると、全員の意思が混ざり合って能力が発言する」

 

「全員の意思……もしかして黒騎士さんが獣のようになったのはその影響かな?」

 

「恐らくはね。そして黒騎士の能力は『無敵』。十二人分の意思の力で編み上げられた鎧は文字通り桁違いの防御力を持つ」

 

言いながらエリオットが空間ウィンドウを見れば、黒騎士が自身のブロートソード型煌式武装に先程の黒い泥を纏わせている。エリオットとしては黒騎士が星武憲章に抵触する行為をしないかただただ不安である。

 

対してノエルは祈るように両手を握る。

 

(ガラードワースの生徒としては問題かもしれないけど……頑張ってください八幡さん。身勝手な願いですけど、八幡さんが負けるところは見たくないでし、八幡さんの格好良い所が見たいです……)

 

ノエルが八幡の勝利を祈る中、空間ウィンドウに映る八幡が黒騎士に向けて突撃を仕掛けた。

 

 

 

 

 

 

「ガアアアアアアアアッ!」

 

俺が黒騎士の元に向かって走り出すと黒騎士も俺の方に向かって走りだし、上段から巨大な黒い剣を振り下ろしてくる。理性を吹っ飛ばしたかのように見えながらも鋭い一撃だ。

 

しかし……遅い。週に一度、星露と殴り合っている俺からしたら余裕で対処出来る速さだ。だから……

 

「はあっ!」

 

俺は左に一歩ズレてから右手に星辰力を込めて、丁度振り下ろされる大剣の横っ腹を殴りつける。

 

「ガアッ?!」

 

すると大剣の軌道は大きくズレて、そのまま地面に突き刺さる。それによって今の黒騎士は隙だらけだ。

 

俺は返す刀でもう一度右手に星辰力を込めて……

 

「おらっ!」

 

渾身の力を込めて黒騎士の腹を殴りつける。しかし……

 

(効いてない、だと?)

 

黒騎士の鎧が砕けるどころか、ヒビ一つ入れられなかった。一応冒頭の十二人を倒せる位の一撃だったんだがな。俺が思うに、この鎧は自分の理性と引き換えにして発動する能力なのだろう。

 

 

「ギイイイイイイイイイイイ!」

 

そこまで考えていると、黒騎士が動き出す。雄叫びを上げながら地面に突き刺さった大剣を無理矢理引き抜いて俺の方に振るってくる。

 

マトモに食らうわけにはいかないので脚部に星辰力を込めて力一杯飛び上がる。同時に大剣が俺の真下を通過して、空中にいる俺に向かって切り上げようとしているので……

 

「ふっ!」

 

そのまま黒騎士の兜を蹴って黒騎士から距離を取る。黒騎士は顔面を蹴られたにもかかわらず、全くダメージを受けているようには見えない。やはりあの鎧は相当硬いな。下手したら影狼修羅鎧以上に。

 

(そうなると関節技で仕留めるか……)

 

重装甲の敵とやる時のセオリーだ。いくら強力な鎧を纏っていても関節が弱点となるのは間違いないからな。

 

「ガアアアアアアアアア!」

 

そこまで考えながら構えを取ると、黒騎士は大剣を構えて叫びながらこちらに突っ込んでくる。大して俺も黒騎士に向かって走りだす。

 

走りながらも俺は左手の義手に星辰力を注ぐ。すると義手は本来の大きさの3倍となり埋め込まれた2つのマナダイトが光り輝く。

 

そして……

 

「おらあっ!」

 

俺の義手に埋め込まれた2つのマナダイトの光が最高潮に輝いた瞬間に黒騎士の足元に衝撃波を放った。

 

すると地面が割られて黒騎士はバランスを崩して前のめりに倒れる。その隙に俺は黒騎士の後ろに回り、黒騎士の巨大な右腕を掴む。これで関節を外せば黒騎士は痛みでマトモに能力の発動は出来ないはず……

 

そう思いながら両手に力を入れようとした時だった。

 

「ギイイイイイイイ!」

 

黒騎士がいきなり叫んだかと思えば、鎧の右腕箇所から数十本の黒い棘が俺に向かって伸びてくる。慌てて後ろに跳ぶも……

 

「ちっ……!」

 

完全に回避することは出来ずに、右腕に棘が掠り血が飛び散る。左腕にも何発か当たったがこっちは義手だから問題ない。

 

地面に着地すると黒騎士は起き上がりこちらを向いてくる。予想はしていたがマジで面倒な相手だ。

 

クソ硬い鎧に加えて、関節技対策もバッチリしているし。まあ俺も同じ対策をしてるから何とも言えないけどさ。

 

内心ため息を吐いていると黒騎士の大剣に更に黒い泥が纏われて更に長大な剣となる。長さにして20メートル以上。

 

そして……

 

「ガアアアアアアアアアアアア!」

 

雄叫びをあげながらこちらに向けて振り下ろしてくる。その速さは圧倒的だ。

 

そんな一撃に対して俺は……

 

「あーあ。予選では能力抜きで勝ち抜こうと思ったんだがな」

 

言いながら自身の影に星辰力を込めて……

 

「纏え、影狼修羅鎧」

 

そう呟く。同時に影が俺の身体に纏わりつき、徐々に形を変えていき……

 

「ふんっ!」

 

「ギイッ?!」

 

狼を模した西洋風の鎧を纏うや否や、振り下ろされる大剣にアッパーをして跳ね上げる。それによって大剣は黒騎士の手から離れて地面に落下する。すると黒騎士の手から離れたからか、剣に纏わりついていた泥が落ちて元のブロートソード型煌式武装が現れる。

 

『おおっと!ここで比企谷選手!今大会初の能力の使用!しかもいきなり前回の王竜星武祭準決勝で使用した鎧の登場だぁーっ!』

 

実況のハイテンションの声に影響されてか、観客席のボルテージは更に上がる。鎧の外からは音の爆弾が爆発している。

 

そんな中、俺は一度息を吐いてから目の前にいる黒騎士を見て……

 

 

「さて……んじゃ、第2ラウンドと行こうぜ」

 

そう言って前に向かって走り出した。


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