学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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激戦、比企谷八幡VSヒルダ・ジェーン・ローランズ(後編)

八幡が影神の終焉神装を使う少し前……

 

『試合終了!勝者、シルヴィア・リューネハイム!』

 

カノープスドームにて4回戦第1試合を務めたシルヴィアが1番早くベスト16入りを決めた。

 

 

『ここで試合終了!シルヴィアの圧倒的な攻撃がって、シルヴィア?!いきなり何処に行くんだ?!』

 

実況のクリスティ・ボードアンがシルヴィアの勝利を高らかに宣言しようとしたが、シルヴィアが対戦相手の選手に一礼した後、直ぐに退場した事によって戸惑いの声を出してしまう。カノープスドームにいる観客からも戸惑いの感情が生まれている。

 

 

しかしシルヴィアは気にせずに退場して走り出す。理由は簡単、今直ぐにシリウスドームに行って最愛の恋人の試合を直で見たいからだ。

 

シルヴィアはとにかく走り、出口で待ち構えていた記者達もスルーして全力疾走でカノープスドームを出る。

 

「蒼穹を翔け、渾天を巡る意志の翼は、いつかキミを、明日の向こうへ導くだろう」

 

そしてシルヴィは息を吸って歌い出すと背中から光の翼が顕現して大空へと飛び立つ。

 

「八幡君……」

 

シルヴィアはシリウスドームに向かいながら最愛の恋人である八幡を思いながら端末を開いてネットに接続をする。ニュース速報にはまだシルヴィアの勝利しかない。それはつまりシリウスドームで行われている八幡とヒルダの試合はまだ終わってないことを意味している。

 

そして試合中継を見ると……

 

『呑めーーー影神の終焉神装』

 

影狼修羅鎧を纏った八幡がそう呟くと、鎧が凝縮して形状が変わった。

 

そしてそれを見たシルヴィアは戦慄する。あの状態の八幡は文字通り圧倒的な力を持っていると。

 

(多分、決着は近いし、急がないと……)

 

そう思ったシルヴィは光の翼に星辰力を更に加えて速度を上げる。一刻も早くシリウスドームに到着して自分自身の目で結末を見届ける為に。

 

(頑張って、八幡君……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シリウスドームにいる観客は静まり返っていた。観客席は満席で、試合が行われているにもかかわらずに、だ。こんな事態星武祭が始まって以降一度も起こったことがない程だ。

 

しかし全員視線はステージに向けられていて一瞬たりとも逸らしてはいなかった。

 

今、シリウスドームのステージは正真正銘の戦場となっている。

 

戦場にいるのは『影の魔術師』比企谷八幡と『大博士』ヒルダ・ジェーン・ローランズの2人だけだ。

 

しかしたった2人だけの戦場は今の世界で最も激しい戦場であると、観客全員が思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おらあっ!」

 

「きししし!させませんよ!」

 

俺が叫びながら右腕を振るうと、『大博士』は『力』を纏わせた長剣型煌式武装でそれを受け止める。同時に俺達の間にクレーターが出来上がるが気にしない。既に俺達のあるステージには50個以上出来ている。

 

衝撃によってステージにクレーターが出来るのは割とあるが50個以上出来た試合は長い星武祭の歴史の中でも俺達2人の試合だけだろう。

 

しかしそれも仕方ないだろう。何せ俺達が一回攻撃を重ねたらクレーターが1つ出来上がるのだから。

 

そう思っていると『大博士』は俺から距離を取ってから上段斬りをしてくるので、俺は一歩横に跳んで回避する。俺が避けた事で『大博士』の『力』を纏った長剣が地面に当たり、またステージに新しくヒビが生まれる。何でも良いが、次の試合出来るのか?

 

そんな事を一瞬考えるも直ぐに切り捨てて、必殺の右ストレートを『大博士』にぶちかます。すると直前に毎度の『力』が邪魔をするので直ぐに打ち砕く。

 

そして左腕で追撃の一撃を『大博士』の鳩尾に放つが……

 

「ぐぅぅぅぅっ!まだまだですよ!」

 

『大博士』は圧倒的な星辰力を鳩尾と足に回した為殆ど動かなかった。とはいえダメージはあるようで口から血とゲロを吐いている。普通なら気持ち悪いと思うかもしれないが、今は特に思わない。既に俺も吐いているし。

 

そんな事を考えていると、『大博士』先程振り下ろした長剣に『力』を加えて俺の横っ腹に向かって斬りつける。避けようとは思ったが、逃走先に『力』が生まれる。

 

それを影神の終焉神装を装備した拳で破壊して。逃げようとするも、向こうの方が一歩早く……

 

「ぐっ……!」

 

『力』が加わった剣が俺の横っ腹に当たる。終焉神装は破壊されず、吹き飛んではないが、俺の身体に衝撃が走り痛い。

 

しかし俺はそれを無視してもう一撃右ストレートをぶちかますと、向こうも迎え撃つべく長剣から右手を話して……

 

「ふっ!」

 

そのまま俺と同様に右ストレートをぶちかます。同時に俺の腕に衝撃が走り……

 

「ちいっ!」

 

「ぐうっ……!」

 

足元が衝撃によって爆発して、お互いに反発するように吹き飛ぶ。一旦仕切り直しのようだ。

 

『こ、これは凄い!比企谷選手とローランズ選手のぶつかり合いによってステージの原型は留めていない!何という戦いだぁ!私も長年星武祭の実況を務めておりますが、これほどステージがボロボロになったのは初めて見ます!』

 

『私もだよ。正直言って今のステージにいる2人は我々とは別次元の存在だ。あの2人を止められるのは最盛期のオーフェリア・ランドルーフェンと范星露だけだろう』

 

一度仕切り直しになったからか実況と解説の耳に入るが、それは違う。『大博士』やオーフェリア、星露が普通の人間とは別次元の強さを持っているのは事実だ。そして影神の終焉神装はその領域に入れる力を持っている。

 

しかし俺自身のスペックはその領域に留まる力を持っていない。オーフェリア達3人はどんな時にもその領域にいるが、俺は影神の終焉神装を使っている間ーーー20分ちょいしか使えない。

 

そして既に10分近く使っていて、影神の終焉神装を使う前に受けたダメージを考慮すると後5分くらいしか使えない。5分経過したら俺の負けを意味する。

 

「きしっ、きししししっ!やはり貴方は素晴らしい!是非貴方にはあちらの世界を見せたいものです!そうすれば貴方はあたしやオーフェリア・ランドルーフェンを超える存在になり得る……!まあ今回の勝ちはあたしが貰いますけど。おそらく貴方がその鎧を使える時間も長くないでしょうしね」

 

『大博士』は口元にある僅か血やゲロを拭いながらも楽しそうに笑いだす。この状況でも研究の事を考えるなんてマジでネジがぶっ飛んでやがる。

 

しかも俺の鎧が限界に近いのも理解してやがる。戦術眼も一流……こりゃマジで面倒だ。

 

しかし解せない事がある。

 

「確かに俺が鎧を使える時間は長くないのは事実だが、それなら何故俺と格闘戦をする?時間いっぱいまで遠距離から『力』を放ち続ければ勝てるだろうが」

 

「当然でしょう。どうせあたしが勝つのです。それなら派手に勝った方が世間から注目を浴びるから良いでしょう。遠距離からの攻撃で時間稼ぎなんてしたら、『近距離じゃ勝てないから時間稼ぎをした』と思われてしまうじゃないですか?」

 

そこには圧倒的な余裕を感じる。なるほどな……奴は世間に自分自身はオーフェリアを超えた存在である事を知らしめる事を目的としている。そんな彼女が時間稼ぎなんて使ったら強さに疑いが出るだろうな。

 

俺はその余裕を聞いて納得する。『大博士』の余裕にはそこまでムカつかない。

 

実際俺が勝つ可能性は遠距離戦をされたら0で、さっきまでのように近距離戦で2割あるかないかだろう。こっちの星辰力は余り余裕がないのに対して向こうはオーフェリア同様に無尽蔵の星辰力を持っている。

 

だが0ではない。それならまだやれる。勝ち目があるならやるだけだ。

 

(とはいえ向こうも負けそうになったら遠距離戦に移行するかもしれないし、その前にケリをつけないといけない)

 

それがどれほど大変なのかは言うまでもないだろう。近距離戦で勝率は2割弱、それでありながら向こうは近距離戦にこだわり続けるとは限らない。遠距離戦に移行したら即負け。

 

ハッキリ言って理不尽と思えるくらい厳しい戦いだ。そして今のやり方では戦う事が出来ても勝つのは厳しいので別の作戦を考えないといけない。

 

(何か奴の注意を引けるようなものは……ん?)

 

そこまで考えた俺はあるものに気がついた。あるじゃねぇか、注意を引けるようなものが。

 

すると俺の頭にポンポンと作戦が浮かんでくる。そしてその中で1つだけ良い作戦が浮かんだ。これが上手くいけば奴が遠距離戦に移行する前に倒す事が出来る。

 

ミスれば即負けに繋がるが、星辰力に限りがある以上普通に戦っていても負ける可能性が高いのでやるしかない。

 

やると決めると不思議と緊張はなくなった。やるだけのことはやろう。それが今の俺に出来る最善なのだから。

 

そう思いながら俺が構えを取って脚部と翼に星辰力を込めると、『大博士』も決着が近いのを理解したのか、笑いを消して長剣を構える。

 

次の瞬間……

 

「ふっ!」

 

俺は翼と脚部に溜めた星辰力を噴出して爆発的な加速力を生み出して『大博士』との距離を詰めにかかる。すると『大博士』は先程通り俺達の間に『力』の壁を生み出す。

 

さっきからこれの繰り返しをしている。

 

俺が突撃をする

『大博士』が『力』の壁を作る

俺が壁を壊す

『大博士』、それによって若干生まれた隙を突いて長剣で攻撃をしてくる

俺、長剣を防ぐか攻撃をする

 

って感じだ。それによってお互いにダメージを受けてはいるが、倒すには至れていない。これが続けば星辰力の少ない俺が負ける。

 

だから戦術を変えないといけない。俺は右腕に力を込めて『力』の壁を壊すと……

 

(影神の終焉神装、腰部分の鎧を解除……!)

 

鎧の一部を解除して左腰にあるホルダーから『ダークリパルサー』を取り出して起動して左腕で斬りかかる。

 

「きししししっ!その煌式武装は知っていますよ!ですがあたしの『力』には通用しません!」

 

同時に大博士は『力』を纏わせた長剣を振るって『ダークリパルサー』とぶつかる。本来なら超音波で出来た『ダークリパルサー』を煌式武装で防ぐのは無理だが、『大博士』の『力』を纏わせた煌式武装なら可能のようだ。

 

しかしこれは俺の予想の範囲内だ。俺はチラッと下を見て星辰力を込めながら……

 

「影の鞭軍」

 

背中から5本の影の鞭を取り出して、『大博士』に対して上から4本襲わせる。そして内1本を対して『大博士』に気付かれないように地面に潜らせる。

 

俺自身は『大博士』との距離を詰めながら地面に潜る鞭をバレないようにするも……

 

「どうせ上下からの奇襲でしょうが、一度食らった技など効きませんよ」

 

呆れながら空いている左手を振るうと、俺達の真上と足元に力を感じる。同時に上空からの4本の影の鞭と地面から出ようとする1本の影の刃を防ぐ。どうやら地表に『力』を地表に展開して地面から出られないようにしているのだろう。

 

それによって……

 

「畜生……!」

 

俺はそう呟いてしまうと、『大博士』は勝ち誇った笑みを浮かべる。大方俺の影による奇襲は全て失敗して万策尽きたと思っているのだろう。実際俺の影技による奇襲は全て失敗したし、遠からず俺の負けになるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつもの俺ならな。

 

(なーんちゃって)

 

そう思いながら俺は右腰にあるホルダーから試合前にヴァイオレットから貰ったマスケット銃型煌式武装を展開して『大博士』の顔面に放つ。

 

ハナから俺自身の攻撃も『ダークリパルサー』も、影の鞭による上下からの攻撃も、俺の悔しそうな声も全て囮だ。本命は普通の煌式武装による普通の一撃だ。

 

まさかここで場違いな煌式武装を使ってくるとは完全に予想外だったようだ。『大博士』は目を見開くも……

 

「ぐっ……!」

 

放たれた弾丸は『大博士』の鼻に当たり、彼女は仰け反る。元々ヴァイオレットの煌式武装は校章を破壊するのに向いていて敵を倒すタイプではないので威力は低いが、無防備の顔面に当たればそれなりのダメージになる。

 

同時に周囲に感じた圧力が消える。能力者特有の予想外のダメージを受けると能力が打ち消される現象が起こったのだろう。

 

それを認識した俺はヴァイオレットの銃を投げ捨てて……

 

「吹き飛べ……や!」

 

そのまま『大博士』の鳩尾に拳を叩き込む。

 

「ぐっ……あぁぁぁぁぁぁっ!」

 

同時に『大博士』の口と鳩尾から悲鳴と骨が折れる音が聞こえる。今回は星辰力による防御が完全には間に合わなかったようだ。

 

俺の一撃をモロに食らった『大博士』はそのまま一直線に吹き飛んで、ステージの壁にめり込む。

 

それを認識した俺は脚部と翼に星辰力を込めて突撃を仕掛けれ。試合終了を告げてない以上、奴はまだ負けてない。遠距離戦に持ち込まれたら負ける以上、距離を開けるわけにはいかない故に。しかも前方を見れば『大博士』は壁に深くめり込んで逃げ場がない。こんな千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない。

 

そして俺は『大博士』との距離を詰めて……左腕の一撃を放つ。

 

しかし……

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ……まだですよ!あたし自身という完成形を証明する為にも負けるわけにはいきません!」

 

俺の拳が『大博士』の校章な当たる直前に『力』の壁がそれを防ぐ。彼女を見れば口から血を流しながらも、目は死んでおらずマグマのような情熱を感じる。

 

『ここでローランズ選手、比企谷選手の一撃を防いだぁ!』

 

『ここが勝負所だな。ローランズ選手は壁にめり込んでいて逃げ場はなく、比企谷選手は星辰力が余り残っていない。つまり比企谷選手があの『力』を打ち破れば比企谷選手の勝ち、打ち破れなかったからローランズ選手の勝ちになる』

 

つまり最後は力と力のガチンコ勝負って訳か。魔術師でありながら原始的な戦いだな。

 

「そこを……退けぇ……!」

 

「誰が……!貴方こそ諦めなさい!」

 

俺が左腕に星辰力を込めると向こうも、『力』の壁の圧力を高めてくる。それによって俺達の足元に地割れが生まれて、空気が震える。

 

『なんという事でしょう!既にステージは崩壊寸前!防護障壁からも悲鳴が生まれております!勝つのはどちらか私には読めません!』

 

実況の声と共にステージは更に割れる。しかしこのままだと俺は負ける。拮抗しているんじゃダメなのだから。

 

(だが、ここまで来たら負けるわけには行かないんだよ……!)

 

そう思いながら俺は最後の手段を取ることにした。

 

(影神の終焉神装!その力の全てを俺の左手に凝縮しろ!)

 

内心そう叫ぶと俺の身に纏っていた影神の終焉神装が剥がれて、俺の左腕に集まる。それによって腕には重みが発生するが義手だから問題ない。

 

同時に『力』の壁からミシミシと音が鳴り出す。それによって若干俺が優勢になった事を意味する。

 

「くっ……!きししししっ!まだです!こんな所で負けるわけにはいかない……!」

 

その言葉と共に更に力の圧が強くなり、俺の優勢が無くなりつつある。

 

それはダメだ。時間的に優勢が無くなったら俺の負けが決まる。

 

そう判断した俺は俺も義手に星辰力を注ぐ。すると義手から力が生まれるのを実感する。

 

影神の終焉神装を左腕だけに凝縮して、挙句に流星闘技を放つ。そんな事をしたら間違いなく義手は流星闘技を放った瞬間に吹き飛ぶだろう。

 

しかし、やらない訳にはいかない。この試合だけは死んでも勝つと誓ったのだから。

 

俺は頭の中で応援してくれた妹や友人や弟子、最愛の恋人2人を思い浮かべながら義手に星辰力を込めて……

 

 

 

 

 

「おぉぉぉぉぉぉっ!」

 

俺の義手に埋め込まれた2つのマナダイトの力が最高潮になったと思った瞬間に流星闘技を放つ。

 

影神の終焉神装を凝縮させた義手による流星闘技は絶対的な力を生み出し……

 

 

 

 

ドゴォォォッ!

 

『大博士』の生み出した『力』の壁を壁を打ち破り、『大博士』の胸にある校章を打ち砕く。

 

しかし放たれた最強の一撃はそれだけでは止まらず……

 

バギィッ!

 

「がぁぁぁぁぁぁっ!」

 

俺の義手が粉々になると同時に、『大博士』を更にステージの壁にめり込ませて、遂には壁を打ち破りステージの外にある防護ジェルに叩きつけて、そのまま地面に倒れ伏す。

 

『ヒルダ・ジェーン・ローランズ、校章破損』

 

『試合終了!勝者、比企谷八幡!』

 

機械音声がそう告げると俺は漸く勝利したのを実感する。そして能力が解除されてさっきまで無視していた疲労が襲いかかってくる。

 

だが……

 

「はっ……やってやったぜ」

 

今の気分は本当に最高だった。

 


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